すてきな相続は大切な方を亡くしたあとの手続・届出から、
知っているようで知らない「相続」に関する情報をわかりやすく解説します。

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行方不明の相続人がいる場合は「失踪宣告」が必要

相続の手続きをしようとしたとき、相続人の中にどうしても連絡が取れない行方不明者がいるケースは、実は相続の歴史の中では珍しくありません。

とはいえ、「失踪宣告」のことを知らない方は、大切な人を失った後に、金融機関や法務局等あらゆる機関で、行方不明者の消息を聞かれても答えられず、手続きが進まないことに動揺するでしょう。

また、失踪宣告の手続きは、相続人に戸籍上の死亡認定を確定するようなものです。

大切な人を亡くした後に、さらに家族の失踪宣告の手続きをことに前向きに取り組むことは、私たち人間にとって困難な作業と言えます。

しかも、警察に届けて探してもらったり、探偵に捜索依頼をする方法もありますが、それではいつ見つかるともしれません。

この記事では相続人の中に行方不明者がいる場合の対処方法を紹介しますが、弁護士や税理士にもご相談されることを心からお勧めします。

相続人が行方不明の場合どうする?

相続人が行方不明、その影響は?

冒頭で述べたように、法定相続人、あるいは遺言書の相続人の中に、行方不明者が一人でもいたら、手続きは停止してしまいます。

相続分割協議とその手続きには、全ての相続人の意思表示が必要だからです。

例え生きているか死んでいるかわからず、連絡先も不明で顔も知らないような人であっても、相続権がある以上、その人を除いて勝手に相続協議をして相続を実行することは許されないのです。

相続を進めるためには「失踪宣告」が必要

失踪宣告とは

先述したように、相続人の中に行方不明者がいた場合、相続手続きが止ります。

そこで、長い間連絡先が不明で、探す宛てもないような場合は、家庭裁判所に「失踪宣告」の申し立てをする事ができます。

家庭裁判所で失踪宣告が確定した場合、必要な書類を持って市区町村の役場で「失踪届」を提出すると、行方不明者の戸籍に「失踪宣告」による手続きがなされたことが記載され、死亡と同じ扱いになります。

いわば、戸籍上失踪宣告は「死亡」です。

そのため一旦失踪宣告による死亡扱いがなされると、全ての手続きが死亡した人と全く同じ扱いになります。

行方不明者は、失踪宣告が確定すると、死亡したとみなされる日、あるいは失踪宣告の確定日が、戸籍上の死亡日となるわけですから、まず、死亡保険金が受け取れますし、婚姻関係の解消も可能です。

死亡したので、失踪宣告が確定した本人の財産を相続することも可能です。

さらに、行方不明者は死亡したことになったのですから、停止していた相続手続きも開始できます。

失踪宣告ができる条件

民法30条「失踪宣告」の条文を紹介します。

民法30条 失踪の宣告

(普通失踪)

不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。

※不在者とは、従来の住所又は居所を去り,容易に戻る見込みのない者

※利害関係人とは、不在者の配偶者、法定相続人、財産管理人、その他遺産を受け継ぐ者、単なる債権者ではなく終身定期金の債権者等、その他裁判所が「利害関係人」と認める者。

(危難失踪)

戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。

失踪宣告には、上記の表からわかるように、普通失踪と危難失踪(「特別失踪」ともいう)の2種類ががあります。

行方不明の状態による条件

普通失踪とは、一般的な「行方不明」状態です。

サスペンスなんかでもよく出てくるので、知っている人も多いかと思いますが、行方不明の状態が7年を超えると、利害関係人は、家庭裁判所に戸籍等必要書類を提出して、失踪の申し立てをする事ができます。

一方、危難失踪の場合の「危難に遭遇した者」とは、以下の場合が当てはまります。

・ 船が沈没して捜索しても遺体が上がらず生死不明のまま行方がわからない…

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2019.4.4

相続人である兄弟が失踪した|遺産分割協議はどうなる?

