2019年6月17日 月曜日
母子家庭での相続の注意点やポイントは?
近年では、母子家庭・父子家庭といった、ひとり親家庭が増加しつつあります。
ひとり親家庭での遺産相続は元夫・元妻の相続や相続代理人など、一般的な家庭における相続と少し異なる部分があるため、注意する必要があります。
ここでは母子家庭での相続の注意点やポイントについて解説していきます。
目次
法定相続人と法定相続分について
まずは一般的な相続で知っておきたい法定相続人及び法定相続分について解説していこうと思います。
法定相続人とは
法定相続人とは、民法によって定められている、遺産相続の際に遺産を相続する権利を持っている人のことです。
法定相続人には大きく分けて被相続人(死亡した人)の配偶者と血縁者の2つがあります。
配偶者は必ず相続人になります。血縁者は被相続人との血縁関係に応じて、第1順位から第3順位までの遺産相続順位が定められています。
第1順位の相続人が最も優先され、下位順位の相続人には相続が発生しません。
第1順位の相続人は、子及びその代襲者です。基本的には被相続人の子が相続人になりますが、相続発生以前に子が死亡していた場合には、相続人の子が相続人になります。このように代襲者が相続することを代襲相続といいます。
血縁関係がなくとも養子縁組を結んでいた場合には第一順位の相続人として扱われます。
第2順位の相続人は父や母といった直系尊属(自分より前の世代に属する血のつながった者)です。親等が異なる直系尊属がいる場合は親等が近い直系尊属が優先されます。第三順位の相続人は兄弟姉妹及びその代襲者です。
基本的には兄弟姉妹が相続人になりますが、相続発生以前に兄弟姉妹が死亡していた場合には、相続人の子が相続人になります。ですが、兄弟姉妹の子も死亡していた場合でも兄弟姉妹の孫は相続人になることはできません。相続放棄などで相続権を失った場合は、最初から相続人でなかった事になり子が代襲相続することもできなくなります。
法定相続分とは
法定相続分とは、民法によって定められている、各相続人が相続することができる遺産の割合のことです。
相続人の遺産相続順位ごとに相続できる割合が定められています。相続人が配偶者と第1順位の相続人である子の場合には、遺産の半分を配偶者が、残り半分を子が相続します。
子が2人以上いる場合には、子の相続分を人数で等分します。
相続人が配偶者と第2順位の相続人である両親の場合には、遺産の3分の2を配偶者が、残り3分の1を両親で等分して相続します。相続人が配偶者と第3順位の相続人である兄弟姉妹の場合には、4分の3を配偶者が、残り4分の1を兄弟姉妹が相続します。
2人以上の兄弟姉妹がいる場合には兄弟姉妹の相続分を人数で等分します。
これらの法定相続分はあくまで目安であり、必ずこの割合で遺産を分割しなければいけないわけではありません。
被相続人が生前に遺言書を残していた場合、遺言書の内容に従って遺産を相続します。ですが、遺言書に書いてあればどんな割合でも相続できるわけではありません。
遺留分権利者である配偶者と子または直系尊属の相続人には、遺留分という法律によって保証された一定割合の相続財産があるため、遺言書に遺留分権利者に相続させないと書いてあった場合でも遺留分を相続することができます。
また、遺言書がない場合でも相続人全員で遺産分割協議を行い、全員が合意した割合で遺産を分割することができます。相続人のうち1人でも合意していない場合にはその遺産分割協議は無効になります。
母子家庭での相続はどうなるか
それでは母子家庭における相続はどうなるのでしょうか。いくつか場合分けをしながら法定相続分に基づいて説明していきます。
子どもが母が親権を持つ子だけの場合
まずは、母子家庭及び元夫の家庭の子どもが母親が親権を持つ子どもだけの場合(元夫の家庭に子どもがいない)についてです。
母親が亡くなった場合
母親が亡くなった場合には、基本的には子と配偶者である夫が遺産を相続することになります。
