2019年5月22日 水曜日
遺産相続でもめる原因とは?トラブルが起きやすい状況と対処法
人生で何回かは発生する遺産相続は、私たちの「自分を守ろう」とする部分が強く出てしまう場面の一つでしょう。
実際、遺産を受け取る相続人たちの間で遺産分割の意見が割れてしまうケースが多くあります。
割れてしまった場合、遺産相続に対する経験不足から対処法が分からずに、遺産相続が長引いてしまったり相続人たちの関係が悪くなる揉め事へ発展します。
遺産相続のトラブルを回避できる最も大切なコツは、「自分が正しい」よりも「明確な現実」を優先する以外ありません。
つまり、基本的に利害関係のない専門家へ依頼することが一番の近道ですが、専門家への報酬を支払うのが厳しい方もいるかもしれません。
この記事では、遺産相続で多く見られるトラブルの原因と対処法をご紹介します。
目次
遺産相続でトラブル多発
遺産相続の際に発生するトラブルの件数は、年々増え続けています。
増え続けているトラブルの内容は様々です。
例えば、
- 長男が相続財産を独占する
- 生前の親の介護問題を引き合いに遺産相続の分割でトラブルになる
- 相続時に判明した離婚相手の子供の存在
- 遺産相続が不動産のため、相続人の間で分割が難しい
遺産相続をする時に発生するトラブルは複数あります。
また、家庭内で遺産相続が発生する機会は少なく、経験不足からトラブルが起こりやすくもなっています。
一般家庭でも起きる
5000万以上の遺産総額の相続では、事前に相続対策が完璧になされている事が多く、専門家に話を通したりして、生前から対策を立てています。
しかし、5000万円以下の遺産総額の一般家庭の多くは、生前の対策がない中で始まってしまった遺産相続でトラブルが起こる事例が多くあります。
遺産相続の際に発生したトラブルは、裁判所に持ち込まれて「遺産分割事件」と呼ばれます。
遺産分割事件は、全体の8割ほどが5000万円以下の遺産総額が原因で発生しています。
その中でも、特に揉めているのが2000万円以下の遺産総額の遺産分割事件ですが、全体の3割ほどが1000万以下の遺産総額で遺産分割事件が発生しています。
相続でのトラブル、よくある原因とは?
遺産相続のトラブル、特によくある原因は3つあります。
- 相続される財産の種類、内容が不明
- 相続財産の多くが不動産で、預貯金を上回っている
- 遺言書の内容に、相続人の1人に財産を集中させて遺留分を侵害した
この他にも様々な原因で、トラブルが発生する事も多くあります。
財産が把握できない
遺産される財産が把握出来ていない場合、遺産分割を終わらせる事が難しくなります。
相続財産が不明のまま遺産分割を行おうとすると、相続人同士で「他にも財産があるんじゃないか?」と疑問と不信を持ち、トラブルが起こってしまいます。
相続人同士のトラブル以外でも、被相続人が生前に大きな借金をしていて、相続財産を上回っていると、相続人に借金を残す事になってしまいます。
財産に不動産が含まれる
相続財産に不動産が含まれている場合、様々なトラブルが発生する可能性があります。
不動産は現金とは違い、遺産相続の際にわかりやすく平等に分ける事が難しく、相続人たちの感情・不満が入り込むとさらに協議は困難になります。
相続する不動産の平等分割が難しく、相続人同士の共有分割でひとまず解決させてしまうと、後々のトラブルに繋がります。
相続人同士の共有分割は、相続人の誰かが亡くなってしまうと、その子供たちが新たに不動産の共有者になり、時間の経過とともに増え続けてしまいます。
相続した不動産を売却せず空き家や空き地にしてしまった場合も注意が必要です。
空家の場合、管理が届かず建物の老朽化が進み、建物の倒壊や下水の匂いやネズミの侵入によって、周辺への悪影響が起こります。
また、空き家にも税金の支払いが必要になり、生活費用が大きくなってしまいます。
空き地の場合、土地の中に木が植えてあり、年月の経過や台風によって倒れて隣地の車などの所有物を破壊する可能性があります。
もし、隣地の所有物を破壊してしまった場合、土地の所有者が損害賠償責任を負うおそれがあります。
遺言の内容が遺留分を侵害している
遺産相続で使われる遺言書の内容に、相続人の1人へ相続する財産に偏りがあった場合、トラブルになる事があります。
トラブルの原因は、「遺留分」と呼ばれる制度にあります。
遺留分は、一部の相続人が最低限の遺産確保が出来る制度です。