例えば、父親が亡くなって、父親の財産があるが、父親の遺言書がない場合、法定相続人は、母親と2人の子ども(長男と長女がいると仮定)という状況を想像してみてください。

ご遺族の相続協議のときに、法定相続人のひとりである長男が長年失踪していた場合、遺産分割協議はどうなるのかご存知ですか?

失踪中の長男の所在が明らかではないので相続の手続きを進めることができないのでは、と思われた方は、ぜひこの記事をご覧ください。

法律は、ちゃんとそんな時のための対策を講じています。

この記事では、その方法を解説します。

相続人が行方不明なら「失踪宣告」が可能

失踪宣告とは

「失踪したまま所在が明らかでない夫を愛して、一生待ち続ける」という人生も、それはそれで良いと思います。

一方、夫を忘れて再婚して、新たな人生を歩くことも許されるでしょう。

しかし、夫が失踪した、という状態のままでは、離婚もできないので再婚もできません。

あるいは、行方不明の夫の財産をどうにもできず、子供が結婚して孫ができた後も、夫の行方や生死が明らかにならない限り夫の財産を処分できない!

または、父親が亡くなって、いざ相続手続きをしようとしたら、長男が行方不明!探す宛てもない長男が見つかるまで相続手続きは止まってしまう!

そして長男が見つからない場合、母親と長女が死んだら不動産などの財産を売却することもできず、やはり財産の相続も止まってしまう!!

そんな困った事にならないようにと、法律は対策案を講じています。

そもそも、日本の法律は、長い間権利関係が不明となることを嫌います。

その考え方が失踪者にも適用されます。

家庭裁判所は、一定期間行方の知れないまま帰ってくる見込みがない人に対して、裁判所の十分な調査と一定の催告後に、裁判所の職権で「失踪宣告」の決定を下すことで、その失踪者の死亡を確定させることができます。

戸籍上「失踪宣告」を明記される事で、死亡者として扱われ、相続等の手続きも可能となります。

しかし、家庭裁判所に申し立てれば自動的に「失踪宣告」が認められるわけではありません。

家庭裁判所に申し立てて、家庭裁判所の調査官がしっかりと調査し、「催告」します。

「催告」とは、裁判所の掲示板と官報に「失踪者本人」や「失踪者の生存を知っている人」に申し出るように呼びかける公告(「催告」という)を一定期間掲載します。

誰からも何の申し出もなければ、家庭裁判所が、失踪者を死亡したものとみなす「失踪宣告」の確定をするのです。

「失踪宣言」とは、今から失踪する意思のある人が、家族が心配したり警察に届け出たりしないように、あるいは、誘拐や事件に巻き込まれた被害者とならないように、自分の意志で家を出ることを明確に宣言する事を言います。

文字としては1文字違うだけの似た言葉ですが、「失踪宣言」と「失踪宣告」は、全く意味が違います。

「失踪宣言」は、法的な効力のない「家出宣言」のような物です。

「しばらく失踪しますが帰ってきますので心配しないで下さい。自殺したりする心配はありませんので、探さないで下さい」と書いて、署名するだけで、既に「失踪宣言」です。単なる家出の置き手紙ともいえます。

