2019年4月18日 木曜日
節税効果を高める『生前贈与』の手続きと注意点
財産の相続を考える時に不安材料の一つとなるのが相続税です。
自分の財産を大切な人たちに1円でも多く残したいときに節税したいと考える事でしょう。
また、家族間で相続を取り合うトラブルも心配です。
そんな時に考えられる解決方法の一つが生前贈与になります。
贈与の方が税率は高いのではと思うかもしれませんが、実は生前贈与は適切な方法を取れば節税効果が期待できるのです。
しかし、私は目先の節税対策だけで生前贈与を行うことでトラブルを引き起こしかねない方法をオススメしたくありません。
そこで、今回はなぜ生前贈与が節税となるのかなどの基本的な知識から、生前贈与をする際の注意点などを紹介していきます。
目次
生前贈与が節税になる理由
生前贈与とは相続人が生きているうち、つまり生前に資産を贈与することを言います。
資産の所有件が人から人へ移ることを贈与と言い、日常生活の中でのお小遣い、正月におなじみのお年玉などにも法的に生前贈与に当たります。
生前贈与は税率が高いと言われている相続税対策でも節税効果が高いと言われているのです。
また、生前贈与には財産分割の難航やトラブルを防いだり、被相続人の意向を反映したりしやすいなど節税以外でのメリットもあります。
まずは、生前贈与が本当に節税になるかどうかを理解するために、相続税が具体的にどのように算出されるのか知っておく必要があります。
相続税の算出方法
相続税を算出するには遺産と債務をもれなくすべてを把握する必要があります。
遺産となるのは被相続人の持っていたもの、お金、すべてを指します。
特に、負債の見逃しには要注意です。
最初に財産目録の作成から始めると今後の相続状況が把握しやすくなるでしょう。
次に相続財産の課税価格の計算をします。
葬儀費用、仏像などは非課税になりますが、全てではないので弁護士の確認が必要です。
不動産、貴金属、骨董品の他、著作権や特許権などの形がないものも相続税の課税対象になります。
また、一定の条件に当てはまると生前贈与や遺贈の持ち戻し計算や、みなし相続財産の計算も必要になってきます。
弁護士と税理士に相談しながら、後から税務署にペナルティを受けないように確実な評価額と課税対象の金額を把握してください。
課税価格が計算出来たら、次はいよいよ相続税の計算です。
ここで忘れてはいけないのが基礎控除です。
基礎控除=3000万円+相続人の数×600万円
となり、課税価格からこの基礎控除を差し引いたものが相続税の算出のもとになる課税遺産総額になります。
相続税の総額を算出するには課税遺産額を法定相続分で分けたと想定し、振り分けられた財産からそれぞれ相続税を算出します。
この時、課税価格に応じて税率や控除額が変わってきます。
そして、算出した値を再び合計したものが相続税の総額となります。
事前の贈与で相続税を節税
相続税の税率と贈与税の税率を比べてみると、どちらも最高税率は55%なのですが、それらが適用されるのは相続税の場合は6億を超えた場合、贈与税の場合は4500万(子、孫以外では3000万円)を超えた場合で、贈与税の方がはるかに高いことが伺えます。
ではなぜ、生前贈与で節税となるのでしょうか。
それは、生前贈与には各種控除や特例があるためです。
例えば、贈与の例で出したお小遣いやお年玉などに贈与税を払ったという人はほとんどいないでしょう。
それは、基礎控除内の金額に収まっているからに他なりません。
また、基礎控除などが使わずに、一度に2500万円までの控除枠を設けられる相続時精算課税制度、または住宅購入資金贈与の特例 or 教育資金贈与の特例、結婚・子育て資金の一括贈与など、特定の状況下で条件を満たすことによって適用できる特例や控除などもあります。
逆に言えばそれらを利用しない場合には高い税率によって損になってしまうので気を付けなければなりません。
贈与税に関する基礎知識
ここまで、相続税と生前贈与について説明してきました。
生前贈与を上手に活用すれば同じ金額を贈与するのでも税額を大きく変えることが出来ます。
しかし、逆にうまく活用できなければ、得どころか損をしてしまう事もあるのが贈与の特徴です。
そこで大切になってくるのが贈与税についての基礎知識です。
その中でも特に知っておきたいのは基礎控除額と税率についてです。
どちらも贈与税を計算するにあたって必ず必要になってくる知識です。
