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【相続人について 】
相続人について説明しています。相続人とは、亡くなった方の財産を引き継ぐひとのことをいいます。法律で定められた相続人を法定相続人と呼び、順位によって受け取る財産の配分に違いがあります。

2019年8月16日 金曜日

相続人に認知症の方がいるとき、遺産分割協議はどうすればいい?

みなさんはご自身の相続について考えたことはありますか?

相続法の改正によりメディアに取り上げられる機会が増えたことで、ご自身や身内が亡くなった際には相続がどうなるのかと不安に思う方も多いでしょう。

相続を考える年齢は、高齢になってからで良いと思いがちです。

しかし高齢になると手足が不自由になったり、認知症になるなど意思能力が低下する可能性が高くなります。

近年では超高齢化社会となり、家族に認知症を患っている方が増えています。

そのため家族の死後、遺書が見つかったが当時認知症を患っていたため、スムーズに相続の手続きができなかった、相続人が高齢で手続きするのが大変だったというケースも多くあります。

認知症は誰にでもなりうる可能性があり、すでに認知症のご家族がいる方や、将来もし自身が認知症になったら相続はどうするのか、不安な方もいるでしょう。

今回は、相続での認知症に関するよくある問題やトラブル防止を解説しますので、事前に対処方法を押さえておきましょう。

 

認知症の相続人がいる場合どうなる?

高齢化が進み、夫婦のどちらかが認知症という家庭が増えてきています。

父親が亡くなり相続が開始した際に母親が認知症だった場合、子供たちは母親の負担を減らすためにも、母親を除いて遺産を分ける話し合いを行いたいと考えるケースがあります。

しかし症状の進行度合いにかかわらず、認知症であっても相続人であることに変わりはありません。

もし相続する方の中に認知症の方がいた際の相続に関する手続きはどうなるのでしょうか。

 

遺産分割協議を実施できない

一般的には相続が発生した際に遺書がなければ遺産分割協議を行い、相続する全員が納得する遺産分配を実施します。

しかし認知症の症状が重く自身で物事が決められない、判断できない、自分の意思が伝えられないといった症状があると、遺産の分割の話し合いに参加はできません。

認知症だけでなくその他の精神疾患があり、物事を理解し判断する能力が乏しい場合も同様です。

遺産分割協議を行うには正しい判断を行える人というのが前提としてあるため、認知症で意思能力が著しく低下している方が相続人にいた場合、遺産の分割協議は実施できないのです。

仮に相続人に認知症の方がいてその方を除いて遺産分割協議を行った場合は、その内容は無効となります。

また、認知症の方も含め無理に遺産分割協議を行った場合は、悪意があると判断され相続財産が不利益になる可能性があります。

 

遺産分割協議ができない場合の影響

相続人に認知症や精神疾患がある方がいて遺産分割協議を行えない場合は相続にどのような影響があるのでしょうか。

下記に相続する際の問題となるものをあげてみました。

<法定相続分しか相続されない>

相続が発生した場合、認知症の方を相続人から除外して相続人の人数を減らすということはできません。

一般的には相続を行う際には相続する人たちで協議による遺産の分割を行い、自分の納得できる割合で話し合いをすることができます。

しかし相続する方の中に認知症の方がいる場合には、遺産分割の話し合いができいため、法定相続分の割合で相続することになります。

<相続税対策ができない>

認知症になった方は、意思能力がない方として法律上扱われます。そのため判断力が乏しい方がした契約は、無効や取り消しとなってしまします。

もちろん相続対策についても法律行為として取り扱われるため、認知症の方が相続対策として契約したものも、無効となってしまいます。

<不動産が共有となる>

不動産を相続する際に一般的には名義を相続人の中の一人が取得することになります。

遺言があれば話は別ですが、ない場合は遺産分割協議を行い誰が相続するのか決めます。

しかし相続人に認知症の方がいて遺産分割協議を行うことができない場合は、その方の生活の保障のためにも相応の財産を別で与えない限り、不動産の名義は相続人全員の共有となってしまいます。

 

遺産分割協議を可能にするには?

