2019年3月20日 水曜日
暦年課税制度を使った生前贈与の方法を徹底解説
一般的に「相続対策」と総称されているものは、細かく分けると非常に多くの種類があるため、ややこしく思われる方が多いかもしれません。
しかし、基本的なものを大きく分類してみると「遺産分割対策」「相続税の節税対策」「納税資金対策」の3つに分けることができます。
本コンテンツでは、上記のうちの「相続税の節税対策」として広く知られている暦年課税制度を中心にご説明していきます。
目次
暦年課税制度について
そもそも暦年課税制度とは
暦年課税制度とは、贈与税の課税方式のひとつです。
生前に財産を次の世代に贈与(無償で財産を譲ること)は有効な相続税対策のひとつで、この贈与を生前贈与といいます。
亡くなった時点における財産の額が高ければ高いほど、相続税も高くなります。
これは、消費税や所得税などと同様なので、わかりやすいかと思います。
この仕組みを利用し、亡くなる前に財産を相続人に贈与して、死亡時点での財産額から切り離すことにより、相続税を安くするというわけです。
この贈与に対して課される贈与税は、贈与者(財産をあげる人)から受贈者(財産をもらう人)へ財産の贈与があった際に、受贈者に対して課される国税です。
平成31年2月時点における贈与税の税率は、以下のとおりです。
計算方法としては、贈与があった年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産価額の合計から基礎控除額110万円を差し引き、基礎控除後の課税価格に税率を乗じて得られた金額に、カッコ内の控除額を差し引いて求めます。
そして、受贈者は翌年の3月半ばあたりまでに所轄の税務署に贈与税を申告し、納付します。
◇特例税率(20歳以上の者が直系尊属から受ける贈与)
- 200万円以下:10%(控除額無し)
- 200万円超300万円以下:15%(10万円)
- 300万円超400万円以下:15%(10万円)
- 400万円超600万円以下:20%(30万円)
- 600万円超1,000万円以下:30%(90万円)
- 1,000万円超1,500万円以下:40%(190万円)
- 1,500万円超3,000万円以下:45%(265万円)
- 3,000万円超4,500万円以下:50%(415万円)
- 4,500万円超:55%(640万円)
◇一般税率(上記以外の税率)
- 200万円以下:10%(控除額無し)
- 200万円超300万円以下:15%(10万円)
- 300万円超400万円以下:15%(25万円)
- 400万円超600万円以下:20%(65万円)
- 600万円超1,000万円以下:30%(125万円)
- 1,000万円超1,500万円以下:40%(175万円)
- 1,500万円超3,000万円以下:45%(250万円)
- 3,000万円超4,500万円以下:50%(400万円)
- 4,500万円超:55%(400万円)
その年の1月1日から年末に受けた贈与の合計額が110万円に満たない場合は、贈与税は課税されず申告も不要です。
ただし、この特例を用いてコンスタントに毎年110万円ずつ贈与を続け、仮にそれが10年間続いたとしたら、最初から1,100万円贈与する意図があったとみなされてしまい、「連年贈与」として、合計の1,100万円分に対して贈与税が課税されてしまうことがあります。
これを防ぐためには、下記のような対策方法がありますので、十分に注意して行うようにしましょう。
- 毎年同じ時期に、同じ額の贈与をしない
- 贈与の度に、贈与契約書を作成する
なお、贈与税は相続税と比較すると、低い財産額から課税されます。
そのため、生前贈与を検討する際は、通常の相続の場合に納付すべき相続税の税率と、贈与税の税率を慎重に比較しましょう。
正しく比較をした結果、生前贈与による受贈者の贈与税負担が、相続発生時における相続税負担よりも少なくなるのであれば、生前贈与の準備を進めていきましょう。
暦年課税制度を利用する人
暦年課税制度には、贈与者と受贈者に特段の制限は設けられていません。
血縁関係の無い、第三者間の贈与でも活用することができます。
