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【相続人について 】
相続人について説明しています。相続人とは、亡くなった方の財産を引き継ぐひとのことをいいます。法律で定められた相続人を法定相続人と呼び、順位によって受け取る財産の配分に違いがあります。

2019年2月25日 月曜日

相続の基礎知識、相続人の遺留分とは

一般的に法定相続割合については認知度が高いようですが、「遺留分(いりゅうぶん)」という相続人であれば誰でも持つ権利については知らない人も多いのではないでしょうか。

この遺留分という制度について知識が無いまま不用意な遺産分割が行われてしまった場合、相続人は後述する遺留分減殺請求を行使する権利、あるいは当該権利を行使されるケースも考えられ、場合によっては裁判の被告人となることも想定されます

遺留分とは、それだけ相続の場ではデリケートなテーマなのです。

これを踏まえ、本コンテンツでは相続において最低限知っておいていただきたい遺留分の知識について、その根拠である民法の条文を交えて解説していきます。

遺留分とは

民法第900条では法定相続人の原則的な遺産の取り分として「法定相続割合」が定められており、さらに各法定相続人の最低限の取り分として定められた相続割合を「遺留分」といいます。

この遺留分を侵害された相続人は、民法第1031条「遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条(相続開始1年前の贈与の規定)に規定する贈与の減殺を請求することができる」の規定に基づき、遺留分権利者として侵害した他の相続人に対して「遺留分侵害請求(改正民法の施行後は遺留分侵害額請求)」をすることが認められています。

遺留分が設けられている背景は、例えば遺産の分割割合について配偶者や小さい子どもがいるにも拘らず遺言などで全財産を愛人に譲るような指定をされると、遺された家族の生活に大きな支障が出てしまいます。

そのため、配偶者や子ども、父母など被相続人の収入や財産を頼りに生活していたと推定される人には、遺留分として最低限相続することができる財産の割合および請求権を保証しているのです

被相続人が遺言で指定した相続割合は、民法で定められた法定相続割合に優先して強い法的実効力を持ちます。

しかし、民法第902条「被相続人は、前二条(法定相続人および代襲相続人の相続分)の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない」にあるとおり、たとえ遺言であろうと遺留分の規定に反して遺産分割割合を指定することはできないのです

なお、遺留分減殺請求権は遺贈(遺言により遺産を相続させること)に限らず、被相続人による生前贈与にも適用されます。

仮に生前贈与が被相続人によって複数以上の人に行われており、それらが遺留分侵害に該当する場合は民法第1035「贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対してする」の規定にあるとおり、被相続人が亡くなった日に近い日時に行われた贈与分から順次減殺していくことになります。

また、遺留分減殺請求は侵害した相手が既に減殺の対象となる資産を第三者に譲渡していた場合でも、その権利を行使することが可能です。

民法第1040条第1項「減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる」とあります。

つまり、減殺請求を行うべき目的物が既に遺留分を侵害した相手に処分されていた場合でも、遺留分権利者は目的物の処分価額の範囲内で弁償を受ける権利を有するのです。

特に、相続財産のうち多くの割合を占める傾向のある不動産を目的物とする場合、侵害した相手は相続税納税資金確保のために早々に相続登記などを行い売却に動くことがあります。

当該不動産について仮に売買契約を締結・決済が終わっていたとしても、本条文を根拠に遺留分を侵害した相手に侵害分相当額を請求することが可能なのです。

なお、本条文は遺留分侵害の原因を「贈与」に限定しているように読めますが、遺贈についても類推適用されることは複数の判例で確認できます(最高裁判昭57.3.4、最高裁判平10.3.10)。

遺留分侵害請求権を行使するに際し、注意していただきたい点は主に以下のとおりです。

(1)遺留分減殺請求には時効がある

民法第1042条には、「減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする」とあります。

つまり、遺留分減殺請求権は相続および遺留分の侵害があったことを知ったときから1年、または相続発生後10年を過ぎると時効となり、請求の権利を行使することが認められなくなるのです

(2)遺留分減殺請求できる相手は侵害した当事者のみ

仮に相続人の兄が相続人の遺留分を侵害していたとします。

しかし、その兄は減殺請求を行った時点で侵害した遺留分を使い切っており無一文でした。

この場合、侵害された相続人は泣き寝入りするしかありません。

民法第1037条には「減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する」と規定されており、結局のところは遺留分権利者の損失となってしまうのです。

また、この規定により遺留分を侵害した兄の後順位の相続人である兄の子どもなどに対して遺留分減殺請求を行うことはできません。

(3)遺留分は被相続人の生前に放棄することも可能

あるいは被相続人に借金があることが明白な場合、あるいは心情面や他の相続人との関係などで被相続人の財産を一切相続する意思が無い場合、相続人は相続そのものを放棄する選択肢があります。

相続放棄は被相続人の生前に行うことは認められておらず、相続発生後それを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所を通じて行うことと定められています

一方で、遺留分については家庭裁判所の許可を前提に被相続人の生前でも放棄することが可能であり、相続発生後も特段の意思表示や手続き等を行わずに放棄できます。

遺留分の計算方法

遺留分総額の算定

民法第1029条第1項には、「遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する」とあります。

つまり遺留分総額は、「被相続人の財産(時価)+被相続人から相続開始前1年前に受けた贈与(時価)-被相続人の債務(時価)」として算出されます。

ここで注意していただきたい点は、遺留分に含まれる財産の範囲です。

例えば、契約者および被保険者を被相続人、保険金受取人を相続人とする生命保険の死亡保険金は保険金受取人の固有財産とされていますので、遺留分には原則として含まれません

