2019年2月5日 火曜日
相続人に相続させない方法、相続人の廃除とは
親子関係の決裂等で、「1円たりとも財産を遺したくない!」と思って遺言書を遺しても、法律が遺言者の思い通りにしてくれない場合もあります。
民法が認めた相続人(兄弟姉妹を除く)に「遺留分請求」というものを裁判所が認めてしまうからです。
民法は、可能な限りですが、あらゆる人に公平になるようにでき制定されています。
民法は相続人の正当な権利を守るために遺留分請求制度を作っただけでなく、正当な理由があるときは、相続人の廃除もできるように定めているのです。
自分が渡したい人だけに財産を全額遺したいと思った場合、法が守ってくれる相続人廃除の権利について解説します。
目次
相続人の種類
法定相続人
相続人は、だいたい3親等くらいまでです。
・第1相続人:配偶者と子(代襲相続あり)
・第2相続人:直系尊属(両親、親が亡くなっている場合は祖父母)
・第3相続人:兄弟姉妹
- 両親と子供1人の3人家族の家庭で、父親が亡くなった場合
亡くなった父親の配偶者の母親と子供で均等に相続します。
- 夫婦だけの家庭で夫が亡くなった場合
子供がいない場合は、妻は財産の半分を夫の両親、夫の両親が亡くなっている場合は、夫の兄弟姉妹に財産を取られてしまう、という話をよく聞きます。
しかし、それは間違いで、妻は財産の4分の3を取得できます。
残りの4分の1を夫の両親や夫の姉弟で均等割します。
夫の兄弟姉妹が亡くなっている場合は姪や甥に財産が代襲相続されます。
推定相続人
法定相続人の概念を理解していただけましたか。
ドラマや映画などで、父親の葬儀の後に、会ったこともない異母兄弟が出てきたり、亡くなったはずの兄が知らない間に結婚していて、その奥さんと子供が会いに来たりとか、妊娠している父親の愛人がやってきて、子供の認知を求めてきたりとか…etc.
あるいは、父親を毒殺した妻が相続欠格となったとか。
サスペンスやドラマでは、たくさんの相続トラブルが見られます。
完全に戸籍を整理して、相続の欠格者等を明確にして、法定相続人が確定するまでの間の法定相続人を「推定相続人」といいます。
相続人の地位を奪う相続廃除
相続廃除とは
将来被相続人になるべき人が遺言書を作って法定相続人となる予定の人(推定相続人)を廃除して相続させないようにしても、兄弟姉妹を除き配偶者・子・直系尊属までは、遺言書で相続の対象外とされても、裁判所に申し立ててれば、遺留分の請求をする事ができます。
相続廃除は、遺留分の請求ができる相続人の権利を廃除する、いわば遺留分請求権ごと相続権を奪い取ってしまう制度です。
相続廃除の理由
民法892条に、相続廃除の自由について、次のように定められています。
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
ただし、ここでいう「遺留分を有する推定相続人」には、配偶者・子・直系尊属までで、兄弟姉妹は含まれていません。
以上の文面から、下記の理由によって、相続廃除が認めらます。
- 被相続人に対する虐待
- 被相続人に対する重大な侮辱
- 推定相続人に著しい非行があった場合
それぞれ、具体的に解説します。
被相続人に対する虐待
介護が必要な状態だった被相続人に、毎日のように虐待と認められるような行為をしていたとか、健康であってもお金を一切与えない、食事を与えない、暴力を振るう等、被相続人の心身に苦痛を与える言動を、日常的に行っていたような場合に該当します。
被相続人に対する重大な侮辱
「重大な侮辱」とは、被相続人に酷い事を言った、仲が悪い等の理由で、被相続人が「財産を1円もやりたくない」と思ったとしても、それだけでは家庭裁判所は認めてくれません。
東京高裁の判例によると、両親の反対を押し切って暴力団員と結婚した娘が、父親の名前で勝手に結婚式の披露宴の招待状を送る経緯があり、その父親が家庭裁判所に、娘の相続廃除を申し立てた事例があり、裁判所が認めました。
