2019年2月25日 月曜日
相続時にもらえる遺族年金とは
亡くなった人が国民年金や厚生年金等に加入している場合、あるいは受給権を満たして受給していた場合、一定の条件を満たした遺族が手続きをすることで、遺族年金を受け取ることができます。
ただし、遺族年金を受給するには、受給権のある遺族が、自ら手続きを行う必要があります。
つまり、自分が遺族年金をもらえるという知識を持っていなければ、受け取ることができない年金なのです。
縁起でもないことですが、もしもの時に遺族年金をもらうために、この記事では遺族年金を受け取るために必要な知識について紹介します。
年金制度は戦後に作られた制度で、制度施行よりも前に生まれた人への救済措置がとられていたり、時代の変化に則して少しずつ法改正が行われてきました。
そのため、旧制度の既得権がある場合や、法改正の段階的処置に該当する人もいます。
この記事では、現法律に則して遺族年金の原則論を紹介していきますので、亡くなった方の年齢・事情・納付状況等によっては、該当する遺族年金の条件や金額等が現状と異なる場合もありますので、ぜひ一度確認してみてください。
目次
遺族年金とは
国民年金・厚生年金とは、国民の老後の生活を守るための社会保障制度です。
そして、この社会保障制度は、保険料を支払ってきた被保険者本人が、原則65歳以上になったときに、年金として支給され始める、老後の生活資金の糧となるものです。
しかし、この制度が作られたのは昭和36年です。
当時のモデル家庭は、ちびまる子ちゃんのまるちゃん一家のような家庭が一般的でした。
つまり、”夫婦と子供2人以上、夫が一家の大黒柱で妻は専業主婦で家事の一切を担って夫を支え、家庭を守り、子育てをする。その家族の生活を夫が経済的に支える。そして、核家族ではなく両親や祖父母が同居をする数世帯家族が一般的”であり、そういった家庭をモデルにして、考えられた制度です。
ですから、一家の大黒柱にもしものことがあった場合に妻子の生活に寄り添った制度ともいえます。
しかし、昨今の核家族化や晩婚・少子化、専業主夫も増えた男女平等の社会情勢を鑑みて、遺族年金の原則的な受給要件の「子のある妻」が、妻だけでなく夫も含むようになり、条文も「子のある配偶者」に変化しました。
さらに、晩婚化の影響を鑑みて、従来の寡婦年金との公平性から、30歳未満の子供のいない妻や55歳以上の子供のいない夫にも遺族年金の一時金の恩恵を受けられる可能性を見出しました。
年金受給の年齢に満たない人が亡くなった場合には、遺族年金の遺族の受給要件に、亡くなった人の保険料の納付要件も追加されます。
遺族年金の種類
老後のための年金といえば、国民年金と厚生年金ですよね。
遺族年金も、国民年金から支給される遺族基礎年金と、厚生年金から支給される遺族厚生年金があります。
順次解説していきます。
遺族基礎年金
遺族基礎年金では、一定の遺族に遺族基礎年金が支給されます。
まずは、遺族基礎年金受給資格を持つ人を解説します。
受給資格を持つ人
受給資格者は、子供と配偶者です。
この子供と配偶者にもそれぞれ受給要件があります。
▼子供の受給要件
子供の受給要件としては、18歳の誕生日を迎える誕生日の後の3月31日を経過していない、亡くなった国民年金被保険者に生計を維持されていた子供です。
ただし、亡くなった国民年金被保険者に生計を維持されていた1級または2級という重い障害の障害年金を受給していた子供に限り、遺族年金は20歳の誕生日の前日まで支給されます。
「生計を維持されている」条件は、「生計維持要件」として法で定められています。
この生計維持要件とは、前年度の収入が850万円未満、あるいは所得が655万5千円未満(見込み所得含む)の場合で、原則として同居していることです。
ただし別居でも、亡くなった被保険者が仕送りをしていた場合や、亡くなった被保険者の健康保険の被扶養被保険者であった子供に限り、定められた収入や所得を超えないという条件で、生計維持要件を満たした子供に含まれます。
このように、年齢要件と生計維持要件を満たした子供の場合は、年齢要件の最後の日まで遺族基礎年金が支給されます。