文字は似ていますが、「失踪宣告」は法的効力のある「死亡宣告」ですから混同しないようにしましょう。

失踪宣告の効果

家庭裁判所が下す「失踪宣告」は、失踪者死亡宣告を決定するものです。

しかし、死亡した時に、死亡診断書を添えて市区町村に死亡届を提出しなければならないように、失踪宣告も市区町村に届け出なければ効力を発揮しません。

失踪の届け出を市区町村の役所に受理してもらうためには、「失踪宣告の審判書謄本」と「失踪の確定証明書」が必要です。

審判所謄本は判決が下ればもらえますが、「失踪の確定証明書」は家庭裁判所への申請が必要です。

これが、死亡した時の死亡診断書の代わりになるのです。

家庭裁判所にそれらを交付してもらったら、それを市区町村に持参して、失踪届けを提出できます。

最後の住所地の市区町村で失踪届を提出することになりますので、詳しくは各市町村のHPをご覧になってみてください。

必要な書類(失踪宣告審判謄本と確定証明書)を添えて、失踪届提出すると、戸籍に「失踪宣告」がなされたことが記載されます。

戸籍等に「失踪宣告」された事が記載された時点で、戸籍上の死亡したものとみなされ、あらゆる手続きが死亡者と同じ扱いとなります。

失踪の種類と条件

2019.3.28

相続時に配偶者がもらえる相続分や支払う相続税とは

被相続人に配偶者がいた場合遺された夫または妻には、行わなければならない手続きがたくさんあります

そのうちのひとつが、相続税の申告です。

相続税の申告をする際に、配偶者は「配偶者の税額の軽減の制度」という制度(通称は相続税の配偶者控除)を利用することができます。

では、配偶者は相続税の配偶者控除を利用した場合、どのくらいの割合で財産を相続することができ、どのくらいの相続税を支払わなければならないのでしょうか?

配偶者が相続できる財産や相続税率をはじめ、特例である相続税の配偶者控除についても詳しくご紹介いたします

配偶者の相続割合

はどう決まる?

法定相続人と呼ばれる、被相続人と一定の関係がある相続人には、相続配分があらかじめ決められています。

そのうち、配偶者の相続割合は、下記の表のように誰と相続するかによって、その割合が違ってきます。

「法定相続人と相続配分について」

配偶者

子ども

父母、祖母(直系尊属)

兄弟姉妹

配偶者と子ども

2分の1

2分の1

配偶者と父母、祖父母(直系尊属)

3分の2

3分の1

配偶者と兄弟姉妹

4分の3

4分の1

上記の表を見てもわかるように、「配偶者と子どもで相続する場合」は、配偶者と子どもがそれぞれ2分の1ずつ相続します。

このとき、子どもが2分の1を相続するとなっていますが、2分の1を子どもの人数で割って相続することになるため、3人いれば、2分の1の相続分を3人分で割って相続します。…

2019.3.25

任意後見制度を活用した遺産相続方法

成年後見制度には、法定後見制度任意後見制度の2種類があります

法定後見制度は、成年被後見人(成年後見人を依頼する人)の判断能力が不十分になったときに選任します。

それに対して、任意後見制度は、成年被後見人の判断能力が十分あるうちに、誰に任意後見人を依頼し、どんなことを任意後見人に行ってもらうかを自由に決められるといった違いがあります。

それでは、任意後見制度の内容の詳細と任意後見制度を活用した遺産相続方法をご紹介いたします。

任意後見人制度とは

任意後見制度とは、判断能力が十分ある間に、任意後見人と任意後見契約を結び、成年被後見人が認知症などで十分な判断能力がなくなってしまった場合に、任意後見人にあらかじめ任意後見契約で決めておいた事務作業を行ってもらう制度のことをいいます

任意後見人と任意後見契約を結ぶためには、公証役場にて公証人に公正証書を作成してもらわなければなりません。

任意後見制度を利用するためには、成年被後見人と任意後見人と口約束などではその効力を発揮することはできないので、しっかりと公正証書を作成する必要があります

そのため、手続きの詳細や費用は、最寄りの公証役場に確認するようにしましょう。

相続前に任意後見制度を活用するべき理由

相続前に任意後見制度を活用するべき理由は、大きく分けて2つあります。

まず、1つ目の理由として、「任意後見契約を結ぶ際に、成年被後見人の意思を明確に示すことができること」が挙げられます。

相続に関して、希望がある場合は法定後見人制度を利用するよりも、任意後見制度でどのような対応をしたいかを決め、任意後見人と任意後見契約を結び、実行してもらう方がよいでしょう。