また、贈与税の支払いが必要になる場合、あらかじめ金額が分からないのは非常に恐ろしい事というのは想像に難くないでしょう。
基礎控除額
基礎控除額は1年で110万円となっています。
その年の贈与税は一人の人が1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計から基礎控除額の110万円を差し引いた額で決まってくるのです。
つまり、1年間に贈与された財産の合計額が110万円を下回っている場合は贈与税がかからず、申告も不要となっています。
この基礎控除額が節税の大きな鍵となっています。
毎年110万円の贈与を繰り返せば、10年続ければ1100万円、20年続ければ2200万円を無税で贈与できる計算となります。
しかし、実はそう簡単に贈与できるわけではなく、毎年同じ金額を同じ時期に贈与し続けてしまうと、贈与税の基礎控除を利用した課税逃れと判断され、合計額の贈与税を課税されることもあるので、注意が必要になってきます。
贈与税の税率
贈与税はその年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の価格を合計し、そこから基礎控除額を差し引いた金額に税率を掛けることで税額が決まります。
平成28年以降、贈与税の税率は「一般贈与財産」と「特例贈与財産」に区分されました。
特例税率が適用されるのは祖父母や父母などの直系尊属から、その年の1月1日に20歳以上の子・孫などにあたる者への贈与税です。
受贈者が子や孫であってもその年の1月1日に20歳未満であれば一般税率が適用されます。
各税率の速算表は国税局ホームページなどで確認することが出来ます。
ここでは、妻から夫が500万円の贈与を受けた場合の税額の計算方法を一例として紹介します。
基礎控除後の課税価格
500万円 - 110万円 = 390万円
となり、夫は直系尊属以外の親族となるので一般税率を使用して税額の計算をします。
この場合、課税価格が400万円以下で、税率20%、控除額25万円となるので贈与税額は
390万円 × 20% - 25万円 = 53万円
となります。
節税効果を高める贈与の手続き
ここまで、相続税や贈与税についての基礎知識について説明してきました。
後に説明しますが、生前贈与を考えている場合、1日でも早い贈与が望ましいです。
できるだけ早く贈与を済ませるためには、自分の財産をしっかり把握し、生前贈与をする場合はどのような形で贈与をするのかしっかりと計算をして計画を立てることが大切になってきます。
ここからは節税するために何を考えれば良いのか、生前贈与をする際に注意しなければならないことを含めて説明していきます。
節税のための計画を立てる
生前贈与による節税を考えている場合、まずは全ての財産の把握をし、本当に節税になるか比較するため、相続税の金額を計算しましょう。
次に、生前贈与を行う場合の税額がどのようになるのか試算してみましょう。
この時に、毎年110万円までの基礎控除額を活用し1年ごとに贈与した場合と、相続時精算課税を選択した場合の税額を計算しましょう。
相続時精算課税は、相続財産が数千万規模の人に節税効果が最も大きくなります。
ただし、一度選択すると変更不可となり、毎年110万円の基礎控除も使えなくなってしまうので慎重に選択する必要があります。
そして、住宅購入資金贈与の特例、教育資金贈与の特例、結婚・子育て資金の一括贈与など、特例や控除などもありますので、そちらが適用できるかも調査しておきましょう。
税額のシミュレーション
例えば、自分の資産が7400万円で妻と子(1人)に財産を渡す場合を想定し、一度に相続した場合と15年かけて毎年110万円ずつ渡していた場合の相続税をそれぞれ試算してみましょう。
この場合、相続税の基礎控除額は
3000万円+相続人の数(2人)× 600万円 = 4200万円となります。
まず、遺産を一度に7400万円渡す際には、
7400万円(遺産) - 4200万円(基礎控除) = 3200万円となり、法定相続分はそれぞれ1600万円となります。
このケースに適用されるのは、税率15%、控除額50万円となるので
1600万円 × 15% – 50万円 = 190万円
二人分を合計すると相続税は380万円になります。
では次に、15年かけて妻と子にそれぞれ毎年110万円を渡していた場合の計算です。
