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【相続人について 】
相続人について説明しています。相続人とは、亡くなった方の財産を引き継ぐひとのことをいいます。法律で定められた相続人を法定相続人と呼び、順位によって受け取る財産の配分に違いがあります。

2019年4月5日 金曜日

行方不明の相続人がいる場合は「失踪宣告」が必要

相続の手続きをしようとしたとき、相続人の中にどうしても連絡が取れない行方不明者がいるケースは、実は相続の歴史の中では珍しくありません。

とはいえ、「失踪宣告」のことを知らない方は、大切な人を失った後に、金融機関や法務局等あらゆる機関で、行方不明者の消息を聞かれても答えられず、手続きが進まないことに動揺するでしょう。

また、失踪宣告の手続きは、相続人に戸籍上の死亡認定を確定するようなものです。

大切な人を亡くした後に、さらに家族の失踪宣告の手続きをことに前向きに取り組むことは、私たち人間にとって困難な作業と言えます。

しかも、警察に届けて探してもらったり、探偵に捜索依頼をする方法もありますが、それではいつ見つかるともしれません。

この記事では相続人の中に行方不明者がいる場合の対処方法を紹介しますが、弁護士や税理士にもご相談されることを心からお勧めします。

相続人が行方不明の場合どうする?

相続人が行方不明、その影響は?

冒頭で述べたように、法定相続人、あるいは遺言書の相続人の中に、行方不明者が一人でもいたら、手続きは停止してしまいます。

相続分割協議とその手続きには、全ての相続人の意思表示が必要だからです。

例え生きているか死んでいるかわからず、連絡先も不明で顔も知らないような人であっても、相続権がある以上、その人を除いて勝手に相続協議をして相続を実行することは許されないのです。

相続を進めるためには「失踪宣告」が必要

失踪宣告とは

先述したように、相続人の中に行方不明者がいた場合、相続手続きが止ります。

そこで、長い間連絡先が不明で、探す宛てもないような場合は、家庭裁判所に「失踪宣告」の申し立てをする事ができます。

家庭裁判所で失踪宣告が確定した場合、必要な書類を持って市区町村の役場で「失踪届」を提出すると、行方不明者の戸籍に「失踪宣告」による手続きがなされたことが記載され、死亡と同じ扱いになります。

いわば、戸籍上失踪宣告は「死亡」です。

そのため一旦失踪宣告による死亡扱いがなされると、全ての手続きが死亡した人と全く同じ扱いになります。

行方不明者は、失踪宣告が確定すると、死亡したとみなされる日、あるいは失踪宣告の確定日が、戸籍上の死亡日となるわけですから、まず、死亡保険金が受け取れますし、婚姻関係の解消も可能です。

死亡したので、失踪宣告が確定した本人の財産を相続することも可能です。

さらに、行方不明者は死亡したことになったのですから、停止していた相続手続きも開始できます。

失踪宣告ができる条件

民法30条「失踪宣告」の条文を紹介します。

民法30条 失踪の宣告

(普通失踪)

不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。

※不在者とは、従来の住所又は居所を去り,容易に戻る見込みのない者

※利害関係人とは、不在者の配偶者、法定相続人、財産管理人、その他遺産を受け継ぐ者、単なる債権者ではなく終身定期金の債権者等、その他裁判所が「利害関係人」と認める者。

(危難失踪)

戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。

失踪宣告には、上記の表からわかるように、普通失踪と危難失踪(「特別失踪」ともいう)の2種類ががあります。

行方不明の状態による条件

普通失踪とは、一般的な「行方不明」状態です。

サスペンスなんかでもよく出てくるので、知っている人も多いかと思いますが、行方不明の状態が7年を超えると、利害関係人は、家庭裁判所に戸籍等必要書類を提出して、失踪の申し立てをする事ができます。

一方、危難失踪の場合の「危難に遭遇した者」とは、以下の場合が当てはまります。

・ 船が沈没して捜索しても遺体が上がらず生死不明のまま行方がわからない

・ 飛行機が墜落して遺体が見つからない

・ 川や海に落ちただろうことが明らかなまま捜索しても遺体も上がらず行方がわからなく  なった

・ 登山後に行方不明のまま遺体が見つからない場合・・・・・・etc.