2つ目の理由としては、「相続時にすでに認知症などが始まってしまい、任意後見契約を行えなくなってしまう可能性があること」が挙げられます。

任意後見制度が利用できなくなってしまうと、成年後見制度を利用する際に法定後見制度を利用するしかなく、本人の希望が反映されないような相続が行われる可能性があります。

任意後見制度の申立て手続き

任意後見制度の申立て手続きをする場合には、まず、任意後見人を選び、承諾をもらわなければなりません

任意後見人を引き受けてもらえることが決まったら、任意後見契約を公正役場で公証人に公正証書として作成してもらいます。

任意後見契約を結ぶために必要な書類は下記の通りです。

※書類はすべて、発行後3ヶ月以内のものに限ります。

≪成年被後見人の場合≫

  • 印鑑登録証明書
2019.3.25

特別代理人を選任した未成年者の相続とは?

未成年者が相続人にいる場合は、未成年者単独で相続の手続きを行うことができません

そのため、法定代理人を立てるのですが、法定代理人が立てられないときには特別代理人を選任して、相続手続きを行う必要があります

また、成年後見人と成年被後見人との間に利害関係が生じる場合にも特別代理人の選任をしなければなりません。

では、特別代理人はどのように選任すればよいのでしょうか?

特別代理人の選任方法や手続きなど、詳しい情報とともにご紹介いたします。

特別代理人を選任した相続

特別代理人を選任して、相続をしなければならないことがあります。

特別代理人とはどんな存在であり、どのようなときに特別代理人が必要となるかについて詳しく見ていきましょう。

特別代理人とは

特別代理人とは、相続人が未成年である場合成年被後見人と成年後見人が同じ財産の相続人になった場合に裁判所で選任される代理人のことをいいます。

基本的に未成年者が財産の相続を行う場合には、親権者である父親または母親が法定代理人となりますが、父親または母親も相続人である場合、利益相反行為が生まれてしまいます。

そのため、親権者とは別に代理人を選任する必要が出てくるのです。

また、成年被後見人と成年後見人が同じ財産の相続人になった場合も利益相反行為が生まれるため、特別代理人を選任する必要があります。

 

特別代理人になるには、特別な資格は必要ありません

特別代理人に求められるものは、特別代理人として、しっかりと職務を全うすることです。

ですから、選任される場合には、利害関係の有無などによって、その人が特別代理人として適格であるかどうかを判断されます。

特別代理人が必要なケース

特別代理人が必要なケースは、相続人が未成年者であり、親権者である父親や母親といった親権者との間に、お互いの利益が相反する行為がある場合以外にも、さまざまなケースが考えられます。
たとえば、下記のようなケースが該当します。

  • 夫が死亡し、妻と未成年者で遺産分割協議をする行為
  • 複数の未成年者の法定代理人として遺産分割協議をする行為
  • 親権者の債務の担保のため、未成年者の所有する不動産に抵当権を設定する行為
  • 相続人である母(または父)が未成年者についてのみ相続放棄の申述をする行為
  • 同一の親権に服する未成年者の一部の者だけ相続放棄の申述をする行為
  • 後見人が15歳未満の被後見人と養子縁組する行為

(引用:http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_11/index.html)

上記のように、さまざまなケースで特別代理人は必要とされています。…

2019.3.25

相続時に使いたい成年後見制度の活用方法を解説!

なんらかの理由で、被相続人の判断能力が不十分になってしまった場合に、成年後見制度という制度を利用することができます。

成年後見制度は、制度を利用する人の判断能力の差によって、どのような保護や支援が受けられるかが細分化されており、後見人の持つ権限に違いがあります。

では、成年後見制度とは、一体どのような制度であり、相続時にどのように使うことができるのでしょうか?

