いわゆる相続対策と総称されるものは、きわめて多種多様です。
しかし、その基本はきわめてシンプルであり、「遺産分割対策」「相続税の節税対策」「納税資金対策」の3つに集約されると言っても過言ではありません。
本記事では、総論として基本の上記3つ、および各論である具体的な相続対策についてもご紹介します。
相続とは
民法第882条では「相続は、死亡によって開始する」と規定されており、同じく民法第896条では「相続人は、相続開始の時から、被相続人(亡くなった人)の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りではない」とあります。
このことから、相続とは被相続人が亡くなったとき、相続人が被相続人の財産を引き継ぐことと定義されます。
あなたが先代から引き継ぎ大切に守ってきた財産、一代でこれまで築き上げてきた財産はいずれご親族など相続人の方々に引き継がれていくのです。
しかしながら、相続とは単純に財産を相続人に引き継げばよいというものではありません。
被相続人による無作為な相続は、その過程において相続人に各種のトラブルが付き物なのです。
大切な財産を相続人の方々にトラブル無く円滑に引き継ぐためには、ご自身の財産や相続人の状況に応じた適切な相続対策をしっかりと行うことが大切です。
遺産分割対策をする
円満な遺産分割にする方法
遺産分割とは、「どの財産を」「誰に」「どのくらい」相続するのかを決め、その通りに遺産を分け被相続人から名義等を変更することです。
遺産分割の方法は、大きく分けて3通りが考えられます。
- 被相続人が生前に遺言などで相続人や遺産分割割合などを定めておく方法
- 被相続人の死後、相続人の間で話し合って決める方法(遺産分割協議)
- 家庭裁判所による遺産分割調停または遺産分割審判で決める方法
財産を遺す身である被相続人としては、遺された親族間が調停や審判の場で争う上記(3)のような事態は避けたいことでしょう。
どんなに仲の良い親族であっても、上記(2)のような遺産分割協議という互いの利害が相反し合う場になると、これまでの良好な関係が壊れ、修復不可能なほどに争うことになって、結果として上記(3)のような好ましくない事態に陥ってしまうことが往々にしてあるのです。
したがって、上記(1)のように生前に遺言を書き被相続人の意思として相続人や遺産分割割合などを指定しておくことが、相続人間のトラブルを防ぐうえで最も有効な方法と考えられます。
遺言は相続割合や分割方法の指定について、強い法的拘束力を持ちます。
遺言の内容を実現することを託す遺言執行者を指定することも可能です。
また、遺言による被相続人の遺志であればそれに対して意義を唱える相続人は少ないと言われています。
仮に一部の相続人が遺言の内容に反対したとしても、遺言書は先述した法律に裏付けられた効力があることから、基本的に遺言を作成した被相続人の意向通りに遺産分割を行うことが可能なのです。
なお、遺言を書く際は必ず法定相続人の「遺留分」を侵害しないような分割割合とすることに注意してください。
法定相続人とは、民法で定められた被相続人の相続人となることができる相続人のことであり、被相続人の配偶者(内縁関係や愛人関係を除く)・子または孫・親・祖父母・兄弟姉妹が該当します。
法定相続人の原則的な遺産の取り分として「法定相続割合」が定められており、さらに最低限の取り分として定められた相続割合を遺留分といいます(ただし、兄弟姉妹には遺留分は認められていません)。
各相続人の遺産の分割割合について、この遺留分を下回るような指定をした遺言はただちに無効になるわけではありませんが、遺留分を侵害された相続人は侵害した他の相続人に対して「遺留分侵害請求(改正民法の施行後は遺留分侵害額請求)」をすることが認められています。
もし遺留分侵害請求を行っても相手方が応じない場合は、家庭裁判所で遺留分減殺調停、調停が不調の場合は遺留分減殺請求訴訟を提起することになります。
せっかく相続人が遺産の分割割合をめぐってトラブルにならないようにと願って遺言を遺したとしても、指定した分割割合が法的要件を満たしていないことで上記(3)と同じような状態で揉める結果になってしまうことがあるのです。
遺産分割は不動産がポイント
仮に残す財産が預貯金や上場株式、投資信託などの金融商品のみであれば、分割割合さえ決まれば相続発生後の分割は容易です。
預貯金であれば客観的な数字で分割できますし、金融商品も客観的な時価があるうえに直ちに売却して現金化することも可能です。…