2019年2月6日 水曜日
遺産相続時に兄弟間トラブルにならないために知っておくべきこと
遺産相続で、親が亡くなったとき、あるいは兄弟のひとりが亡くなって、その亡くなった兄弟に子供のいない妻が遺されたとき、そのような場合に相続争いが起きてしまう話を耳にしたことがある人も多いと思います。
でも、正しい知識を持っていると、トラブルも防ぐことができます。
そこで、この記事では、兄弟間トラブルが起きそうな事案に関しての相続知識について解説します。
ちなみに、2人兄弟だという設定で解説していきます。
目次
遺産相続の法定相続分
父親が亡くなって母親がいる場合
父親が亡くなって、母親が健在なときは、父親の財産を母親が2分の1、残りの2分の1を兄弟で半分ずつ均等に相続できます。
もし、子供(兄弟)が未成年で独立していない場合は、兄弟の相続分は母親が管理します。
もし父親の遺した財産が土地・家だけの時でも、子供の財産は母親の管理の下にあるので、母親が表向き全て相続するのが一般的です。
子供が結婚したり社会人だったりして、20歳以上の場合は、家を不動産として母と2人の子供で分けるとすると、家を売ってお金を作らないといけなくなります。
そうなると、母親の住む場所がなくなるので、子供達は相続放棄の手続きをして、土地・家の権利を母親の名義にすることが多いです。
土地と家を売ってお金に替えたときは、そのお金を2分の1が母親、4分の1ずつ兄弟で受け取ります。
父親が亡くなって、母親もいない場合
法定相続人は、子供(兄弟)だけですので、父親の財産全てを兄弟で2分割です。
兄弟が成人して独立している場合は、もしも財産が住んでいる家・土地だけだったら、話し合ってどうするかを決めるのが一般的です。
しかし、もしもまだ未成年でしかも2人とも保護者が必要な年齢であった場合、親戚に引き取られる可能性も考えられます。
その場合は、兄弟が受け取る財産の管理は親戚がする事になります。
また、親戚等引き取ってくれる親族がいない場合は、養護施設等に入所することになります。その場合は、財産の管理ができる年齢になるまで後継人、あるいは施設の職員の管理となります。
結婚している兄が亡くなった場合
遺言書がない場合
遺言書がない場合は、兄の妻に子供がいた場合は、親にも弟にも兄の財産の相続権は発生しません。
しかし、子供がいなかった場合は、親と弟にも法定相続人となり得る可能性が出てきます。
両親の両方、あるいはどちらかが健在の場合は、兄の妻が3分の2、親が3分の1で弟には財産の相続権がありません。
だから、両親が2人とも健在な場合は、3分の1を2人で半分ずつに、母か父の片方だった場合は、1人で3分の1全部となります。
また、両方あるいは片方の親が亡くなっていた場合でも、弟に親の代襲相続の権利は発生しません。
両親とも亡くなっている場合は、子供のいない妻と弟だけが法定相続人となります。
その割合は、妻が4分の3相続で、弟には4分の1の相続権が発生します。
遺言書があった場合
例えば法定相続の権利があるのに、遺言書によって相続の権利を排除された場合は、一般的に裁判所に法定相続人の遺留分請求ができるように思われています。
しかし、遺留分請求ができるのは親だけで、兄弟姉妹にはその権利はありません。
そのため、弟は遺言書によって遺留分請求することができずに、兄の財産の相続は諦めるしかありません。
ちなみに、遺留分請求とは、遺言書の内容が納得できない法定相続人が、裁判所に不服申し立てをする請求権のことであり、遺留分請求が認められた場合、法定相続人の取り分の半分を受けとる権利を手にすることができます。
例え息子の遺志であったとしても、遺言書に書かれたとおりに亡くなった息子の全財産を嫁が全て受け取ることが納得できない母親が、息子の財産の相続権の遺留分請求を裁判所に認められた場合、母親の法定相続分の半分である6分の1を相続できます。
遺産相続の分割方法
遺産相続の分割方法としては、金銭の場合は、法定相続の取り分で按分計算して、均等に分けることができます。
しかし、それが土地や不動産で均等に案分できない場合はどうしたら良いのでしょう。
とくに不動産の場合は、さまざまな状況で価値が変わってきます。
では、金銭以外の財産はどのように分割すれば良いのでしょう。
その方法としては、現物分割・個別分割・換価分割・代償分割の4つの方法があります。
順次解説していきます。