成年後見制度の内容と活用方法について、詳しくご紹介いたします。

成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症をはじめ、知的障害や精神障害などの精神上の障害によって、判断能力が不十分な人の保護や支援をするための制度のことをいいます。

この保護や支援とは、財産の管理や遺産分割協議、療養看護、介護のための介護施設への入所契約の手続きなどを代理で行うことを指します。

成年後見制度の財産管理では、被相続人の財産の維持が目的であるため、自由に支出することが制限されてしまう場合があります

出費の目的が明確で、家庭裁判所で支出の許可が下りれば、大きな出費でも支出が認められます。

しかし、お祝い金などの支出においては、その範囲が限定されてしまい、支出が認められず、支出ができないことも十分あります。

そのため、成年後見人が財産を管理出来るようになる点については、メリットだけではなく、デメリットも少なからず生じると考えておきましょう。

成年後見制度を利用する場合には、成年被後見人(成年後見制度を利用する人)の財産がどのように今後管理されるのかをよく理解した上で、利用することが重要です。

また、成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2種類があります

≪法定後見制度について≫

法定後見制度には、判断能力をはじめとした本人の状態に合わせて「後見」「保佐」「補助」の3つに細分化されています。

「後見」の場合は、通常から判断能力の欠如が見られる人が対象になっており、「保佐」の場合は、判断能力が著しく不十分な人が対象になっています。

また、「補助」の場合は、判断能力が不十分な人が対象になっています。

それぞれ後見をする人を後見人、保佐する人を保佐人、補助をする人を補助人と呼びます。

後見の場合は、原則としてすべての法律行為に対して、同意または取消をすることか可能ですが、保佐の場合は、借金や相続の承認などを含む民法第13条1項に記載されている行為や申立てによって裁判所が定める行為において、同意または取消をすることができます。

また、補助の場合は、これら2つとは大きく異なり、申立てによって裁判所が定める行為のみ、同意または取消ができるとされています。

そして、後見の場合は、原則としてすべての法律行為を代理することができるのに対し、保佐と補助の場合は、申立てによって裁判所が定める行為しか代理することはできません

また、本人の居住用不動産の処分においては、いずれの場合も家庭裁判所の許可が必要です。

≪任意後見制度について≫

2019.2.25

相続の基礎知識、相続人の遺留分とは

一般的に法定相続割合については認知度が高いようですが、「遺留分(いりゅうぶん)」という相続人であれば誰でも持つ権利については知らない人も多いのではないでしょうか。

この遺留分という制度について知識が無いまま不用意な遺産分割が行われてしまった場合、相続人は後述する遺留分減殺請求を行使する権利、あるいは当該権利を行使されるケースも考えられ、場合によっては裁判の被告人となることも想定されます

遺留分とは、それだけ相続の場ではデリケートなテーマなのです。

これを踏まえ、本コンテンツでは相続において最低限知っておいていただきたい遺留分の知識について、その根拠である民法の条文を交えて解説していきます。

遺留分とは

民法第900条では法定相続人の原則的な遺産の取り分として「法定相続割合」が定められており、さらに各法定相続人の最低限の取り分として定められた相続割合を「遺留分」といいます。

この遺留分を侵害された相続人は、民法第1031条「遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条(相続開始1年前の贈与の規定)に規定する贈与の減殺を請求することができる」の規定に基づき、遺留分権利者として侵害した他の相続人に対して「遺留分侵害請求(改正民法の施行後は遺留分侵害額請求)」をすることが認められています。

遺留分が設けられている背景は、例えば遺産の分割割合について配偶者や小さい子どもがいるにも拘らず遺言などで全財産を愛人に譲るような指定をされると、遺された家族の生活に大きな支障が出てしまいます。

そのため、配偶者や子ども、父母など被相続人の収入や財産を頼りに生活していたと推定される人には、遺留分として最低限相続することができる財産の割合および請求権を保証しているのです

被相続人が遺言で指定した相続割合は、民法で定められた法定相続割合に優先して強い法的実効力を持ちます。

しかし、民法第902条「被相続人は、前二条(法定相続人および代襲相続人の相続分)の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない」にあるとおり、たとえ遺言であろうと遺留分の規定に反して遺産分割割合を指定することはできないのです

