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【相続の期限・時効 】
相続には期限、時効があります。しっかりと期限内に相続を行う、もしくは相続放棄する必要があります。相続の期限・時効について注意点をまとめています。

2019年6月20日 木曜日

相続の時効取得とは?注意すべきポイントは?

相続が始まると、家や土地などの不動産絡みの高額な遺産相続が高い確率で行われます。

この不動産を相続した時に、「時効取得」ができる可能性があることはご存知でしょうか。

通常の相続とは似ているようで少し違う、時効取得の仕組みと注意すべき点、万が一自分が相続した財産が時効取得になり得る場合の対処法などご紹介していきます。

 

相続の時効取得とは

相続における時効取得は、被相続人の建物や土地などの不動産に、定められた条件と一定の期間居続ければ、所有権を主張することができます。

時効取得が成立したのち、それまで法的に適切ではない所有状況だったとしても、正当な取得として認められます。

条件によって短期間か長期間の時効取得になるのか適用範囲が変わります。

 

・短期の時効取得条件

短期の取得時効では、他人のモノを10年間、所有の意思を持って平穏且つオープンに占有することです。

占有を始めた段階で過失がないこと(無過失)・法律関係に影響するような事実を知らないこと(善意)であることが重要です。

 

・長期の時効取得条件

長期の取得時効では、他人のモノを20年間、所有の意思を持って平穏且つオープンに占有することです。

占有を始めた段階で、過失あり善意でないと判断されれば、短期の時効取得に10年間プラスされます。

 

短期もしくは、長期の時効取得の大きな違いの中に、「善意」と「無過失」があります。

財産を相続した時に、不動産が他人の財産権であると認識していた場合、「善意」の相続ではないので、20年経過したのち時効取得となります。

ここでの「善意」とは、「何も知らなかった」という認識になり、加えて過失がないと判断されれば時効取得年数は10年に短縮されます。

時効取得の「善意」は、利害関係などをしっかり精査した状態で、他人の所有物、もしくは他の人に権利があるものだと知らなかったことを指します。

 

なぜ時効取得制度があるのか

・法律関係の安定化

事実状態が長期間続いた状態である場合、その事実状態を覆してしまうことで世の中を混乱させてしまうことを防ぐため、時効取得制度で法的効力を利用して利害関係をコントロールしています。

 

・証明が困難な事実状態を救済するため

ある事実状態が長期間継続していた場合、権利関係に偽りがないと認められる可能性の度合いが高くなります。

しかし、日が経つにつれ、ある事実の権利関係の正当性を証明できる資料を失くしてしまうケースがあります。

時効取得制度によって相続財産の権利関係を真実として証明することが可能となります。

 

・第三者に対抗できる

相続してすぐに不動産を売却する場合、相続人全員の承諾を得ることが必要となり、時間の経過とともに相続人がどんどん増えてきてしまう可能性があります。

こうなると登記ができなくなってしまい相続人の間でトラブルの起因となってしまいます。

時効取得が可能となれば、登記をせずに親から任された不動産を相続すること可能となります。

 

時効取得には不動産以外にも対象となるものがある

・賃借権

貸主に賃料を払うことで、貸主は契約した範囲内での使用が可能となります。

(ただし、土地賃借権の時効では客観的な賃借の意思に基づいて土地が継続的に利用されていることが必須条件です。)

 

・地上権

工作物の所有のため他人の土地を使う権利です。

他人が所有している土地の地下に地下鉄のトンネルがある場合に適用されます。

所有者の承諾なく、補修工事をすることができます。

 

・永小作権

小作料を支払い、他人が所有する土地で農作や牧畜をする権利です。

 

・地役権

自分にとって都合のいい形で他人の土地を使う権利です。

他人の土地を通行する権利もある(通行地役権)。

 

時効取得が成立する条件

ここまで相続の時効取得についてお話を進めてきました。

それでは次に、時効取得を成立させるためのポイントをいくつかご紹介していきます。

 

