2019年3月25日 月曜日
任意後見制度を活用した遺産相続方法
成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。
法定後見制度は、成年被後見人(成年後見人を依頼する人)の判断能力が不十分になったときに選任します。
それに対して、任意後見制度は、成年被後見人の判断能力が十分あるうちに、誰に任意後見人を依頼し、どんなことを任意後見人に行ってもらうかを自由に決められるといった違いがあります。
それでは、任意後見制度の内容の詳細と任意後見制度を活用した遺産相続方法をご紹介いたします。
目次
任意後見人制度とは
任意後見制度とは、判断能力が十分ある間に、任意後見人と任意後見契約を結び、成年被後見人が認知症などで十分な判断能力がなくなってしまった場合に、任意後見人にあらかじめ任意後見契約で決めておいた事務作業を行ってもらう制度のことをいいます。
任意後見人と任意後見契約を結ぶためには、公証役場にて公証人に公正証書を作成してもらわなければなりません。
任意後見制度を利用するためには、成年被後見人と任意後見人と口約束などではその効力を発揮することはできないので、しっかりと公正証書を作成する必要があります。
そのため、手続きの詳細や費用は、最寄りの公証役場に確認するようにしましょう。
相続前に任意後見制度を活用するべき理由
相続前に任意後見制度を活用するべき理由は、大きく分けて2つあります。
まず、1つ目の理由として、「任意後見契約を結ぶ際に、成年被後見人の意思を明確に示すことができること」が挙げられます。
相続に関して、希望がある場合は法定後見人制度を利用するよりも、任意後見制度でどのような対応をしたいかを決め、任意後見人と任意後見契約を結び、実行してもらう方がよいでしょう。
2つ目の理由としては、「相続時にすでに認知症などが始まってしまい、任意後見契約を行えなくなってしまう可能性があること」が挙げられます。
任意後見制度が利用できなくなってしまうと、成年後見制度を利用する際に法定後見制度を利用するしかなく、本人の希望が反映されないような相続が行われる可能性があります。
任意後見制度の申立て手続き
任意後見制度の申立て手続きをする場合には、まず、任意後見人を選び、承諾をもらわなければなりません。
任意後見人を引き受けてもらえることが決まったら、任意後見契約を公正役場で公証人に公正証書として作成してもらいます。
任意後見契約を結ぶために必要な書類は下記の通りです。
※書類はすべて、発行後3ヶ月以内のものに限ります。
≪成年被後見人の場合≫
- 印鑑登録証明書
- 戸籍謄本
- 住民票
- 本人証明ができる書類
≪任意後見人の場合≫
- 印鑑登録証明書
- 住民票
≪公証役場で必要となる手数料≫
- 契約料……11,000円
※ただし、証書の枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚を超える場合は、1枚超えるごとに250円が加算されます。
※任意後見人が数名いる場合は、その人数分の契約料が必要となります。
※成年被後見人が病気であるなど、公正役場で公正証書を作成できない理由がある場合は、公証人に自宅や病院まで出張してもらい、公正証書を作成することが可能です。ですが、契約料は手数料として50%加算されるため、16,500円となります。また、それだけでなく、公証人の日当及び出張先までの交通費が必要となります。
- 法務局に納める印紙代……2,600円
- 法務局への登記嘱託料……1,400円
- 書留郵便料……約540円
※郵便局で必要な書留郵便料を確認の上、書留郵便を利用しましょう。
- 正本謄本の作成手数料……1枚250円×枚数
※日本公証人連合会の「公証事務」の「任意後見契約」より一部引用
※社会福祉法人 品川区社会福祉協議会の「手続きについて(任意後見制度)」より一部引用
任意後見契約が結び終わったら、一度ここで手続きは終わります。
その後、成年被後見人の判断能力が低下した場合は、任意後見人がすみやかに「任意後見監督人選任の申立て」を行います。
この際、必要となる書類と費用は下記の通りです。
≪必要書類≫
- 申立書
