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【お金の相続 】
お金、現金の相続について説明しています。お金、現金を相続する場合の相続税の計算方法、銀行に預けた預金の相続、外貨の相続などについてまとめています。

2019年2月26日 火曜日

外貨の相続財産にかかる相続税とは

近年は資産の種類が多様化し、外貨預金など外貨建て資産を遺産として相続することも珍しくなくなりました。

外貨建て資産の相続については、円貨の資産相続の場合とは異なり、外貨を円貨に換算してから相続税を計算しなければならないなど、手間が増えます。

また、円貨に換算するプロセスにおいても細かな決まりごとがあります。

本コンテンツでは、外貨建て資産を相続することになった人向けに、相続税の基礎および外貨建て資産の相続税を計算するポイントを、具体例を交えご説明します。

相続税とは

相続税とは、被相続人から相続または遺贈(遺言の指定により遺産を取得すること)によって遺産を取得した個人に対し、その取得した遺産の額に応じて課される国税です

相続税の納税義務者は、被相続人が死亡し相続が発生してから10ヶ月以内に、税務署へ相続税を申告・納付する義務を負います。

なお、相続税は遺産を相続したすべての相続人に対して課されるわけではありません。

後述する基礎控除や配偶者の税額軽減など、各種の控除可能額を超えた部分に対して相続税が課税されます。

また、相続税はすべての遺産に対して課されるわけではなく、以下のように相続税が課される遺産と課されない遺産に分類されます。

相続税が課税される財産の例

・土地、借地権、地上権、家屋などの不動産
・預貯金、有価証券などの金融資産
・絵画、高級家具、立木などの家庭用財産
・事業用、農業用の財産
・生命保険金や死亡退職金などのみなし相続財産
・相続時精算課税制度の適用により被相続人から贈与を受けた財産
・被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産
・その他、ゴルフ会員権や債権など

相続税が課税されない財産の例

・墓地、墓石、仏具、仏像、仏壇などの祭祀財産(ただし、骨董品や投資対象の品は相続税の課税対象)
・心身障害者救済制度に基づく給付金の受給権
・相続税の申告期限までに、特定公益信託の信託財産とするために支出した金銭
・相続税の申告期限までに、国や地方公共団体、特定の公益法人などへ寄付した財産
・公共事業を行う人が相続し、引き続き公益事業のために使用することが確実と認められる財産

外貨は円換算する必要がある

相続税を計算する場合、外貨は円貨に換算したうえで相続財産評価額としなければなりません

具体的には、国内通貨と外国通貨の交換比率である為替レートを外貨建て資産に乗じ、円貨に換算します。

為替レートは外国為替に対する需要と供給によって日々変動しますが、相続において用いる為替レートは相続が発生した日、すなわち被相続人が亡くなった日の為替レートとなります。

仮に相続が発生した日から円高トレンドになったとしても、相続が発生した日以外の為替レートを用いて相続税評価額を計算することはできません。

また、仮に相続が発生した日が休日などのため為替レートが公表されていなかった場合は、相続が発生した前の日のうち、最も近い日の為替レートを用います。

相続で用いる為替レートは、「TTB(対顧客直物電信買相場)」と「TTS(対顧客直物電信売相場)」です。

いずれも電信による被仕向送金(お金を受け取ること)または仕向送金(お金を送金すること)に適用される為替レートであり、通常は1日1回・午前10時ごろに銀行などの金融機関が公表します。

なお、TTBもTTSも各金融機関の手数料を含めたレートであり、その数値は各金融機関ごとに微妙に異なります。

そこで問題となるのはどこの金融機関が公表するTTSまたはTTBを用いるかということですが、これについて国税庁は、納税者すなわち相続人の取引金融機関としています。

以下でTTBとTTSの違いを確認しましょう。

TTB(対顧客直物電信買相場)

TTBとは、Telegraphic Transfer Buyingの略です。
外貨建資産がプラスの資産、つまり積極財産である場合はTTBを用いて円貨に換算します。

TTS(対顧客直物電信売相場)

TTSとは、Telegraphic Transfer Sellingの略です。
外貨建資産がマイナスの資産、つまり消極財産である場合はTTBを用いて円貨に換算します。

相続税の計算方法

続いて、外貨建て資産を相続する際に、相続税の金額を計算する方法についてご紹介していきます。

被相続人の外貨建て資産をすべて把握する

被相続人が遺した外貨建て資産は、金融資産が中心になるものと考えられます。

一口に外貨建ての金融資産といっても、外貨預金、外国株式、外債、外国籍投資信託、外貨建て生命保険などさまざまな種類が想定され、その資産の種類によって確認すべき金融機関も異なります。

