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【生前贈与 】
生前贈与について説明しています。生前贈与とは、亡くなる前に子どもや孫などへ財産を贈与することです。相続税対策として生前贈与を選ぶ場合の注意点やポイントについてまとめています。

2019年2月7日 木曜日

相続ではなく生前贈与をする意味とは?

相続も生前贈与も同じようなものだと思っているとしたら、それはとてももったいないことです。

なぜなら、生前贈与をすることで節税対策を行うことができたり、法定相続人ではない人に持っている財産を贈与したりすることも可能だからです。

このように、生前贈与には相続とは違ったメリットがあります。

では、このほかにも相続と生前贈与にはどのような違いがあるのでしょうか?

今回は相続ではなく、生前贈与をする意味についてご紹介いたします。

相続と生前贈与

相続と生前贈与は、財産を渡す人と財産を受け取る人が同じであれば、同じようなものだと思われている方も多いのではないでしょうか。

しかし、相続と生前贈与はまったく異なった制度です。

相続と生前贈与には、課税対象や非課税対象、財産を受け渡す人の選択など、多くの異なった点があります。

相続とは

相続とは、被相続人(亡くなった人)の財産(借金などの負債も含む)を相続人(被相続人の財産を受け取る人)が相続することをいいます。

相続の場合、遺言書がなければ、法定相続人が法定相続分の配分に従って、被相続人の財産の相続をします。

たとえば、配偶者と子どもがいる場合は、法定相続分の割合に従って、被相続人の遺産が1,000万円であれば、配偶者の法定相続分である2分の1にあたる500万円を配偶者が相続します。

また、子どもが2人いる場合は、子どもの法定相続人分である2分の1にあたる500万円を2人の子どもで相続するため、500万円を2人で分割して250万円ずつ相続することになります。

また、遺言書がある場合は、遺言書の内容が優先される遺言相続という制度が適用されるため、遺言書の内容通りの相続をすることになります。

このため、法定相続人以外でも遺言書に遺産相続をさせる旨が記載されていれば、被相続人は遺産を相続させることができます。

しかしながら、法定相続人には遺留分という被相続人の遺産の一定の割合を相続できる権利を民法で保障されています

そのため、遺言書の内容が遺留分を考慮されたものでない場合は、法定相続人が遺留分減殺請求を行い、遺産相続のトラブルに発展することがあります。

このように、相続にはさまざまな決まりがあり、相続の配分についても事細かく決められています。

これらは民法にそれぞれ記載されてもいます。

生前贈与とは

生前贈与とは、相続とは異なり、財産を渡す人が生きている間に自分の財産を贈与することをいいます。

生前贈与で贈与する人を贈与者といい、贈与を受ける人を受贈者といいます。

相続の場合、法定相続人が決まっていますが、生前贈与の場合は、誰に自分の財産を贈与してもいいことになっています。

そのため、相続よりも自由に自分の財産を渡すことができますが、贈与者と受贈者の双方が合意していなければ、生前贈与は成立しません。

また、贈与者が亡くなってしまった場合は、原則として3年遡った分を相続とみなされ、相続税が掛かるので注意が必要です。

また、生前贈与の場合は、ある一定の条件さえ満たせば、非課税になるケースがあるので、節税対策として利用されることもあります。

生前贈与では贈与税が掛かる

生前贈与には、基本的に贈与税が掛かります。

贈与税とは、個人から財産を受け取ったときにかかる税金のことをいいます。

ですが、生前贈与には贈与税が掛からない場合あります。

課税対象となる財産

生前贈与の課税対象となる財産は個人からの財産です。

そのため、法人などから受け取った財産は贈与税の課税対象にはなりません。

ただし、所得税の対象にはなります。

また、受贈者が保険料を負担していない生命保険金を受け取ったときや債務の免除などで利益を受けたときには、生前贈与を受け取ったと考えられ、贈与税の対象となります。

非課税対象となる財産

生前贈与の非課税対象となる財産には、下記の12点があります。

  • 法人から贈与された財産(贈与税は個人から受け取った財産に加算される税金のため、贈与税は掛かりません。

しかし、その代わり、法人から贈与された財産の場合、所得税が掛かります)