遺産分割協議が行えないと、遺書がある場合を除いて法定相続分でしか相続することができません。

では意思能力がないと判断された認知症の方が相続人の場合は、全てそのようになってしまうのでしょうか。

認知症の方が相続人となっても遺産分割協議を行う方法がありますので、その方法と手続きについてご紹介します。

 

成年後見人を立てる

認知症や精神疾患がある方が相続人となった場合で遺産分割協議を行うには代理人を立てる必要があります。

その代理人を立てる制度が成年後見人制度です。

成年後見人制度は法律上で定められており精神障害(認知症・知的障害・精神障害など)により、判断能力がかけている状態にある方を保護・支援するための制度で、成年後見人を代理人として遺産分割協議を行うことが可能となります。

 

成年後見人とは何か?

認知症や精神障害がある方は、自分の意志で契約をしたり身の回りのことをするなど難しい状態にあります。

自分の利益のことを考えるのが困難であるために、自分に不利益な契約であっても同意してしまい意思を操作されたり悪徳な被害に遭ってしまう可能性があります。

同じように、認知症の方などを保護・支援する制度が成年後見人制度です。

成年後見人には「法定後見制度」と「任意後見制度」があり、法定後見制度ではその方の判断能力に応じて選べる制度となっています。

成年後見人には家庭裁判所によって選ばれた本人の親族以外に、法律・福祉の専門家やその他の第三者、福祉関係の公益法人などが選ばれます。

成年後見人を複数選ぶこともでき、本人の利益を考えて不利益となった場合は取り消しを申し出るなど、本人を尊重して意見ができます。

また任意後見制度とは、本人の判断能力があるうちに将来に備えて代理人の契約を結びます。

そして本人の判断能力が低下した際に家庭裁判所が選任した任意後見監督人のもと、本人の保護・支援を目的として適切な対処をすることができます。

 

成年後見人を立てるにはどうすればいい?

成年後見制度を利用する場合は、本人の住んでいる地域の家庭裁判所や地区町村の高齢福祉課に相談しましょう。

また、社会福祉協議会や弁護士事務所など民間の団体にも相談することが可能です。

市区町村では制度を利用する方に対して申立経費、成年後見人等の報酬費用の全部または一部について助成を受けられます。

申し立てには本人、配偶者、四親等内の親族が行います。

しかし親族等の支援が困難な方は市区町村長が後見開始の審判申し立てを行います。

 

成年後見人を立てるデメリット

認知症、そして精神障害のある方を保護・支援する目的で利用する成年後見制度ですが、利用することで生じる問題点があります。

知らずに申し立てを行ってしまい取り返しのつかないことにならないよう、事前に知っておきたいデメリットをまとめました。

<財産の処分を自由に行うことができなくなる>

成年後見制度は本人の財産を守るための制度なのでご本人が望んだとしても、不必要な財産処分は行うことができません。

例えば相続税対策としての生前贈与や資産運用をなどを行いたいとしても、財産に関する変更、運用などの利用ができなくなります。

その他、生命保険の契約や投資、多額のお祝い金を出すことも原則としてできなくなります。

<成年後見人には必ずしも親族がなれるわけではない>

基本的には親族が後見人に選ばれることが多いのですが、中には本人の財産を後見人である親族が使い込んでしまうケースもあります。

家庭裁判所の裁判官の判断によりますが、財産が多い場合は弁護士や司法書士などの法律の専門家が成年後見人になることもあります。

<成年被後見人になる人は一定の職に就くことができなくなる>

認知症などにより判断能力が低下してしまい成年被後見人となった場合は、株式会社の取締役や監査役、地方公務員、司法書士、弁護士、医師、薬剤師など法律で定められた仕事ができなくなります。