条文の「危難が去った後」とは、捜索が打ち切られた後のことを指します。

船が沈没した、飛行機が墜落して大勢が死亡したような場合は、遺体が見つからなくても、危難に遭遇した日と危難が去った日と重なります。

このような、危難に遭遇し、生死不明のまま行方不明になってしまった人が、1年以上行方不明のままである場合、同じように失踪の申し立てを家庭裁判所にすることができます。

普通失踪、あるいは危難失踪のどちらかに行方不明者が該当している場合、家庭裁判所に申し立てることはできます。

しかし、家庭裁判所の調査の結果、失踪宣告をしてもらえないことも希にあります。

申し立てられる人の条件

申し立てをする事ができる人にも条件があります。

条文には「利害関係人」とありますが、どういう人が当てはまるのかを解説します。

・行方不明者の配偶者

・行方不明者の法定相続人

・行方不明者が相続人になっている相続に関わる他の相続人(法定相続人やその他受遺者)

・行方不明者の財産に関しての財産管理人

・行方不明者の終身定期金の債権者のみ(行方不明者の債権を持つ人全てではない)

これらの人は、行方不明者の失踪宣告の必要性に迫られている人達だといえます。

申立人が、これらに該当する「利害関係人」であるかどうかも、家庭裁判所は調査します。

失踪宣告による効果

家庭裁判所が失踪宣告の審判を下し、失踪の確定書を交付した場合、市区町村で「失踪届」の手続きをすると、失踪宣告が確定したことが明記されます。

繰り返しになりますが、戸籍に失踪宣告がなされた事が明記されるということは、死亡扱いとなったことを意味します。

死亡診断書による死亡届けではなく、家庭裁判所の失踪宣告確定の審判謄本と確定証明書を添えて失踪届を提出する事で、市区町村で死亡手続きをしたも同然となるのです。

もしかしたら、行方不明者はどこかで生きているかもしれない可能性を残しつつも、戸籍上その人は、死んだことになります。

婚姻関係は消滅し、行方不明者の生命保険があれば、死亡保険金が下ります。

行方不明者の預貯金口座は凍結し、失踪宣告を受けた者は死亡したのですから、本人の財産の相続手続きが可能になります。

気持ちの整理をしたいなら、葬儀をすることもできます。

遺体がないので火葬はできませんが、遺体がないまま葬儀をし、法要も行い、仏壇にお位牌を祀る人もいます。

失踪宣告はどのように行う?

申立に必要なもの

申し立てに必要な書類を、裁判所のHPから抜粋したものを表にしてみました。

失踪宣告の申し立てに必要な書類「失踪宣告|裁判所」より引用)
家庭裁判所への標準的な申立添付書類

・失踪者の戸籍謄本(全部事項証明書)

・失踪者の戸籍附票

・失踪を証する資料(警察署の家出人捜索願や転居先不明の郵便物)

・申立人の利害関係を証する資料(親族関係であれば戸籍謄本(全部事項証明書)等)

※ 同じ書類は1通で足ります。

裁判所の言う「不在者」とは、普通失踪か危難失踪に該当する行方不明者、または失踪者(以下「不在者」という)を意味しています。

失踪宣告を申し立てる裁判所は、不在者の行方不明になる直前の住所地あるいは、最後に行方がわかった住民票以外の住んでいた場所を管轄する家庭裁判所です。

行方不明となって、その行方不明者本人が、戸籍を異動させたりしていて、戸籍が全部揃わないときは、管轄家庭裁判所に相談しましょう。

失踪を証明する書類とは、警察の行方不明者の捜索願いや転居先不明の手紙やその他、行方不明となった事がわかる書類です。

必要な書類の準備が難しい場合は、事情を家庭裁判所に相談し、アドバイスを受けましょう。

申立人が、不在者の利害関係人である事を証明する書類も必要です。

親族なら、戸籍で十分です。財産管理人や終身定期金の債権者は、その証明が必要となります。

申立の手順

出典:家庭裁判所の失踪宣告の費用|名古屋家庭裁判所(PDF)

申し立ての手順は上記図の通りです。

まずは、申立人が知りうる不在者の住所地を管轄する家庭裁判所に失踪の申し立てを行います。

管轄家庭裁判所は、以下の裁判所の公式HPで検索できます。

各地の裁判所一覧|裁判所

管轄家庭裁判所がわかったら、先に解説した必要書類を準備して持参して、家庭裁判所に出向き、窓口で失踪の申し立てをしたいことを言って、失踪宣告の申請書をもらって記入します。

「失踪宣告の申請書」は、裁判所のHPからダウンロードできますので、プリントアウトして記入したものを持参することもできます。

家で先に記入していく場合は、裁判所のHPには、記入例もダウンロードできますので、それを見て記入しましょう。

もしも間違っていても、担当係員がチェックして、書き直しのアドバイスをしてくれます。

その指示に従いましょう。

最悪の場合は、家庭裁判所には、新しい申請書もありますので、安心して下さい。

失踪宣告の申請書(PDF):印刷、ダウンロード可能|裁判所

失踪宣告の記入例(PDF):印刷、ダウンロード可能|裁判所

こうして、必要書類と申請書を受理されたら、郵便連絡用の切手代と失踪宣告の費用(印紙代)も請求されます。

・郵便連絡用の切手代:4,108円分

(4,108円=500円2枚+310円2枚+82円28枚+52円1枚+20円4枚+10円6枚)