しかし、年齢要件を満たしていた子供が、若くして結婚した場合は、法的概念として子供は成人とみなされるため、さまざまな権利が発生します。
また、戸籍上も新たな戸籍ができるので、たとえ学生結婚で亡くなった被保険者と同居して生計を維持されていた事実があったとしても、別戸籍となるので、生計維持関係がなくなったとみなされます。
そのため、被保険者が亡くなったときに本来遺族年金をもらえる年齢の子供でも、その子供が結婚していたら、亡くなった被保険者の遺族年金を受給できる子供の人数に含まれません。
また、遺族年金を受給中でも、結婚すると、婚姻届を提出した日の前月で遺族年金の支給は止まります。
▼配偶者の受給要件
亡くなった被保険者の配偶者(妻あるいは夫)の受給要件は、先に解説した受給要件を満たした子供のいることが第一要件です。
子供がいない場合は、妻の場合は、亡くなった夫が国民年金の1号被保険者であった場合に限り、生計維持関係があって、婚姻関係が10年以上ある長年連れ添った妻(内縁の妻も含む)だった場合、寡婦年金を60歳から受け取ることができます。
「寡婦」というのは、未亡人という意味ですから、再婚したり、籍を抜いた場合は、受給権を失います。
夫亡き後、籍を抜かずに未亡人のまま60歳を迎えた場合に限り、60歳の誕生日月から65歳の誕生月の前月まで寡婦年金を受給できます。
ちなみに、先の例で挙げたようにバリバリ稼いで夫を養っている妻の場合は、生計維持関係がないので寡婦年金は支給されません。
妻の生計維持要件は、子供の生計維持要件と同じです。
ちなみに、亡くなった妻が国民年金1号被保険者だった場合の遺された夫には、「自分で働きましょう」という意味で、寡婦年金の支給はありません。
不公平だと感じるかもしれませんが、国民年金制度ができた時代は、女性の社会進出は考えられないような、専業主婦が当たり前の戦後の時代(昭和36年)でしたので、未亡人を中心にして考えられています。
もし、夫が会社勤めで厚生年金に加入していた場合は、子供のいる妻同様に、子供のいない妻にも40歳以上の女性には65歳まで寡婦加算があります。
そのため、遺族厚生年金の恩恵を受けることのできない国民年金1号被保険者の夫を亡くした妻も、65歳まで未亡人の場合には寡婦年金を受け取ることができます。
時代に合わせて法改正が少しずつされているものの、まだ追いついていないのが現状なので、どうしても男性には不公平に感じられるかもしれません。
たとえ、妻がいないと家業が成り立たないような状況の夫が、唯一の家族の妻に先立たれ、未亡人のような夫だとしても、国民年金からの寡婦年金はもらえません。
しかし、妻の国民年金の加入期間が3年以上あった場合、夫は死亡一時金を受給できます。
死亡一時金は、配偶者、子、父母、孫、祖父、兄弟姉妹の順に受給できる掛け捨て防止制度だからです。
遺族基礎年金の額
遺族基礎年金を受給する際は、子供の分も妻が一緒に受け取ります。
子のある妻の受給額は、夫の受け取るはずだった国民年金のその年の年金額779,300円(平成30年分)です。
この金額は、総務省が毎年調査している国民所得のデータを参考に、物価上昇率を考慮して決められますので、金額は毎年微妙に変化します。
子供がいる場合は、子供の分全員分が妻に加算されます。
第1子、第2子が各々224,300円、第3子以降の子供は各々74,800円加算されます。
寡婦年金(60歳以上65歳未満の間支給)の場合は、779,300円(毎年変わる可能性あり)の4分の3です。
死亡一時金の場合は、12~32万円です。
遺族厚生年金
遺族厚生年金の仕組み
遺族厚生年金の受給要件は、遺族基礎年金とほとんど変わりません。
原則として、子供のいる配偶者と子供が受給者となります。
遺族厚生年金の場合は、亡くなった厚生年金被保険者・被保険者だった人、厚生年金受給者(以下「厚生年金被保険者等」という)生計を維持されている55歳以上の父母・祖父母と孫も受給者となることもあります。
亡くなった厚生年金被保険者等の遺族には、法定相続人同様に順位があります。
その順位は、法定相続人の順位とは少し異なります。
1位:配偶者と子(遺族基礎年金と同じ受給要件)
