2019年6月21日 金曜日
相続時における銀行口座の凍結と凍結解除のためにすべきこと
家族や親戚が亡くなった時というのは、その悲しみとは関係なく病院や葬儀などのかかった費用の支払いなどに追われてしまいます。
各自の預金でその費用や今後の生活費がまかなえれば良いのですが、そうでない場合は、亡くなった方の銀行口座が凍結されてしまったら困る方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、そもそも銀行口座の凍結とは何か、そのタイミングはいつなのか、凍結の解除に必要な手続き、そして相続前後の預金の扱いについて説明していきます。
相続時における銀行口座の凍結とは
銀行口座の凍結とは、金融機関が該当口座の取引を停止することを言います。
口座が凍結されてしまえば、預金の引き出し、入金、振り込みをはじめ、公共料金やクレジットカードの引き落とし、ATMでの残高確認など一切の取引ができなくなってしまいます。
預金者の死亡以外にも、銀行からの借入によって負った借金について債務整理をした場合、犯罪に使用された疑いが出たなど不正に譲渡・使用された場合にも口座の凍結がされます。
何故口座を凍結させる必要があるのか
口座を凍結する理由は、口座名義人が死亡してから相続の手続きが終わるまでに、預金が勝手に引き出される・引き落とされることがないようにするためです。
銀行口座にある預貯金も相続財産に含まれています。
もし、相続人が勝手に故人の口座から預金を引き出してしまった場合、相続関係のトラブルが起きてしまう原因にもなります。
また、金融機関側も故人の預金を勝手に払い戻ししてしまうと相続人からのクレームを受ける可能性もあるため、その対策にもなっています。
銀行口座が凍結されるタイミング
銀行口座が凍結されるタイミングというのは、金融機関が口座名義人の死亡を知り、それが事実であると確認ができたタイミングです。
しかし、死亡届を出したのに故人のキャッシュカードをATMで使うことができてしまった、という経験がある人もいるかもしれません。
それは死亡届を出されても役所が金融機関に届け出ることがないからです。
では、どのような時に金融機関が口座名義人の死亡を知るかというと以下のような経路が挙げられます。
・親族をはじめ相続人からの連絡
・残高証明書取得申請
・新聞のお悔やみ欄、テレビなどのメディアからの情報
・取引先など第三者からの情報
・葬儀の看板
相続人からの連絡は口座凍結のための申し出だというのは想像できるかと思いますが、そうでない場合も口座の凍結がされる場合があるという事に気を付けてください。
銀行口座を凍結するためには
口座がある金融機関の支店に窓口もしくは電話で口座名義人の死亡を伝えます。
伝えるのは基本的に親族などの相続人がほとんどでしょうが、特に決まりはありません。
申し出の際には、口座名義人の氏名、住所、生年月日、口座番号などの確認があるので事前に準備しておきましょう。
なお、故人が一つの金融機関に複数の支店の口座を持っていた場合はその金融機関の一つの支店に連絡すれば大丈夫です。
しかし、複数の金融機関に口座を持っていた場合は、その金融機関ごとに連絡する必要があります。
銀行口座の凍結解除に必要なこと
相続時の銀行口座の凍結では解除されても元通りに使えることはありませんので、金融機関で手続きをして口座の名義変更もしくは払い戻しをします。
遺言書や遺産分割協議書の有無などで必要な書類が変わってくるので、ケースごとにどんな書類が必要かを説明していきます。
ただし、金融機関ごとにその手続きや必要書類が違うので、必ず各金融機関に確認を取るようにしてください。
遺言書がある場合
まずは、遺言書により預金の相続人が決定している場合です。
遺言書があっても預金を相続する人が明記されていない場合、または遺言に従わない場合などの理由によって遺産分割協議を行う場合は後述する「遺言書がない場合」において説明します。
遺言により預金の相続人が決定している場合は、「遺言執行者」が選任されているかで必要な書類は違ってきます。
遺言執行者とは、遺言の内容に従いそれぞれ手続きを行う人の事で、遺言者本人か、遺言者から指定を依頼された人か、家庭裁判所のいずれかによって選任されます。
遺言執行者がいる場合
遺言執行者が選任されている場合はその人が手続きをします。
必要な書類は以下の通りです。
・戸籍謄本(被相続人の死亡が確認できるもの):法定相続情報一覧図の写しで省略可
・印鑑登録証明書(遺言執行者のもの)
・実印(遺言執行者のもの)
