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【相続事例・問題 】
相続時に発生する問題、トラブルについて、事例を交えて説明しています。相続において問題やトラブルが発生するのは珍しいことではありません。事例をもとに対策を知り、相続問題の解決にあたりましょう。

2019年6月22日 土曜日

相続財産が他の相続人に使い込みされたら?使い込み問題への対処法

「相続財産が知らない間に使い込まれている」という相続トラブルは、実はよくあるケースです。

使い込んだとしても何事も無く、誰も知らないまま相続が実行されてしまうこともあります。

そして、相続実行後に何らかの理由で財産の使い込みが発覚したとしても、指摘しにくい場合もあるかもしれませんし、同居や介護、その他の理由で、確かに正当性もあるかもしれません。

しかし、大切な人を亡くした時、知らされていない事実に冷静に対処できる可能性は極めて低く、対処にミスがあると、相続トラブルへと発展します。

相続財産の使い込みに対しては、どのように対処すればトラブルを回避できるのでしょう。

この記事では、相続財産の「使い込み」が発覚した場合の対処法について解説します。

 

相続時に使い込みが発覚することがある!

遺産分割協議に入ったときに「あれ?預金がこれだけ?」、または「株や債権があったはずだけど」、もしくは「○○の土地の権利書は?」と、相続人達が期待していたほどの財産が残っていなかった時、相続財産を無断で使い込んだ可能性が浮上します。

被相続人の財産を管理していた同居家族や、被相続人の家をよく訪れていた人に疑惑の目を向けてしまう気持ちも仕方がないかもしれません。

被相続人の同居家族は、「療養費や介護費用等に必要だった」と主張することもあるでしょう。

使い込みが発生するいくつかの事例を見ていきます。

 

故意ではないが使い込みと判断された事例

認知症が始まってしまっていた被相続人が、譲る約束をした財産が相続時には存在しなかったケースです。

生前に娘の子供(孫)の学費のために、被相続人が娘に不動産を売却さあて利益を渡したことを他の親族の誰も知らなかったとします。

不動産を売却したことを被相続人が忘れてしまって、死ぬ前に、同居家族の長男に介護の御礼に売却済の不動産を譲る約束を重ねてしてしまった、とします。

不動産を売却した娘からすると、親の許可を得て、親の不動産の売却を代理で手続きしたに過ぎないので、脱税や使い込みの意識が無かったでしょう。

しかし、長男からすると、親から相続するはずだった不動産を無断で使い込んだと思ってしまうのも仕方ありません。

さらに、被相続人が遺言書を残していなければ、不動産の相続の意志を証明する術もありません。

例え故意ではなくとも、使い込みであると状況判断された場合、望まないトラブルが起こる可能性は非常に高くなります。

親が病気や認知症で、正常な判断ができない状況にある場合は、娘は財産の処分について親族全員に相談するべきでした。

同様に、親の介護のためにどうしても必要なお金も、相続トラブルを防ぐために相続人となり得る人たちの許可が必要となります。

その手続きを経ずして、勝手に行動を起こしては、よほどの証拠がない限り、後でトラブルの原因になります。

 

自分が受取人の生命保険を解約した事例

生命保険に関するお金も、使い込みと判断されてしまう可能性があるケースです

受取人が長男となっている生命保険の掛け金を、親の年金では足りないため、同居家族の長男が払っていたとしします。

その掛け金の支払いも難しくなり、親の生命保険を相談なく解約して受取人としてして利益を得た時に、使い込みとして判断されます。

なぜなら、死亡保険金を相続するはずだった、他の法定相続人に不利益をもたらすためです。

保険料が親の収入で払えないなら、そのことを他の相続人、保険の担当者と相談するべきでした。

その解約払戻金が介護費用として必要だったと主張しても、使い込みのトラブルと発展してしまいます。

このように、使い込みの範囲は、預貯金だけで無く、不動産や生命保険・医療保険等の解約による払戻金、株や不動産による賃料、年金等、被相続人名義のあらゆる財産に及びます。

その使い道が、たとえ介護・療養費用だったとしても、「使い込み」だと一旦疑われては、トラブルを防ぐのは難しいでしょう。

 

しかし、上記のような使い込みに関する相続問題は、遺産分割協議についてのトラブルを解決する場所である調停(遺産分割調停)では解決できない問題となります。

まずは相続財産を明確にした上で、相続人同士での遺産分割協議が必要です。

 

相続財産が他の相続人に使い込みされたときの対処法

相続人が使い込みをしたと判断された場合、使い込まれたのは被相続人の財産です。

つまり、使い込みをされた被害者は被相続人であり、失った財産を財産を取り戻す権利を有しています。

この「不当利得返還請求」あるいは「不法行為による損害賠償」の権利は、相続人にそのまま相続されます。

 

不当利得返還請求

不当利得返還請求とは、使い込みをした相続人(受益者)に、不当に受けた利益(不当利得)の返還を請求できる権利です。

被相続人の財産を無断で使い込んでしまった場合は窃盗となります。

ただし、被相続人の財産を生前から管理していた相続人は、その信頼を裏切ったのですから、横領となります。

どちらにしても、刑事で立件できる事件ではなく民事の裁判となり、民法第703条の不当利得返還請求が可能となります。

民法第703条 不当利得の返還義務
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

被相続人のためにお金を使ったことを証明できる証拠がなければ、たとえ被相続人のために使ったお金だと主張しても、民事裁判の判決内容に従うことになります。

使い込みに初めから悪意(意図的)があったと判断された場合は、使い込んだ金額の5%の利子も請求することができます。

ただし、使い込んだ人を相続人全員で訴えるなら全額返還を求められますが、使い込みの返還を求めている人が全員でない場合は、原告側の相続分の範囲内で不当利得返還請求権が行使できることになります。

