2019年2月5日 火曜日
成年後見人が相続時にするべきこと
成年後見人の仕事は、被成年後見人が亡くなって、その相続手続きのために、全ての財産を整理して、法定相続人、あるいは相続すべき人に、その全財産を手渡したときに終了します。
成年後見人は、被成年後見人の財産を管理するので、自由にできると思われがちですが、実はそうではないのです。
成年後見人が相続までにする事務仕事は、それは膨大な量です。
そこで、この記事では、成年後見人について詳しく解説します。
成年後見制度とは
「成年後見人制度」とは、知的障害・精神障害・認知症等によって、通常の判断能力に欠けていると判断された人が、周囲に騙されて不利益を被らないように、その方の代わりに正しい判断をしてくれる後見人を設ける制度です。
家庭裁判所に申し出ることによって、裁判所が審議して、申し立てに記載された人、あるいは裁判所が選任した人を成年後見人として東京法務局に登記されます。
成年後見人(以下「後見人」という)になった人は、成年被後見人(以下「被後見人」という)の日常生活に関わる程度の食料品や日用品等の買い物以外のあらゆる法的な代理権・決定権を持つ事になります。
もちろん財産に関する決定権も含まれます。
本人には判断能力がないので、成年後見人の決定に本人の同意は必要ありません。
一歩間違えば、財産等を自由にされてしまう恐い権限を持っている事になりますので、その選定には、裁判所も慎重になります。
まず、被後見人となる者が、後見人が必要なほど判断能力が低下しているのかを確認するために裁判所が精神鑑定を行います。
本人の判断力によっては、後見人よりもずっと権限が少ない保佐人や補助人でも十分かもしれないからです。
保佐人や補助人は、代理・決定権はありますが、その決定には本人の同意が必須です。
本人が望まない代理・決定権を行使された場合は、後から取り消すことも可能です。
ところが、後見人の代理・決定権は、被後見人の同意も必要ないし、「後見人が被後見人のために必要」と思えば、何でもできるというわけです。
だから、大きな契約をする場合は、本当に被後見人のために必要な契約かどうかを裁判所へお伺いを立てる必要があります。
しかし、精神鑑定の結果、成年後見人が必要と判断された場合、本人に適正な判断力がないのですから、本人を守るためにも成年後見人についての審議が必要となります。
成年後見人の権限は、非常に大きく、本人に大きな影響を与える結果となるので、「本人のことを親身になって真面目に考えてくれる人である」ことを慎重に吟味しなければなりません。
一般的によほどの理由がない限り、申立書にある人物を任命しますが、その人物が相応しくないと判断された場合に限り、裁判所が選定します。
後見開始日が決定され、その日から本人たちは「後見人」「被後見人」と呼ばれるようになります。
成年後見人の役割
成年後見人の主な役割は、被後見人の保護のための代理権・決定権を行使することです。
しかし、通常の判断ができないほど知的・精神的に障害を持っていても、地域に溶け込んで普通に幸せな生活をする権利があります。
そのため、日常生活では被後見人の気持ちを優先し、後見人はノーマライゼーションを広める活動を担っています。
ノーマライゼーションというのは、被後見人が、少しでも自由に活動できるように、家族や周囲の人、地域の理解や優しさを促す活動です。
言い換えれば、知的・精神的障害者や認知症の人に優しい社会づくりを目指す活動です。
言葉にすると簡単ですが、忙しく働く人々の多い世の中で、なかなか難しいことです。
そんな優しい社会で、被後見人が少しでも自由に楽しく暮らせるように見守るのが、後見人の役割でもあるのです。
被後見人の生活保護
後見人は被後見人の生活保護の申請ができる?
生活保護制度は、人が憲法で保障されている「最低限度の文化的な生活を送る」権利を守る自立支援のための制度です。
世帯単位で申請しますので、同世帯の家族の収入全てが生活保護の審査対象となります。
ひとり暮らしで貯金もなく、年金も少なく、生活に困窮する被後見人の場合は、生活保護の制度を利用すべく申請をする事ができます。
しかし被後見人は、その手続き可能な判断力に欠けるので、後見人が代って全ての手続きを行うことができます。
これは民法の理論です。
しかし、民法は一般法であり、生活保護法は特別法です。
一般法よりも特別法が優先されるので、生活保護法の条文が、民法の条文よりも権限が強いことになります。
そして、生活保護では、申請代理権は同居の親族・あるいは扶養義務者でないと受け付けられないことになっているのです。
親族でない後見人は申請手続きができないことになってしまいます。
一方、生活保護法では、「被後見人」という身分である場合、自己判断能力がないことを裁判所が立証しているようなものです。
そのような場合、行政が被後見人の実態調査をして、生活保護することが適当かどうかを審査して、職権で生活保護の決定を行うことができます。
だから、後見人が生活保護申請の窓口で、直接申請をする事はできなくても、相談窓口で、職権審査の必要性を訴えれば結果は同じです。
生活保護が下りなかった場合
しかし、福祉の生活保護下の職権で行われた審査が、現状と異なり、生活保護の申請が下りない場合もあります。
弁護士が後見人の場合は、法的に交渉してくれますが、そうでない場合は難しいこともあるかもしれません。
その場合、一旦は事情を福祉の生活保護に関する相談窓口で、最も被後見人のためになる方法を相談して、誤解が解ける場合もありますし、それでも上手くいかないときは、弁護士会に相談するという方法がお勧めです。
過去の判例も増加してきていますので、原則的に福祉の現場も成年後見人制度の趣旨を受け入れる現場が増えてきているのが現状なのです。
後見人制度の費用の支払い能力がない場合は?