※2019年5月以降は消費税が10%となり、切手代も上がりますので、5月以降は裁判所に問い合わせましょう。

・失踪宣告の印紙代:800円

この手続きが済むと、後は家庭裁判所にお任せです。

家庭裁判所の調査官が規定の調査を行って、その際に、裁判所からさまざまな問い合わせや呼び出しがあることもありますので、裁判所の指示に従いましょう。

これがだいたい3ヶ月くらいです。

その後、裁判所から連絡があって、催告と確定の官報の公告のための掲載料の支払いに4,298円(失踪に関する届出の官報の催告2725円と失踪宣告確定1,573円)が請求されます。

官報の「催告」とは、失踪宣告の最終決定を下す前に、もしも生きている最後の可能性を最後に打ち消すために呼びかけるものです。

その方法は、全国の家庭裁判所の掲示板や官報に「不在者本人や不在者のことを知っている人は名乗り出るように」という旨の呼びかけを掲示する形で行います。

この催告の期間が普通失踪の場合は3ヶ月以上、危難失踪の場合は1ヶ月以上とされています。

その結果、不在者の安否が判明する場合もあり、失踪宣告が却下となる事もあります。

何事もなく、誰も名乗り出ない場合、失踪宣告の審判が下り、その結果「失踪宣告の審判書謄本」が郵送で申立人に届きます。

申し立てから審判書謄本が届くまでは、約半年を目安にすると良いでしょう。

それから2週間程度で官報に不在者の失踪宣告が確定したことが公告されます。

その後、審判書謄本を持って市区町村で「失踪の確定証明書」の申請を行い、交付してもらいます。

この「失踪の確定証明書」をもらってから、10日以内に市区町村で失踪届の手続きをしなければなりません。10日を過ぎると、確定証明書が無効となります。

失踪届の添付書類として、失踪宣告の審判謄本と確定証明書が必要です。

その後、失踪届が受理された後は、市区町村で手続きが進み、戸籍に失踪宣告がなされたことが明記され、死亡扱いとなります。

失踪宣告の取消方法

失踪宣告の撤回も可能です。

未曾有の大災害があったとき、例えば、家に居たはずの人の遺体が見つからない、あるいは、見つかったが本人である事の確定ができない場合、一定期間捜索がなされた後に市区町村の職権で「死亡認定」がなされることがあります。

例えば、東日本大震災の場合、津波に流されたとみられる多くの人々の死亡認定がなされました。

このような災害時の場合は、遺体がないままでも、市区町村に死亡届けを出して死亡認定の手続きがなされます。

この場合は、市区町村に本人が生きていたことを報告すれば、戸籍が復活します。

ただし、本人を市区町村役場に連れて行く等の一定の証明が必要です。

しかし、失踪宣告によって死亡扱いされた人が生きていたことが判明した場合は、市区町村に報告するだけでなく、本人であるかどうかの確認のために、家庭裁判所の審判が必要になります。

その審判で、失踪宣告の撤回が認められたら、戸籍の復活がなされ、失踪宣告が確定した事自体が取り消されます。

市区町村の失踪宣告を受けた人の全ての書類の訂正が行われます。

失踪宣告の注意点

完了までにかかる時間

失踪宣告は、失踪宣告が確定して、確定証明書を発行してもらわないと、市区町村の戸籍の手続きがなされません。

失踪の申し立てをして、家庭裁判所の審判が下るまでがだいたい半年くらいかかります。

その後に改めて官報に失踪宣告された事が公告されるまで2週間くらい、それから確定証明書を交付してもらって、初めて市区町村の役所で手続きが可能となるのです。

ただし、失踪宣告の確定証明書は、交付されて10日を過ぎてしまうと無効になってしまいますので、失踪届の手続きは絶対に交付後10日以内に行うようにしましょう。

相続の手続きには、失踪宣告の文字が記載された不在者の戸籍が必要です。

つまり、役所の手続きまで完全に終了し、その後、不在人の戸籍を集めないといけません。

約半年かけて失踪宣告が下った後、失踪宣告の文字が記入された戸籍等を手にするまで、さらに1ヶ月位かかりそうです。

しかし、相続税の申告期限は亡くなった日から10ヶ月以内です。

やむを得ない事情がある場合は、2ヶ月延長の猶予処置も可能ですが、それでも12ヶ月以内です。

相続の手続き自体にもけっこう時間がかかるので、対策が必要です。

または、とりあえず相続税の申告を出しておいて、後ほど修正申告を提出することも可能です。

普通失踪の場合は、失踪宣告が出た日が一般的ですが、危難失踪の場合は、事故のあった日、あるいは捜索を打ち切った日が死亡したとみなされる日となりますのでご注意ください。

もし失踪宣告後に生存が判明したら?

