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【相続の基礎知識 】
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2019年6月22日 土曜日

生活保護を利用している人は財産を相続することはできるのか?

生活保護制度は、「憲法25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という憲法に従い、国民の権利を守るための制度です。

この憲法に反しない行為、つまり生活保護受給者が財産を相続するという行為は、国の憲法上推進されるべき行為となります。

しかし、生活保護受給者の方々の生活は、多くの制度によって支えられているため、相続には特殊な行政手続きも発生します。

今回は、生活保護受給者が財産を相続するときの注意点や、手続き方法について詳しく解説していきます。

 

生活保護とは?対象となる条件とは

生活保護制度とは、福祉事務所や市区町村の個別判断によって対象者が決定し、対象者に生活保護費が支給される制度です。

まずは、生活保護制度の自立支援のための生活保護費を受給できる人の条件について解説します。

厚生労働省のHPには、生活保護の要件を次のように明記しています

 

生活保護の要件等(生活保護制度|厚生労働省より引用)
生活保護は世帯単位で行い、①世帯員全員が、その利用し得る②資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために③活用することが前提でありまた、④扶養義務者の扶養は、生活保護法による保護に優先します。

 

ちょっと難解でわかりにくい文章ですから、簡単に書き直します。

 

生活保護の要件とは?
生活保護は、世帯単位で行います(④)ので、扶養してくれる家族がいる場合は、家族に頼って下さいね。

援助をお願いできる家族(家族の所在・範囲の判断は市区町村の判断)がいない場合は、自分が働けるなら精一杯働いて(②)、持っている資産や財産がある(②)場合は、それらを全てお金に換えて(③)、福祉・労災・国民年金・厚生年金等、行政から、あるいは会社、保険会社からの支給等(②)、あらゆる手段を講じて(③)、少しでも生活向上の努力を自分なりに精一杯やって、自分なりに努力しましょう。

それでも生活に困窮する場合は、生活保護の受給の権利を利用して憲法25条の「健康で文化的な制定限度の生活」になるよう国が保護します。

 

上記の解説のように、①~④の要件の総合判断は、福祉事務所や市区町村の個別判断に委ねられています。

このように、できる限りのあらゆる手段を講じても、それでも生活に困窮している人に対し、国が考える憲法25条の最低限度の生活を送るために必要な金額の不足金額を国が支給してくれる制度が「生活保護費」なのです。

つまり、生活保護制度は、国民が憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を一日も早く取り戻せるように、自立支援していく制度であり、生活保護で永遠に生活を保証してくれる制度ではないのです。

働けるのに生活向上の努力をしない人、貯蓄や収入がある人などは、生活保護費を受給できる資格がない者として、生活保護費を打ち切られてしまいます。

したがって、生活保護受給者は定期的に担当のケースワーカーの面談を受け、あるいは訪問調査を受けて、生活や収入の状況を報告する義務もあります。

つまり、行方不明になったり、音信不通になったり、健康なのに理由もなく会社を勝手に辞めて努力している状況が見られない人には、生活保護の受給がストップされることもあるのです。

 

生活保護の受給者が財産を相続すると?

生活保護の受給が原則停止または廃止になる

生活保護者が相続によって金銭的な余裕が生まれた場合、その金額によってそれぞれですが、生活保護費が削減・停止される可能性があります。

生活維持のための「あらゆるもの」の活用、という生活保護の要件の、「あらゆるもの」の中には、相続によって得た財産も含まれるからです。

相続によって少しでも財産を得たなら、預貯金ならそれを利用して、不動産等だったなら、それを売却、あるいは活用して、生活を向上することができると判断されるケースもあります。

 

相続によって生活が破綻する場合は相続放棄できる可能性も

相続したことによって、生活が向上するどころか、却って生活保護を打ち切られて、生活が困窮してしまうこともあります。

相続したものが、預貯金なら良いのですが、売却しないとお金にならない不動産や物品だった場合に多く当てはまります。

例えば、相続税のかかる山をいくつも相続して、その山を売却したくても買い手がつかなかったり、借地として土地を相続しても上物の建物が他人の持ち家だったりして、借地の賃料しか入ってこないような場合もあります。

このように、売却することが難しい財産を相続した場合、相続者には、相続税や固定資産税等の出費だけが課せられることになります。

この相続者が生活保護受給者だった場合、価値ある資産を持っていることになるので、生活保護費は打ち切られる可能性もあるでしょう。

しかし、相続した財産を売却できず、莫大な相続税固定資産税だけの支払いが先に来て、自己破産に追い込まれる可能性もあるのです。

また、相続を単純承認した場合、1000万円の資産を相続しても、マイナス2000万円の借金も一緒に相続することもあります。

仕事に就いていない状態で、生活保護を打ち切られたら、一定の期間はその相続したお金で生活できても、借金の返済や返済や税金の支払いで生活が破綻するリスクがあります。

生活保護を再度申請するには、新規に調査が必要となりますので、生活保護受給の決定が下りるまでに、生活が破綻してしまうこともあります。

このような場合は相続を放棄することができますが、まずは相続が発生した時は生活保護課の職員に相談することをお勧めします。

 