代理人として、全ての申請手続きを代理で行う後見人制度ですが、家族でない場合、例えば弁護士等の場合は成年後見人に費用が発生します。
生活保護を受けるほど生活に困窮している被後見人に、成年後見人に支払う費用はないでしょう。
ましてや、生活保護の中から支払う余裕もないでしょう。
その場合は、自治体が行う「成年後見制度利用支援制度(もしくは事業)」で補助金を出してくれるところがあります。
自治体に相談することをお勧めします。
被後見人の財産保護
成年後見人は、被成年後見人の財産保護のために、財産を代って管理します。
そのため、家庭裁判所から後見人に任命されたその日から、被後見人の財産の出費や使い道を明確にしなければなりません。
被後見人の生活費や医療費・介護費用・預貯金・年金や生活保護費の収入と毎月の生活費(光熱費や趣味等の費用)を算出して、毎年支出すべき金額を明確にするために、年間収支予定表を作成しなければなりません。
そして、毎日の出費、預金の出し入れとその用途も明確につけていかなければなりません。
これは、被後見人が亡くなるまで続きます。
被後見人が亡くなったときには、後見人は就任してから作成している、年間収支予定表と、実際の収支等をまとめ、残った財産目録を作成して、相続人全員に報告しなければなりません。
そして、法定相続人が確定して、相続人に財産を引き渡すときに、後見人の報酬付与の申し立てにより家庭裁判所が確定した報酬を差し引いて、被後見人の全ての財産を引き渡します。
被後見人にかかる事務手続き費用他、後見人の報酬もここから差し引く「預かり金」が前もって、後見人にまとめて渡されていた場合は、最後の後見人の報酬も、財産目録から差し引くのではなく、預かり金から差し引き、その預かり金の残金を、財産目録に合わせて一緒に渡されます。
これを持って後見人の被後見人の財産保護の事務が終了することになるのです。
民法第13条との関係性
民法13条には、保佐人が被保佐人に同意を得なければならない内容が明記されています。
保佐人の場合は、被保佐人の法的代理権を持っていますが、それには被保佐人の同意が必要です。
一方、成年後見人については民法8条で定められています。
後見人は後見人の判断で、被後見人に最も良いと思われることを決め、被後見人を守るために被後見人が持つ全ての法的行為の代理権を持ちます。
例えば、後見人は、被後見人の同意無しに相続協議の代理権がありますが、保佐人には、被保佐人の同意が無ければ、相続協議に参加は許されません。
高齢者の場合、大切な人の死によって、ショックのあまり、一瞬にして大きく判断能力が低下してしまうことがあります。
被保佐人がそのような事態に陥った場合は、保佐人が、被保佐人の利益のために、相続協議に参加すべく、後見開始審判を請求することができます。
通常、判断力の低下は徐々に起るものですが、親しい人や愛する者の死やショックな出来事で、一気に判断力の低下が生じる場合もありますので、もはや被保佐人の判断ができない状況の場合は、例外的に保佐人も被保佐人の同意を得ることなく後見開始審判を類型変更として保佐人がする事ができるのです。
成年後見人の選任方法
成年後見人の審判の申立書に、後見人の候補者の希望を記載する覧があります。
また、この申立書には、成年後見人が必要となった諸事情も記載しなければなりません。
- 法的な問題点の有無
- 本人の財産の多寡
- 親族間の対立の有無
この申立書の候補者に左右されずに、後見人が必要となった本人の諸事情(上記の項目)に関して、最も相応しい後見人を家庭裁判所の審判によって選任します。
あくまで候補者が優先されますが、その候補者達が相応しくないと裁判所に判断された場合は、弁護士等(司法書士や社会福祉士等の法律や福祉の専門家)が選任されます。
ただし、本人の財産が少なく、親族間の問題や争いもなく、申し立て時に親族の後見人が希望されている場合は、申し立て通りの親族後見人が選任されやすいでしょう。
近しい仲の良い親族であるので、財産問題も少なく、今後人間関係に変化が生じる可能性も少なく、最も被後見人を親身になってお世話してくれる可能性が高いからです。
成年後見制度のメリット・デメリット
成年後見人のメリットとデメリットを上げていきます。
成年後見人のメリット
被後見人が不利益を被らないよう守ってくれる
成年後見人は、被成年後見人が財産的に不利益を被らないように財産を管理してくれます。
年金の手続きや介護の手続き、行政の援助を受けるにはさまざまな申請手続きが必要です。
