2019年6月17日 月曜日
根抵当権がある場合の相続の注意点とは?
「根抵当権」という言葉をご存知ですか?
抵当権と同じものと思っている方もいるかもしれませんが、抵当権とは似て非なるもので、その特徴は大きく異なります。
親が残してくれた不動産に根抵権が付いていた、という場合には根抵当権の知識を知っておかなくては困ります。
また、事業を興そうと考えている方や、現在すでに会社を興している方にも、根抵当権の基礎知識を知っておいて損はありません。
この記事では、根抵当権についての正しい情報や気をつけるべきポイントをお伝えしていきます。
根抵当権とは
根抵当権とは民法第398条の2第1項より抜粋すると、「一定の範囲内の不特定の債権を極度額の範囲内において担保するために不動産上に設定された担保物権のことである。これに対し、通常の抵当権は特定の債権を被担保債権とする。」と記載があります。
根抵当権は登記を持ち出さずに何度でもお金の貸し借りができるので、継続的な金銭の貸借をする関係で有用性があります。
根抵当権と抵当権の区別
根抵当権は言葉通り、抵当権の一種です。
抵当権は借入額がはっきり決まっており、その額に対応する財産を担保とし、返済ができない場合は差し押さえられるという、貸す側の権利です。
それに対して、根抵当権は借りられる限度額を定め、その限度額の範囲内なら小刻みに何度も借りられます。
ちなみに根抵当権で定められる限度額を法律用語で極度額と呼びます。極度額以下なら具体的な金額を決めなくとも、融資を受けられます。
例えば極度額が3000万ならはじめは500万、上乗せして1000万、さらに1500万借りるということもできるということです。この点が抵当権とは異なるポイントです。
根抵当権の特徴
一般的に個々人で借り入れる際には、普通抵当権で事足りることがほとんどです。
そのため、根抵当権は会社を大きくするためのビジネスシーンで活用される特徴があります。
根抵当権の利息は実際に借りている金額のみに対応して、利息が発生します。
例えば、根抵当権で1億円の融資が受けられるとしても、仮に500万円借りているのなら、500万円にのみ利息が発生するということです。そのため根抵当権で高い金額を融資額に設定したとしても、借りる金額に応じてしか利息は生じないため、過度に心配する必要はないのです。
根抵当権はどんなときに有効か
根抵当権は個人として借りるのではなく、法人としてお金を借りようとする場合に多くのメリットがあるといえるでしょう。
なぜならば、貸借関係が一回きりではなく継続して取り行われる場合に有効だからです。融資を受けるにはそのための登記や手続きが必要です。これらには当然費用がかかってきます。
普通抵当権では、お金を借りようとするたびに諸費用と手間が掛かり続けてしまうのです。
ところが、根抵当権はお互いの承諾があって初めて消滅するので、基本的には根抵当権は残り続けます。そのためお金を長期的スパンで何度も借入をしようと考えているのなら、根抵当権の方が有効です。
根抵当権を活用するときに気を付けるべき点
根抵当権のメリットである、残り続けるという性質が、裏を返せば気を付けるべき点にもなりえます。
根抵当権の解消をしたいと考えた時、貸した側、借りた側の双方での話し合いはもちろん、返済を済ませていることが前提です。根抵当権者と連絡が一切取れない時には訴訟を起こし、裁判所の判断にて根抵当権の抹消をしてもらう必要も出てきてしまいます。
また、根抵当権を消滅させるタイミングでいくら借金が残っているのかということと、それらを具体的な日時でいつに返すかをはっきりさせることを根抵当権の元本確定といいます。この元本確定をすることで、根抵当権は抵当権へと変わるのです。
注意点としては、一度元本確定をしてしまうと取りやめができないという点でしょう。そのために慎重に決断をする必要があります。
相続の対象に根抵当権がある場合は、早めに放棄か相続かを判断しなくてはいけない
根抵当権のついた不動産を相続する際は、具体的に6ヵ月以内に指定債務者の登記を、借用している金融機関に速やかに申し出る必要があります。これを怠ってしまうと、元本確定が自動的に行われてしまいます。
そのため、指定債務者の登記を、債務者が亡くなってから6ヵ月以内に行う必要があります。指定債務者とは債務者である被相続人の代替として新しく根抵当権の債務者になる人のことを指します。指定債務者の登記をすることで、被相続人の死後も、元本確定が取り行われてしまうことを未然に防ぎ、継続的に融資を受けられるのです。
根抵当権の相続の是非
根抵当権の付いた不動産を相続する場合は注意が必要です。
なぜなら、相続したからといって、根抵当権は消滅せず、指定債務者として引き継がれるからです。根抵当権のついた不動産を相続する場合は、被相続人が借用した金融機関にいくらを返済したなら根抵当権をいれた金額を完済できるのかを調べておくといいでしょう。
もし、返済が難しいようなら財産放棄も視野に入れるのも選択肢の一つです。
なぜ、根抵当権がある対象の相続は早期判断が必要か
根抵当権には合意の登記というものが存在します。仮に遺産相続協議が完了していて、特定の人物が不動産を相続する場合でも、まず相続人全てに相続させると明記してある必要があります。
また、根抵当権が付いている不動産を売買することもできますが、任意売却という形を取ることになります。その場合、金融機関側には任意売却に応じるべき確たるルールや基準が設けられていません。
そのため、債権者である銀行との交渉次第で、売却まで至るかそうでないかが決まります。銀行としては破産するリスクの少ない、優良な貸し手には、どんどん貸し付けて利息を得たいと考えますし、任意売却に応じなければならないというわけではありませんから、交渉が難航することが数多く見受けられるのです。