2位:父母(55歳以上で遺族基礎年金と同じ生計維持要件あり)
3位:孫(子供と同じ受給要件あり)
4位:祖父母(55歳以上で遺族基礎年金と同じ生計維持要件あり)
配偶者が妻の場合と夫の場合とで、条件が異なります。
生計維持要件と年齢要件を満たす子供のいる配偶者は、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方を無条件に受け取れます。
遺族厚生年金の生計維持要件と年齢要件は、先に遺族基礎年金の解説をしたときの要件と同じです。
しかし、子供のいない配偶者の場合は、妻と夫では受け取る額が異なります。
基本的に、55歳未満で子供のいない夫の場合は、遺族厚生年金は一切受け取れません。
一方、30歳未満で子供のいない妻の場合は、遺族年金を夫の死亡後5年の間のみ、受給することができます。
30歳以上の妻は、65歳まで寡婦年金として遺族厚生年金がもらえます。
65歳からは、自分の厚生年金と遺族厚生年金のどちらかを選択する事になります。
また40歳以上の妻が遺族の場合は、子供がいてもいなくても、遺族厚生年金に中高年寡婦加算が追加された額が65歳になるまで支給されます。
子供のいる妻も、子供が成長して子供の遺族年金が受給できなくなった後、妻の年齢が40歳以上になったとき、40歳以上だった場合にも、中高齢寡婦加算が遺族厚生年金に加算されます。
65歳になると、中高年寡婦加算は受給できなくなります。
65歳になれば、寡婦加算がなくとも、自身の国民年金で生活を賄うことができると見込まれているからです。
配偶者も子供もいない場合、その他の遺族に遺族年金の受給権が渡りますが、彼らには中高年寡婦加算も遺族基礎年金も加算されません。
遺族厚生年金の金額
遺族厚生年金の金額は、遺族基礎年金と違って、誰もが一定ではありません。
それは、国民年金の保険料が誰も同じ金額であるのに対し、厚生年金の保険料は、給与の標準報酬月額によって異なるからです。
遺族厚生年金は、加入期間によって金額が異なります。
厚生年金加入期間が25年未満の場合は、25年の加入とみなした期間で計算されます。
そうして計算された、亡くなった人の厚生年金の額の4分の3が遺族年金の金額です。
子供のいない配偶者には、40歳以上になったら加算される中高年寡婦加算の金額は、年額584,500円(毎年変動)です。
遺族年金は相続財産ではない
老齢基礎年金・厚生年金等の年金は、そもそも老後の生活を支える社会保険制度であり、「遺族年金」という名前ではありますが、相続財産に該当しません。
亡くなった国民年金・厚生年金の被保険者が、老後にもらえるはずだった年金を相続するという考え方で遺族が受給できるわけではないのです。
そもそも年金制度は、昭和の戦後の常識、すなわち「20代で結婚し、女性は結婚したら家庭に入って専業主夫になって、子供を2人以上産んで、子育てをしながら夫を支える。そして、親や祖父母と結婚後も同居するのが当たり前。夫は家庭を守るために終身雇用の会社で定年退職まで勤め上げる」という男女の生き方を前提に作られています。
そのため、高齢化社会になって、女性の社会進出が際立ち、晩婚化が進んでいる今の時代にはそぐわない点も多々あります。
そのため、少しずつ時代に合わせて改正がなされ始めましたが、まだまだ不十分です。
しかし、そのような昭和の時代背景で生まれた法律ですから、「一家の大黒柱が突然亡くなってしまったら、その妻は生きていけない」というのが常識でした。
専業主婦だった女性が、突然子供をかかえて社会に出ることなどできない時代です。
子供のいない妻も、夫が亡くなったからといって突然一人で社会に投げ出されるのは可哀想だということで、寡婦年金が設けられました。
ただ、今の世の中は男女平等が唱えられ、女性の社会進出、さらに晩婚化も進んでいます。
そして、2分に1組の夫婦が離婚する時代でもあります。
この制度ができた当時と比べると、女性が一人で社会に出て、活き活きと働いているのは、そう珍しくありません。
「イクメン」という言葉が一般化し、子育てに夫が参加することも当たり前の時代です。
そのため、妻だけでなく夫にも遺族年金の権利を分け与えるように法律が変化していきました。
