この記事を読もうとしているあなたはとても勇気がある人です。
きっと「悪い事が起きた」状況の中で、それでも「相続という現実」を扱おうと立ち上がり、このページに辿り着いた事でしょう。
「遺産分割調停」というキーワードを見た人は、「悪い事が起きた」かのように思うかもしれません。
ですが、今回の記事で勇気あるあなたにお伝えしたいのは、遺産分割調停も、弁護士に相談するのも、「悪い」事ではないということです。
人間は誰もが必ず、何か「悪い事が起きた」ときには「自分の生存」を守ろうとします。
いつもはシンプルに判断できる事も普段の何倍もためらうのが人間であり、誰も抗えない潜在心理です。
「遺産相続のときに家族の本性が出た!」と聞く事がありますが、それはただの機械的・自動的な反応であって、その人の本性とは全く関係なく働いてしまう「潜在的な心理」なのです。
一連の相続手続きにおいて最もトラブルが発生しやすいイベントは、相続人の間で遺産の分割割合を話し合って決める遺産分割協議と言われています。
遺産の分割割合等をめぐり相続人の間で話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所で遺産分割調停に移行することになります。
今回の記事では、この遺産分割調停について遺産分割の基本からご説明していきます。
本稿をご覧になったうえで、できれば家族とは関係がなく、「ただ事実を整理して実行できる」弁護士にご相談することを、心からお勧めします。
遺産分割調停とは何か
遺産分割調停が発生するまで
遺産分割調停の提起は、遺産分割協議が上手く行かない、と遺族のどなたかが判断したときに行われます。
本稿では、相続が発生してから遺産分割調停に至るまでの過程についてご説明します。
遺産分割とは
被相続人が亡くなると、それと同時に被相続人の財産(遺産)について相続が発生します。
民法第898条によると、相続発生時の遺産は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」とあります。
相続発生時は、相続人が1名であれば遺産は一括して当該相続人が承継するだけですが、相続人が複数人いる場合はすべての遺産を相続人全員で相続し、全員がそれを共有している状態です。
しかし、この相続発生時の遺産の共有関係は一時的なもので、その後の遺産分割の話し合いによって最終的に決定されていきます。
土地や建物などの不動産だけではなく、預貯金や有価証券までもが全て相続人全員の共有となりますので、このような状態では、各相続人は自分の一存で遺産を有効に活用することが難しくなります。
したがって、共有状態にある遺産は例えば自宅不動産は配偶者、預貯金は相続人全員で均等に分けるなどというように、相続人それぞれの相続割合を決めてその割合に応じて分割し、それぞれの相続人に帰属させるようにしなければなりません。
これが「遺産分割」であり、遺産分割によって遺産の共有関係は消滅します。
遺産分割協議とは
遺産分割は民法第906条「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」とあるとおり、遺産の種類や各相続人の状況などに基づいて協議が行われます。
しかし、遺産分割は民法第907条第1項「共同相続人は、次条の規定(被相続人による遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる」とあるように、亡くなった人が遺言で指定した遺産分割の協議方法以外を禁止する場合、あるいは遺言の執行者が遺言の内容通りの協議方法以外を禁止する場合を除いては、原則的に相続人間同士での協議が行われ相続人全員の合意によって決定されるのです。
このように相続人の間で話し合い、誰が・何の遺産を・どの割合で相続するのがもっとも自然かを決めて合意することが「遺産分割協議」です。
相続人間の協議分割の場合、すなわち遺産分割協議の結果として民法の原則である法定相続割合と異なる分割割合あるいは被相続人の遺言とは異なる分割割合になったとしても、それが各相続人の自由な意思に基づく合意である限り有効です。
遺産分割協議は相続人全員の合意をもって成立します。
できれば、相続人全員が直接会って話し合うことが好ましい形でしょう。
しかし、相続人が各地に分散していて難しい場合は、全ての相続人に遺産分割の内容や各相続人の主張が明確にされていれば、参加できる相続人同士のみの協議も認められています。
逆に言えば、一人でも相続人の主張が明確でなければ、その協議は無効となります。
遺産分割協議が進まない場合の、遺産分割調停または遺産分割審判
遺産分割の方法は、遺産分割協議の他にも遺産分割調停と遺産分割審判を選ぶことができます。
相続人の間で遺産分割協議が調わない場合、協議内容や他の相続人の主張を不服とする相続人は民法第907条第2項「遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる」にあるとおり、家庭裁判所における調停または審判により定められることになるのです。
なお、遺産分割調停では審判の前の調停無しに審判や裁判に移行することも可能ですが、多くの遺産分割事案では審判の前に調停を行っているのが現状です。
遺産分割調停の流れ・申立て手順
遺産分割調停の流れ
遺産分割調停では、家庭裁判所が選出した調停員を介して…