以下、想定される主な外貨建て資産と金融機関、および確認資料についてご紹介します。

外貨預金…主に銀行、信用金庫など

通帳、残高通知などの定期送付物、残高証明書などで確認

外国株式、外債、外国籍投資信託…主に証券会社

残高証明書、取引残高報告書、配当金・利金の支払い通知書など

外貨建て生命保険

生命保険会社あるいは取り扱い代理店からの支払い通知書、保険契約証書など

最近は高齢者でもインターネット金融機関を使用する人が増えているため、どの金融機関を利用していたのか確認すること自体が難しくなりつつあります。

また、国内株式と違い外国株式は基本的に議決権行使が現地のカストディアン(外国株式保護預かり機関)に預託されているため、株主総会の案内で確認することができません。

特に問題となりやすい資産が、被相続人が贈与の手続きを経ずに親族の名義で作っていた口座にある預金や有価証券です。

これは名義の如何によらず相続財産に該当するため、相続税の申告時の相続財産として算入していなかった場合は後に税務調査や追徴課税の対象となる可能性があります。

また、レアケースだとは思いますが外貨建てのローンなどの負債がある場合は、銀行など債権者との協議や調整が必要になります。

円貨換算する

金融機関のホームページなどで、相続が発生した日のTTSまたはTTBを確認します。

金融機関によっては、相続が発生した日のTTSまたはTTBで換算した円貨建て資産額の証明書を出してもらえる場合があります。

正味の遺産額を算出する

相続税の計算は、外貨建てを含める現金・預貯金・株式や投資信託受益権などの有価証券・不動産など相続対象となる財産をすべて明らかにする必要があります。

これらを合算し「すべての相続財産–非課税財産−債務など+一定の贈与財産」で計算することにより、正味の遺産額を求めます

相続財産合計額から差し引ける相続税の課税対象とならない非課税財産には、墓石や仏具など祭祀用品(骨董的な価値のあるものを除く)・死亡退職金や死亡保険金の一定部分・特定の公益法人への寄付分・死亡要因に対する損害賠償金などが該当し、債務には被相続人の借金・未払金・葬儀費用が該当します。

これに相続開始前3年以内の贈与財産および相続時精算課税制度の対象となった贈与財産があれば加算します。

基礎控除後の相続税課税対象財産額を算出する

相続税の課税対象となる財産額は、正味の遺産額から基礎控除額を差し引いて算出します。

ここでいう基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。この結果、相続税の課税対象となる財産額がゼロまたはマイナスであれば、相続税は発生しません。

法定相続割合に応じて相続税総額を算出する

相続税の課税対象となる財産額を、遺言書の内容や死因贈与契約、遺産分割協議に基づく実際の相続割合ではなく、相続人それぞれが法定相続割合により相続したと仮定して各相続人の相続税額を計算し、その額を合計して相続税総額を求めます。

2019年1月時点の相続税率は、以下のとおりです。

円換算後の外貨建て資産とそのほかの資産額(相続財産評価額)を合算し、後述する相続税の基礎控除額や配偶者控除額の範囲に収まらなかった相続税対象財産に対して以下の税率を乗じ、カッコ内の金額を控除して得られた額が相続税となります。

・1,000万円以下:10パーセント(控除額なし)
・3,000万円以下:15パーセント(50万円)
・5,000万円以下:20パーセント(200万円)
・1億円以下:30パーセント(700万円)
・2億円以下:40パーセント(1,700万円)
・3億円以下:45パーセント(2,700万円)
・6億円以下:50パーセント(4,200万円)
・6億円超:55パーセント(7,200万円)

各相続人の相続税額を決定する

相続税総額を、遺産分割協議の結果などによる実際の相続割合に応じて各相続人に割り振ります。

なお、被相続人の配偶者については、被相続人の財産形成に対する寄与分や今後の生活などを考慮して、「配偶者の税額軽減」が適用されます。

具体的には、配偶者が相続する相続財産評価額には最大で1億6000万円が控除されるものであり、別の言い方をすると相続税評価額が1億6000万円に満たない場合は相続税は発生しないのです。