不当利得返還請求権を行使できるのは、不当利得をした人がその行為をした時から10年以内となります。

 

損害賠償請求

「故意」「過失」によって生じた不法行為には、「相続財産の使い込み」も含まれます。

しかし、不法行為による損害賠償についての「故意」「過失」の存在を訴えた相続人が証明しなければなりません。

民法第709条 不法行為による損害賠償
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

「故意」「過失」の存在の証明は、非常に難しいもので、裁判も長引きます。

まず「故意」「過失」について解説します。

「故意のある使い込み」とは、違法だとわかっていて、積極的に(わざと)行った使い込みとなります。

例えば、被相続人の財産を、「黙って使い込んでしまおう」としたという積極的な意思を証明しなければならないのです。

同居の親族にこの故意を客観的な証拠を持って証明するのは、非常に難しいものです。

「絶対に故意だ」と思っても、その証拠はなかなか掴めないものです。

一般的に、相続関係で無い裁判のケースでは、債務不履行や物権的な損害賠償の請求権も同時に発生していることが多く、それらの事実を証明して不法行為も合わせて立証した方が簡単だとされています。

債務不履行や物権的な損害を負わせた事実そのものが、不法行為の存在を立証するからです。

使い込みの場合も同様に考えられます。

不法利得損害賠償と不法行為による損害賠償を抱き合わせて訴えることができます。

不法利得その者が立証された場合、それがそのまま不法行為となるからです。

ただし、不法行為による損害賠償請求権は、その事実を知ってから3年と時効の期間が短いので、その点を確認しましょう。

 

相続財産の使い込みに気付くためのポイント

銀行口座の引き出しの履歴を確認

相続財産の分割協議を始める前に、銀行等の口座の入出金明細を確認するようにしましょう。

被相続人の預貯金の通帳を管理していた者が、被相続人の遺産分割協議をする前に口座から預貯金をこっそりと引き出していることもあります。

被相続人が亡くなった後、口座凍結までの間の引き出しには注意が必要です。

 

被相続人が生前のときの引き出しでもタイミングや金額次第では疑問が

被相続人の預貯金について、被相続人が生きていた間の入出金についても、被相続人が入院して意識不明になった後の引き出しや、被相続人が認知症になった後からの引き出し等、その入出金のタイミングについても注意が必要です。

出金だけで無く、入金についても注意することが必要な理由について触れておきます。

被相続人が生前、入院した後、突然まとまった金額がATMから入金された場合も、被相続人で無い誰かは、何のためにその金額を入金したのか、もしかしたら、使い込んだお金を一部返金した可能性も考えられます。

あるいは、借りていたお金の返済かもしれません。

これらの入金の場合、被相続人からの借用の有無の確認と、全額返済されているかどうかの確認が必要となります。

 

相続財産の使い込みを未然に防ぐには

被相続人の預金や不動産や生命保険等の財産を管理する者は、それらの収支を明確にする必要があります。

生前の被相続人に代わって、財産を一手に管理する人には、預貯金の場合は、入出金明細をいつでもオープンにできるように、親族で話し合ってルールを決めておく必要があります。

何にいくら使ったかをわかりやすいよう、領収証等もしっかりととって整理して、家計簿のように、お金の流れが詳細にわかるように記録し、いつでも親族に公開できるようにしておきましょう。

本人が高齢で難しい場合は、税理士にお願いしておくのも有効です。

税理士は収支に関するあらゆる数字を抜け漏れなく確実に明記し、財産目録の作成もサポートしてくれるので財産の使い込みは可能性が0になります。

また、被相続人が自分で財産を管理していた場合は、お亡くなりになったときに素早く預貯金を凍結してしまう等の手続きも必要です。

同居家族や財産を管理していた者が、被相続人の預貯金等を見せてくれないような場合は、法定相続人である事を戸籍等で証明して、金融機関に預貯金について開示してもらうこともできます。

成年後見人でも無いのに、不動産等の名義変更が行われていた場合も、法務局で調べればすぐにわかります。

高齢化社会のため、法定相続人が高齢である事もあって、このような調査を自分でできない場合は、法定相続人本人か、その家族が弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士は弁護士の権限で、一定の情報開示請求をすることが弁護士法で認められていますので、スムーズな調査が可能な上、その後の対策も含めて親身にトラブル解決へとサポートしてくれるでしょう。

 

まとめ

使い込みの財産について、預貯金や不動産を中心に解説してきましたが、使い込みは、あらゆる相続財産に及びます。

自分の死後、大切な家族が些細なミスから使い込み問題のトラブルに対応することを望む人はいないでしょう。

自分の死後にこのような相続トラブルを望まない人は、生前から税理士、弁護士、司法書士などの専門家と一緒に財産目録と遺言書を作成しておくことを心からお勧めします。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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