母子家庭では、母親と元夫は離婚しており配偶者の関係に無いので、元夫は相続人になることはできません。そのため、子が唯一の相続人になり、母親の遺産を全て相続することになります。
子が2人以上いる場合には、遺産を子の人数で等分した額を相続します。
元夫が亡くなった場合
元夫が亡くなった場合には、現在別々の家庭で暮らしていたとしても子が相続人になります。
離婚後に再婚して元夫に配偶者がいる場合には、遺産の半分を配偶者が、残り半分を子が相続します。元夫に配偶者がいない場合には、子が遺産を全て相続します。子が2人以上いる場合には、子の相続分を子の人数で等分した額を相続します。
離婚後、元夫が再婚するなどして新しい家庭を作っていた場合、後妻やその子のみに遺産を相続するという内容の遺言書を書いている場合があります。
この場合でも、法定相続人である子が遺留分減殺請求をすることで、法律で保証された分の遺産を相続することができます。
元夫が親権を持つ子どももいる場合
次に、母子家庭及び元夫の家庭の子どもが母親が親権を持つ子どもの他に、元夫が親権を持つ子どももいる場合(元夫の家庭に子どもがいる)についてです。
母親が亡くなった場合
元夫側の子が母親の実子である場合には、法定相続人は母子家庭側の子と元夫の家庭側の子になります。
一緒に暮らしていたかどうかに関わらず、法定相続分は同じであるため、遺産を子の人数で等分した額を相続することになります。
ですが、元夫側の子が、元夫とその新しい配偶者との間で特別養子縁組を成立させていた場合、元夫側の子は母親の遺産を相続することができなくなります。
元夫側の子が母親の実子ではない場合には、相続人になれるのは母子家庭側の子だけになります。そのため、母子家庭側の子が母親の遺産を全て相続します。
元夫が亡くなった場合
元夫が亡くなった場合には、母子家庭側の子と元夫が親権を持つ子が法定相続人になります。
離婚後に再婚して、元夫に配偶者がいる場合には、遺産の半分を配偶者が相続し、残り半分を子が相続します。
元夫に配偶者がいない場合には、子が遺産を全て相続します。子が2人以上いる場合には、子の相続分を子の人数で等分した額を相続します。
平成25年12月5日の民法改正によって、離婚後に出産するなどして、子が非嫡出子(婚姻していない状態で生まれた子)であっても嫡出子と同じ法定相続分を得られると定められました。
子どもの父親は相続の対象になるのか?
母子家庭において母親が亡くなった場合、子どもの父親は相続の対象になるのでしょうか。母子家庭の母親がなくなった場合には、被相続人である母親と子どもの父親は離婚した時点で配偶者の関係ではなくなっているので、子どもの父親が相続人になることはできません。
そのため子どもの父親は相続の対象にはなりません。
しかし、何らかの理由があり子どもの父親にも遺産を相続させたいと考えている場合は、あらかじめ遺言書に財産を子どもの父親に遺贈する旨を記しておくことで、子どもの父親にも財産の一部を遺贈させることができます。
遺言書に遺贈の旨を記載しておくことで、法定相続人でなくとも遺産を相続することができるようになります。
母子家庭において、子どもの父親が相続の対象になるのは、母子家庭の子どもが被相続人になった場合です。
たとえ両親が離婚していたとしても父親と子どもの血縁関係は変わることはないため法定相続人になることができます。被相続人に第一順位の相続人である子や孫がいない場合には、第2順位の相続人である被相続人の両親が遺産を相続することになります。
これによって、子どもの父親と母親が相続の対象となり被相続人の遺産を相続します。
子どもが未成年の場合のポイント
不慮の事故で母子家庭の母親、または元夫が若くして亡くなり相続が発生した際に、相続人である子どもが未成年である場合があります。
この場合、通常の遺産相続と異なりいくつか注意しないといけないポイントがあります。ここではそのポイントについて説明していきます。
代理人が必要
相続人が未成年の場合には、法律行為を行うことができないと、法律によって定められています。相続における法律行為とは、遺産分割協議と相続放棄の手続きです。