<後見人の申し立て後は簡単に解任することはできない>

後見人に不正な行為、後見の任務に適しない事由、などがない限りは簡単に解任することはできません。

しかしそうした事由が発生した場合は、家庭裁判所は申立権者の請求により解任することも可能です。

<本人の生活や財産は家庭裁判所や弁護士など第三者の監視下となる>

審判を受けて後見がスタートすると、被後見者が亡くなるまで財産の管理を行う必要があります。

そのため本人の生活や資産に関する状況を家庭裁判所に提出する義務が発生し、手間とストレスを感じる方もいます。

<後見人に支払う報酬が負担となる>

親族が後見人となれば報酬が発生しない場合もありますが、弁護士などの専門家が後見人になった場合、被後見人は報酬を支払わなければなりません。

支払う報酬は家庭裁判所が決めることになっていて各家庭裁判所によって多少額が異なります。

成年後見人が通常の事務を行った場合の基本目安額は月額2万円ほどです。

しかし、管理する財産の額が多い場合やその他の事務行為を行った場合にはさらに支払う報酬額は高くなります。

その他の事務行為とは、遺産分割調停や不動産の処分・管理、保険金の請求などで相当額の報酬を付加するこになります。

そして基本額は被後見人が亡くなるまで支払うことになるので費用面での負担も大きくなります。

 

成年後見人を立てずに相続を進めるには?

必ず成年後見人制度を利用しなければならないという決まりはありません。

成年後見人制度は、あくまでも認知症などで自分の意思による判断ができない方を保護・支持するための制度なので、遺産分割協議をするためのものではないことを理解しておかなければなりません。

一般的には相続手続きには遺産分割協議を行い相続人全てが納得いく割合で財産をわけます。

しかし相続人に認知症の方がいるため、遺産分割協議ができないとなっては後見人制度に頼るしかないのでしょうか。

 

被相続人が有効な遺言を書いておく

成年後見人を立てずに相続を進める方法の一つとして、被相続人が遺言を書いておくことがあげられます。

認知症であるからといって必ずしも遺言能力がないと判断されて遺言が書けないわけではありません。

認知症の方でも意思能力が一時的に回復した際に、医師二名以上の立会のもと遺言を書く事が可能となります。

その際に医師は遺言書に、遺言を書いたものが意思能力があった旨を付記して署名・押印する必要があります。

後見人がいる場合や公正証書を作成する場合も同様に、必ず遺言者が正常な判断能力があったと証明しなければ遺言書は無効となります。

結果的には、認知症であっても意思能力の証明がきちんとされていれば有効的な遺言書を書く事が可能となり、遺言書に財産の分配方法を指示しておくことで遺産分割協議を行わずに相続することができます。

 

その他の方法は現実に難しいことも

遺言書以外の方法で遺産分割協議を行わずに相続するには、そもそも遺産分割協議を行わないという選択肢があります。

遺言もなく遺産分割協議も行わない場合は、相続人には法定相続分が相続されます。

しかし相続人に認知症の方がいる場合、法定相続分で相続を行う際に様々な点で問題が生じます。

被相続人が亡くなった事実を知ったと同時に、金融機関の故人の口座が凍結します。

凍結を解約するには、相続人全員が参加する遺産分割協議をする必要があります。

その際に相続人に認知症の方がいた場合、成年後見人を立てずに遺産分割協議をすることはできません。

また、不動産を相続する際の遺産分割協議を行うことができない場合、法定相続分での共有となってしまいます。

これもまた遺産分割協議を行うには成年後見人が必要となります。

先ほど成年後見人制度にはいくつかのデメリットをご紹介しましたが、成年後見人制度は財産管理や費用の面でも負担が大きく、実際に利用して後悔したという方が多く現実的に難しいと言えます。

 

できれば遺言作成を

相続において被相続人は高齢なケースが多く、その中で認知症であった方も少なくありません。被相続人だけではなく、相続人においても同様です。

今回の記事では認知症や精神障害がある方が相続に関わる場合、様々な問題があることがお分かりいただけたと思います。

認知症を発症してしまうと財産を自由に使うこともできず選択肢の幅が狭くなってしまいます。

そして認知症の方自身が行動することは難しく、気づいたときには進行が進んでしまっていたとなっては家族もその後の対処が難しくなります。

しかし認知症の方でも法的に有効な遺言書を書く事は可能ですので、スムーズな相続を行うためにも遺言書を書いておくことをオススメします。

また、自身は大丈夫と思っていても誰しもが成りうる可能性のある病気ですので自分の意思がはっきりとしているうちに早めの行動を起こしましょう。

何かお困りのことがありましたら、専門家に相談してみてください。

2019年8月16日
胎児も遺産相続できる!相続権が認められる場合とは?
監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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