ちなみに、借金等の負の遺産も相続対象です。
負の遺産が多いときは相続放棄すればすむのですが、相続放棄は、プラスの財産も一緒に相続放棄となります。
そして、負の遺産も均等に法定相続人が分割して相続することになります。
現物分割
例えば、土地が2つあった場合、それぞれを共同名義にして共有財産にします。
その不動産を使用したい場合は、話し合って決めるか、2分の1ずつ所有して自由に使うか、駐車場にしたりして、その収入を分割する方法です。
あるいは、広い土地の場合は、分筆して各々が所有することもできます。
個別分割
同じく土地を例にします。
AとBの土地があったとします。
現物分割の場合は、各々の土地を共有したり、分筆したりして所有しますが、個別分割は、Aは兄、Bは弟といった風に、1つ丸ごと分割します。
家は兄に、別荘は弟に、といった分け方です。
しかし、その金銭価値が遺産の取り分に不釣り合いな場合が生じる事もあります。
代償分割
先に紹介した、土地A、土地Bの市場価格に大きな差がある場合、兄弟の場合は財産の取り分が不公平だと争いが生じるかもしれません。
その場合、その差額分を金銭で補うのが代償分割です。
極端な例でいうと、結婚して子供のいない夫婦だった兄が亡くなり、遺産相続人が兄の妻と弟の場合です。
遺言書がない場合で、兄の財産は分譲マンションだけだったとします。
妻の相続財産は4分の3、弟は4分の1です。
貯金がなく、マンションを売ると中古物件として2000万円ほどになるとします。
しかし、マンションを売ると妻の住む家がなくなります。
そこで、マンションを妻の名義にして、弟には4分の1の500万円を妻の貯金から支払うのです。
これを代償分割といいます。
遺産相続の順位を理解しておく
親が亡くなった場合
両親の片方が死んだ場合は、例えば父が死んだ場合、遺された母と子は第1相続人です。
母が2分の1、兄弟が2人で2分の1ですから、兄と弟は均等割で、4分の1ずつとなります。
そして遺された母親が亡くなったときに、母親の財産を兄弟で均等に相続します。
妹が亡くなった場合
しかし、妹が亡くなって、その兄弟の場合の遺産相続の順位が複雑になります。
未婚の妹の場合は、妹の預貯金や財産は、第1相続人は親です。親がない場合は第2相続人として、兄弟で均等割です。
既婚の妹の場合は、第1相続人は配偶者と子です。
第2相続人が直系尊属(親)です。
第3相続人が兄弟姉妹となります。
未婚でも妹に子供がいたら子供が第1相続人です。
第2相続人が直系尊属(親)です。
第3相続人が兄弟姉妹となります。
親には代襲相続はありませんが、妹の子供には代襲相続があります。それは妹が亡くなったときにまだ胎児でも出産した時点で相続権が発生します。兄弟姉妹にも代襲相続があります。
遺産相続時の兄弟間でのトラブル事例
両親と子供4人。子供達は全員結婚しています。
そして、長男英一は、父親が亡くなる2年前に、先に逝ってしまいました。
長男(英一)の財産は、英一の妻(華)と娘(花子)で相続しました。
長男夫婦と娘は、両親と同居していたのですが、妻(華)は義母との折り合いが悪く、家を出たいと言い出しました。
長男(英一)がいない以上、嫁(華)を家に縛るわけにはいかず、嫁が孫(花子)を連れて家を出ることを両親は納得しました。
しかし、病気がちな母親の面倒を看るために、両親の家に誰か他の兄弟が同居をしなければなりません。
そこで、「嫁である立場を放棄する以上、娘(花子)の相続権も放棄します」とまで主張する兄嫁(華)に誰も文句を言うことができず、遠方に住む弟(英二)が転職してまで、妻(貴子)と息子(英貴)を連れて引っ越してきて、両親と同居をする事になりました。
その半年後に父親が亡くなり、さらに1年経って、母親が脳梗塞で寝たきりになりました。
その時、突然長男の嫁(華)が母親のお見舞いに娘(花子)を連れて、英二達の家に訪れたのです。
「改心して長男の嫁の務めを果たしたいので、お義母さんを最後まで面倒を見たい」と言い出したのです。
しかし、弟の嫁(貴子)が毎日義母の介護を一生懸命しています。
ご近所とも仲良くなっていました。
何より英二は会社を辞めて転職して、母親の面倒を嫁(貴子)に任せて働いているのです。
おかしいと思った姉(英子)が調べた結果、華は失業して生活が苦しくなって実家に帰ったが、実家には弟夫婦がいて居辛く、「自分が長男の嫁だから、弟夫婦にこれ以上迷惑をかけたくない」と言い出したということが判明しました。
