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【相続の基礎知識 】
相続について基礎知識を説明しています。相続とは、相続の手続き、生前にできる相続対策など、相続について知っておくべき情報をまとめています。

2019年6月17日 月曜日

ペーパーカンパニーで相続対策はできる?

みなさんは「ペーパーカンパニー」という言葉を聞いたことはありますか?

この記事では、相続対策にこのペーパーカンパニーが活用できるのかどうかを検証していきたいと思います。

また、その他に活用できる相続税対策の方法もいくつかご紹介していきます。

 

ペーパーカンパニーとは

一般的にはペーパーカンパニーとは、設立はされているものの、事業の実態がない会社のことを指します。

ペーパーという名が付いているのは、白紙のように事業が無いことからきています。別名ダミー会社や幽霊会社とも呼ばれています。

 

ペーパーカンパニーでの相続対策はできる?

なぜ、わざわざペーパーカンパニーを設立する必要があるのでしょうか。これは主に節税対策が目的となっています。

まず、日本においては、個人の所得が高くなればなるほど税額が高くなる仕組みになっています。なんと、4000万円以上の所得がある方は、その半分近くの45%が課税されてしまいます。

一方で、個人ではなく法人の所得税と法人税を合算しても、この45%にまでは到底達せず、せいぜい20%前後となります。

 

つまり、一定の所得水準を超えた方に関しては、法人として税金を納めた方が払う税金の総額は安くなるのです。

 

また、通常の節税のみならず、会社を設立して資産を会社に移すことで、相続対策を行うことができます。代表的な手法として、賃貸経営の会社を設立する方法をご紹介しましょう。

 

現金資産を不動産に変え、その証券を会社保有とすることで、相続税を計算するための評価額を下げることができます。不動産の評価額は時価の70~80%程度です。不動産を自家用ではなく借家にすることで、評価額をさらに下げることができます。借家人が存在すれば建物の評価を借家権割合30%下げることができ、土地の部分は借家権割合に借地権割合(60~70%が相場)をかけた分だけ下げられます。

 

このように、会社設立によって理論上は相続税の対策が可能です。

しかし、実態がないペーパーカンパニーにはリスクも伴います。

 

しかし税務署に実態なしを判断されるリスクがある

現在日本には実態のない休眠会社が何万も存在しており、政府はこれらの会社を解散させる整理作業を行っています。

また、ペーパーカンパニーと取引していることで、節税ではなく、脱税と見られてしまっては元も子もありません。

自分達でははうまく実態があるように見せかけていたペーパーカンパニーでも、実態がないと税務署に判断されてしまった場合は、追加徴税されてしまうことがあります。

 

生前の相続対策には他の方法がある

会社を設立することで相続対策を行うことは理論上可能です。

しかし、会社経営の実態がなければ、税務署に租税回避行為と判断されて追加的に課税される可能性があります。会社経営に実態があるかないかの判断は、専門的知識が必要なので税理士に相談しましょう。

 

被相続人の生前に行うことができる相続対策には、他にもあります。

生前贈与は、被相続人の生前に少しずつ財産を相続人に贈与することで、相続が行われるときの財産を減らす方法です。一般的な贈与で相続財産を減らそうとする場合、税金を支払う必要がない贈与額には年間の上限枠がありますが、教育資金として贈与することで、この上限枠を外すことができます。教育資金贈与は、一括で多額の財産を贈与する合法的な手段です。

また、生命保険や死亡退職金は相続税を計算するときに、一定額が基礎控除とは別枠で控除されます。被相続人の現金などの財産を不動産に変えることで、相続するときに評価額を減らすことができます。さらに、養子縁組などにより法定相続人を増やすことで、相続するときの基礎控除額を増額できます。

相続税は財産すべてにかかるわけではありません。現金資産の一部をお墓や仏壇などの相続税がかからないかたちに変えることで相続税がかかる財産を減らすことができます。

世界には相続税がない国や日本より少ない国があります。そうした国に財産を移して一定期間以上移住すると、移した財産について日本の相続税の適用を免れます。

以下で、これらについて詳しく見ていきましょう。

 

生前贈与

被相続人が生きているうちに相続人に財産を贈与しておけば、相続財産が減るので相続税を減らすことができます。これが生前贈与です。

 

ただし、生前贈与には制限があります。

相続に対して相続税がかかるのと同様に、贈与にも贈与税がかかるからです。相続税が減額できた分、贈与税が課せられるのであれば無意味になってしまいます。贈与税の税率は相続税の税率と同じか、それ以上に大きいので注意しましょう。

 

しかし、生前贈与には贈与を受ける人ごとに年間110万円の基礎控除額が認められています。生前贈与の対象が3人いれば、年間330万円を贈与税を支払うことなく移転できます。基礎控除額を超えても、少額であれば贈与税の税率が相続するときに一括で支払う相続税の税率より低くなる可能性もあります。

 

この仕組み自体にも制限があるので注意が必要です。計画的に少額の贈与を行うと、一括贈与と同等とみなされ、一括贈与したものとして贈与税が課せられます。

また、相続開始前3年以内に贈与された財産については相続財産とみなされて相続税が課税されます。

 

教育資金贈与

一般的な贈与の基礎控除額は贈与を受ける人1人当たり年間110万円です。

しかし教育資金として贈与する場合は、例外的に1人当たり1,500万円まで非課税です。この制度で贈与の対象となるのは孫や子などの直系尊属です。子や孫にたいして1人当たり1,500万円まで非課税で贈与できます。

 