なお、遺留分減殺請求権は遺贈(遺言により遺産を相続させること)に限らず、被相続人による生前贈与にも適用されます。

仮に生前贈与が被相続人によって複数以上の人に行われており、それらが遺留分侵害に該当する場合は民法第1035「贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対してする」の規定にあるとおり、被相続人が亡くなった日に近い日時に行われた贈与分から順次減殺していくことになります。

また、遺留分減殺請求は侵害した相手が既に減殺の対象となる資産を第三者に譲渡していた場合でも、その権利を行使することが可能です。

民法第1040条第1項「減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる」とあります。

つまり、減殺請求を行うべき目的物が既に遺留分を侵害した相手に処分されていた場合でも、遺留分権利者は目的物の処分価額の範囲内で弁償を受ける権利を有するのです。

特に、相続財産のうち多くの割合を占める傾向のある不動産を目的物とする場合、侵害した相手は相続税納税資金確保のために早々に相続登記などを行い売却に動くことがあります。

当該不動産について仮に売買契約を締結・決済が終わっていたとしても、本条文を根拠に遺留分を侵害した相手に侵害分相当額を請求することが可能なのです。

なお、本条文は遺留分侵害の原因を「贈与」に限定しているように読めますが、遺贈についても類推適用されることは複数の判例で確認できます(最高裁判昭57.3.4、最高裁判平10.3.10)。

遺留分侵害請求権を行使するに際し、注意していただきたい点は主に以下のとおりです。

(1)遺留分減殺請求には時効がある

民法第1042条には、「減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする」とあります。

つまり、遺留分減殺請求権は相続および遺留分の侵害があったことを知ったときから1年、または相続発生後10年を過ぎると時効となり、請求の権利を行使することが認められなくなるのです

(2)遺留分減殺請求できる相手は侵害した当事者のみ

仮に相続人の兄が相続人の遺留分を侵害していたとします。

しかし、その兄は減殺請求を行った時点で侵害した遺留分を使い切っており無一文でした。…

2019.2.25

相続人がいない場合に必要な相続財産管理人とは

亡くなった人に身寄りがない場合、あるいは相続人全員が相続放棄をした場合は、民法に規定する「相続人不存在の規定」が適用されます。

亡くなった人の遺産は親族や利害関係者、あるいは検察官の申立てにより家庭裁判所より選任された「相続財産管理人」により債務の弁済などが行われ、余った遺産は最終的に国庫に帰属することになります。

相続財産管理人は一般の人にとって馴染みが薄く、実際に相続財産管理人が選任されるような相続は少ないようです。

しかし、もしあなたの身内が死亡して、その身内が多額の借金を残しており相続人全員が相続放棄した場合、親族として相続財産管理人の選任を申し立てることになります。

あるいは、亡くなった人と利害関係が無く希望する場合は、あなたが相続財産管理人になることもあり得るのです。

そのような事態に少しでも備えていただくため、本コンテンツでは相続財産管理人の概要についてご説明します。

相続財産管理人を選任する

相続財産管理人とは

相続は、人が亡くなると同時に発生しますよね。

そして、相続人は相続発生時に亡くなった人の財産に属した、一身専属以外の一切の権利義務を相続することになります。

しかし、亡くなった人の財産を引き継ぐ相続人がいないということも生じ得ます

すでに財産の所有者が死亡という形で不在であり、相続人も不在であるわけですから、当該財産を所有・管理する人が不在という異常な状態です。また、相続人がいないわけですから相続手続きを行う人がいないため、このままでは亡くなった人の財産の名義は未来永劫亡くなった人のままになってしまいます。

この場合、下記の民法第25条の規定により、家庭裁判所は亡くなった人の利害関係人や検察官の請求に基づいて亡くなった人の財産や債務を調査して目録を作成し、相続人などへの財産分与や利害関係人との清算手続きを行い、最終的に残余財産を国庫に帰属する手続きを行う人を選任します。