その理由として、民法892条の「重大な侮辱」に該当するとしました。
「民法第892条にいう虐待又は重大な侮辱は、被相続人に対し精神的苦痛を与え又はその名誉を毀損する行為であって、それにより被相続人と当該相続人との家族的協同生活関係が破壊され、その修復を著しく困難ならしめるものをも含むものと解すべきである」と理由を述べています。
「重大な侮辱」とは、被相続人に推定相続人が、非常に大きな精神的苦痛を与え、名誉毀損し、もはや家族として平穏な生活を送れないような人間関係の崩壊した状態に陥ったと推定されるような状況に陥らせた行為のことをいうと、裁判所は解説しています。
これは、平成4年12月11日の判決ですが、この当時はまだ結婚式の主催者は親で有り、招待状は親の名前で出すのが一般的でした。
娘の結婚式の披露宴の招待状を父親の名前で送ったということは、招待状を受け取った招待客は、父親が、娘の暴力団との結婚を積極的に許し、姻戚関係を結ぶことを認めたと思ってしまいます。
もはや、父親の今後の人間関係に大きな障害をもたらすのは明らかです。
暴力団の親族というレッテルを貼られてしまいます。
この精神的苦痛は計り知れないものです。
父親は、社会的名誉を守るために、娘を勘当して、相続廃除を申し立てるのも、もはや仕方の無いことと、家庭裁判所が判断したということです。
このように、社会生活を平穏に送るため、あるいは平穏な生活を健康的に送るための大きな障害になるような精神的苦痛を受けたと、誰が聞いても推定できる客観的な理由で無ければ家庭裁判所には認めて貰えないのが現状です。
- 推定相続人に著しい非行があった場合
- 財産を勝手に食いつぶしたり処分したりした
- 競輪・競馬・ギャンブルで、多額の借金を作り、何度もその返済をさせられ、もはや縁を切るしか財産を守る手立てが無い
- 何度も犯罪行為を繰り返して警察のお世話になることが多い
- 重大な罪を犯して刑務所の中にいる
- 配偶者を廃除したい場合は、浮気や散財で婚姻生活を継続しがたい苦痛を味あわされるような理由がある事
- 相続人が養子の場合は、養子関係を継続しがたい事由がある事
これらの事由があった場合、夫婦関係や親子関係が崩壊してしまうかもしれませんが、このような事情があったとしても、100%家庭裁判所が相続廃除の申し立てを認めるとは限りません。
相続廃除の手続き方法
「推定相続人廃除の申し立て」を住所地管轄の家庭裁判所に、調停か審判の申し立てをします。
調停または審判の申し立てが受理され、調整や審判でその申し立てが認められた場合、審判確定の日から10日以内に、以下の書類を添えて「推定相続人廃除届け」を市区町村の役場に届け出ることで、手続きが完了します。
- 調停成立→「調停調書謄本」
- 審判確定→「審判常書謄本」
手続きが完了した後に、相続廃除した者の戸籍謄本を取り寄せれば、「相続人の廃除事由に該当した旨」がきちんと記載されていますので、確認することができます。
ただし、被相続人の気が変わって、相続廃除をした推定相続人に対し、「相続人の廃除取消し請求」を家庭裁判所に請求すれば、推定相続人の権利を復活させることができます。
2種類の方法
相続廃除の申し立ては、家庭裁判所に申し立てなければなりません。
そしてその方法は、「生前廃除」と「遺言廃除」の2つがあります。
どちらも先に述べた方法で、家庭裁判所に申し立てなければなりません。
生前廃除とは?
「生前廃除」とは、将来被相続人となる「自分の財産を1円たりとも譲りたくない」と思っている本人、あるいはその代理人(弁護士等)が行う申し立てで、裁判所が認めた後の役所手続きが滞りなく終了した後、しっかりと自分の目で「相続廃除」ができたことの確認ができます。
もしも、仲直りしたときには、相続廃除の取消し請求もできます。
遺言廃除とは?
