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【相続事例・問題 】
相続時に発生する問題、トラブルについて、事例を交えて説明しています。相続において問題やトラブルが発生するのは珍しいことではありません。事例をもとに対策を知り、相続問題の解決にあたりましょう。

2019年6月21日 金曜日

相続において利益相反が起こってしまったときどうすればいい?

相続における「利益相反」をご存知でしょうか。

これは、遺産相続の際に起こりうるトラブルの1つです。

人の寿命はいつ尽きるか誰にもわかりませんが、自身の死後にどのようなトラブルが起こり得るかを知っておき、対策を立てることはできます。

特に遺産相続に関しては、早めに対策を立てることが推奨されています。

なぜなら、相続トラブルのほとんどが、想定していなかったことやミスが判明した瞬間が引き金となるからです。

この記事では、相続における利益相反や、トラブルを防ぐための対策、特別代理人の選定について、詳しく解説していきます。

 

相続時における利益相反とは

ここでは、利益相反について解説していきます。

また、利益相反を防ぐために、「法定相続人」「相続放棄」「遺言書」についても併せてご紹介しています。

利益相反のおそれがある場合は、法律に則った遺産相続を行うことによって、トラブルを回避することをおすすめします。

 

利益相反行為とは

相続時における利益相反とは、遺産分割協議の際に親権者と子の利益が相反してしまうことを言います。

利益相反が起こると、一方は利益を得て、他方は不利益を被ってしまいます。

親権者と子がともに法定相続人である場合、遺産分割協議を行います。

その際に、親権者が、子からすると不利益となる協議にしてしまうことを、「利益相反行為」と言います。

 

法定相続人とは

遺産相続をする際には、相続人を明確にする必要があります。

親族には幅があるため、相続人が曖昧である場合、遺産分割を行うことは不可能です。

この問題の解決策として、「法定相続人」が定められています。

即ち、法定相続人とは、「民法で定められた相続人」のことです。

 

被相続人の配偶者

被相続人(故人)に配偶者がいた場合は、配偶者が法定相続人として、遺産相続の権利があります。

ただし、配偶者は、法定相続人の中でも例外の立ち位置にあり、特に優先順位が定められているわけではありません。

配偶者は、「あらゆる場合において法定相続人である」という捉え方が適しています。

従って、法定相続人が配偶者以外にいなければ、遺産相続の権利は全て配偶者のものとなります。

仮に、配偶者以外にも相続人がいれば、配偶者とその相続人に遺産相続が分与されます。

 

法定相続人の優先順位①

第1順位の法定相続人は、被相続人の子です。

子が2人以上いる場合は、同順位の法定相続人となるため、法定相続分は人数に応じた計算となります。

被相続人に配偶者と子がいる場合は、両者が法定相続人となります。

その場合は、配偶者と子が2分の1ずつの法定相続分と定められています。

仮に配偶者と子が2人いる場合は、人数に応じて計算するため、それぞれの法定相続分は、配偶者が2分の1、子が4分の1ずつとなります。

 

法定相続人の優先順位②

第2順位の法定相続人は、被相続人の親です。

被相続人に子や孫がいない場合は、被相続人の親が遺産相続の権利を得ます。

従って、この場合は、被相続人の配偶者と親が法定相続人です。

他に遺産相続の権利がある人がいなければ、親のみに全ての遺産を受け取ることとなります。

親が2人いる場合は、半分ずつとなります。

さらに、配偶者もいる場合のそれぞれの法定相続分は、配偶者が3分の2、親が6分の1ずつとなります。

 

法定相続人の優先順位③

第3順位の法定相続人は、被相続人の兄弟姉妹です。

被相続人に近しい法定相続人がいない場合は、兄弟姉妹のみが相続の対象となります。

兄弟姉妹が2人以上いる場合は、子の場合と同様に、人数に応じて計算します。

被相続者に配偶者がおり、兄弟姉妹にも遺産相続の権利がある場合は、配偶者が4分の3を、兄弟姉妹は4分の1の遺産を分与されます。

 

相続放棄

相続放棄とは、一切の遺産相続を行わずに放棄することを意味します。

被相続人に借金がある場合に利用されますが、相続放棄では、借金のみならず、他の財産を相続する権利も失うことになります。

即ち、預貯金や不動産等のプラスの資産も、借金や未払い金等の負債も、全て相続しないことを意味します。

被相続人の借金が多額の場合は、相続放棄が推奨されます。

また、親族間でのトラブルを避けるために相続放棄をする人も少なくありません。

 