遺留分によって、遺言に全ての財産を誰か1人に託すと書かれていても、「遺留分減殺請求」を出す事により、遺産の1部を確保する事が出来ます。
しかし、遺留分減殺請求が原因で、本来全財産を相続する予定だった相手と揉めてしまい、トラブルになる事があります。
その他によくある原因
相続トラブルは、被相続人の生前の行いが原因で見つかる事があります。
原因の1つは、「生前贈与」と呼ばれる、生きているうちに自分の財産を譲る事にあります。
生前贈与は被相続人がよかれと思った行動であっても、相続人個人に対して多く与えてしまうと、「特別受益」によって、遺産相続の際に生前贈与されてきた分、受け取れる相続財産を減らされてしまいます。
生前贈与と特別受益によって、相続人同士が険悪となり、トラブルに発展する事が多くあります。
別の原因は、被相続人が離婚と再婚をしていた場合に起きる可能性があるトラブルです。
被相続人が離婚した相手との間に子供がいた場合、その子供も相続人の権利があり、相続人の順位は普通の子供と同じです。
これにより、相続人の人数が増え、トラブルが起こりやすくなります。
相続トラブルを避けるために必要な備え
相続トラブルは、遺産相続が始まる前から対策を立てる事で、発生を防ぐ事と問題の解決が出来ます。
相続トラブルの対策で、生前の被相続人に出来る対策は、以下の4つです。
- 残される相続財産の内容を全部公開する。
- 不動産の分割方法を先に決めておく。
- 遺留分の事を記してある不備のない遺言を書く。
- 家族でコミュニケーションをとっておき、遺産相続の話をしておく。
財産をきちんと把握する
相続財産の内容を把握するには、調査が必要になります。
調査のやり方は、遺品整理をし、不動産の権利書や銀行の通帳や郵便物などを探して確認します。
その中でも郵便物は特に重要で、銀行、証券会社、保険会社、行政官庁などからの書類によって、相続財産を調べやすくなります。
また、請求書があれば、借金の存在がわかります。
相続財産を調査し終えたら、「財産目録」を作成します。
財産目録は、被相続人のプラスとマイナス全ての相続財産を記した書類になります。
また、財産目録は生前から作成ができます。
財産目録を作成しておけば、被相続人が亡くなった後、遺産の調査などは不要で遺産相続の手続きを進めることができます。
効果的な遺言を残す
遺言書は3種類に分かれており、自分で作成する「自筆証書遺言」、公証人に作成してもらう「公正証書遺言」、自分で作成した遺言書を公証役場で証明を付けてもらう「秘密証書遺言」があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
自筆証書遺言は、手数料が無く、誰でもすぐに作成出来ます。
また、他人に財産と遺産の内容を公表せずに自分1人で作成する事が出来ます。
デメリットは、遺言書の存在に相続人が気づかない恐れがあり、遺言書の様式に少しでも間違えがあると無効にされやすい事があります。
また、遺言書が偽造や変造をされても気づく人がいない恐れもあります。
公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらう事で、様式違いで遺言書が無効にされる事はありません。
作成された交渉証言遺言は、公証役場で保管されて偽造・変造と紛失の危険を防ぎます。
デメリットは、公証人に財産と遺産の内容の公表が必要です。
また、公証人に手数料を払う必要もあり、必要書類収集により時間と手間がかかります。
秘密証書遺言は、公証人に財産と遺産の公表をせずに、自分で書いた遺言書の存在を証明してもらえます。
デメリットは、遺言書の中身を公証人がチェックしないので、自筆証書遺言と同じく、様式ミスによって遺言書が無効になる恐れがあります。
生前から話し合っておく
相続人同士が争うトラブルを回避する為の大きな対策は、被相続人が生前のうちに相続人たちと現実を全て明確にして話し合う事です。
生前の話し合いの中で、被相続人が相続人たちに相続財産の振り分けと理由を話していれば、亡くなった後の遺産相続の際に揉める事を少なく出来ます。
また、遺言書の存在を事前に相続人たちに伝えられ、急な遺言書発見のトラブルを回避できます。
被相続人が間に立つ事で相続人同士の仲を取り持つ事ができ、遺産相続のトラブルを更に軽減することができます。
遺産分割調停とは
遺産分割調停は、相続人同士の話し合いで解決できない遺産分割に、裁判官と調停員を仲介人に加えて行う調停です。
相続人たちの話し合いに第三者が加わる形式となり、冷静な話し合いの元、相続人同士の遺産分割の合意を目指します。