教育資金とみなす対象は2つあります。

1つ目は、学校教育法で定められた学校等に対する支払いです。ここには幼稚園、認定こども園、保育所、小学校から大学までが含まれます。

2つ目は、学校等以外でも社会通念上教育とみなされる支払いです。ここには学習塾やスポーツ文化芸術活動が含まれます。学校等に支払われる資金は1,500万円まで非課税ですが、それ以外については500万円までが非課税です。

 

この制度については、通常の生前贈与と異なり、相続開始前3年以内の贈与が相続税課税対象とみなされることはありません。

贈与を受ける子や孫は、30歳未満で前年の所得額が1,000万円以下でなければいけません。この法律の有効期限は2019年3月まででしたが、2021年3月までに延長されました。

生命保険

生命保険を使って納めるべき相続税を減らすことができます。

これが可能となる理由は、生命保険の受け取りに対しては相続税の基礎控除とは別に、法定相続人1人あたり500万円が相続財産から控除されるためです。

 

一般的な場合として、死亡保険を使った相続税対策を説明します。

死亡保険金は家族をなくした遺族の生活を支えるための保険金です。

夫、妻、子ども2人がいる家族で、夫が妻を受取人とする2,000万円死亡保険に加入していた場合を考えましょう。夫が死亡すると、妻は2,000万円の保険金を受け取ります。相続税の仕組みの上では、この2,000万円は「みなし相続財産」とされ、相続税の課税対象です。

しかし、みなし相続財産が死亡保険金や死亡退職金である場合、法定相続人1人当たり500万円が控除されます。いまの例であれば2,000万円のみなし相続財産から1,500万円が相続財産から控除されます。

 

生命保険には保険料を負担する人、保険を掛けられる人、保険金を受け取る人の3者がいます。3者の組み合わせによっては、相続税ではなく所得税や贈与税が課せられる場合もあるので注意が必要です。

 

不動産

被相続人が、所有している現金などの財産を不動産にすることで、相続税を減らすことができます。相続の際にさまざまな形で保有している財産は、現金として評価されます。不動産の評価額は、時価より低く評価されます。その結果、相続税の対象となる相続財産が低く評価され、相続税を減額することができます。

 

<土地や建物は時価より安く評価される>

土地の相続税評価額は、「路線価方式」か「倍率方式」と呼ばれる方法で計算されます。

路線価方式では、路線価に面積を乗じた金額を補正して計算します。

倍率方式では、固定資産税評価額に評価倍率を乗じて計算します。

建物の相続税評価額は、固定資産税評価額に一致します。計算のもととなる路線価と固定資産税評価額が時価より安いので結果的に不動産の価格が時価より安く評価されます。

 

<賃貸不動産の評価額はさらに安く評価される>

現金資産を不動産に変えるだけで相続税を節税できますが、賃貸不動産に変えた場合、自家用よりも評価額をさらに減らすことができます。

賃貸に出した不動産には、借り手にも一定の権利が発生します。これは借地権、借家権と呼ばれます。それぞれに借地権割合、借家権割合という倍率が設定されていて、それぞれの倍率分だけ不動産の評価額が減らされる仕組みです。

土地と賃貸物件を所有している場合、土地の評価額は自家用に比べて借地権割合(70%前後)、借家権割合(30%)賃貸割合(実際に貸している部屋の割合)を乗じた分低くなります。建物の評価額は借家権割合に賃貸割合を乗じた分だけ低くなります。

 

<小規模宅地等の特例を受けられる>

小規模宅地等の特例とは、被相続人が自家用居住地や貸付、その他の事業のために利用していた土地に適用されます。用途別に定められた一定以内の面積の土地に、相続税の評価額が通常より50%または80%減額される制度です。

この制度を使うと、被相続人が貸付事業のために200平方メートル以内の賃貸不動産を所有している場合、その土地の評価額が50%減額されることになります。

この制度を使うためには条件をクリアしたうえで手続きを行う必要があります。

 

養子縁組

相続税の基礎控除額は、

3,000万円+600万円×法定相続人の数

上記の式で計算されます。

養子縁組で法定相続人の数を増やせば、1人あたり600万円基礎控除額を増やすことができます。

養子縁組自体に制限はありませんが、この計算に算入される養子の数には上限があります。実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。この方法は相続税の節税にはなりますが、法定相続人が増えるので、相続人1人当たりの相続額は減ってしまいます。

 

お墓や仏壇

相続税は、すべての財産にかかるわけではありません。

墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など、日常礼拝をしている物には相続税がかかりません。ただし、骨董的価値などにより投資の対象となるものや、商品として所有しているものには相続税がかかります。

 

被相続人が生前にお墓や仏壇を購入しておけば、相続税を節税できます。相続後に相続人がお墓や仏壇を購入してもこの控除の対象にはならないので注意が必要です。ローンなどで未払い分があると、その分も控除されません。

 

海外移住

日本の相続税の最高税率は55%ですが、世界には相続税がかからない国や相続税が日本より少ない国があります。

お金持ちを呼び込むことで、ビジネスを活性化しようという戦略です。そうした国に移住して財産を移すと、移した財産に対して日本の相続税が課税されなくなります。

この方法には10年ルールと呼ばれる制限があります。

被相続人と相続人がともに海外の相続税がない国に10年以上居住すると、海外に移した資産は課税を免れます。

節税目的での日本人の移住先はシンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなどです。「10年ルール」は2017年(平成29年)まで「5年ルール」でしたが、富裕層を海外に逃さないようにするために強化されました。

 

まとめ

いかがでしたか?この記事ではペーパーカンパニーとはなにか、そしてペーパーカンパニーを設立することによる相続税対策についてご紹介しました。

理論上は会社設立によって相続税が節税できるものの、ペーパーカンパニーには実態がないため、リスクも伴うことがわかりました。

今回ご紹介した他の相続税対策方法を活用することで、相続に備えておきましょう。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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