根抵当権を相続する際の注意点
根抵当権のついた物件を相続した時、根抵当権を外したいと思うときがあることでしょう。
根抵当権を外すことを、根抵当権の抹消といいます。根抵当権の抹消は難しい手続きが必要ですので、注意する必要があります。
元本確定して、借金を全て返済した後に根抵当権設定者と根抵当権者の双方が了承したときに、抹消の申請を行うことで初めて手続きが取れます。
特例として根抵当権の消滅請求により抹消することもできます。
借主が金策に困り、根抵当権の設定された物件が資金繰りのために、第三者の手に渡ったとします。その際に極度額相当の金額を支払えば、根抵当権の消滅請求により、根抵当権を抹消することができます。
第三者の手に渡ったのに競売にかけられてしまうと、新たに所有権を取得した第三者が被害を受けます。そのような事態を避けるための救済措置として、極度額相当を支払うことで、根抵当権を抹消できるのです。
根抵当権の債務者変更登記
債務者変更登記では、細かく取り決められた文言を書面にして、契約を交わす意味合いが強いです。債務者変更登記をすることで、根抵当権を持つ不動産を相続することになりますから、残債務やそのほかの相続するにあたって、重要な情報について、つぶさに確認を怠らないようにすることは、相続をした後に思わぬトラブルに巻き込まれないためにも、非常に重要なことです。
根抵当権は登記が重要
根抵当権は大事な土地を担保に入れるわけですから、当然のことながら口約束では成立しません。
そこで登記が重要になってきます。登記には種類があり、相続登記、変更登記、合意の登記と大まかに分類して三つが挙げられます。
相続登記とは、被相続人の不動産を相続人が相続するという所有権を移すための手続きです。
変更登記は、根抵当権の債務者が亡くなったことにより、相続による手続きです。
被相続人の債務を相続人が相続した事実を登記に反映させる手続きです。
最後に指定債務者合意の登記とは、根抵当不動産の相続人と根抵当権者との合意により、指定債務者が登記されるということです。
根抵当権の債務者変更の際の手続き
債務者変更登記を行う際には、遺産分割協議により債務を引き継ぐ人を確定させます。
被相続人から債務を引き継ぐ人、すなわち指定債務者に引継ぎをすることになります。根抵当権の設定登記の手続きに要する書類は下記です。
- 登記原因証明情報(根抵当権設定契約書)
- 登記済権利証又は登記識別情報
- 根抵当権設定者(不動産所有者)の印鑑証明書 ・ 委任状(実印を押印)
- 根抵当権者(銀行など金融機関)の資格証明書(発行日より3ヶ月以内のもの)
- 根抵当権者の委任状(司法書士等へ依頼する場合)
事前にみっちりと準備をし、不備のないようにしましょう。
根抵当権を持つ場合は生前に対策を考えておくべき
被相続人が亡くなってから根抵当権のある不動産を相続人の間で処理をするのは、大変なことです。根抵当権のある物件は売買するのに任意売却で売ることになり、使い勝手という面ではあまりよくありません。
根抵当権の抹消をしてもらう必要があることはさることながら、全ての債権者の合意がなければ根抵当権がある不動産を売ることは適わないのです。
さらに、根抵当権がある物件とはいえ、不動産であることに変わりはないので、相続の際に相続人の間で骨肉の争いになるということも十二分に想定ができます。
そのような事態を避けるためにも、自らが残した財産は生前にクリアにしておくことが大切です。
根抵当権は早めの対策が必要
根抵当権のデメリットとして一度締結してしまうと、抹消するのに手間がかかってしまうということがあります。
そのために早めの対策が必要です。抹消する場合も、相続をしても根抵当権を残し続けたい、活かしておきたいと考える場合にも時間と手間を要します。いざ抹消したいと考えた時に後手を踏まないように早期対策をすることは肝要です。
また、根抵当権を残したいと考えている場合も同様です。
被相続人の没後、6ヶ月以内に諸手続きをするという具体的な期日もありますから、いずれかの方法を考えている時は早めの対策が重要です。
根抵当権を解消したい時にするべきこと
お金を貸し付けている金融機関目線では、根抵当権を抹消されるということは融資先を一つ失うことを意味します。
そのため根抵当権を抹消することを金融機関が快諾するケースは稀であると考えていいです。
もし、根抵当権を解消したいと考えているなら、金融機関との交渉を根気よく続ける必要があります。交渉のスタートラインに立つためには、まず根抵当権によって借りている金額を全て完済する必要があります。
完済することが達成できてからが、長丁場になる可能性があるということを念頭に入れておきましょう。
専門家に相談する
根抵当権について悩んでしまったときは、専門家に相談するという選択肢があります。
専門家は司法書士や税理士がおすすめです。当事者だけで問題を解決せず、専門知識がある第三者の司法書士や税理士なら、安心して相談することができます。初めての相談であれば、無料で相談に乗ってくれる司法書士事務所、税理士事務所がほとんどです。
まとめ
根抵当権と聞いて難しく感じていた方も、根抵当権の概要や輪郭を掴めたことでしょう。
根抵当権は、企業や事業を大きくしようと考えている方に向いている抵当権の一種だということがお伝えできたことと思います。
根抵当権に限らず、他の法律用語でも知識がないことが、ただでさえわかりにくい法律をややこしくしてしまう原因なのです。情報や知識を溜め込む必要はありませんが、最低限の知識があれば、理解も深まります。
普通抵当権と根抵当権の違いをよく理解した上で、どちらが有用なケースなのかという判断をしっかりとする必要があります。