7400万円のうち、3300万円(110万円×15年×2人)をすでに生前贈与し、この分は非課税となっています。
残りの遺産は4100万円でこの金額は相続税の基礎控除額の4200万円を下回っていますので、相続税は0円になります。
現実には、後の説明でもわかりますがこのような単純計算によって税額の計算をすることはできません。
これはあくまで目安となる金額にはなりますが、生前贈与を利用することで遺産の評価額を減らし、節税できることが分かると思います。
贈与の際には契約書を残しておく
贈与税の基礎控除の説明の時に少し触れましたが、継続的に同じ時期、同じ金額を贈与していると、最初から大きな金額を渡すつもりだったと判断され、贈与税がかかってしまう場合があります。
そうならないための対策として、贈与の時期や金額を毎年変えたり、あえて110万円を超えて贈与したり、申告する年を作るなどの対策があります。
また、贈与の際には必ず個別の贈与契約書を作成しておくのも大切です。
贈与は契約と同じで贈る側、もらう側にそれぞれ合意があって成り立ちます。
贈与は口約束でも成立しますが、本人が作成した贈与契約書があればそれが贈与であるという確実な証拠になります。
贈与契約書の書式は自由ですが、日付、住所、氏名は自筆の方が望ましいです。
また、誰が、誰に、いつ、何を、どうやって、といった5つの点は明記するようにしましょう。
押印の際に実印を使用するなど信憑性のある書類の作成を心がけましょう。
贈与のタイミングに注意
毎年110万円ずつ贈与を行う場合注意したいのが、相続開始前3年以内の暦年贈与は相続税の課税の対象になることです。
毎年100万円ずつ、8年に渡って生前贈与し贈与する人が亡くなった場合、贈与額の800万のうち300万円が相続税の計算対象になってしまうということになります。
人がいつ亡くなるかというのはまず読むことが出来ません。
そのため、早い段階から相続については考えておき、1年ずつの贈与を考えている場合には少しでも早く元気な時から贈与を開始しておきましょう。
確実な節税は専門家に相談
ここまでの説明で、生前贈与を一人で行うのは難しそうだと思ったり、計算を間違えて税金を多くとられたりするのでは、と不安に思う人もいるかもしれません。
実際、相続や贈与に関しては専門家に相談することが望ましいです。
ここでは、相談先にどのような種類があるのか紹介したいと思います。
・税理士
税金のプロと言えば税理士となるので、生前贈与の相談先の中では最もポピュラーといえます。
相続問題に関する専門家の中でも、税務申告に関する代理権を持っているのは税理士だけになります。
生前贈与で認められる特例等についても熟知しており、適切な判断をしてくれるほか、生前贈与を利用する際に必要な確定申告なども一挙に依頼することもできます。
・弁護士
弁護士はあらゆる法律問題を取り扱うことが出来る法律のプロです。
相続の手続きや贈与手続き全般について詳しく、ケースに合った生前贈与の方法や、贈与契約書などの必要書類の作成など依頼できます。
実際に相続が起こった場合の相続問題の相談や遺言書の作成方法などトータルにサポートしてもらうことが出来ます。
・司法書士
法律の専門家である司法書士は、元々は不動産登記のプロでもあります。
生前贈与では不動産が対象になるケースも多く、司法書士に相談しておくと不動産登記の移転などがスムーズに行えます。
他にもそれぞれの専門家が横のつながりを持ってトータルでサポートしているサービスなどもあります。
それぞれ専門分野が違うので、自分の財産の状況をしっかり把握し、ケースに合った相談先を選ぶようにしましょう。
まとめ
今回は生前贈与について、その節税効果や注意点などを紹介しました。
毎年の基礎控除を利用して計画的に生前贈与していけば、かなりの節税効果を期待することが出来ます。
しかし、そのやり方を間違えてしまえば、家族により多くの財産を残すどころか、逆に相続関係のトラブルを抱えさせてしまうなど、多くの税金を支払わせてしまう事態にもなりかねません。
そうならないためにも、早いうちから自分の資産についてすべて把握しておき、自分に合った相談先を見つけ、計画を立てていく必要があります。
財産を渡す側も受け取る側も、お互い気持ちよく財産のやり取りをするためにも、正しい知識を身につけ早いうちから行動を起こしましょう。