所有の意思があるかどうか

時効の取得を成功させる一つ目のポイントは、現在自分の家と認識している不動産の所有の意思を明確に示す必要があります。

所有の意思を持った占有を「自主占有」と言い、自分の意思を持たない所有を「他主占有」といいます。

買主が不動産の契約を目的にしている場合、所有の意思が明確にあったと判断され所有権の時効取得が可能になります。

逆に、マンションなどの不動産を賃借人が管理している場合、他人の占有物と認識した前提での契約なので、他主占有となり所有権の時効取得にはなりません。

 

平穏かつ公然の占有であること

「平穏」とは、社会的秩序を乱さず不動産を穏やかに占有することです。

「公然」は、財産を大っぴらにして占有することです。

相続財産占有の取得時のみならず、その後も継続して不動産を平穏・公然な占有が必要です。

財産相続時に、この不動産は昔から自分の占有地であると公言していたとしても、公然の要件に該当していなければ、相続財産の時効取得とはなりません。

基本的に、平穏・公然の占有はある程度見極めることができますが、誰のための・どの程度の公然なのかということが時効取得を成立させる焦点になります。

 

他人の物を一定期間占有している

他人のものを20年間占有し続けることで、時効取得の成立条件をクリアすることができます。

さらには、不動産などを無過失且つ善意での占有であることが分かればこの期間は10年間に短縮することが可能です。

自分の不動産であれば、所有権の権利関係を気にすることはないでしょう。

しかし、他人名義の相続財産である不動産を10年あるいは20年占有し続けていれば、時効取得が成立します。

 

相続の時効取得時の注意点

時効取得の成立には、長い時間を要することが分かりました。

背信的行為をしないことでおくことが、時効取得の成功の鍵となります。

次に、相続の時効取得の際に、不動産占有者が留意すべきことをご紹介していきます。

 

登記が必要

通常、相続が始まると、相続登記を行い、名義を所有者であった被相続人から相続人へと移します。

基本的に、不動産の登記上名義が自動的に変わることはありません。

相続登記には期限はなく、法務局からの通知がくることがないため、何代にもわたって相続登記がされていないケースがあります。

さらに、相続人全員の同意が必要な相続登記では、登記手続を命じる判決がある場合もあれば、相続人全員の同意がなくても一人で登記することも可能です。

この場合、登記の原因は相続ではなく時効取得になります。

時効取得での登記の注意点として、名義変更を怠ってしまうと、第三者に対して所有している不動産は自分のものだと主張することができず、売却等の法律行為は一切行なえません。

さらに、登記の名義人が亡くなっている場合、所有権は相続人全員に引き継がれることになります。

自分が所有者だと思っていても、実際にはほかの相続人と共有しているものです。

この状態のまま、他の相続人が亡くなれば所有権は次の相続人へと受け継がれ、相続関係が複雑化されてしまいます。

相続によって不動産の名義変更と登記が完了してしまうと、時効取得を考えていた人物が要件を満たしている場合でも、簡単に登記名義の変更ができなくなることがあるので注意が必要です。

 

所得税の申告対象になる

一定の条件を満たしたうえで不動産を占有すると、時効取得となり占有した人のものになります。

さら、通常被相続人から財産を譲り受けた場合、相続税が発生します。

時効取得で得た財産の場合になると、一時的な所得として所得税が発生します。

所得税は、時効取得した財産の時価から、時効取得のためにかかった費用と50万円までの特別控除を差し引いた金額です。

このうち、半分の金額が課税対象となります。

また、時効取得で登記の変更を行った場合、登記理由の項目欄には「時効取得」、相続の場合は「相続」と書かれるので、脱税は不可能です。

税金を節約したいがために、遺産分割協議などによる相続を目指す手段がありますが、手間や費用、相続人同士でのトラブルを防ぐためにも、所得税を納めていく方が賢明でしょう。

 