この制度は「遺族年金」という名前ですが、亡くなった人のもらうはずだった公的年金を相続財産として受け取るのではなく、遺族年金受給者本人に年金機構が支給する社会保障制度なのです。
遺族年金受給の条件
遺族年金を受け取るには、亡くなった人の国民年金や厚生年金の保険料納付要件が大きく関わってきます。
国民年金の場合
国民年金の場合、長期納付要件と短期納付要件があります。
亡くなった人の国民年金保険料納付済期間(保険料免除期間含む)が25年以上ある人(納付者本人の受給権は10年以上)、あるいは保険料納付済み期間が25年未満であっても、納付済期間が、亡くなる前の2ヶ月前までの国民年金加入期間の3分の2以上ある人は、遺族基礎年金を配偶者や子供に遺すことができます。
つまり、真面目に国民年金を納付してきた人は、亡くなった後も配偶者や子供の生活を守ることができるという仕組みです。
しかし、国民皆年金の仕組みが確立したのは昭和40年で、それ以前の国民年金保険料は任意だったため、一律に3分の2以上としてしまうと不公平になります。
あるいは国民年金に加入して間もなく、若くして亡くなった人のために、平成38年4月1日までの特例として、亡くなった日の2ヶ月前までの被保険者期間で、直近の1年間に滞納がなければ(保険料免除期間は納付月と換算する)遺族基礎年金を受給することができます。
厚生年金の場合
厚生年金被保険者、あるいは厚生年金被保険者だった人が亡くなった場合、厚生遺族年金を一定の遺族に遺すことができる人は、以下の要件を満たした人です。
- 厚生年金に加入中、あるいは厚生年金に加入していたときに初診日がある傷病が原因で5年以内に死亡した人で国民年金の遺族基礎年金を遺せる本人要件を満たしている人が亡くなった時(国民年金1号被保険者である時、無職の時に初診日がある傷病で亡くなった場合は該当しない)
- 老齢厚生年金の受給資格がある人(厚生年金加入期間が通算25年以上ある人)が亡くなった時
- 1級・2級の障害厚生年金受給者が亡くなったとき
相続時に遺族年金を受け取る方法
亡くなった人が、国民年金・厚生年金の加入者だった場合は、死亡したために資格を喪失した手続きが必要となります。
厚生年金加入者の場合は、勤めていた会社に依頼をして、資格喪失の手続きを行ってもらってもらいましょう。
国民年金1号・3号被保険者の場合は、市区町村の役場に死亡届を提出すれば、資格喪失手続きをしてもらえます。
これらの資格喪失手続きは、遺族年金受給者がいてもいなくても必要な基本手続きです。
次に、遺族年金の請求先の市区町村の役場あるいは年金事務所に出向いて、手続きを行います。
必要な書類は、以下の通りです。
- 戸籍謄本(戸籍の付票)
- 住民票
- 住民票(除票)
- 請求者の所得証明
- 死亡診断書(写し可)
- 記入期間の通帳
- 印鑑
戸籍謄本は、亡くなった人との続柄を見るためのものです。
そして、住民票や除票は、被保険者本人の死亡の確認のためのものです。
その他、生計維持関係や亡くなった時の状況(病気か事故か第三者による加害事件か等)、その他さまざまな受給要件の確認に必要な書類が、市区町村や年金事務所によって微妙に異なることもありますので、必要な書類を電話で問い合わせてから窓口に行くことをお勧めします。
一つでも書類が欠けてしまうと、手続きができません。
遺族年金は、受け取る年金によって手続きの窓口も異なりますし、請求者によって必要な書類が各々の事情によって異なる場合もありますので、年金事務所や市区町村の年金課に電話で問い合わせて相談してみましょう。
直接役場や年金事務所にいくことができる場合は、直接行ってしまったほうが、年金受給資格や年金の受給額、手続きの方法等、さまざまな質問に答えてくれます。
その際には以下の書類を持参するとスムーズです。
- 死亡した人の年金手帳(年金受給者は年金証書)
- 死亡したことが確認できる書類
- 死亡した人との関係がわかる書類
以上、必要な書類が揃っていれば、請求のための必要な書類の記入の仕方等もその場で教えてもらえますので、想像以上に簡単に解決することができるはずです。
遺族年金制度の遺族給付金とは?