生活保護の受給者が相続人になったときにすべきこと

相続財産の確認

生活保護受給者は、受け取れる相続財産の確認をして、それらの売却の可否を明確にしなければなりません。

相続をすることに、生活保護受給者かどうかは関係ありません。

ただ、生活保護を受給している人の場合、相続財産によって、生活保護費の見直しが検討されます。

しかし、国が相続財産に価値があると判断したとしても、市場の価値判断とは異なる場合もあり、簡単に売却できないこともあります。

相続財産の資産価値ありと行政に判断されて、生活保護費が打ち切られた場合、生活保護費が無いまま、売却できない財産が残ります。

生活保護費を受給している人は、もしも相続するなら、預貯金か、換金可能な、生活保護緒費の代わりになる資産でないと困ります。

さらに、プラスの財産と一緒に、マイナス財産(借金)も相続する場合もあります。

周囲の人が知らないマイナス財産が隠れている場合もあるのですが、相続放棄の手続きは、相続できることを知ってから3ヶ月以内です。

積極的にマイナス財産の調査をしなければ、相続を実行した後からマイナス財産の存在が浮き彫りになって、その時は既に相続放棄の手続き期限を過ぎていることもありうるのです。

生活保護受給者は、まずは財産目録の確認と遺言書の有無、そして法定相続分の割合と相続内容を明確にすることから始めましょう。

 

ケースワーカーへの相談

相続したことを隠して生活保護を受け続けることは不正受給となります。

生活保護費の不正受給が発覚した場合は、相続後に不正に受け取った生活保護費の返還請求命令が出ます。

その金額が大きいときは、お金の返金だけではなく、罰金や、悪質な場合は、詐欺として刑事罰を受けてしまうこともあります。

相続財産が、数十万の小額預金でも、収入を隠していた場合は不正受給に該当します。

相続した預貯金をどう使うべきかも含めて、まずはケースワーカーに報告をしましょう。

相続金額が少額と判断された場合、その預貯金を使い切るまでの期間の生活保護費停止となります。

預貯金が無くなれば、生活保護費は、元の金額に戻ります。

また、生活保護受給者から脱却する努力をして、その後にその形見を託した相続人から譲ってもらう約束をするという方法もあります。

また、借金等マイナス財産がたくさんあるからといって、相続放棄をした方が良いとは一概にはいえません。

自己判断で決めずに、ケースワーカーに相談したら、マイナス財産だと思っていた相続がプラス財産の相続となって、生活保護から抜け出せる可能性だってあるのです。

ケースワーカーは、生活保護受給者がどうすれば幸せな自立ができるかを考えてくれる味方であり、生活保護費の打ち切りのための見張り役では無いのです。

だから、相続できるときは、まずはケースワーカーに相談し、生活の向上が見込める相続かどうかを検討してもらいましょう。

「小額だから」「高価なものだけど形見として売りたくないから」といった理由でも、資産を手にしたのに生活保護費を受給するのは不正受給となります。

不正受給が発覚すると、二度と生活保護費を受給できなくなったり、警察に逮捕されてしまったりすることにもなりかねないので気をつけましょう。

 

相続放棄をすることになったらすべきこと

相続放棄をするためには、ただ、「相続を放棄します」と宣言するだけでは相続放棄はできません。

相続放棄は、相続できることを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し出なければなりません。

ただし、相続財産に何かしらの関与がある、例えば預金の名義を変更していた場合は、その行為自体が相続を承認したとみなされ、相続放棄が認められません。

相続放棄は、財産の一部では無く、「全ての財産を放棄する行為」ということを認識しておいてくださいね。

 

まとめ

いかがでしたか。

原則として、生活できる資産を相続すれば生活保護は必要なくなると考えられ、生活保護の対象から外れてしまうので、生活保護費が打ち切られます。

しかし、相続内容によっては、生活保護が打ち切られることで生活が破綻してしまうこともあります。

正直にケースワーカーに報告していれば、相続財産を吟味して、場合によっては相続放棄をアドバイスしてくれたり、相続財産の活用方法など、生活保護の現状維持にしてくれることもあります。

これから相続をする生活保護受給者の方は、ご自身の自立支援のためにもまずはケースワーカーと、必要であれば専門家への無料相談も視野に入れて相続の選択をなさってください。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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