※申立書には申立て手数料の収入印紙800円分を貼付する欄があるので、貼付します。ただし、登記手数料としての収入印紙1,400円分は貼付してはいけません。
- 本人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 任意後見契約公正証書の写し
- 本人の成年後見等に関する登記事項証明書
※法務局・地方法務局の本局が発行しているものに限ります。
※取得方法や証明申請書の書式などについては、法務省のホームページで確認することができます。
- 本人の診断書
※家庭裁判所が定める様式のものが必要になります。診断書の書式は、「成年後見制度における鑑定書・診断書作成の手引」から「鑑定書(成年後見用)」 をダウンロードすることが可能です。しかしながら、家庭裁判所によっては、項目が付け加えられていることもあるため、提出する家庭裁判所にあらかじめ確認するようにしましょう。
- 本人の財産に関する資料
※たとえば、不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写しや残高証明書など)が該当します。
- 任意後見監督人の候補者がいる場合には、その住民票または戸籍附表
※任意後見監督人の候補者が法人の場合には、当該法人の商業登記簿謄本
≪費用≫
- 申立手数料として、収入印紙800円分
- 登記手数料として、収入印紙1,400円分
※ただし、登記印紙1,400円分を持っている場合は、登記印紙での納付も可能です。
- 連絡用の郵便切手
※連絡用の郵便切手の金額及び内訳は各裁判所によって異なるため、各裁判所のホームページで確認するか、電話で問い合わせる必要があります。
- 鑑定料
※任意後見制度の場合は、基本的には鑑定をする必要がなく、医師の診断書のみで判断ができるとされています。
※裁判所のホームページ「任意後見監督人選任」より一部引用
任意後見監督人選任の申立てを行うと、家庭裁判所で任意後見監督人が選任されます。
任意後見監督人が決まったら、任意後見人は任意後見契約で決定している契約内容に沿って、事務作業を行います。
ここまで行ってはじめて、すべての手続きが終わることになります。
任意後見制度 を活用するメリット・デメリット
任意後見制度を活用するには、メリットとデメリットの両方が存在しています。
法定後見制度とは、また異なった性質を持っているので、そのメリットとデメリットにも違いがあります。
それでは、任意後見制度を活用するメリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。
メリット
任意後見制度を活用するメリットは、大きく分けて6つあります。
まず、1つ目のメリットは「自分が選んだ人に任意後見人になってもらえること」が挙げられます。
自分が信用している人に、任意後見人として、財産管理や遺産分割協議、介護施設との契約などを代理で行ってもえるということは、安心感にもつながることでしょう。
2つ目のメリットは、「後見人の判断で不動産や土地の売却をされずに済むこと」が挙げられます。
法定後見人にはさまざまな権限が与えられます。
財産の管理もその一つです。
たとえば、遺言書があることを後見人が知らずに、遺言書で本来相続人に相続させるつもりだった不動産や土地などの財産を売却してしまった場合、取り返しのつかないことになってしまいますが、法定後見人には、財産の管理が認められているため、たとえ売却してしまったとしても、特に問題に問われることはありません。
しかし、財産を相続するはずだった相続人にとっては、大問題です。
そういった問題を起こさないようにするために、任意後見制度を利用すれば、あらかじめ財産の管理についてどのような対応をするか、成年被後見人と任意後見人の間で共有しておくことが可能となります。
3つ目のメリットは、「十分な判断能力があるうちに任意後見契約を結ぶことができること」が挙げられます。
そのため、判断能力が不十分になってしまっても、成年被後見人が望んだ生活を送ることが可能となります。
4つ目のメリットは、「任意後見契約の内容は成年後見人の自由に決められること」が挙げられます。
どのような内容を任意後見人にお願いするかは、成年被後見人が自由に決めることができます。