しかし、「財産はいらないから家を出ることを許して欲しい」との約束は反故になりました。
書面などに残さず、口約束のみで認めてしまっていたからです。
それから泥沼の争いになりました。
華は、長男の嫁だということを主張し、自分から家を出て行ったのに、「自分は英二夫婦に追い出されたから、仕方なく働いていたけど、もう行く当てがもう無い」と仲人さんに泣きつき、家に居座りました。
姉(英子)の夫の会社にもやってきて、涙ながらに訴えたりもしたそうです。
それでも、末の弟(英二)が可哀想だと、他家に嫁いだ姉2人が夫を巻き込んで猛反対し、長男の嫁に出ていってもらうよう何とか説得しました。
ただし、可哀想に思った姉達が、長男の嫁(華)が死んだときにお墓にだけは入れて上げる事を約束し、その代わりに華には、「財産については一切請求をしない」と誓約した覚え書きを書いてもらい兄弟で出し合って、生活の足しにと100万円ほど渡したそうです。
その後、母親が亡くなり、正式に弟(英二)の息子(英貴)が後を継ぎました。
家の名義を母から孫(英貴)へと変えようとしたとき、戸籍謄本を見た法務局の職員が、長男の娘(花子)がいることを知って、その娘にも財産放棄の手続きに署名捺印をもらうようにと、指導されたそうです。
長男の嫁には法定相続人ではないので、孫の花子に代襲相続があります。
それは、母親が相続放棄の誓約書を書いて、どんな約束をしてもお金を渡したとしても、花子の意思ではないため、手続き上は関係ないということでした。
跡継ぎの英貴は、従姉妹にあたる花子に連絡をとりましたが、花子は母親から小姑達に追い出されたと聞かされて育っていて、一切財産放棄手続きに協力をしようとしません。
誓約書には、「財産の請求を一切しない」と書いてあって、「財産放棄の印鑑を押す」約束はされていないのです。
だからといって、花子が財産放棄を覆すつもりはありませんでした。
花子は、母の「父と一緒のお墓に入りたい」という願いを叶えてあげるため、母親の華の誓約書を無効にするつもりはないそうです。
それから10年。未だ、家の名義変更がなされないままです。
固定資産税を払い、家の改修工事もし、家に住んでいる英二夫婦と息子(英貴)に、民法162条2項で所有権の移転がなされました。
ちなみに民法162項2項は以下の通りです。
民法162条2項「十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」
そして今年、長男の嫁の華が亡くなったと、娘の花子から英貴のところに連絡がありました。
華は約束通り、夫と一緒のお墓に納骨されたそうです。
トラブルを未然に防ぐ方法
トラブルを少しでも防ぐには、遺言書を作っておきましょう。
しかも、公正証書遺言にしておくと、遺留分請求は防ぐことはできませんが、その他の裁判所への不服申し立ては却下となるので、争いを最小限にする事ができます。
遺産相続には、生前の相続放棄という制度はありませんが、生前の遺留分請求権の放棄という制度はあります。
自分の死後に遺産相続争いを避けるために、遺言書を遺す方法もありますが、遺言書に納得できない法定相続人は、裁判所に遺留分請求を申し立てるかもしれません。
ですから、遺言書を作ったときに、遺留分請求する権利を持つ法定相続人に、遺留分請求をしない誓約書を書いてもらって公正証書にしておくことをお勧めします。
誓約書は、何かの行き違いがあって、裁判書に申し立てをされたら、その行き違いが生じたことの顛末によっては、あるいは、誓約書を作った経緯に勘違いがあったり、その他さまざまな理由から誓約書が無効になってしまう可能性があります。
そうなっては意味がないので、その誓約書を公正証書にしておけば、異議申し立てのしようがなく安心です。
トラブルが起きたらご相談ください
財産のトラブルが生じた時は、迷わず弁護士を立てましょう。
先に紹介した、華と花子の例のように、時が経つと生活環境や事情が変わってきます。
約束事は、弁護士を入れて誓約書を作っていないと、後で大変なことになるのです。
相続問題は、優しさが仇になることもあれば、心の行き違い、さまざまな問題が思ってもみない状況で起ります。
そんな時、法律家に相談したら、思ってもみない方法で一気に解決することもあるのです。