他にも、相続人の状況や他の相続の発生状況に応じて未成年者控除、障がい者控除、相次相続控除、外国税額控除などの適用が受けられる場合があります。

外貨を相続した場合の相続税計算例

ここでは、外貨建て資産における相続税の計算方法について基本的な考え方をご説明するため、外貨預金しか相続財産がなかったものと仮定します。

被相続人が死亡し、相続が発生しました。

相続人は配偶者・長男・長女で、遺産は100万米ドルの外貨預金です。

長女は相続放棄し、配偶者と長男が半分ずつ相続することで話がまとまりました。

なお、相続放棄する長女は相続上は「最初から相続人でなかった」として扱われますが、相続税の計算においては相続放棄そのものがなかったとされますので、相続放棄の有無は相続税の総額に関係ないことにご注意ください。

外貨預金を円に換算する

金融機関で調べたところ、被相続人が死亡した日のTTBは1ドル=110円でした。

すなわち、100万米ドルの外貨預金は円貨に換算すると100万米ドル×110円で1億1000万円となります。

基礎控除額を差引く

基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」ですので、本件の場合は3,000万円+600万円×3人により4,800万円が基礎控除額となります。

これを1億円から差し引いた5,200万円が相続税の課税対象額となります。

法定割合で相続したと仮定

まず、配偶者が2分の1、長男と長女がそれぞれ4分の1ずつの法定相続割合に応じて長男と長女が外貨預金を共同で相続すると仮定します。

この場合は配偶者が2,600万円長男と長女がそれぞれ1,300万円ずつ相続することになります。

相続税額の総額を計算

前述した相続税の速算表に基づき、法定相続割合で相続したと仮定したうえで相続税額の総額を計算します。

相続税評価額が5,000万円以下の場合は相続税率20%・控除額200万円ですので、配偶者の相続税は3,100万円×20%-200万円により420万円となります。

一方、相続税評価額が3,000万円以下の場合は相続税率15%・控除額50万円ですので、長女と長男はそれぞれ1,550万円×15%-50万円により182万5千円ずつとなります。

これにより相続税の総額は、420万円+182万5千円+182万5千円=785万円となります。

各相続人の相続税額を計算

最後に、実際の相続割合に応じて支払う相続税を計算します。

配偶者については、相続する金額5,500万円が「配偶者の税額軽減」の1億6,000万円を下回るため、相続税額はかかりません

一方で長男は2分の1を相続しますので、相続税の総額785万円の2分の1である392万5千円を申告・納付することになります。

外貨の債務があった場合は?

被相続人に債務があった場合、相続財産評価額から債務を控除し相続税を計算します。

その債務が外貨建てであっても、相続財産の外貨を円貨に換算して相続財産評価額から控除することができます。

どのようなケースが考えられるかといえば、海外で資金を調達し不動産投資をしていた場合などです。

海外の不動産を投資等の目的で購入した方の中には、海外の不動産には相続税が課税されない、と思い込んで節税目的で購入した方もいるようです。

以前は、被相続人と相続人が5年を経過して国外に住んでいる場合は、国外財産に相続税を課税することはできませんでした。

しかし、平成29年4月1日の税制改正で、期間の基準が5年から10年に見直されました。

債務の返済は、円貨を外貨に交換し、外貨で行うことになるので、円貨を外貨に交換する場合のTTS(電信買相場)レートで債務額を計算します。

【番外編】外国株式の相続税評価方法は?

円貨のリスクヘッジのために、財産を外貨にも分散して持つ方が多くなってくるかもしれません。

それはほかの金融商品についてもいえるでしょう。

日本経済が横ばいの中、右肩上がりで成長を続ける米国株などの外国株式に投資をする人は増えてきています。

インターネットの普及によって、証券会社のホームページから気軽に購入ができるようになったので、投資しやすい環境は整ってきています。

では、外国株式を持つ人が亡くなられた場合の相続税の評価方法はどうなるでしょうか。

基本的には外国株式であっても、国内株式と同様に取り扱います。

外貨建ての株価を調べ、その株価を円貨に換算し相続税評価額とします。

外国株式の評価方法

外国株式は、上場しているかそうでないかによって相続税評価額の計算方法が変わります。

上場している外国株式の場合、株式の価値が明らかになっているため、国内の株式と同様に、財産評価基本通達第8章、第1節の「上場株式の評価」で相続税評価額を算出します。

課税時期の最終価格で相続税評価額は決まりますが、最終価格から導き出された仮評価額が、最終評価の過去3カ月間の各月の平均額を上回った場合は、一番低い月の平均額で相続税評価額を算出します。

非上場の外国株式は、財産評価基本通達に準じた純資産価額方式で評価しますが、所在国の税法で定められた評価方法を使って評価することも合理的です。

外貨から円に換算するには?