ただし、法律などに反するものはお願いすることはできません。
5つ目のメリットは、「いつでも任意後見契約を解除することができること」が挙げられます。
法定後見制度の場合、一度、法定後見人が決定しまうと、よほどの事情がない限り、法定後見人を変更することはできません。
ですが、任意後見制度の場合は、任意後見監督人が選任される前であれば、公証人の認証のある書面で解除をすることが可能であり、任意後見監督人が選任された後であれば、家庭裁判所で手続きをして解除することが可能です。
ただし、内容によっては、任意後見契約を解除ができないことがあるので、詳細については専門家に相談した方がよいと言えるでしょう。
6つ目のメリットは、「法定後見制度を利用するよりも費用が抑えられる可能性があること」が挙げられます。
法定後見制度で後見人に専門家が選任された場合には、毎月報酬を支払う必要があるため、費用がかかります。
ですが、任意後見制度であれば、任意後見人を誰にお願いをするかを成年被後見人が自分で選べるため、任意後見人との間で無報酬での任意後見契約が成立すれば、毎月の費用がかかりません。
ただし、任意後見監督人は家庭裁判所が選任するため、選任された監督人が専門家である場合や報酬の請求があった場合には費用がかかる可能性があります。
デメリット
任意後見制度を活用するデメリットは、大きく分けて4つあります。
1つ目のデメリットは、「成年被後見人が亡くなると同時に任意後見契約が終了してしまうこと」が挙げられます。
成年被後見人が亡くなった後の財産の管理まではしてもらえないため、財産においてはしっかりと法的効力のある遺言書を作成しておく必要があります。
2つ目のデメリットは、「成年被後見人の判断能力が不十分になったときに気づいてもらえない可能性があること」が挙げられます。
任意後見人が親族など、身近な人ではない場合、判断能力の低下について判断が遅れてしまうことがあります。
また、この点を悪用され、横領などの事件が発生してしまうこともゼロではありません。
3つ目のデメリットは、「取消し権がないこと」が挙げられます。
法定後見制度の場合、後見、保佐、補助によって範囲は異なりますが、取消を行うことが認められています。
しかしながら、任意後見制度の場合、任意後見契約で代理権目録の中で決定した事務作業しかできないことになっていますので、取消を行うことが認められていません。
4つ目のデメリットは、「判断能力の低下がないまま亡くなった場合、任意後見契約のための公正証書の作成をした際にかかった費用が無駄になること」が挙げられます。
すべての人が認知症になるわけではないので、任意後見制度を利用せずに亡くなることも考えられます。
そういった場合には、任意後見契約のために作成した公正証書の費用などがかかってしまうだけで、制度の利用ができないことになります。
任意後見人の役割
任意後見人の役割は、任意後見契約を結んだ際に作成された公正証書の内容に沿って、あらかじめ成年被後見人と取り決めた事務作業を行うことです。
公正証書の内容に沿って事務作業を開始するためには、まず、成年被後見人が十分な判断能力がなくなったときに、家庭裁判所に「任意後見監督人選任の申立て」を行う必要があります。
任意後見監督人選任が行われ、任意後見監督人が決まったら、任意後見契約の効力が発揮され、決められていた事務作業を行えることになります。
この事務作業の内容は、さまざまではありますが、財産の管理や遺産分割協議、介護施設との入所契約など多岐に渡ります。
また、任意後見人は任意後見監督人によって監督されることになります。
まとめ
任意後見制度を利用することで、自分の判断能力が低下したときに、周りの人たちに迷惑をかけずに、財産管理をはじめとしたさまざまなことをスムーズに行うことができます。
しかしながら、任意後見制度には、メリットだけでなくデメリットもあるので、自分にとって、任意後見制度が必要であるかをしっかりと考慮した上で、任意後見制度の利用について決定するとよいでしょう。
任意後見制度の利用について悩んでいる場合には、専門家に相談することもできるので、情報を集め、後悔のない判断をすることが大切です。