先述しましたが、失踪宣告後に、不在者が生きていたことが判明した場合、家庭裁判所に申し出て、失踪宣告撤回の審判を受けなければなりません。

審判で家庭裁判所が本人である事を確認して、失踪宣告撤回の審判が下りれば、市区町村で再度、失踪宣告撤回の手続きを行えば良いのです。

失踪宣告された事実が取り消されますので、戸籍を筆頭にあらゆる書類が死亡扱いされていた事実を取り消して復活します。

ただし、どうにもならない事もあります。

例えば、失踪宣告で、不在者は、死亡したことになってしまったのですから、不在者の配偶者は、再婚しているかもしれません。

この再婚を取り消すことはできません。

また、不在者の財産の相続が実行されています。

しかし、不在者は生きていたのですから、相続自体が無効なのですから、不在者の財産は、不在者の手に戻ります(所有権を取り戻す)。

ところが、民法の所有権は、例え詐欺で奪われたお金や盗品であっても、善意の第三者に所有権が移った場合は、善意の第三者の権利を守るようにできているのです。

善意の第三者とは、何も知らないまま契約して売買したり、譲渡されたりした人のことです。

つまり、生きていることを知らなかったら、例え盗品を買った人でも、その盗品は、既にその善意の第三者の物なのです。

では「財産が戻らなかった人はどうなるのか?」「泣き寝入りをしなければいけないの?」と言うと、第三者ではなく持ち主(不在者の財産を引き継いだ人)には請求が可能です。

ただし、裁判で戦わなければならないので、泣き寝入りとなる事の方が多いかもしれません。

このように、法律は善意の第三者の権利を守ります。

でも、善意の第三者の権利ばかり守っていては、不在者は無一文になって生きていくことができません。

法律では公平を期すため、善意者と不在者に配慮しています。

善意の第三者にまだ渡されておらずに手元に残っている相続財産については、不在者は所有権を取り戻す事ができます。

売却した不動産や使用してしまった預貯金はどうにもなりませんが、不在者が死亡したとして相続者となって相続した不動産や預貯金が残っている場合は、不在者にそれらを返却しなければなりません。

しかし、一旦相続した財産を返却する事に納得しない人も多いものです。

悲しいことですが、法律的な理屈や不在者の立場に立って考える人が少ないのが実情です。

話し合いですんなり返してもらえれば良いのですが、故意に名義だけ変えていたり、悪質な財産隠しをして返してくれない場合は、所有権を取り戻す訴えを起こして、裁判で争うことになる可能性もあります。

連絡がつかないなら「不在者財産管理人の選任」

行方不明になって1年以上経過したら、不在者の財産を管理する人を選任することができます。

例えば、夫婦と子供2人の家族で説明しましょう。

このような家族構成であったとします。

・ 父親:隆(55歳)  会社員

・ 母親:幸子(50歳) 主婦

・ 長女:美幸(24歳) 社会人

・ 長男:隆一(20歳) 予備校生

長男の隆一は大学受験に失敗して東京の予備校に通うために予備校の寮に下宿していたはずなのに、ある日突然、「居なくなった」という連絡が、予備校からありました。

隆と幸子は、慌てて警察に行方不明者の捜索願を出しましたが、そのまま連絡もなく1年を過ぎてしま今した。

そんな時、隆の病気が発覚しました。

余命半年と医師の宣告を受けてしまたっのです。

幸子は、警察はなかなか動いてくれないので、探偵を使って方々手を尽くして探しましたが、いっこうに隆一の行方はわかりません。

そんな中、父の隆は病気で亡くなりました。

隆は、自宅の他に賃貸マンションをいくつか持っていて、株や預貯金を合せると8000万円ほどの財産を残しました。

しかし、隆は遺言書を残さず、法定相続人である長男の隆一も行方不明のため、配偶者と長女への財産の相続ができません。

そこで、幸子と美幸は弁護士に相談し、さまざまなアドバイスをもらいました。

① 不在者財産管理人を選任すれば、不在者(隆一)の行方が明らかになるまで、あるいは失踪宣告が確定するまで、相続分の財産管理(保管・運用・管理)を、任せることができる。