遺族年金制度とは、下記2つの性質を持っている給付金のことです。
- 被保険者が現役で働いている期間中に死亡した場合に、その人が生計を維持していた配偶者や子などに対して支給される。
- 受給権のある人が死亡した場合に、その人が生計を維持していた配偶者などに対して給付される。
相続時にもらえる遺族年金は、死亡した人が国民年金や厚生年金等に加入または受給していた場合に、定められた条件に合致した遺族が自主的に手続をすると受け取ることができます。
したがって、遺族年金は相続時に手続することはできても相続財産ではありません。
このような遺族年金制度の1つに遺族給付金があります。
遺族年金の1つである遺族給付金は、死亡した人が自営業者などで相続時に国民年金のみに加入している第1号被保険者である場合に限定された救済措置で、「寡婦年金」と「死亡一時金」の2つがあり、相続する際にいずれかを選択します。
寡婦年金
相続発生後に受給できる寡婦年金は遺族年金の1つです。相続財産ではありませんが、相続する際に遺族が自主的に手続することで受給できます。
寡婦年金の一番大きな特徴は、遺族年金の中で相続時に受給の対象となるのが妻だけであることです。
もし、妻の方が先に死亡したとしても、相続時に夫に対しては寡婦年金は支給されません。男女によって格差のある遺族年金が寡婦年金です。
寡婦年金は、相続時に夫が第1号被保険者として国民年金に加入しており10年以上にわたって国民年金を納付していて、内縁の妻を含めて妻がこの夫と10年以上の婚姻関係にある場合に受給することができます。
さらに、寡婦年金を受給するためには下記の条件も満たす必要があります。
- 1.死亡した夫が死亡する前に老齢年金や障害年金を受給したことがない。
- 2.夫婦間の生計を夫が維持している。
- 3.死亡した時点での夫の年齢が65歳未満である。
- 4.夫が死亡してから5年以内の請求である。
この遺族年金の1つである寡婦年金は、受給できる期間は60歳~65歳までで、受け取れる額は、死亡した夫が生きていれば受給するはずだった老齢年金の4分の3の額です。
相続時に死亡した夫が60歳前で妻が寡婦年金を受給するまでの期間が長い場合には、代わりに遺族年金の1つである死亡一時金の方を相続時に選択することもできます。
なお、寡婦年金は、夫が亡くなってから事実婚を含み妻が再婚した場合や、何らかの事情で直系の血族や姻族以外の人の養子になった場合には受給資格を失います(失権)。
死亡一時金
死亡一時金も遺族年金の1つであり、相続財産ではありませんが、相続時に手続きすることが可能です。
死亡一時金は、死亡した人が国民年金に加入している第1号被保険者で、相続時に国民年金の保険料を36ヶ月以上納付していた場合に適用されます。
ただし、寡婦年金と同様に、死亡一時金は、相続時に死亡した人が老齢基礎年金と障害基礎年金のいずれも受けていないことが受給条件です。
この死亡一時金を受給できる遺族の優先順位は、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順になり、寡婦年金は妻だけですが、死亡一時金は相続時に手続すれば夫にも支払われます。
ただし、相続時に遺族基礎年金を受給する場合は死亡一時金は支給されません。
また、遺族年金のうち、相続時に寡婦年金と死亡一時金の両方を受け取れる場合であっても、どちらかを選択することになります。
なお、遺族年金の1つである死亡一時金の支給額は、死亡した人が保険料を納めていた期間と免除されていた期間の合計によって定められており、付加保険料を納付した月が36ヶ月以上の場合には下記の金額に8,500円が加算されます。
- ・ 36ヶ月以上180ヶ月未満 120,000円
- ・180ヶ月以上240ヶ月未満 145,000円
- ・240ヶ月以上300ヶ月未満 170,000円
- ・300ヶ月以上360ヶ月未満 220,000円
- ・360ヶ月以上420ヶ月未満 270,000円
- ・ーーーーーー420ヶ月以上 320,000円
なお、死亡一時金は、国民年金第1号被保険者が死亡した日から2年が経過してしまうと時効によって権利が消滅しますので注意が必要です。
受け取りを希望する際は、相続時に手続きを済ませておきましょう。
相続手続きをする際に必要書類とともに対象となる遺族の住んでいる市区町村の年金担当の課や年金相談センターの窓口に請求書を提出すると、受取ることができます。
遺族補償年金も受け取り可能
労働者が業務上の災害で死亡した場合には、相続時に遺族年金の1つである遺族補償年金が支払われます。
これも遺族年金の1つであるため、相続財産ではありませんが、相続時に手続すれば受け取ることができます。
遺族補償年金とは?