  • 扶養義務者である夫婦や親子、兄弟姉妹などから、生活費や教育費にあてるために受け取った財産であり、日常生活に必要と認められた財産(この場合、生活費や教育費にあてるための財産なので、預金や不動産などの購入資金とした場合は贈与税が掛かります)
  • 宗教や慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う一定の者が受け取った財産(この場合、公益を目的とする事業に使われることが確実であることが条件となります)
  • 奨学金の支給を目的とする特定公益信託や財務大臣の指定した特定公益信託から交付される金品(ただし、一定の要件に当てはまるものである必要があります)
  • 精神や身体に障害のある人やそれらの人を扶養する人が心身障害者共済制度に基づいて支給される給付金を受ける権利(ただし、地方公共団体の条例によります)
  • 公職選挙法の適用を受ける選挙における公職の候補者が選挙運動のときに取得した金品、またはそのほかの財産上の利益(ただし、公職選挙法の規定による報告がなされたものである必要があります)
  • 特別障害者扶養信託契約に基づく信託受益権(信託の際、「障害者非課税信託申告書」を信託会社などの営業所を経由して、特定障害者の納税地の所轄税務署長に提出した場合、信託受益権の信託財産の金額のうち、6,000万円までの金額に相当する部分までは贈与税が掛かりません。ただし、特別障害者以外の場合は3,000万円までとなります)
  • 個人から受ける社会通念上相当と認められるもの(香典や花輪代、年末年始の贈答、祝物または見舞いなどのための金品)
  • 住宅取得等資金贈与(直系尊属から一括贈与を受けた住宅取得等資金であり、である金銭)
  • 教育資金の一括贈与(直系尊属から一括贈与を受けた教育資金であり、教育の目的で使われる金銭。ただし、最大1,500万円までが非課税となります)
  • 結婚・子育ての一括贈与(直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金であり、である金銭。結婚は最大300万円まで、子育ては最大1,000万円までが非課税となります)
  • 相続や遺贈により財産を受け取った場合、相続があった年に被相続人から贈与で受け取った財産(ただし、相続財産を相続しなかった人が、相続があった同年中に被相続人から贈与により受け取った財産は、相続税ではなく贈与税の対象となります)

また、これらの非課税の対象となる財産は、国税調のホームページのタックスアンサー(よくある税の質問) の中の「贈与税」 の「贈与と税金」にある「No.4405 贈与税がかからない場合」に記載されています。

贈与税の計算方法

贈与税の計算をするときに必要となるのが、贈与税の速算表【一般贈与財産用】と贈与税の速算表【特例贈与財産用】の2種類です。

まずは、この2種類の表をご覧ください。

贈与税の速算表【一般贈与財産用】

基礎控除の課税価格

200万円以下

300万円以下

400万円以下

600万円以下

1,000万円以下

1,500万円以下

3,000万円以下

3,000万円超

一般税率

10%

15%

20%

30%

40%

45%

50%

55%

控除額

10万円

30万円

90万円

190万円

265万円

415万円

640万円

 

贈与税の速算表【特例贈与財産用】

基礎控除の課税価格

200万円以下

400万円以下

600万円以下

1,000万円以下

1,500万円以下

3,000万円以下

4,500万円以下

4,500超

特例税率

10%

15%

20%

30%

40%

45%

50%

55%

控除額

10万円

30万円

90万円

190万円

265万円

415万円

640万円

上記2つの表は、国税庁のホームページ「財産をもらったとき 暦年課税 暦年課税の計算<計算方法>」の贈与税の速算表【一般贈与財産用】と贈与税の速算表【特例贈与財産用】を元に作成しています。

では、贈与税の計算方法をご説明いたします。一般贈与または特例贈与財産のどちらかを受け取った場合の贈与税の計算式は下記の通りです。

[基礎控除後の課税価格] × 税率 − 控除額 = 税額

※国税庁のホームページ「財産をもらったとき 暦年課税 暦年課税の計算<計算方法>」の「1 贈与により一般贈与財産又は特例贈与財産のいずれかのみを取得した場合」より引用

これに実際の数字をあてはめてみましょう。

≪贈与として一般贈与財産1,000万円を受け取った場合≫

1,000万円-110万円(基礎控除額)=890万円(基礎控除額後の課税価格)

890万円×40%(一般税率)-125万円(控除額)=231万円(税額)

≪贈与として特例贈与財産1,000万円を受け取った場合≫

1,000万円-110万円(基礎控除額)=890万円(基礎控除額後の課税価格)

890万円×30%(一般税率)-90万円(控除額)=177万円(税額)

