2019年5月20日 月曜日
生前贈与に関する税金を徹底解説|贈与税のルールと相続税対策
生前贈与は、家族の生活を守るために有効な手段になり得ます。
生前贈与の制度を利用することで相続する場合より納めなければならない税金の額を減らすことができる場合があります。
ですが生前贈与にかかる税金の仕組みや相続との違いや注意点、実際にどうすればいいのかなどわからない方も多いと思います。
そこでこの記事では生前贈与に関する税金の制度と注意点、及び相続と比較した場合どちらがより節税になるのかを解説していきます。
目次
生前贈与にかかる税金とは
生前贈与をした際には贈与税がかかります。
贈与税とは個人から財産を贈与された際に発生する税金です。
贈与税は現金の贈与だけでなく土地や不動産の贈与でも発生します。
生前贈与という言葉を使っていますが贈与に関する法律の中には生前贈与という言葉は存在していません。
贈与とは人と人の間の契約なので生きている人でないと成立しません。
生前贈与でない贈与、つまり遺言書などによる死後の贈与は遺贈といい相続として扱われるため相続税がかかります。
贈与税のルール
贈与税にはいくつかルールが存在します。
贈与を受けた際には毎回申告し納税する必要があるわけではありません。
贈与税が発生する場合、贈与された翌年の2月1日から3月15日の間に、納税は申告した日から3月15日の間に行わなければなりません。
贈与税の申告を忘れていたり、納税が遅れたりすると加算税と延滞税という税を余計に納めなければなりません。
贈与税を納めなかった場合には刑事罰に科される可能性もあるので必ず納めるようにしましょう。
また、贈与してから3年以内に贈与者が亡くなった場合は遺贈と同じように相続税として課税されることになります。
会社などの法人から贈与を受けた場合は贈与税ではなく住民税、所得税として課税されることになります。
贈与税が非課税になるパターン
贈与税は贈与を受けたら必ず発生するわけではありません。
贈与を受けても非課税になり税を納めなくてもよい場合もあるので、節税に役立てることが可能です。
贈与税が非課税になるパターンはいくつかあるので以下で順に紹介していきます。
扶養のための生活費
親子や夫婦、兄弟姉妹などの扶養家族の間で贈与された生活費は贈与税の対象にはならず、課税されることはありません。
ですが、生活費として贈与されたにも関わらず生活費以外の用途で使った場合には扶養のための生活費と見なされず贈与税として課税されることになります。
また、贈与された年の間に使い切れなかった場合は使いきれなかった分の金額が課税対象になります。
基礎控除
贈与税には基礎控除があり、年間110万円までの贈与は非課税となります。
基礎控除とは税金の計算をする際に一律で差し引かれる金額のことです。
年間の贈与された額が控除額以内の場合は贈与税の申告をする必要はありません。
ですが、毎年同じ時期に同じ額の贈与をしていると連年贈与とみなされ贈与税を課される可能性があります。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は2500万円までの贈与が非課税となる制度です。
相続時精算課税制度は60歳以上の祖父母、父母から20歳以上の子、孫の間での贈与でのみ適用することが可能です。
相続時精算課税制度は一度適用すると撤回することはできず年間110万円までの基礎控除は使えなくなるためよく考えて適用する必要があります。
また、贈与された額が2500万円以内で税額が0円になった場合でも申告の必要があり、申告しなかった場合には非課税にならないので注意が必要です。
夫婦間贈与の特例
夫婦の間で贈与された居住用の不動産、または不動産の購入資金は2000万円まで非課税になります。
この制度を適用するには婚姻期間が20年を超えている必要があります。
また、同じ配偶者からの贈与には一度しか適用できません。
贈与された額が2000万円以内で税額が0円になった場合でも申告の必要があり、申告しなかった場合には非課税にならないので注意が必要です。
教育資金贈与の特例
令和3(2021)年3月31日までに、所得が1000万円未満かつ30歳未満の受贈者が祖父母、父母から贈与された教育資金は1500万円まで非課税になります。
このうち学習塾、習い事など学校以外に支払う資金は500万円まで非課税になります。
ですが、23歳以上の受贈者は学校以外に支払う費用に関しては非課税になりません。
扶養のための生活費として贈与された場合、贈与された年で使い切れなかった分は課税の対象になりますが、複数年にわたって必要な資金を一括で贈与した場合でもこの制度を適用すれば非課税になります。
この制度を適用するためには受贈者が金融機関に教育資金口座を開設し金融機関から税務署に届け出てもらう必要があります。
贈与された資金は口座に預け必要なときに引き出します。
資金を口座から引き出した際は指定された日までに教育費の領収書を金融機関に提出する必要があります。
住宅取得資金贈与
令和3(2021)年3月31日までに、祖父母、父母から贈与された住宅取得資金は最大で1200万円まで非課税になります。
この制度を適用するためにはいくつかの条件がありそれらすべてを満たしている必要があります。
- 受贈者が贈与者の直系の子、または孫であり20歳以上であること。
- 贈与を受けた年の受贈者の所得が2000万円以下であること。
- 平成21(2009)年から平成26(2014)年までの間に住宅取得資金贈与の制度を適用していない。
- 親族や配偶者から購入する住宅でないこと。
- 贈与を受けた翌年の3月15日までにその住宅に居住することが確実であること。
また、取得する住宅についても条件があります。
- 床面積が50㎡以上かつ240㎡以下であり、その半分以上が居住用であること。
- 新築、または築20年(耐火建築物の場合は25年)以内であること。
- 地震に対する安全性に係る基準に適合していること。