また、祖父母が信託銀行に孫の教育資金として1,500万円を限度に金銭を信託する「教育資金贈与信託」についても、孫の親・つまり祖父母の子が生きている限りは孫は祖父母の相続人ではありませんので、これについても遺留分には原則として含まれません。

また、遺留分減殺請求権の算定に際しては、特別受益を考慮する必要があります

特別受益とは、被相続人の生前に受けた生活資金の援助や住宅などの贈与というような特別な利益の供与のことであり、他の共同相続人との公平性を確保するためのものです。

民法第903条には下記のように記されており、この特別受益は相続財産ひいては遺留分の算定に加算されるものとされています。

共同相続人中に、被相続人から遺贈を受け、婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする

仮に被相続人が生前に「特別受益分は相続財産に考慮する必要は無い(持ち戻し免除)」の意向を示していたとしても考慮されず、特別受益分は遺留分に加算されるのです。

なお、先述した生命保険金の死亡保険金については、当該死亡保険金の相続財産に占める割合次第、教育資金贈与信託については孫の親が死亡しており孫が祖父母の代襲相続人となる場合・あるいは孫への教育資金贈与としていても、実体的に子への贈与と認定された場合などは特別受益とみなされる可能性があります。

遺留分割合の算定

続いて、複数人以上の相続人がいる場合における各相続人の遺留分割合について、民法第1028条を見てみましょう。

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける

一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一

二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

つまり、相続人が(1)配偶者と子ども(2)子どものみ(3)配偶者と直系尊属のいずれかの場合であれば2分の1を、相続人が(4)直系尊属のみの場合であれば3分の1を、各相続人の法定相続割合に乗じたものがそれぞれの遺留分割合になります。

この遺留分割合に(2)-(1)で計算された遺留分総額を乗じ、各相続人の遺留分額が算定されます。

このように、遺留分の計算方法は至ってシンプルです。

遺留分減殺請求ができる相続人

権利のある人

先述した民法第1028条のとおり、遺留分減殺請求権は「兄弟姉妹以外の(法定)相続人」に対して認められています

つまり、法定相続人の配偶者(内縁関係および愛人を除く)・子ども(養子を含む)・孫(代襲相続が発生した場合)・両親・祖父母(両親からの代襲相続が発生した場合)が遺留分侵害請求権が認められた相続人なのです。

権利のない人

繰り返しとなりますが、被相続人の兄弟姉妹には遺留分減殺請求権は認められていません。別の言い方をすると、兄弟姉妹には遺留分そのものが認められていないのです。

兄弟姉妹には遺留分減殺請求権が認められていないということは、その子どもであり代襲相続人となる甥や姪にも遺留分減殺請求権が認められないということになります。

遺留分減殺請求の手順

遺留分減殺請求は裁判所での調停に先立ち、まずは裁判所を介さず当事者間で行うことが一般的です。

意思表示の方法については特段の規定がなく、基本的に口頭だけでも効力が生じます。

しかし、後日裁判所での調停や訴訟に至った場合を考慮し、その際の証拠のため内容証明郵便を用いることが望ましいでしょう。

これに相手方が応じない場合は、いよいよ家庭裁判所に遺留分侵害請求を申し立てることになります

調停での申立

家庭裁判所では遺留分減殺請求を民事事件として取り扱っており、正確には「遺留分減殺による物件返還調停」と呼称します。

また、遺留分減殺請求の調停は離婚など家事審判と同様に調停前置主義を採用しており、裁判に至ることが明白な事案でも必ず最初は調停を経ることになっています。

遺留分減殺請求の調停は、必要書類を添えたうえで原則として相手方の居住地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。

そして調停が成立した場合は強制執行力を持つ調停証書が作成され、当該証書にもとづき相手方から申立人すなわち遺留分権利者に現物返還あるいは価額弁償の履行が為されます。

裁判・訴訟での申立

調停が不成立となった場合は、遺留分減殺請求の訴訟を提起することになります

この訴訟は、調停時の家庭裁判所ではなく被相続人が亡くなった際の住所地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所(請求額が140万円以下の場合)に提起します。

審理の結果、和解に至り被告(相手型)の遺留分侵害を認める形で和解調書が作成された場合、または原告(遺留分権利者)の訴えを認める確定判決が下された場合、被告(相手方)には現物返還あるいは価額弁償履行の義務が発生します。

それ以外での申立

相手方の遺留分侵害を認め、現物返還もしくは価額弁償を行う旨の調停が成立、あるいは裁判で和解もしくは判決が確定したのにも拘らず、相手方がその義務を履行しない場合は強制執行の申し立てという手段があります。

遺留分減殺請求方法ならお任せください

遺留分減殺請求は利害の相反する当事者に対して行うものであり、場合によっては感情的なやり取りに発展することが十分に考えられます。

また、調停や訴訟に至ると裁判所への手続き等を行うことになり、これには相応の専門的な知見や経験等を要します。

そのような中でも遺留分減殺請求を行う場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士であれば、専門知識と経験に裏付けられたノウハウにより、あなたの相談相手さらには代理人として遺留分減殺請求における相手方や裁判所との各種やり取りに、大きな力となることが期待できます。

遺留分減殺請求という大きなテーマに取り組むにあたっては、決してお一人で悩んだりしないようにしてください。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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