遺言書がある場合①

人が亡くなった際は、原則として法定相続分に則って、遺産相続の権利がある人たちに遺産を分与しますが、遺言書がある場合は遺言の分配に従う必要があります。

遺言書は、被相続者の最終の意思表示のため、法定相続よりも効力を持ちます。

被相続人に配偶者と子供2人がいた場合、配偶者が2分の1、子供が4分の1ずつの分与となりますが、遺言の条件次第で、配偶者と子供の分与の割合を変えることも可能です。

 

遺言書がある場合②

遺言書によって、法定相続人の対象ではない人に対しても、遺産相続をすることができます。

例として、相続権を持たない孫や、血の繋がりが無い愛人やお世話になった人等に遺産を分与することが可能になります。

遺言書があれば、法定相続人が多い場合や複雑な場合のトラブル対策になることに加えて、被相続者が比較的自由に遺産を分与できるメリットがあります。

 

遺言書の作成

遺言書には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの形式があります。

それぞれメリットとデメリットがあるため、後々、遺族間でトラブルにならないように正しい知識を身につけ、自分の利用しやすいものを選択しましょう。

遺言書は要式行為のため、曖昧な知識で作成すると、無効になることもあります。

遺言書の作成に関して疑問点や不安点がある場合は、弁護士や司法書士等の専門家に相談をしましょう。

 

遺言書の注意点

遺言書は、法定相続人や法定相続分を自由に設定できるとは言っても、遺産分与を無制限に変更することは認められていません。

配偶者や子は、定められた範囲内の法定相続人に値し、「遺留分」という権利を持つためです。

遺留分とは、当該法定相続人に認められる「最低限の遺産取得分」を意味します。

遺言書によって、法定相続人に対する遺産分与を0にしたとしても、法定相続人は、遺留分の割合の範囲内で取り戻し請求ができます。

何らかの理由で法定相続人に遺産分与したくない場合は、早い段階で弁護士や司法書士等の専門家に相談する必要があります。

 

利益相反行為と判断されるケース

ここでは、利益相反行為に当てはまる行為に加えて、当てはまらない行為についても具体的に解説していきます。

また、利益相反が起こってしまう場合・起こらない場合の両方を兼ねた具体例を1つご紹介しています。

 

利益相反行為に当てはまる行為6つ

利益相反行為に当たる行為は、6つあります。

①夫が死亡した際に、妻と未成年者で遺産分割協議を実施する行為

②複数の未成年者(故人に複数の子がいる場合)の法定代理人として遺産分割協議を実施する行為

③親権者の担保として、未成年者が所有する不動産に抵当権・根抵当権を設定する行為

④相続人である母や父が未成年者のみの相続放棄の申述をする行為

⑤未成年者の一部の者のみ(複数の子の中から選定する等)相続放棄の申述をする行為

⑥後見人が15歳未満の被後見人と養子縁組をする行為

 

利益相反に当たらない行為

親子間において利益相反に当たらない例もあります。

①親から子へ贈与する

この場合、親が一方的に損をするため、利益相反とはなりません。

②親と子が一緒に相続放棄をする

親と子がともに相続放棄する際は、利益相反にならないため、特別代理人を立てる必要もなくなります。

③親が代理で子の不動産に子が債務者の抵当権を設定する

この場合、子が自分の不動産を担保にして自ら借金を負うことになります。

親は代理で手続きをしたのみとみなされ、子と親が取引をしたことにはなりません。

④親と子、共有の不動産を第三者に売る

この場合も、③と同じで、子が取引する相手が親ではなく、第三者となります。

従って、利益相反に当たりません。

 

具体的な例:相続税対策として孫が祖父母の養子となったケース

未成年である孫が父方の祖父母の養子となり、祖父が亡くなった場合、孫が法定相続人となります。

同時に、祖父の子である孫の父親も法定相続人となるため、遺産分割に際して父と子で利益相反が起こります。

ただし、親権者が相続人でなく、子の代理として遺産分割を行う場合は、利益相反は起こりません。

この例では、祖父母の養子となった子の親権者である母親は、祖父の法定相続人とはなりません。

従って、母が子を代理して遺産分割を行うことはできます。

即ち、法定相続人が1人である場合や、親権者が当該法定相続人でなく、代理として遺産分割を行う場合は、利益相反にはならないということです。

 