暦年課税制度と相続時精算課税制度の違い
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度も、贈与税の課税方式のひとつです。
高齢者が子や孫に対して生前に財産を譲ることには変わりありませんが、暦年課税制度よりも、比較的まとまった額の財産贈与を促進するための制度です。
生前の贈与時に、総額2500万円までの贈与税を非課税とし、相続が発生した時点で生前に贈与された財産の相続税を計算します。
※2500万円からの超過分には、一律20%の贈与税が課税されます。
暦年課税制度と異なり、贈与税の非課税枠が2500万円と大きいことから、子や孫のマイホーム購入資金や不動産、あるいは事業承継の一環として中小企業オーナーが自分の子や孫に自社株式を移転するなど、一気に多額の贈与が生じる場合に活用されているようです。
以下で、制度の概要を詳しく見てみましょう。
適用対象者
贈与者は、贈与が行われる年の1月1日時点で、60歳以上の親または祖父母が対象となります。
ただし、住宅を取得するための資金を贈与する場合は、贈与者の年齢に制限はありません。
また、受贈者は贈与が行われる年の1月1日時点で20歳以上の子(推定相続人)または孫になります。
適用の申請
最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、受贈者(子や孫)は相続時精算課税制度を選択する旨の届け出である「相続時精算課税選択届出書」を贈与税の申告書に添付して税務署に提出する必要があります。
この際、受贈者は贈与者を父・母・祖父・祖母ごとに選択することができます。
たとえば、父からの贈与は相続時精算課税制度を適用し、母からの贈与は制度を適用するということも可能です。
ただし、特定の贈与者に対して相続時精算課税制度を一度選択すると、実際に相続が発生するまで暦年課税制度に変更することができませんので、事前の十分な検討が不可欠です。
なお、贈与財産の種類・金額・贈与の回数に制限はありません。
相続発生時
相続時精算課税制度の適用により贈与税の負担は軽減されますが、相続税は贈与された財産に対しても課税されます。
相続発生時、受贈者は被相続人の生前に贈与された財産と、相続時精算課税制度の適用を受けていない相続財産に合算して相続税を計算します。
この際、受贈者に相続時精算課税適用財産に課せられた贈与税がある場合、その人の相続税額からその贈与税額に相当する金額を控除します。
その金額を相続税額から控除しても、控除しきれない金額があるときは、その控除しきれない金額に相当する税額の還付を受けることができます。
この税額の還付を受けるためには、相続税の申告書を提出しなければなりません。
なお、相続時精算課税制度の適用を受けていない相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の時価です。
したがって、相続時精算課税制度の適用によって不動産や有価証券の贈与を受け、相続発生時は贈与時よりも時価が下がっていた場合は、適用を受けていなかった場合とくらべて相続税が割高となってしまいます。
また、現金での贈与を受け、相続発生時までに相当額を費消していた場合は、相続税の納税資金が不足してしまう可能性があります。
暦年課税制度との違い
以上をまとめると、暦年課税制度と相続時精算課税制度の主な相違点は、以下のとおりです。
贈与税の非課税枠(控除額)
暦年課税制度:年間110万円
相続時精算課税制度:合計2,500万円
非課税枠(控除額)超過後の贈与税率
暦年課税制度:10%から55%
相続時精算課税制度:一律20%
贈与者の要件
暦年課税制度:特になし
相続時精算課税制度:贈与する年の1月1日時点で60歳以上の父母または祖父母
受贈者の要件
暦年課税制度:特になし
相続時精算課税制度:贈与する年の1月1日時点で20歳以上の子または孫
届出の必要性
暦年課税制度:特になし
相続時精算課税制度:必要(相続時精算課税選択届出書)
相続税課税対象の相続財産への加算
暦年課税制度:相続発生前3年以内の贈与財産を相続財産に加算
暦年課税制度を利用した場合の相続税率
