例えば、父親が亡くなって、父親の財産があるが、父親の遺言書がない場合、法定相続人は、母親と2人の子ども(長男と長女がいると仮定)という状況を想像してみてください。
ご遺族の相続協議のときに、法定相続人のひとりである長男が長年失踪していた場合、遺産分割協議はどうなるのかご存知ですか?
失踪中の長男の所在が明らかではないので相続の手続きを進めることができないのでは、と思われた方は、ぜひこの記事をご覧ください。
法律は、ちゃんとそんな時のための対策を講じています。
この記事では、その方法を解説します。
相続人が行方不明なら「失踪宣告」が可能
失踪宣告とは
「失踪したまま所在が明らかでない夫を愛して、一生待ち続ける」という人生も、それはそれで良いと思います。
一方、夫を忘れて再婚して、新たな人生を歩くことも許されるでしょう。
しかし、夫が失踪した、という状態のままでは、離婚もできないので再婚もできません。
あるいは、行方不明の夫の財産をどうにもできず、子供が結婚して孫ができた後も、夫の行方や生死が明らかにならない限り夫の財産を処分できない!
または、父親が亡くなって、いざ相続手続きをしようとしたら、長男が行方不明!探す宛てもない長男が見つかるまで相続手続きは止まってしまう!
そして長男が見つからない場合、母親と長女が死んだら不動産などの財産を売却することもできず、やはり財産の相続も止まってしまう!!
そんな困った事にならないようにと、法律は対策案を講じています。
そもそも、日本の法律は、長い間権利関係が不明となることを嫌います。
その考え方が失踪者にも適用されます。
家庭裁判所は、一定期間行方の知れないまま帰ってくる見込みがない人に対して、裁判所の十分な調査と一定の催告後に、裁判所の職権で「失踪宣告」の決定を下すことで、その失踪者の死亡を確定させることができます。
戸籍上「失踪宣告」を明記される事で、死亡者として扱われ、相続等の手続きも可能となります。
しかし、家庭裁判所に申し立てれば自動的に「失踪宣告」が認められるわけではありません。
家庭裁判所に申し立てて、家庭裁判所の調査官がしっかりと調査し、「催告」します。
「催告」とは、裁判所の掲示板と官報に「失踪者本人」や「失踪者の生存を知っている人」に申し出るように呼びかける公告(「催告」という)を一定期間掲載します。
誰からも何の申し出もなければ、家庭裁判所が、失踪者を死亡したものとみなす「失踪宣告」の確定をするのです。
「失踪宣言」とは、今から失踪する意思のある人が、家族が心配したり警察に届け出たりしないように、あるいは、誘拐や事件に巻き込まれた被害者とならないように、自分の意志で家を出ることを明確に宣言する事を言います。
文字としては1文字違うだけの似た言葉ですが、「失踪宣言」と「失踪宣告」は、全く意味が違います。
「失踪宣言」は、法的な効力のない「家出宣言」のような物です。
「しばらく失踪しますが帰ってきますので心配しないで下さい。自殺したりする心配はありませんので、探さないで下さい」と書いて、署名するだけで、既に「失踪宣言」です。単なる家出の置き手紙ともいえます。
文字は似ていますが、「失踪宣告」は法的効力のある「死亡宣告」ですから混同しないようにしましょう。
失踪宣告の効果
家庭裁判所が下す「失踪宣告」は、失踪者死亡宣告を決定するものです。
しかし、死亡した時に、死亡診断書を添えて市区町村に死亡届を提出しなければならないように、失踪宣告も市区町村に届け出なければ効力を発揮しません。
失踪の届け出を市区町村の役所に受理してもらうためには、「失踪宣告の審判書謄本」と「失踪の確定証明書」が必要です。
審判所謄本は判決が下ればもらえますが、「失踪の確定証明書」は家庭裁判所への申請が必要です。
これが、死亡した時の死亡診断書の代わりになるのです。
家庭裁判所にそれらを交付してもらったら、それを市区町村に持参して、失踪届けを提出できます。
最後の住所地の市区町村で失踪届を提出することになりますので、詳しくは各市町村のHPをご覧になってみてください。
必要な書類(失踪宣告審判謄本と確定証明書)を添えて、失踪届提出すると、戸籍に「失踪宣告」がなされたことが記載されます。
戸籍等に「失踪宣告」された事が記載された時点で、戸籍上の死亡したものとみなされ、あらゆる手続きが死亡者と同じ扱いとなります。
失踪の種類と条件
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