利益相反とならないための特別代理人とは

特別代理人とは、親権者や成年被後見人等の法定代理人と未成年者の利益が一致しない場合に、未成年者が不利益を被るのを防ぐために家庭裁判所に特別に選定してもらう代理人を指します。

相続の際に特別代理人が必要とされるのは、未成年者が法定相続人にあたる場合です。

しかし、未成年者が法定相続人の場合でも、特別代理人を必ず選任しなければならないわけではありません。

未成年者と親権者の間で、利害が一致しない場合のみ必要とされます。

 

特別代理人の選任申立の手順や特別代理人の資格とは

ここでは、特別代理人の選任申立の手順や資格について解説していきます。

申立に際して、必要なものや候補者を立てる場合の注意点、手続きの流れについてもご紹介しています。

 

特別代理人の選任申立に必要なもの

特別代理人の選任申立は、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判にて行います。

まず、「特別代理人選任申立書」を作成します(裁判所のHPからダウンロードできます)。

次に、「未成年者の戸籍謄本」「親権者または未成年後見人の戸籍謄本」「特別代理人の候補者の住民票」「遺産分割協議書案」等の書類を添えて当該家庭裁判所に提出します。

その際に、連絡用の郵便切手と800円分の収入印紙も準備しましょう。

 

特別代理人の候補者

特別代理人の選任申立に際して、特別代理人の候補者を立てられます。

例として、未成年者の叔父や叔母等の親族があげられます。

ただし、特別代理人の候補者は、利害関係が生じない人物に限られます。

候補者を立てなかった場合は、家庭裁判所が専門家の中から適当な人物を選任します。

 

特別代理人の候補者を立てる際の注意

特別代理人の候補を立てるに際して、未成年者の利益が害される可能性がないかを確認するために、「遺産分割協議書案」の提出が義務付けられています。

未成年者の法定相続分を遵守した遺産取得を認める内容であれば、特に差し障りなく候補者として認められます。

ただし、未成年者の遺産取得分が法定相続分よりも減少している場合は、家庭裁判所から特別代理人の選任を不認定とされるおそれがあります。

 

特別代理人選任手続きの一般的な流れ

特別代理人選任手続きの流れとして、まず、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判にて申し立てを行います。

次に、「書面照会」「参与員の聴き取り」「審問」等の審理が行われます。

次に、裁判官の判断である審判が下されます。

審判によって、選任するか否かを決定します。

最後に、審判書謄本(結果の連絡)が届いて、手続き完了となります。

なお、不服申し立てはできないため、注意が必要です。

一般的な手続きが完了する目安として、約1ヵ月を要するため、早めの準備をおすすめします。

 

特別代理人の資格

特別代理人になるために、専門的な資格は特に必要ありません。

未成年者と利害関係が生じない人物であれば、親族の中からでも候補者を立てられます。

一般的には、叔父や叔母が選任されますが、候補者が不在の場合は、家庭裁判所に任せるか、司法書士に依頼することも選択肢としてあげられます。

司法書士であれば、遺産分割協議が完了した後も、不動産や預貯金等の各種相続財産の名義変更手続きを一度に任せられます。

 

特別代理人を選任せずに利益相反行為をした場合

利益相反行為に当たる場合は、特別代理人を選任することが義務付けられています。

仮に、親権者や成年被後見人等が特別代理人を立てずに利益相反行為をしたら、勝手に代理して取引をしたという扱いとなります。

この行為は、「無権代理」と呼ばれます。

「無権代理」の場合、子は成人した際に、当該取引を有効にも無効にもできる権利を有します。

 

まとめ

この記事では、相続の際の利益相反について詳しく解説しました。

しかし、誰もが利益相反のために争いたいと願うわけではなく、多くの場合、ルールを知らなかったりミスのために起きたりします。

望まない利益相反を避けるために、特別代理人の選任や、規定の法定相続分に則った遺産相続が必要になりそうな方は、専門家と相談して完璧に対策しておくことをおすすめします。

この機会に、ご家族やご自身の遺産相続の方法について考えてみてはいかがでしょうか。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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