まず、そもそも相続税とは、どのようなものかについて再確認しておきましょう。
相続税とは、被相続人から相続または遺贈(※)によって遺産を取得した個人に対し、その取得した遺産の額に応じて課される国税です。
※遺言の指定により遺産を取得すること
相続税の納税義務者は、被相続人が死亡し相続が発生してから10ヶ月以内に税務署へ相続税を申告・納付する義務があります。
相続税の課税対象は、その納税義務者の属性によって変わります。
特に、相続時精算課税制度の適用の有無が大きく影響するので、まずは下記でご自身がどの納税義務者に該当するのか、課税対象財産の範囲について確認する必要があります。
- 無制限納税義務者
制限納税義務者および特定納税義務者以外の相続人
→すべての相続財産が課税対象となります。
- 制限納税義務者
相続発生時に日本国外に居住している相続人
→原則、国内財産および相続時精算課税制度を適用して、贈与を受けた財産が課税対象となります。
- 特定納税義務者
被相続人から相続または遺贈により財産を取得しないが、相続時精算課税を適用して、被相続人から贈与を受けた相続人
→相続時精算課税制度を適用し贈与を受けた財産が課税対象となります。
平成31年2月現在、相続発生後に生前贈与を受けた分とあわせた相続財産に課税される相続税率は、以下のとおりです。
別途計算する相続財産額に以下の税率を乗じ、カッコ内の金額を控除して得られた額が相続税となります。
- 1,000万円以下:10%(控除額なし)
- 3,000万円以下:15%(50万円)
- 5,000万円以下:20%(200万円)
- 1億円以下:30%(700万円)
- 2億円以下:40%(1,700万円)
- 3億円以下:45%(2,700万円)
- 6億円以下:50%(4,200万円)
- 6億円超:55%(7,200万円)
なお、相続税には各種の税額控除があり、それぞれが適用されれば、当該控除の範囲内において相続税は課税されません。
たとえば、相続財産額が「3,000万円+法定相続人の人数×600万円」の基礎控除額、さらに被相続人の配偶者であれば、1億6,000万円の配偶者控除額の範囲に収まる場合は、相続税は課税されないのです。
この他にも、未成年者控除や障害者控除、相次相続控除などがあります。
家族構成のパターンに応じた速算表は、あくまで法定相続割合のみの場合が多いです。
各相続人の相続税額は実際の分割割合に応じて変わりますので、この点に注意してください。
また、相続税は諸制度や法律などが複雑に絡み合っており、計算方法も煩雑です。
このため、税金についての知識をつけないまま申告をしてしまった場合、誤った計算方法などで、必要以上に多額の税金を支払ってしまったり、過少申告となって税務署から追徴課税などが課されてしまうリスクがあります。
したがって、相続税の申告については、ある程度の費用を投じて税理士などの専門家に依頼すると、結果的に安く済んだり、時間を無駄にせずに済むケースが多いです。
暦年課税制度を利用するメリット
暦年課税制度と相続時精算課税制度を比較すると、暦年課税制度と異なり、相続時精算課税制度では生前贈与財産も相続財産に合算されるため、相続税の節税のための活用は原則としてできません。
したがって、暦年課税制度を活用する方が、相続税においては有利となる可能性が大きいと考えられます。
また、相続税の計算・申告にあたって、共同相続人は相続税精算課税制度を用いた被相続人による贈与の内容を税務署に開示請求することができます。
そのため、相続時精算課税制度により行われた多額の生前贈与は、遺産分割の場においてトラブルを引き起こす可能性もあります。
まとめ
相続税は各種法律や制度により財産評価額の算定など計算のルールが細かく定められており、非常に複雑です。
本コンテンツでは、相続対策の代表例ともいえる暦年課税制度と、相続税清算課税制度のアウトラインをご説明しながら両制度の選択のポイントをご紹介しました。
この二つのうち、実際にどちらを選ぶか検討する際、相続税評価額の計算や各種シミュレーションにおいては、税理士などの専門家と相談しながら進めることをお勧めします。