行方不明になって1年以上経てば、「不在者財産管理人」の選任を裁判所に申し立てることができる。

② 普通失踪の場合は、7年経過すれば失踪宣告を申し立て、死亡扱いにできる。

③ 不在者管理人の「権限外許可」の申請をすれば、不在者財産管理人は相続の協議や手続きの代理人の権限を得られる。

④ 不在者財産管理人は、相続の利害関係が無い信頼できる人、あるいは弁護士や司法書士等でなければならない。

⑤ 不在者財産管理人は、不在者の法定相続分以下となる相続の協議に承諾してはならない。

⑥ 不在者財産管理人は、不在者の財産の処分はできない。

⑦ 不在者財産管理人が弁護士等の専門家の場合、その報酬は不在者の相続財産から支払われることが裁判所の職権で許可される。

幸子と美幸は、隆一が失踪して1年を経過しているので、「不在者財産管理人」の選任を裁判所に申し立て、その際に「権限外許可」の申請を一緒にして、相続の手続きと一緒に「不在者財産管理人」を弁護士に依頼しました。

これらの全ての手続きも弁護士に一任しました。

不動産の名義変更等の手続きや、隆一の相続財産を何年も管理してもらわなければならないからです。

ただし、不在者財産管理人であっても、(長男が相続する予定の)法定相続分以下の財産の相続の承諾はできないので、法定相続分通りに分割することにしました。

財産は下記の通りです。

・ 自宅(家屋と土地):1000万円

・ 賃貸マンション:2000万円

・ 預貯金:4500万円

・ 株:500万円

法定相続分は、幸子は二分の一、美幸は四分の一、隆一は四分の一です。

そのため、既に社会人で会社の寮に住んでいる美幸は、自宅と賃貸マンションと預貯金1000万円を母親の幸子の名義に、預貯金1000万円を母親に、残りの預貯金3500万円と株500万円を幸子と隆一で半分ずつとすることにしました。

そして、長女:美幸は預貯金1500万と株500万円、長男:隆一は預貯金2000万円としました。

これで、自宅はずっと幸子が住めるし、賃貸マンションで生計も立てられるし、貯金も1000万円あれば何とかなります。

株は、財産管理人は処分ができないので、美幸が相続することにしました。

そして、隆一分の相続財産(預貯金2000万円)を弁護士が管理する事になりました。

その2000万円から、弁護士の費用も支払うことにしました。

2000万円あれば、少なくとも7年間は管理してもらえます。

失踪宣告をするかどうかは、7年後に考える事にし、今は幸子も美幸も隆一の帰りを待つことにしたようです。

このように、失踪宣告しなくても、行方不明者が行方不明になって1年を経過していれば、不在者財産管理人選任と権限外許可を家庭裁判所に申請すれば、相続手続きは可能なのです。

幸子富之の場合は、隆一が失踪してわずか1年だったので、まだ失踪宣告の申請はできません。

ですが、失踪宣告の申請ができる場合は、失踪宣告の申請と同時に不在者財産管理人の選任と権限外許可と両方の申請を一緒にすれば、取り敢えず相続の手続きは実行できます。

相続税の申告をして、失踪宣告が確定してから、過去の相続税の修正申告をすれば良いのです。

まとめ

いかがでしたか。

行方不明者が相続人の中にいる場合は、まずは不在者財産管理人の選任と、権限外許可の申請を裁判所にして、相続の協議や手続きを始めましょう。

そして、失踪宣告を申し立てるのであれば、失踪宣告が確定した後に失踪届を出して、相続の修正申告をすれば良いのです。

相続税は修正申告を後からする事ができるのですから。

ただし、相続の協議の際に失踪宣告が確定したら、不在者分の相続財産が再度分割されるのですから、どうすれば良いのかはコミュニケーションしておく必要があります。

裁判所の手続きがありますので、税理士よりも相続問題が得意な弁護士や司法書士がお勧めです。

費用面を考えるなら、司法書士をお勧めします。

しかし、相続協議にトラブルが生じそうな場合は、司法書士は140万円を超える裁判の代理人にはなれませんので、トラブルも含めてご依頼するなら弁護士に相談しましょう。

繰り返しになりますが、弁護士や司法書士の報酬は、不在者の相続財産から差し引かれます。

隆一のように、長く相続財産の管理・運営・保管をお願いする場合は、相続・企業関係に強い弁護士の方がお勧めかもしれません。

不動産が多く、預貯金が少ない場合は、報酬の支払いをどこからするかもご相談されると不安が少ないでしょう。

2019年4月5日
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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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