外国株式の相続税評価を行う場合に使用する外貨と円貨の為替換算レートは、相続税の申告をする人が取引をしている金融機関で公表しているTTB(電信売相場)です。

非上場の外国株式は、外貨を円貨にするときはTTB(電信売相場)、円貨を外貨にするときはTTS(電信買相場)レートを使用します。

非上場の外国株式の場合は、取引時のレートも確認しておくことが必要です。

外貨の相続は専門家に相談しましょう

国内にある相続財産の評価をしていくだけでも困難なことですが、外貨預金や外国株式など、外貨を含む相続税評価額の算出は大変複雑です。

専門家に相談するメリット

最近は、外貨建て預金や外国株式以外に、新たな外貨建て商品が人気を博しています。

それは、返礼率が高いことが魅力の外貨建て保険です。

外貨建て保険は、年金保険や終身保険といった保険金や解約返戻金が戻ってくる貯蓄型の保険です。

成長を続ける国々の通貨(外貨)で保険料を収め、保険金や解約返戻金も外貨で受け取るものです。

主に米ドルや豪ドル、ユーロなどの3つの外貨で払い込み、保険金や解約返戻金などの受け取りも同様に米ドル、豪ドル、ユーロなどの外貨で行われます。

外貨建て保険は、生命保険会社だけでなく、銀行なども多く取り扱っています。

加入者にとっては、元本割れや為替リスクが付きまといますが、成長が停滞している円建ての保険と比較すると、投資の意味合いも含んでいるようです。

取り扱う金融機関の手数料収入も高いといわれ、営業が盛んになっています。

マイナス金利の影響を大きく受け、販売停止が相次いだ学資保険にも、高い返戻率が魅力の外貨建て商品が登場しています。

これからも新たな外貨建て商品が登場してくるでしょう。

こうして続々と登場する外貨建ての商品の相続税評価額の算出を、相続人だけでやっていくのはとても難しいことでしょう。

 相談先の選び方

これまで見てきたように、外貨を含む財産を相続する際には、単にお金に強い金融の専門家ではなく、国内外の税法にも精通した人に相談したほうがいいでしょう。

スマートフォンなどで簡単に外国株の売買もできる時代なので外国株を持っていたとか、海外の不動産をこっそり購入していたなど、被相続人が外貨や海外の資産または負債を持っていることに家族も気が付かないこともあり得ます。

とはいえ、財産は外貨や外国株、海外の不動産だけ、という人は少ないでしょう。相続財産に国内の不動産が含まれれば、売却した際の所得には譲渡税が課されますし、売却しなくても毎年、固定資産税が課されます。

被相続人が事業を営んでいた場合には、今後の経営をどうするか、負債があればそれも相続の対象になるなど、相続人は考えなくてはならないことがどっと増します。

相続税が課されるほどの財産を持っているとあらかじめ分かっている人は、生前から相続について専門家に相談することで、残された人が課される相続税を軽減するよう動くこともできます。

専門家に生前から相続税について相談できれば贈与などで節税もできますし、相続税の控除や特例制度などの知識を相続人に伝えておくこともできます。

知識と経験が豊富で、数字に強い専門家を探して相談できるといいです。

弁護士や司法書士、行政書士、銀行と、さまざまな専門家が挙げられますが、外貨や税法に強いのは税理士ではないでしょうか。

財産をお持ちの方も、それを相続する予定の方も、相続でどのようなことが起こっていくかを尋ねてみるのもいいかもしれません。

聞きかじりの知識は、税法の改正などで既に古い情報になっている可能性もあります。

ぜひ一度、相続についての情報をアップデートしてみましょう。

まとめ

以上、国内で外貨建て資産を保有している場合の相続税についてご説明しました。

なお、被相続人が海外現地で保有している不動産や金融資産については、現地で相続税の支払いをはじめとする相続手続きをおこなわなければなりません。

たとえば被相続人がアメリカで不動産や金融資産を保有していた場合、それが所在する州の法律に基づいた「プロベード」という手続きにより相続税の支払いや名義変更を行うことになります。

これは時間がかかるうえに海外現地の法律に基づく手続きですから、個人が行うことはきわめて難しいでしょう。

もし被相続人が海外現地で不動産や金融資産を保有していることがわかった場合は、早めに弁護士や税理士に相談してください。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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