それ以外にもこんなケースがある

・不法に不動産を占拠していた場合

不動産を不法に占拠していた場合、不当な手段によって土地を占拠しているので、不法占拠が続く状態でも時効取得に該当する可能性があります。

しかし、この場合他人の土地を故意に占拠していることから善意とは判断されず10年での時効成立は難しいですが、20年の時効取得ができる可能性は十分にあります。

 

・抵当権が消滅する

抵当権は、住宅ローンを借りるときに、購入する住宅と土地に対して金融機関が設定する権利のことです。

抵当権のついたローンのことを「有担保ローン」、抵当権のつかないローンのことを「無担保ローン」と区別します。

抵当権は、一般的には時効取得の対象にはなりません。

土地などの売買で所有権が移転した場合、その土地に絡むいくつかの権利がそのまま承継されますが、抵当権には随伴性があるので、所有権の移転と同時に付随したままの状態になります。

しかし、時効取得の場合は承継ではなく新たに所有権を取得するため、随伴性のある様々な権利は剥離され、抵当権は消滅します。

 

相続したい財産が時効取得の対象となってしまった場合は

ここまで相続の時効取得の手続き上の注意点をお伝えしてきました。

しかし、いざ自分が相続したい財産が時効取得の対象となってしまったとき、どのように手続きを進めていけばいいのか不安に思われるでしょう。

そこで、円滑で的確な手続きを行うため、相続の時効取得に関して豊富な知識を持っている専門家をご紹介します。

 

弁護士

時効取得での弁護士の役割は、取得時効の完成によって不動産の所有権を損失する登記義務者に対して、登記申請への協力を促し交渉を始めます。

そもそも登記は、登記義務者と登記権利者が共同して申請を行います。

登記義務者は所有権を失うことになるので、協力してくれないケースがあります。

そこで、専門的知識を持った弁護士が交渉することで、ご本人の意志を持って登記を行ってくれます。

ここで、ご協力していただけない場合は、訴訟を提起します。

訴訟は、専門的な知識と実践経験を豊富に積んだ弁護士が必要です。

さらに、裁判所へ毎回出頭する負担を考えれば、頼れる弁護士を探して一緒に時効取得の手続き等を進めていきましょう。

 

税理士

時効取得した場合、取得した不動産などを登記した後に税金を支払う必要があります。

さらには、登記には登記費用がかかり、時効取得について裁判が必要な場合は、弁護士費用や裁判費用もかかる場合があります。

そして、不動産などを取得した場合は、その所在地の市役所や税務署に取得日から60日以内に不動産取得申告書を提出しなければなりません。

時効取得では、不動産をタダで取得しているので、その不動産などの時効取得の権利主張を行ったときの時価分の利益を得たと扱われ、所得税として権利を主張した年に確定申告を行います。

何も知らないまま不動産をそのまま譲り受けるのが時効取得なので、所得税が発生するとは思わずに手続きを進めてしまうかもしれません。

今はほとんどみかけなくなった時効取得で発生する税金に関しては、お近くの税理士に相談してみましょう。

 

司法書士

司法書士は主に、法務局で管理されている不動産などの名義に関わる登記を行い、重要な財産である不動産などの所有権の所在の権利関係を明らかにします。

不動産登記に関しては、税理士や弁護士と比べて高い専門性で登記問題を解決します。

相続の時効取得においても司法書士の役割は変わりません。

多くの司法書士が、電話相談や面談を受け付けており、登記を前提とした法律相談にも乗ってくれます。

さらに、祖父や曾祖父など、二世代以上の名義になっている不動産を相続する場合は、信頼と実績のある司法書士を介して時効取得をサポートしてもらうことをおすすめします。

 

まとめ

相続の時効取得についてご理解していただけましたでしょうか。

時効取得で、不動産などの財産の所有権の獲得には、10年もしくは20年住み続ける必要があります。

これまでご紹介したポイントをしっかりと抑えておくことで、相続財産を時効取得することもできます。

時効取得を適用することが有効かどうか、また、時効取得は複雑な仕組みになっているので、専門家の力を借りてトラブルなく確実に手続きを進めていきましょう。

2019年6月20日
相続に期限があることはご存知ですか?
監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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