1回の話し合いで相続人全員の合意を得る事ができれば調停は終わりますが、合意を得る事が出来なかった場合、別の日に再び調停となります。
大体の場合は1年間の間に1~5回まで行って解決が見込めます。
しかし、遺産分割調停の事例のいくつかに、調停期間が3年を超えて、調停回数が21回以上になり、解決まで長引いてしまった遺産分割調停もあります。
また、調停が行える期日は平日の日中のみで、夜間や土日祝日には行われません。
遺産分割調停は、相続人本人の出席が必要なので、遠方の地方に住んでいる相続人の交通費が重くなっていきます。
調停でも決着がつかないと裁判に
遺産分割調停を行っても話し合いがまとまらない場合、自動的に「遺産分割審判」に移行されます。
遺産分割審判は、家庭裁判所で行われ、裁判官が遺産分割方法を決める家事審判です。
遺産分割調停とは違い、相続人達が話し合う事は無く、相続人が提出した書類と家庭裁判所調査官が行った結果を元に、裁判官が遺産分割方法を決定します。
また、遺産分割審判は、裁判所で行われる通常の家事審判とは違い、調停を行わずに最初から申し立てる事ができます。
通常の家事審判は、「調停前置主義」によって、調停を行ってからではないと審判を進行できない原則があります。
遺産分割審判では、調停前置主義が採用されていない為、相続人が話し合いによる解決が難しいと判断した場合、最初から遺産分割審判を申し立てる事ができます。
しかし、裁判所の考えは、遺産分割は出来るだけ相続人同士の話し合いで解決する事を望んでいる事が多いです。
そのため、いきなり遺産分割審判の申し立てが来ても、裁判所の権限によって調停から始める事があります。
相続トラブルは多種多様、困ったら専門家に相談を
遺産相続で発生するトラブルの対処や解決が困難だった場合、専門家に相談する事で解決に近づけることができます。
相談できる専門家は、法律のプロであり遺産相続の際に大きな助けになる「弁護士」、相続財産の不動産の名義変更や相続放棄を行う際の必要書類作成代理を受け持ってくれる「司法書士」、税金の専門家で相続される財産の価値の評価と相続税の問題に対処してくれる「税理士」があります。
弁護士は、相続人とは違い、法律のプロとして遺産相続問題に立ち会った経験が多くあり、どのような相続問題でも関わることができます。
また、弁護士は相続人同士の遺産分割の話し合いの場に第三者として間に入ることができ、相続人たちが遺産分配の内容で揉める事を少なく出来ます。
司法書士は、相続される不動産を被相続人から相続人に名義変更する「名義変更登記」が出来ます。
相続放棄をする際に、家庭裁判所に相続放棄の手続きの申請が必要になりますが、相続放棄の書類作成を司法書士が代理で行ってくれます。
また、司法書士に遺言書の作成と「遺言執行」を依頼することも出来ます。
遺言執行は、遺言を実現するために必要な「遺言実行者」になってもらう事です。遺言実行者がいる場合、相続人が何もせずとも、遺言書の内容通りに遺産分配が行いやすくなります。
税理士は、遺産相続で起こる「相続税申告」を代理で行うことが出来ます。
相続税申告は、残される遺産財産の種類と数によって納税額の計算が複雑になってしまう事があり、各種控除の利用によって納税額が大きく変動し、専門知識がないと難しいです。
相続税申告を税理士に依頼した場合、適切な控除を適用し、しっかりとした節税を行ってくれます。
また、相続税の計算が特に難しい不動産の価値を適切な評価で査定してくれます。
相続問題の内容によって、専門家を選んで相談することをオススメします。
まとめ
遺産相続で起こるトラブルの原因と対処法をご紹介しました。
遺産相続で起きるトラブルの件数は年々増えており、「自分たちは仲が良いから大丈夫」と考え、対策を立てずに遺産相続が始まった際に大きく揉めてしまう家庭が多いです。
たった一つの些細な事実が隠されているだけで、相続トラブルが長期に発展するケースがあります。
この記事で書かれたトラブルの予兆を少しでも感じられたら、専門家にご相談することを心からオススメします。
特に、遺産総額が少ない場合は、トラブルの長期化は多大なコストがかかるため絶対に個人での解決はオススメしません。
家族には話しづらいことも、利害関係のない専門家には話せるということもあるでしょう。
遺産相続で揉めない為にも、遺産を受け取る家族と残す人がそれぞれの事実を明確にした上で、想定される遺産相続のトラブルを未然に防ぎましょう。