・遺言書:自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合
・検認済証明書:自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合
・遺言公正証書謄本:公正証書遺言の場合
・遺言執行者選任審判書謄本:家庭裁判所での審判による遺言執行人選任の場合
・相続関係の依頼書(金融機関によって名称は異なる)
・印鑑届:名義変更する場合
・通帳・証書・キャッシュカードなど
遺言執行者がいない場合
遺言執行者が選任されていない場合は相続人、もしくは受遺者が手続きを行います。
必要な書類は以下の通りです。
・戸籍謄本(被相続人の死亡が確認できるもの):法定相続情報一覧図の写しで省略可
・印鑑登録証明書(相続人もしくは受遺者):未成年の場合は法定代理人のもの
・実印(相続人もしくは受遺者):未成年の場合は法定代理人のもの
・遺言書:自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合
・検認済証明書:自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合
・遺言公正証書謄本:公正証書遺言の場合
・相続関係の依頼書(金融機関によって名称は異なる)
・印鑑届:名義変更する場合
・通帳・証書・キャッシュカードなど
遺言書がない場合
遺言書がない場合、遺言書があっても預金の相続人が明記されていない場合、明記されていても相続人全員の合意がある場合は遺産分割協議を行います。
遺産分割協議書がある場合
遺産分割協議により預金を相続する人が決定し、遺産分割協議書を作成した場合に必要な書類は以下の通りです。
・戸籍謄本(被相続人の出生~死亡までの連続した戸籍謄本。
除籍謄本、改製原戸籍謄本含む):法定相続情報一覧図の写しで省略可
・戸籍抄本または戸籍謄本(被相続人と各相続人の関係が確認できるもの):法定相続情報一覧図の写しがある場合、または被相続人の戸籍謄本で関係が確認できる場合は省略可
・印鑑登録証明書(相続人全員):相続放棄した人は除く。
未成年者の場合は法定代理人のもの
・実印(手続する人のもの)
・遺産分割協議書(相続人全員の署名と実印の押印):相続放棄した人は除く
・相続放棄申述受理証明書:相続放棄した人がいた場合
・相続関係の依頼書(金融機関によって名称は異なる)
・印鑑届:名義変更する場合
・通帳・証書・キャッシュカードなど
遺産分割協議書がない場合
遺産分割協議により預金を相続する人が決定しても遺産分割協議書を作成する必要はありません。
ただし、金融機関によっては必要な場合もありますし、金融機関以外の手続きやトラブルを防ぐためにも遺産分割協議書はなるべく作成しておきましょう。
遺産分割協議書がない場合の必要な書類は以下の通りです。
・戸籍謄本(被相続人の出生~死亡までの連続した戸籍謄本。
除籍謄本、改製原戸籍謄本含む):法定相続情報一覧図の写しで省略可
・戸籍抄本または戸籍謄本(被相続人と各相続人の関係が確認できるもの):法定相続情報一覧図の写しがある場合、または被相続人の戸籍謄本で関係が確認できる場合は省略可
・印鑑登録証明書(相続人全員):相続放棄した人は除く。
未成年者の場合は法定代理人のもの
・実印(相続人全員)
・相続放棄申述受理証明書:相続放棄した人がいた場合
・相続関係の依頼書(金融機関によって名称は異なる)
・印鑑届:名義変更する場合
・通帳・証書・キャッシュカードなど
家庭裁判所での審判や調停によって預金を相続する人が決定した場合
遺産分割協議が決裂してしまった場合、家庭裁判所において遺産分割調停、遺産分割審判によって預金の相続人を決めることがあります。
その場合に必要な書類は以下の通りです。
・調停調書謄本:調停により預金の相続者が決定した場合
・審判書謄本:審判により預金の相続者が決定した場合
・審判確定証明書:審判により預金の相続者が決定した場合で審判書に確定表示がない場合
・印鑑登録証明書(相続人もしくは受遺者):未成年の場合は法定代理人のもの
・実印(相続人もしくは受遺者):未成年の場合は法定代理人のもの
・相続関係の依頼書(金融機関によって名称は異なる)
・印鑑届:名義変更する場合
・通帳・証書・キャッシュカードなど
相続の前に銀行口座から預金が引き落とされていた場合は
相続の前後の口座のお金の出入りは相続財産となるのかどうか、曖昧になりやすいものです。
また、葬儀費用や病院の治療費の支払いが必要で故人の口座からどうしても預貯金を引き出したいのに、手を付けていいのかわからず困っている人も多いかと思います。