一方、「遺言廃除」は、遺言執行人が同じ手続きを家庭裁判所に行うのですが、遺言執行者またはその代理人(弁護士等)が行う手続きですから、遺言書と遺言者が死亡したことを証明する戸籍謄本が必要です。
ただし、遺言者は死亡していますので、相続廃除が家庭裁判所で認められたかどうかの確認ができず、また廃除を希望する者への感情が誤解であったことが死後に判明しても取消しはできません。
必要な準備等
生前廃除の場合
- 相続廃除申立書
家庭裁判所に用紙があるので、家庭裁判所の窓口でもらって記入できる
- 被相続人の戸籍謄本
事前に役所でもらっておく
- 廃除したい相続人の戸籍謄本
事前に役所でもらっておく
- 手続き上必要な費用(収入印紙代)
- 印鑑(シャチハタ以外の認印)
遺言廃除の場合
将来被相続人になる者が、財産を廃除したい者(兄弟姉妹を除く推定相続人)の名前を書いて、その者には相続廃除の申し立てを行う旨を書き記しておけば良いだけなので、被相続人としては、最も簡単な手続きです。
しかし、いざその遺言者が亡くなったとき、遺言執行者が相続廃除の手続きを行わなければなりません。
遺言執行人とは、未成年者や破産者、法定後継人が必要な人物を除けば、親しい友人、信頼できる知人でも誰でも良いのですが、相続廃除の手続きもしてもらわないといけないので、法的知識が乏しい遺言執行者では、トラブルの元にもなりかねません。
そこで、相続廃除を求める等の複雑な遺言内容の遺言執行者には、弁護士等の法律の専門家がお勧めです。
- 相続廃除申立書
家庭裁判所に用紙があるので、家庭裁判所の窓口でもらって記入できる
- 申立人の戸籍謄本
申立人とは遺言執行者であり、そのものの戸籍謄本を役所からもらっておく
- 廃除したい相続人の戸籍謄本
役所からもらっておく
- 被相続人の除籍謄本
死亡した遺言者の戸籍謄本は、除籍謄本といい、死亡(除籍)したことがわかるようになっている
- 遺言書の写し
- 手続き上必要な費用(収入印紙代)
- 印鑑(シャチハタ以外の認印)
推定相続人の場合
例え、相続廃除したとしても、推定相続人の人数が減少するとは限りません。
相続廃除された場合、相続廃除が認められた人の代わりに、代襲相続が可能です。
代襲相続とは、相続人が死亡した場合によく聞く話だと思います。
例えば、ドラマやサスペンスで、死亡した兄の相続分が、兄の恋人のお腹の中の胎児が生まれたときに相続権が発生する、なんて話を見聞きしたことがあると思います。
このように、子の代襲相続権はその子供(被相続人の孫)が得ます。
ただし、配偶者には代襲相続権はありません。
直系尊属の場合、例えば親の場合は、祖父母が代襲相続権を得ることになります。
ちなみに、兄弟姉妹には遺留分はありませんが、兄弟姉妹にも代襲相続があります。
しかし、遺留分がないので、兄弟姉妹が遺言書で相続廃除された場合、その子供達が代襲相続権を主張するのは難しいケースが多いのが現状です。
例えば、子供のいない夫婦の場合、遺された配偶者を守るために、兄弟姉妹の相続権を遺言書で廃除するケースが多いのです。
しかし、本来兄弟姉妹にも財産を分けるつもりでいたが、兄弟姉妹の素行が原因で、遺言書で相続廃除をした場合は、その子達には罪はないので代襲相続が認められる可能性は残されています。
しかし、遺言書に兄弟姉妹に財産を遺さないと記載されている以上、遺留分請求ができないのですから、裁判所が認める可能性は低いでしょう。
相続廃除以外の方法
相続欠格という、民法が認めた相続権の欠格事由があります。
民法891条に明記されています。
- 1号:被相続人の生命を侵害した者
- 2号:被相続人の生命を侵害した者を知っていて告発しなかった者
- 3・4号:遺言者の意思を詐欺や脅迫等で妨害して、遺言者の思うとおりの遺言(書き換え・変更・取消し等)作成を妨害した者
- 5号:遺言書を偽造したり隠したり破棄したりした者
これらの相続の欠格者に該当した場合は、裁判等を得ずとも相続の権利はなくなることが民法965条に明記されています。
しかし、相続欠格者となり相続権を失っても、死亡したときと同じように、代襲相続は認められます(民法887条)。
まとめ
いかがでしたか?
「どうしても相続させたくない」、「1円だって遺したくない」「大切な人に全ての財産を渡したい」そのような感情を抱くことはあると思います。
そのような場合は、少なくとも意思表示として遺言書を遺しましょう。
遺言書だけでは、不当な相続要件と裁判で認められない可能性も否定できないので、公正証書遺言にしておけば、遺留分は否定できなくても裁判所も異論を唱えられない強い意思表示として認められます。
ただし、遺留分請求権だけは公正証書遺言でも否定できません。
遺留分さえも渡したくない場合は、この記事で紹介した相続廃除の申し立てや、相続欠格事由を見つけることです。
しかし、相続廃除の手続きは簡単でも、家庭裁判所がなかなか認めてくれない制度であることを認識しましょう。