2019年2月4日 月曜日
相続財産は相続人の順位で分割割合が決まる
相続財産の分割割合が、相続人によって異なるのはどうしてなのでしょう。
例えば、子のない夫婦で、妻が残された場合、義父母が相続人の場合は、妻の取り分は3分の2、義父母ではなく兄弟姉妹が相続人の場合は、妻の取り分は4分の3です。
妻の場合、相続順位は同じなのに、他の法定相続人によって取り分が異なっています。
実は、相続財産の取り分は、相続順位によってその分割割合が決まっているので、相続財産の取り分が違ってきます。
そこで、この記事では相続順位と分割割合について詳しく解説します。
目次
相続時の相続人とは
遺言書が遺されていない場合は、民法で定められている「法定相続人」のルールで相続財産の分割が行われます。
法定相続人には、順位が決まっています。
亡くなった人を被相続人といいます。
そして、その被相続人との関係(続柄)によって相続人の順位が決まります。
では、その法定相続人の範囲と順位を紹介しましょう。
1位:配偶者
1位:子(代襲相続あり/非嫡出子は法定相続人の2分の1)
2位:直系尊属(代襲相続無し)
3位:兄弟姉妹(代襲相続あり)
相続人の順位毎の相続分
では、次に相続人の順位と、相続の分割割合を紹介しましょう。
配偶者がいる場合は、常に配偶者の法定相続順位が1位です。
そして、子供も法定相続人の順位が1位です。
配偶者:子=1:1
しかし、子供の人数全員で全財産の2分の1を均等割するので、その取り分は、子供が1人なら配偶者と同じ割合となります。
もし2人なら4分の1ずつ、3人なら6分の1ずつとなります。
つまり、子供1人の取り分は、全財産の「1/{2×(子供の人数)}」なのです。
もしも配偶者がいない場合は、子の取り分は全財産を均等割です。
しかし、配偶者がいて子がいない場合は、相続順位2位の直系尊属に相続権が発生します。
配偶者:直系尊属=2:1
ここでも子供のときと同じで、直系尊属が1人の場合は3分の1を1人で、両親が揃っているときは3分の1を2人で均等に分けるので、6分の1となります。
直系尊属がいない場合、初めて兄弟姉妹に相続権が発生します。
配偶者:兄弟姉妹=3:1
ここでも子供のときと同じで、兄弟姉妹が1人の場合は4分の1を1人で、兄弟姉妹の人数で4分の1を均等に分けるので、全財産の「1/{4×(兄弟姉妹の人数)}」となります。
さて、ここで、数字のルールにお気づきでしょうか?
割合は、順位が逆転しています。
どんなときも配偶者が1番です。
だから、配偶者が相続人の場合は、配偶者の割合は、「配偶者以外の法定相続人の順位」、配偶者以外の法定相続人は「1」となっています。
法定相続人の順位が低いほど、分割割合が少なくなります。
配偶者がいる場合は、次の公式が成立します。
- 配偶者=「配偶者以外の法定相続人」の順位/「配偶者以外の法定相続人」+1
- 配偶者以外の法定相続人=1/「配偶者以外の法定相続人」+1
遺言がある場合の相続順位
遺言がある場合の相続順位は、法定相続の順位を完全に無視したものとなります。
すなわち、法的に有効な遺言書であれば、その内容が、法定相続人の相続順位に優先します。
しかし、法定相続人としては、その遺言書の相続順位や相続の分割方法に、どうしても納得できない場合もあります。
そういった我慢ならない不服がある場合は、法で定められた法定相続人の中には、法定相続人としての取り分の2分の1を遺留分として請求する権利(遺留分請求権)がある人がいます。
遺留分請求権を法が認めている法定相続人は、被相続人との続柄が、戸籍上配偶者・子(養子を含む)・直系尊属の地位にある方のみで、兄弟姉妹の地位にある人には、遺留分請求権がありません。