贈与された額が1200万円以内で税額が0円になった場合でも申告の必要があり、申告しなかった場合には非課税にならないので注意が必要です。
結婚・子育て資金の一括贈与
令和3(2021)年3月31日までに、祖父母、父母から一括贈与された結婚・子育て資金は1000万円まで非課税になります。
このうち結婚の資金は300万円まで非課税になります。
この制度を利用するためには、受贈者が金融機関に結婚・子育て口座を開設し、金融機関から税務署に届け出をしてもらう必要があります。
贈与された資金は口座に預け必要なときに引き出します。
資金を口座から引き出した際は指定された日までに結婚・子育て費用の領収書を金融機関に提出する必要があります。
特別障害者・特定障害者への贈与
特別障害者への贈与は6000万円まで、特定障害者への贈与は3000万円まで非課税になります。
この制度を適用するためには信託銀行に資金を信託し、金融機関から税務署に届け出をしてもらう必要があります。
信託銀行の資金は医療費や生活費として定期的に払い出されます。
贈与税を相続税対策に活用する
あらかじめ生前贈与で財産を贈与しておくことで納める税金を少なくおさえることができる場合があります。
税金を安くすることができるかどうかは、所有している財産の量、法定相続人の数などによって変わってきます。
贈与と相続、どちらが節税になるかは贈与税と相続税の仕組みや違いを理解しておく必要があります。
贈与税と相続税の比較
贈与税と相続税では税率と控除額が異なります。
贈与税と相続税を比較すると、贈与税は相続税よりも税率が高く基礎控除額が低くなっています。
そのため、多額の財産を一度に贈与した場合は贈与税のほうが相続税よりも高くなることが多いですが、少額の財産を何度かに分けて贈与した場合は贈与税のほうが相続税より安くなる事が多いです。
相続税の控除や減税制度
贈与税と同じように相続税にも基礎控除が存在します。
相続税の基礎控除額は、3000万+(600万×法定相続人の人数)で求めることができるので、相続税の基礎控除は最低でも3600万円になります。
基礎控除以外にも贈与税額控除、配偶者控除、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除が存在します。
・贈与税額控除:相続の発生から過去3年以内に贈与を受けていた場合に控除を受けることが可能です。
相続の発生から3年以内に受け取った贈与には相続税かかりますが、贈与された際に贈与税を支払っているはずなので、相続税から支払った贈与税ぶんを差し引いた額の控除を受けることが可能です。
・配偶者控除:相続者が配偶者の場合に使うことができます。
1億6000万円または民法で定められている法定相続分のどちらかまでの控除を受けることが可能です。
・未成年控除:相続者が未成年の場合に使うことができます。
6万円×(20-相続時の年齢)で求められる額の控除を受けることが可能です。
・障害者控除:相続者が障害者の場合に使うことができます。
一般障害者の場合は10万×(85-相続時の年齢)、特別障害者は20万×(85-相続時の年齢)で求められる額の控除を受けることが可能です。
・相次相続控除:10年以内に2回相続が発生した場合に使うことができます。
(今回なくなった方が前回の相続で支払った額)×(10-前回の相続から今回の相続までの経過年数)÷10で求められる額の控除を受けることが可能です。
また、相続税の減額制度に小規模宅地の特例という制度があります。
土地の面積やその土地がなにに使われていたかなどの条件はありますが最大で土地の価格の80%分を減額することが可能です。
相続税の額は相続する財産の額から基礎控除額を引いた額になります。
そこから基礎控除以外の控除、特例分の額を引くことで実際に支払う額が求められます。
配偶者控除、小規模宅地の特例で相続税の支払額が0円になった場合申告書の提出が必要なので注意が必要です。
状況によって贈与か相続を選択する
贈与税が相続税より高くなる場合があれば、その逆の場合もあることについてみてきました。
現在、財産をどれだけ持っているか、法定相続人は何人いるか、控除や減税制度が適用されるかがわかれば相続税の税率が分かるはずです。
相続税の税率が分かったらそれを下回る税率の額までの贈与であれば贈与のほうが節税になります。
贈与するものによっては贈与税以外の税金がかされる場合もあります。
詳細に確認したい場合は、専門家に相談することをおすすめします。
節税の相談は専門家へ
贈与税で相続税が節税ができるかどうかの計算式は簡単ですが、実際の財産評価額やどの制度を適用するかどうかの判断は訓練が必要です。
生前贈与の相談がしたい際には、迷わず税理士に相談するのがおすすめです。
税理士は贈与税の特例や制度に詳しく、あなたにとってどの特例や制度を使用するのが最適かについて、相談にのってくれます。
また、贈与税や相続税の申告を依頼することも可能です。
他にも不動産を贈与したい場合には司法書士に相談すると不動産登記の移転など不動産関連の手続きを依頼することが可能です。
生前贈与や相続の手続きがよくわからない場合や相続する財産を把握できていない場合には弁護士に相談するのもおすすめです。
弁護士は生前贈与だけでなく相続に関しても詳しいので相続について相談したい際も力になってくれます。
相談する際には、自分の保有している財産、自分と贈与する予定の人の間柄や年齢、自分の家族関係などを伝える必要があります。
不動産などを所有している場合、財産をどれだけ所持しているか分かりづらいので固定資産評価証明書など不動産に関する書類があると相談しやすいでしょう。
まとめ
生前贈与に関する税金について解説してきました。
生前贈与という選択肢がある方は、うまく制度を利用することができれば、相続の際に納める税金を少なくすることが可能です。
贈与や相続の税金に関する法律は複雑なものが多く、また相続法の改正が行われ改正相続法が令和元(2019)年7月から令和2(2020)年7月にかけて施行されるため、生前贈与の金額が大きい方は一度専門家に相談されることをお勧めします。