従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする

このように相続人がいない場合に亡くなった人の遺産の管理や処分などの手続きを行う人が、「相続財産管理人」です。

相続財産管理人を選任するケース

以下の場合は、相続財産管理人の選任が必要と考えられます。

  • 亡くなった人の戸籍謄本などによる調査の結果、身内に民法第887条、第889条および第890条で定められた法定相続人の地位にある人がいないと判明した場合、あるいは法定相続人の生死が不明の場合
  • 遺言がない場合、あったとしても家庭裁判所により無効とされた場合あるいは受遺が不明な場合
  • 相続人全員が相続放棄した場合
  • 亡くなった人の特別縁故者と推定される人がいる場合

相続財産管理人の役割

相続財産管理人の役割は、以下のように一連の相続人不存在の手続きの流れで見ていくとわかりやすいでしょう。

相続財産管理人選任の公告

先述のとおり、相続財産管理人は亡くなった人の利害関係者または検察官の申し立てにより家庭裁判所によって選任されます

ここでいう利害関係者とは、相続放棄した遺族や亡くなった人にお金を貸していた人、内縁の配偶者あるいは愛人などである場合が多いようです。

相続財産管理人が選定されると、民法第952条第2項「前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない」の規定に基づき、家庭裁判所は相続財産管理人を選任した旨を2ヶ月間にわたって官報などで公告します。

これは、相続人を捜すための第一回目の公告として、亡くなった人の相続人が現れることを促す意味もあります。

相続財産管理人は亡くなった人の遺産を詳細に調査し、財産目録を作成します。

この時点で、亡くなった人の遺産は民法第951条「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする」の規定に従い、相続財産管理人・亡くなった人・家庭裁判所および亡くなった人の財産の間の権利関係が複雑化することを避けるために、法人となります。…

2019.2.22

遺産分割で損をしないために、注意したいポイント3つ

相続が発生すると、被相続人(亡くなった人のこと)の遺産は、一度相続人全員の共有となることをご存知でしょうか。

そして、共有の状態にある遺産は「遺産分割」の手続きを経て、最終的に各相続人の所有や権利に属することになるのです。

つまり、相続人としての権利を確保し、かつ最大化するためには、この遺産分割の過程で遺産に対する自身の権利をどれだけ確定できるかがポイントとなるのです

遺産分割のプロセスは、まさに相続という一連のイベントにおける核でもあるのです。

本コンテンツでは、この重要な遺産分割について基本的な知識を得て頂くとともに、特に注意して頂きたいポイントについてご紹介します。

遺産分割とは

相続は、被相続人が亡くなると同時に発生します。

相続人は、相続開始の時に被相続人の財産に属した一切の権利義務から被相続人の一身に専属したものを除いたものを相続します。

相続財産は一般的に「遺産」とも言います。

相続人が複数いる場合、「共同相続」が発生し相続財産は一時的に相続人全員の共有となります

その後の遺産分割協議などを経て、各共同相続人はその相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します。

このように被相続人が亡くなると、被相続人に帰属していた財産的権利義務は相続という形で親族など一定の範囲の縁者により法律上当然に引き継がれるのです。

そして、被相続人が遺言で指定したり、相続人間の協議で決めた各相続人の相続分の割合で各相続人が遺産を分けあうことを、一般的に遺産分割と定義します。

共同相続人の相続財産の共同所有は「遺産分割までの過渡的な形態」であって、相続財産を共同相続人の持分に応じて各相続人に適正に分配するという目的があると言っても過言ではないでしょう。

遺産分割の効力は、民法第909条「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない」にあるとおりです。

これに従い、相続人は遺産分割の内容に沿って相続開始の時にさかのぼり相続財産を取得することになります。

 

それでは、遺産分割と対象となる財産すなわち遺産はどのようなものが考えられるのでしょうか。

預貯金や不動産など様々なものが考えられますが、遺産のそもそもの定義を深掘りしてみましょう。

民法第896条では、相続人が被相続人から相続する遺産について「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定義しています。