そして、遺留分請求の実行をするためには、自分が遺留分請求権のある法定相続人となる身分であることを証明する戸籍謄本等の証拠を添えて家庭裁判所に申し出て、まずは遺留分請求権を認めてもらうという手続きを踏まなければなりません。
また、被相続人の遺言書によって相続人になった人でも、相続欠格人である場合は、その相続権を失ってしまいます。
様々な相続順位のパターン
定食屋さんを営んでいる夫婦がいます。
また、妻は栄養士の資格があり、その資格を利用し、お店のメニューはカロリー制限メニューとし、予約をしておけば、糖尿食・減塩食等の献立でメニューを考えて食事を提供するサービスとしています。
このような妻のさまざまなメニュー開発で、定食屋とはいいつつ、テレビでも紹介される人気レストランとなっています。
しかも、周辺はオフィス街ですから、昼と夜は大忙しです。
そこで、中学生の娘も学校から帰ってくるとお店に出て、両親の手伝いをしています。
今やこの定食屋の看板娘となっています。
わかりやすいように、登場人物に名前をつけます。
定食屋さんを営んでいる夫婦は、隆と佳子、看板娘の長女は佳美です。
この設定で、解説していきます。
夫(隆)が亡くなった場合|離婚した前妻との間に子がいる家庭の場合
しかし、定食屋は、この夫婦が結婚する前、夫が前妻と結婚している間に前妻の承諾を得ないまま会社を辞めて勝手に始めたお店でした。
当時の妻(前妻)は夫が会社を勝手に辞めたことが許せずに、その半年後、息子を連れて家を出て、その後別居生活5年を経て離婚をしました。
現在は息子夫婦と一緒に暮らしています。
隆の前妻は、美由紀、長男は隆司です。
さて、ある日、隆が脳梗塞で倒れて、数日間で亡くなってしまいました。
その後葬儀を行い、妻である佳子は前妻にも連絡し、前妻の息子にも父親との最後の別れをしてもらいました。
この佳子の思いやりが仇になりました。
なんと、葬儀の後、定食屋の権利を隆司が主張してきたのです。
この定食屋は、隆の両親が住んでいた家を両親亡き後に相続して、家を取り壊して定食屋にしたのですが、この家は、オフィス街の一等地に有り、今や坪単価数百万円もするのです。
隆が相続したのは美由紀との離婚の後で、相続当時はそうでもなかったのだそうですが、その後行政の都市開発の影響で、一気に坪単価が高騰したのです。
確かに、隆司は隆の子供です。
ですから、隆司は隆の法定相続人となります。
しかし、定食屋に前妻の美由紀と隆司は一切関わっていません。
それどころか、この定食屋がきっかけとなって別居し、離婚しているのです。
佳子が隆と出会ったのは、隆が美由紀と別居を開始した直後で、隆が定食屋のパートを募集したのがきっかけです。
佳子は美由紀とあったことはないのですが、美由紀の話を当時は店長だった隆から前妻と息子の話を聞いていました。
隆が美由紀と離婚して、数年後佳子は隆と結婚して、娘(佳美)を生んでいます。
それから、佳子は佳美をおんぶして定食屋に立ち、家族3人でがんばって定食屋を営んできたのです。
今でこそテレビで紹介される人気店ですが、その当時はまだまだ小さな定食屋でした。
その後、佳子のメニュー開発で、それがメディアで話題を呼び、今のような人気店となったのです。
ところが、葬儀の数日後、前妻とその長男の美由紀と隆司は、初めて定食屋を訪れ、初めて発した言葉が、相続権の主張です。
隆は突然の死だったことで、遺言書はありません。
本来、美由紀と隆とは15年も会っていないのです。
しかし、佳子は生前隆が息子の隆司と会いたがっていたので、隆が亡くなったときに、その思いを叶えようと勇気を出して美由紀に連絡をしたのです。
あんなに隆と会うことを拒否していた美由紀が隆司を連れていそいそとやってきたと思ったら、遺産相続の話のためでした。
隆司は土地の値段まで調べてきて、「店をたたんで、土地を売ったら1億円くらいになる」と言い出したのです。