このように、一般贈与の場合は、速算表【一般贈与財産用】を利用し、計算することで一般贈与の税額を算出することができます。また、特例贈与の場合は、速算表【特例贈与財産用】を利用し、計算することで特例贈与の税額を算出することができます。

ですが、一般贈与と特例贈与の両方を受け取った場合の計算方法は異なります。

一般贈与と特例贈与の両方を受け取った場合の計算式は下記の通りです。

次の1及び2の合計額(1+2=税額)

一般贈与財産に対応する金額 : a × (A/C)・・・1

特例贈与財産に対応する金額 : b × (B/C)・・・2

A:一般贈与財産の価額

B:特例贈与財産の価額

C:合計贈与価額( A + B )

(※A、B及びCは、課税価格の基礎に算入される価額)

a:合計贈与価額Cについて一般税率を適用して計算した金額

b:合計贈与価額Cについて特例税率を適用して計算した金額

※国税庁のホームページ「財産をもらったとき 暦年課税 暦年課税の計算<計算方法>」の「2 贈与により一般贈与財産と特例贈与財産の両方を取得した場合」より引用

これに実際の数字をあてはめてみましょう。

≪贈与によりa一般贈与財産400万円とb特例贈与財産600万円(合計1,000万円)を受け取った場合≫

1,000万円-110万円 = 890万円(基礎控除後の課税価格)

aに対応する金額 :(890万円 × 20%-25万円) × (400万円 / 1,000万円) =61.2万円…1

bに対応する金額 : (890万円 × 15%-10万円) × (600万円 / 1,000万円) = 74.1…2

1+2 = 135.3万円(税額)

このように、一般贈与と特例贈与の両方を受け取った場合の税額は、一般贈与の税額とも特例贈与の税額とも異なります。

そのため、贈与税を計算するときは、自分が受け取った生前贈与が一体どれにあてはまるかを確認し、計算するようにしましょう。

生前贈与の手続き方法

生前贈与手続きする場合は、まず贈与者が受贈者にどの制度を利用して、生前贈与を行うか決定します。

生前贈与には、贈与者と受贈者のお互いの合意が必要となるため、贈与者と受贈者がお互いに合意していることがわかる贈与契約書という書類を用意します。

贈与契約書には、贈与者の氏名と住所、受贈者の氏名と住所、贈与契約書を作成した日付、贈与財産の詳細など必要事項が記載されていれば、どんな形式でも問題ありません。

贈与契約書の書き方は自由であるため、贈与者が作成することも可能です。

書き方がよくわからない場合は、銀行の公式ホームページなどに無料でダウンロードできるフォーマットやサンプルが用意されている場合もあるので、フォーマットを利用したり、サンプルを参考にしたりして作成するとよいでしょう。

また、専門家に依頼して、贈与契約書を公正証書として作成してもらうことも可能です。

贈与契約書の作成が終わったら、公証人役場で確定日付を押してもらい、実際に贈与を行えば生前贈与の手続きは完了です。

生前贈与のメリット

生前贈与のメリットとは、相続するときに掛かる相続税のように必ず税金が加算されるわけではないという点です。

生前贈与には、一定の条件さえ満たせば、非課税になる制度がいくつも存在しています。

ですから、節税という観点から考えた場合、生前贈与は財産を受け取る側に負担をかけることなく、財産を渡すことができる制度であるといえるでしょう。

ただし、贈与者が亡くなってしまった場合、生前贈与は3年前まで遡って贈与された分を相続とみなされ、相続税が加算されることがあります

また、財産相続の際に、特別受益の持ち戻しという制度によって、生前贈与分を相続とみなして共同相続人と不公平にならないように相続財産の配分が決定されるため、生前贈与を受けた場合はこれらの制度についても理解しておく必要があります。

ただし、特別受益の持ち戻しがあったとしても、ほかの共同相続人と相続財産を配分した場合でも、相続ではなく生前贈与という形で受け取っているので、受贈者には相続税が掛からないため、節税の観点からいうと生前贈与の方が、メリットがあるといえるでしょう。

まとめ

財産を渡す際、遺産として残すという形を取りがちではありますが、実は被相続人が亡くなった際に相続という形で財産を受け取るのではなく、生前贈与という形で贈与者が生きている間に財産を受け取る方法の方が、受け取る人にとっては税金の負担が少ないことが多くあります。

贈与者の立場であっても、好きな人に好きなだけの財産を生きている間に渡すことができるといったメリットがあるので、相続ではなく、生前贈与をする意味はおおいにあるといえるでしょう。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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