これをを解釈すると、遺産とは被相続人が死亡した時に存在していた財産だけとなります。

 

したがって、相続開始後に遺産から新たに生じた財産、例えば銀行預金の利息や賃貸物件の家賃収入などのように、遺産分割時の遺産から派生した収益であると考えられるものは遺産には該当せず、同様に遺産分割の対象にも含まれないと解釈できます。

また、相続開始時には存在しなかった財産でも、例えば相続財産である不動産の売却資金などのように遺産分割時の遺産が姿を変えたものと考えられる資産は、遺産分割の対象です。

その一方で、相続開始時に存在したものであっても、朽廃・消費・譲渡等のために滅失・減少して存在しなくなった財産は、遺産分割の対象とはなりません。

遺産分割の割合、分割方法

遺産分割の割合

遺産分割の割合とは、共同相続人の相続すべき割合(遺産の総額に対する分数的割合、相続分率)という意味です。…

2019.2.21

相続人がもらう事ができる財産、遺留分とは

本コンテンツでは、遺留分についてご説明します。

遺留分は、遺産の相続について被相続人(亡くなった人)の兄弟姉妹以外の全ての法定相続人に対して保証された権利です。

これを知らないまま相続に臨むことは相続人としての権利を逸することにもなりかねません。

逆にあなたが被相続人のときも、遺言で指定する内容が遺留分を侵害したものになっていたら、遺された遺族の間でトラブルに発展する可能性もありえます。

遺留分については、ぜひ基本的な知識を備えた上で、遺産分割協議への参加や、ご自身の相続に際して遺産分割割合を策定して頂きたいと思います。

遺留分とは

人が死亡すると、相続が発生します。
そして相続の場で問題となりやすいのが、「誰が相続人になるのか」「遺産はどのような割合で分割するのか」という点です。

民法の欠格事項や廃除要件に該当しない限り、被相続人の相続人は基本的に誰でもなることが可能ですが、それでは相続人の地位や相続割合をめぐり収拾がつかない事態も想定されます。

そこで、民法では相続人と相続割合の目安のひとつとして、配偶者(第890条)、子(第887条)、直系尊属(第889条)および兄弟姉妹(889条)を法定相続人と定めており、民法第900条では各法定相続人の遺産の取り分として「法定相続割合」を定めています。

しかし、これはあくまで目安です。

民法はさらに各法定相続人の最低限の取り分を定めており、これを「遺留分」といいます。

被相続人が生前に遺言で指定した相続人および相続割合は、その実現について強い法的拘束力を持ちます。

しかし民法第902条には、「(前略)被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない」にあるとおり、たとえ遺言であろうと遺留分の規定に反する遺産分割割合を指定することはできないのです。

例えば被相続人が、遺産の分割割合について、配偶者や小さい子どもがいるにも拘らず、全く関係の無い第三者などに譲るように遺言で指定していたとします。

これでは、遺された配偶者や子どもは、生活がままならなくなってしまうこともありえます。

そのため、民法は配偶者や子ども、父母や兄弟姉妹など被相続人の収入や財産を頼りに生活している可能性がある人には、遺留分として最低限相続することができる遺産の取り分を保証しているのです。

これが、遺留分の制度が設けられている背景です。

遺留分が認められる人

遺留分が認められる法定相続人を、「遺留分権利者」といいます。

遺留分権利者について、民法第1028条では「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける」と定めています。

つまり、遺留分減殺請求権は「兄弟姉妹以外の(法定)相続人」に対して認められている権利です。

具体的には

・法定相続人の配偶者(内縁関係および愛人を除く)
・子ども(養子を含む)
・孫(代襲相続が発生した場合)
・両親・祖父母(両親からの代襲相続が発生した場合)

が遺留分が認められた相続人です。

ちなみに、遺留分が兄弟姉妹には認められていないということは、その兄弟姉妹の代襲相続人となりうる甥や姪も、遺留分減殺請求権が認められないということになります。

遺留分の計算方法