そこで、相続発生前後に個人の預貯金は相続財産としてどう扱われるのかを説明していきます。
また、2019年7月1日が施行日となる相続法改正についても紹介します。
相続発生直前までに使用した場合
まずは、被相続人の死亡直前に口座からおろされたお金の扱いです。
ここでは主に考えられる3パターンについて紹介します。
病院介護費に使用されたお金
被相続人の死亡直前までの病院・介護の費用に使用した場合は、被相続人に必要な費用という扱いになるので、相続財産の計算には含まれません。
被相続人に頼まれて他の人が預金を管理していてもそれは同じです。
被相続人が自身のために使ったお金であれば相続財産とはならないのです。
ただし、被相続人に預金の管理をお願いされた人でも、それを被相続人の必要経費としてではなく、勝手に使い込んでしまうケースもあります。
必要経費以外での引き出しは立派な犯罪となりますので、決してそのようなことがないようにしなくてはなりません。
もし使い込みが発覚すれば、その分のお金は相続財産として扱われますし、使い込んだ人は民法に従い返金しなくてはなりません。
土地などを購入した時のお金
被相続人が死亡直前にお金を使用するというのは、病院や介護費用に限った話ではありません。
例えば、土地や骨董品、宝石などが考えられます。
その場合、購入した金額分の預金ではなく、購入したもの自体が相続財産となります。
相続税の計算もそれら相続財産の評価額をもとに計算されることになります。
そのため、相続の意思がなくても把握しておく必要があることに注意してください。
また、何かを購入していなくてもタンス預金といった自宅に保管された現金が存在する場合もあります。
もし未申告の場合、重いペナルティが課せられますので、預金が何に使われたのか、相続財産はどうなっているのか明確にしておくようにしましょう。
生前贈与
死亡直前の預金の引き出しには、生前贈与するという場合も考えられます。
相続財産を減らし、節税対策としても有効だからです。
ただし、生前贈与の中でも相続財産として計算されるものとされないものがあります。
具体的には、相続人もしくは受遺者が被相続人の死亡する3年以内に贈与された財産が相続財産として計算されます。
逆に相続人・受遺者以外の人に生前贈与されたものや、相続人・受遺者であっても被相続人の死亡より3年以上前に生前贈与されたものは相続財産としては計算されません。
相続発生直後に使用された場合
死亡直後に預金の引き出しがあった時、その引き出されたお金は、相続税の算定対象になります。
相続財産とは被相続人の死亡時に所有していた財産と考えれば非常にわかりやすいかと思います。
被相続人の財産は、相続人が決定するまでは手を付けないのが原則です。
他の相続人とのトラブルの原因になりますし、相続を単純承認したとみなされ、後に相続放棄や限定承認を検討しようにもできなくなることにもなります。
ただし、葬儀費用や病院の費用といった相続人のための支出であれば一部相続財産とみなされない場合があります。
そういった場合でも、領収書を残すなど使った費用が税務署など第三者から見ても証明できるようにしておく必要があります。
そして、相続人全員の同意がなければ故人の口座から引き出すことはできません(2019年6月30日まで)。
相続人の同意がなくても預貯金を払い戻しできるように
故人の口座から預貯金を引き出すには相続人の同意が必要になります。
しかし、生活費や葬儀費用などどうしてもまとまったお金が必要になる場合も多いと思います。
そのため、2019年7月1日に施行される改正相続法により上限はありますが払い戻しの請求ができるようになりました。
具体的な額は以下の通りです。
払い戻しできる金額=故人の預貯金債権の金額×1/3×払戻しを請求する相続人の法定相続分
※一つの金融機関につき150万円が上限
2019年7月1日より前に被相続人が亡くなった場合でも、7月1日以降であれば払い戻し可能です。
必要書類など詳しい事は各金融機関に確認しましょう。
まとめ
今回は、相続時の金融機関の口座の凍結の手続きや、相続前後の引き出された預貯金は相続財産として扱われるのか、そして、相続発生後でも引き出すことはできるのかを紹介しました。
相続というのはトラブルが発生しやすい現場の一つです。
そして、そのトラブルの多くは、知らされていなかったことや、小さなミスやコミュニケーションが引き金となります。
そのリスクを少しでも減らすためにも、お金の流れを明確にすること、早急に金融機関に必要な書類や手続きを確認すること、そして少しでもわからないことがあれば専門家に相談することが大切です。