定年退職前にもかかわらず、何らかの事情でご家族が亡くなるというような不幸なケースもあるかと思います。
勤務先の規定や雇用形態、被相続人の勤務年数などにもよりますが、被相続人が在職中に亡くなった場合はその遺族に対して勤務先から死亡退職金が支払われることがあります。
この死亡退職金は、多くの遺族にとって当面の生活維持などに重要なものであると考えられます。
一方で、死亡退職金は相続において特殊な財産の部類にわけられることから、死亡退職金の性質、相続における税制面などの取り扱い、特別受益など特殊事情があるケースなどにおいて一定の知見を得ておくことは今後の相続手続きを円滑に進めるうえで有用であることは言うまでもありません。
本記事では、死亡退職金が入ることになった場合に最低限知っておいて頂きたい知識についてご紹介します。
死亡退職金とは
一般的に、死亡退職金とは退職金規定のある企業や役所等に勤務している役職員が在職中に死亡した場合、その死亡により役職員としての地位は失うものの生前の勤続年数や役職等に応じて勤務先から支給されるもので、通常は法定相続人としての第一順位にある配偶者に支給されます。
そして役職員の死亡を理由として支給されるものであれば、金銭に限らず現物で支給されたものも含めて考慮されます。
そもそも退職金とは、雇用者と被用者の労働契約関係が終了した場合に雇用者側から被用者側に支払われる金銭であると広く理解されています。
また、学術的に退職金の性質そのものを考えると雇用契約終了時までの「賃金の後払い説」、雇用者が被用者の雇用期間中の労に報いるための「報奨金説」に分かれますが、いずれにせよ受取人固有の財産とされます。
そして被用者、つまり被相続人(亡くなられた人)の死亡を雇用者、つまり勤務先との労働契約関係の終了事由とし、それに基づき支払いが発生する死亡退職金については、勤務先は被相続人の遺族の生活保障を目的としていると考えられているため、「相続財産」ではなく「受取人である遺族固有の財産」とされています。
このため、通常は遺産分割協議(相続財産についての分割方法・割合について、相続人の間で話し合って決めること)も不要とされています。
なぜなら、遺族に死亡退職金の支給がある以上は勤務先に死亡退職金の根拠となる退職金規定があるはずです。
そして、この退職金規定は受給権者の範囲・順位が民法と著しく異なる定め方がなされていることがあり、特に一般企業においては顕著です。
しかしながら、一般的に死亡退職金の規程は生計について専ら亡くなった人に依存していた遺族の生活保障を目的として「民法とは別の立場で受給権者を定めたもの」であると解されることから、受給権者である遺族は相続人としてではなく、勤務先の退職金規程の定めにより直接これを自己固有の権利として取得するものとされています(最判昭60.1.31)。
なお、故意の犯罪行為により死亡退職金の給付対象者を死亡させた遺族、または死亡退職金給付対象者が死亡する前にその者の死亡によって遺族給付金を受けるべき遺族を故意の犯罪行為により死亡させた者に対しては死亡退職金は支給されないことが一般的です。
また、役職員が生前に自己の故意の犯罪行為ないし重大な過失により、死亡または死亡の原因となった事故を生じさせた場合であれば、死亡退職金は不支給または大幅減額となることが一般的のようです。
死亡退職金の相続税の扱い
課税対象となるもの
被相続人の死亡退職によって支給される死亡退職金は、被相続人の勤務先が被相続人の生前の功労に対する報酬の性質または未払い賃金の後払いという性質を含むという考え方もあります。
しかし、基本的に遺族の生活保障を目的として被相続人の勤務先から支給されるものということが一般的な解釈です。
したがって、死亡退職金は「相続財産」ではなく、「遺族など受取人固有の財産」と位置づけられています。
そうであれば、死亡退職金は遺族にとって相続財産ではないのだから、受け取る遺族に相続税は課税されないと思われがちです。
しかし、受給権者としての遺族が受け取る死亡退職金は税法上「みなし相続財産」と扱われ、原則として所得税ではなく相続税の課税の対象となります。
ただし、例外として被相続人の相続発生後3年を経過してから死亡退職金の支給額が確定した場合は、当該支給額は所得税の課税対象となります。
そして課税対象となる死亡退職金の額は、国税庁の各通達や相続税申告書第10表「退職手当金などの明細書」などによりますと、以下の式で計算されます。
その相続人の課税される死亡退職金の金額=相続人が受け取った退職手当金等の金額-(非課税限度額)×{(その相続人が受け取る退職手当金等の金額)÷(すべての相続人が受け取る退職手当金等の合計額)}
なお、勤務先から死亡退職金とは別に支払われることが多い弔慰金についても、一定の額を超過した分については死亡退職金と同様に相続税の課税対象となります。
ここでいう一定の額とは、以下の通り被相続人の死亡事由により異なります。
- 業務中に死亡した場合:被相続人の死亡当時の普通給与の3年分に相当する額
- 業務外で死亡した場合:被相続人の普通給与の半年分に相当する額
また、勤務先から支給された香典については、それが社会通念上妥当と考えられる金額であれば死亡退職金等とは扱われず、相続税は課税されません。…