確かに法定相続人としては、配偶者である佳子が2分の1、隆と佳子と娘の佳美、隆と前妻の息子の隆司が、子の相続分として半分ずつ、すなわち4分の1ずつ相続する権利があります。
土地だけでも1億円だとすると、2500万円以上の相続権が隆司にもあるのです。
しかも隆司は、会社の利益や隆名義の預貯金の相続権も主張しています。
佳子としては、会ったこともない隆司に遺産を2500万円も渡さないといけないなんて、夢にも思いませんでした。
今や、この定食屋は、佳子と佳美にとっては、亡き隆の思い出であり、形見でもあります。
しかも、隆と佳子の働きで大きくなった店です。
土地の相続権の主張だけならまだしも、店の売り上げから貯金してきた預貯金まで相続を求めるのは、あまりにも理不尽だと佳子は思いました。
それまでも、隆の養育費だけでなく、教育資金・留学資金といったお金を要求され、その都度支払ってきています。
会うことも許されない息子への思いから隆が払いたいというので、佳子も黙って振り込んできたのです。
店を簡単にたたむことを決める隆司の遠慮のない相続の主張に、佳子は我慢がならず、ついに相続争いの裁判となりました。
佳子の主張は、土地は隆が父親から相続した物なので、土地の2500万円の隆司の相続を認めたとしても、店の権利を一切渡したくないというものでした。
佳美も佳子の意見に賛同しました。
しかし、定食屋の社長は隆であり、定食屋は家族経営ですから、店の利益は税務上店の通帳とはいえ、隆名義です。
家の預貯金も隆名義でした。
これら隆名義の預貯金を全て隆司の相続対象にすると、店をたたむしかなくなってしまいます。
もちろん、隆司はそう主張して、この土地にマンションを建てて、そのマンションに佳子と佳美にも住まわせ、隆司夫妻と母の美由紀も一緒に住むつもりでいます。
そして、家賃収入を目論んでいるのです。
夫(隆)の父親がなくなった場合
話は少し遡り、隆の母親も解説の便宜上加わります。
新しい登場人物を紹介しましょう。
隆の父親は隆三、母親は恭子といいます。
隆は介護施設に入居している認知症の父親(隆三)がいて、隆の前妻である美由紀は、隆三が自宅にいる間3年ほど介護をしていました。
つまり、隆と美由紀と隆司は、隆の両親の家に同居していたのです。
隆は美由紀と離婚後、両親が住んでいた家を改築して食堂兼住居に建て替え、母親と一緒に暮らしていたところに、佳子がお嫁に来て佳美も生まれ、おばあちゃんと息子夫婦と孫の4人暮らしに変更します。
父親の隆三が亡くなりました。
隆三の法定相続人は、配偶者と子です。
隆三の妻であり隆の母親である恭子と隆が相続人となります。
ところが、隆三は、自分の介護を親身になってやってくれた美由紀にも相続させたいと考え、自分が亡き後、妻の恭子と息子の隆だけでなく、隆の前妻である美由紀も相続に加えるために、遺言書を作っていました。
遺言内容は、「恭子(妻)に家と土地と預貯金の3分の1、隆(子)と元嫁の美由紀に預貯金を3分の1ずつ」という内容でした。
恭子と美由紀は嫁姑としての折り合いが悪かったので、恭子は美由紀のことをよく思っていません。
本来なら、美由紀は相続を一切できない身分です。
しかも、隆と離婚をしてから、孫の隆司を隆と自分に一切会わせないような憎き元嫁です。
恭子は、現在の嫁で、自分を大切にしてくれる佳子に相続権が無いのに、どうして元嫁に相続権があるのか理解できませんでした。
そういった理由で、どうしても夫の遺言に納得できない恭子は、少しでも美由紀に財産がいかないように、遺留分請求をするように隆に言いました。
隆三名義の土地は、坪単価が非常に高いので、恭子は法定相続の2分の1以上に財産を受け継いでいることになりますから、遺留分請求をする立場にないからです。