そういった、法的な必要手続きの全ての代理権を後見人は持っていますので、被後見人が社会的に不利益な扱いを受けることから守ってくれます。
後見人がついていれば、判断力が低下したひとり暮らしの老人でも安心して暮らせます。
財産の管理をしてくれる
後見人は、財産管理に厳しい決まりがあり、裁判所がチェックをしてくれますので、福祉管理士や介護士、法的な専門家等の他人に任せても、財産を勝手に処分される等の心配がありません。
裁判所の管理の下、被後見人の財産は、本人が必要なもの以外には一切使われないので、被後見人の遊興費やギャンブル等で、無駄に財産が食いつぶされることも防ぐことができます。
とにかく、裁判所の管理は財産に集中していますので、被後見人の財産の管理は完璧でしょう。
判断力が低下しているという理由で、詐欺に遭ったり、子供や親族に勝手に財産を食いつぶされたり、家を売られたりする心配もなく、今のままの生活が安心して続けられます。
保護者の代わりになってくれる
病気になっても、入院しても、その支払いや手続きを代ってしてもらえるので、安心して暮らすことができます。
後見人は、裁判所が認めた被後見人の代理人ですから、手続きの相手側も安心できます。
成年後見人のデメリット
成年後見人には、デメリットもたくさんあります。
費用がかかる
まず、家庭裁判所の後見人審判の申し立てに10~30万円の費用がかかります。
審判の際に被後見人になる者の精神鑑定を行い、判断力の有無の検査も行われますが、この費用は健康保険適用で1割程度の実費です。
後見人が選任され、登録された後も、後見人の報酬と事務手数料として、ランニングコストがずっとかかります。
資産内容によって異なりますが、この毎月かかるランニングコストは、裁判所が決定します。
資産が少なく、生活に困窮するような場合は、自治体に相談しましょう。
自治体によってその金額は異なりますが、ランニングコストの援助団体等があります。
「成年後見制度利用支援制度(もしくは事業)」の補助金制度です。
途中でやめられない
後見人制度は、一旦開始すると、判断力が回復するまで途中でやめることができません。
判断力は低下することがあっても、回復することは滅多にないので、一般的に死ぬまでお世話になることになります。
お金の使用用途にイチイチ裁判所のチェックが入る
後見人には、被後見人のあらゆる法的権利の判断・代理権が与えられます。
その付与される権利があまりにも大きな権利なので、とくに後見人が被後見人の財産を侵害・横領できない、裁判所は、金銭の動きに関して非常に厳しくチェックします。
一切の無駄遣いは許されません。
例えば、子供が親にたとえ5万円ほどの少額でも借金することは、親族全員の承諾が必要です。
被後見人のお洒落や娯楽、旅行に関しても、親族全員の承諾が必要となりますので、判断能力はないといっても、被後見人の喜ぶ小さな贅沢さえ許されない状態が起こりえます。
被後見人の笑顔が少なくなる可能性があります。
被後見人は法的な判断力がないと公言しているようなもの
被後見人は、法的な判断能力がなくなっていると周囲に公言しているようなものなので、会社の役員や士業、医師、その他一定の職種に、強制的に就業制限がかかってしまう可能性が高くなります。
士業や医師等の免許制度の仕事は、資格停止処分が下ることもあります。
後見人の選任権限は裁判所にある
子供や親族が後見人になるつもりだったのが、裁判所に認めてもらえない場合があります。
財産が多い場合は、財産の横領問題が多いために、裁判所も慎重に、そして厳しくなるのです。
しかし、親族が後見人にならないなら今のままが良いと思った場合も、一旦申し立てたら、裁判所の決定を受け入れなければなりません。
後見人申し立ての審判を途中で取り下げられないのです。
財産が多いほど、裁判所が後見人を誰に決定するかわからないことを覚悟して、後見人審判の申し立てをすることをお勧めします。
まとめ
いかがでしたか?
相続問題の観点からいえば、財産を守るために、法定相続人となるべき人の判断力が低下してしまったとき、被相続人に将来なる人の財産を他の親族から守る手段としては、後見人制度は最高かもしれません。
しかし、判断力が低下して、もはや安全にひとり暮らしができない状況になった身寄りのいない高齢者や、親族がいても面倒を見て貰えない高齢者にとっては、頼もしい制度かもしれません。
例え財産がなくて、生活保護を受けなければならない生活困窮者だとしても、利用できる制度だからです。