そのため遺産分割協議と相続放棄の手続を行いたい場合には、相続人の代わりに手続きを行う相続代理人が必要になります。
基本的には親権者が相続代理人になるので、元夫が被相続人になった場合には親権者である母親が子の相続代理人になることができます。
しかし、母子家庭で母親が被相続人になった場合の相続では他に親権者がいないため、特別代理人が必要になります。
特別代理人の選任は家庭裁判所に申し立てる必要があります。家庭裁判所に申立した際に候補者とした人が特別代理人として選任されます。特別代理人の候補者は相続人の祖父母などの親族が一般的ですが、発生した相続における相続人でなければ問題ないため、近所の人や友人などの知り合いに依頼することもできます。
依頼できる人がいない場合には、弁護士や司法書士に依頼して特別代理人になってもらうこともできます。
未成年者控除が利用できる可能性がある
相続税の控除には、法定相続人の数によって定められる基礎控除が存在しますが、相続が発生した際に相続人が未成年であれば、基礎控除の他に、未成年者控除を利用できる可能性があります。
未成年者控除では、「(20-相続発生時の年齢)×10万円」が相続税から控除されます。
未成年者控除を受けるためにはいくつかの条件があり、これら全てを満たす場合のみ未成年者控除を受けることができます。
- 相続で財産を取得した時、日本国内に住所がある。もしくは、日本国籍を有しており相続開始5年以内に本人または被相続人が日本国内に住所を有したことがある。
- 相続で財産を取得した時に20歳未満である。
- 相続で財産を取得した人が法定相続人である。
また、未成年者控除による控除額が相続税の額を超過した場合には、超過した額を未成年者の扶養義務者の相続税額から控除することができます。
相続放棄も可能
生活が苦しい母子家庭では、借金などの負債を抱えていることも少なくありません。
借金を抱えた状態で母親が亡くなってしまうと、未成年の子に財産だけでなく借金も相続されることになります。
これによって子が不利益を被るような場合には、相続放棄を選択することが可能です。相続放棄することで、借金などの負債を含めた全ての財産を相続せず、相続人としての立場を失います。
そのため、母子家庭での相続において子が相続放棄すると、母親の両親が新たに相続人となり遺産を相続することになります。
相続放棄の手続は、相続が発生してから3ヶ月以内に被相続人の住所を管轄する家庭裁判所で行う必要があります。
一緒に暮らしている母親が被相続人になった場合には、相続の発生をすぐに知ることができますが、離れて暮らしているなど、接点があまりなかった元夫が被相続人になった場合、相続が発生していたことに暫くの間気付かず、相続財産の調査が間に合わないため、3ヶ月の間に相続放棄するべきか判断できない場合もあります。このような場合、元夫の相続財産を調査するための期間として、家庭裁判所に対して相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てをすることができます。
また、既に3ヶ月が経過してしまっていた場合でも、相続の発生を知らされていなかったなどの特別な事情があれば相続放棄が認められる場合もあります。前述の通り未成年者が相続放棄を選択する場合手続きを特別代理人に行なって貰う必要があります。特別代理人の選定には1ヶ月ほどかかるため、相続放棄の可能性がある場合には早めに特別代理人の候補を探しておく必要があります。
まとめ
以上が母子家庭での相続の注意点とポイントでした。
一般的な家庭における相続と異なり、注意しなければならない箇所や、ややこしい手続きもありますが、知っておかなければ損をする可能性もあります。
よくわからない部分がある場合や、自分と子どもが条件に当てはまるか不安な場合には、弁護士や司法書士といった相続の専門家に相談することも大切です。万が一の場合に備え、子どもに自分の財産を残すためにも、相続のしくみをきちんと理解しておきましょう。