だから、隆にだけ遺留分請求の訴えを起こすよう要求したのです。
恭子は、嫁の佳子のためにも、土地と家の名義は隆にしても良いと思っています。
隆は息子隆司には養育費を支払っているので、佳子の手前、美由紀に財産を渡すのには不服であり、母親の恭子に従って、家庭裁判所に遺留分請求をしました。
隆三の土地に比べたら預貯金なんて微々たる金額です。
家庭裁判所は隆の訴えを認め、美由紀の取り分はゼロになりました。
恭子は、家と土地の名義を隆の名義にしました。
その結果、隆が財産のほとんどを相続することができ、隆は母親の恭子と妻の佳子、娘の佳美と自宅で暮らすことになりました。
妻(佳子)が亡くなった場合|佳美に異母兄弟がいる(夫の前妻の息子)場合
妻がなくなった場合、法定相続人は配偶者と子が2分の1ずつです。
そのため、夫である隆と娘の佳美が相続することになります。
隆には、前妻との子供隆司がいるので、佳美と隆司は異母兄弟となります。
しかし、被相続人佳子と隆司には血縁関係はないので隆司に相続の権利はありません。
佳子と佳美が一緒に亡くなった場合
佳美も結婚して家庭を築きました。
佳美の夫は、仁司といいます。
仁司は、普通のサラリーマンでしたが、脱サラして定食屋の跡取りとして調理師になり、隆の手伝いをしていました。
佳美と仁司は定食屋のすぐ近くのマンションに住んで、ふたりはそのマンションから定食屋に通勤していました。
そんな平和の暮らしの最中、佳子と佳美が、交通事故で一緒に亡くなってしまいました。
しかし、佳子は即死、佳美は救急車の中で亡くなりました。
この場合、相続が2件順次発生します。
佳子の相続、その数時間後に佳美の相続です。
佳子には母親(美佳子)がいました。
もしも、佳子と佳美が同時に亡くなっていたのなら、佳子の法定相続人は佳子の母親の美佳子と隆です。
その相続割合は「配偶者の隆:母親の美佳子=2:1」となります。
しかし、実際は、佳美が数時間後に亡くなりました。
法定相続人として妻の財産は、配偶者と子に半分ずつ相続されます。
そのため、瀕死の状態でも、相続権が佳美にも発生します。
そして、佳美が亡くなることで、佳美の財産の法定相続人は、配偶者の仁司と父親の隆になります。その分割割合は「配偶者:直系尊属=2:1」となります。
この数時間の差で佳子と佳美の財産は、全て隆と仁司で相続することとなりました。
佳子と佳美を偲んで、義理の親子で定食屋を続けていくことになります。
まとめ
いかがでしたか?
相続順位は複雑ですが、どんなときも配偶者と子は相続順位が1位です。
これだけは覚えておきましょう。
配偶者と直系尊属には代襲相続がありませんが、こと兄弟姉妹には代襲相続があります。
そして、遺言書がある場合は、遺言に定められた相続順位、相続割合が優先します。
ただし、例え遺言でも遺留分請求権を否定することができないことも覚えておきましょう。
遺言書で遺留分請求権を否定していてもその条項は無効となるからです。
また、前項で紹介したような、遺された家族に相続争いの火種になるような遺言書は、控えるような配慮も必要です。
そして、遺留分請求とは、法定相続分の分割割合の2分の1の財産請求であり、家庭裁判所で認められたら、遺留分請求兼を行使した人の在村相続分を、法定相続権よりも多くもらった人全員で話し合って支払わなければなりません。
また、例え数秒でも長く生きれば、子供や配偶者としての相続権は発生するのです。
だから、相続順位は、例え数秒でも亡くなった順番が異なると、法定相続人の範囲や順位が変ってきます。
そのため、より多くの相続権を得るために、医師の死亡診断書の「死亡時刻をずらして欲しい」という希望は、サスペンスドラマの中だけではなく、現実社会でもあるそうですよ。
ただし、それをやることは医師として違法であり、医師免許剥奪の要件にもなります。