遺族年金の1つである遺族補償年金とは、どのようなものでしょうか。
遺族補償年金は、労働者がその業務または通勤を原因として死亡した場合、相続時に被災労働者が死亡した当時に、死亡した人の収入で生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹に支払われます。
しかし、遺族補償年金は、相続する人が妻以外の遺族の場合には被災労働者が死亡した当時に一定の高齢である人または年少の人、もしくは一定の障害(障害等級大5級以上)を持っていることが条件になっています。
なお、死亡した人の収入で生計を維持していたとは、生計の一部を維持していた「共稼ぎ」にもあてはまります。
遺族補償年金の支給条件
相続時に遺族年金の1つである遺族補償年金を受給できる人の優先順位は、下記の通りです。
- 1.妻、または60歳以上あるいは一定の障害を持っている夫
- 2.18歳に達する日以後から最初の3月31日までにあるか、一定の障害を持っている子
- 3.60歳以上または一定の障害を持っている父母
- 4.18歳に達する日以後から最初の3月31日までにあるか、一定の障害を持っている孫
- 5.60歳以上または一定の障害を持っている祖父母
- 6.18歳に達する日以後から最初の3月31日までにあるか、60歳以上、もしくは一定の障害を持っている兄弟姉妹
- 7.55歳以上60歳未満の夫
- 8.55歳以上60歳未満の父母
- 9.55歳以上60歳未満の祖父母
- 10.55歳以上60歳未満の兄弟姉妹
遺族補償年金は、配偶者には内縁の妻も含まれ、被災労働者が死亡した時に胎児だった場合には生まれたときから受給資格者になります。
優先順位にある人が死亡したり再婚して受給資格を失った場合には、その次の順位の人が受給者となります。
ただし、上記7から10にある55歳以上60歳未満の夫・父母・祖父母・兄弟姉妹が受給することになった場合も60歳になるまでは支給が停止されます。
遺族補償年金の受給額
相続時に手続できる遺族補償年金は、受給する資格のある人、およびその受給資格のある人と生計を共にしている受給資格者の数などに応じて、遺族補償年金、遺族特別支給金、遺族特別年金が支払われます。
それぞれの給付基礎日額は下記の通りです。
- 1.遺族が1人の場合:53日分で、その遺族が55歳以上の妻または一定の障害状態にある妻の場合は175日分
- 2.遺族が2人の場合:201日分
- 3.遺族が3人の場合:223日分
- 4.遺族が4人の場合:245日分
この「給付基礎日額」とは、労働基準法の平均賃金に相当する額のことです。
具体的には、死亡した人が業務上や通勤時に負傷や死亡した事故の発生日、または医師の診断で疾病発生が確定した日の直前3ヶ月間に支払われたボーナスや臨時賃金を除く賃金の総額をその期間の暦日数で割った1日あたりの金額です。
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いかがでしたでしょうか。
先述しましたが、遺族年金の手続きは多くの書類が必要で、時間も手間もかかります。
今後の生活のためとはいえ、大切な人が亡くなったすぐ後に、残された人たちがこのような煩雑な手続きを行うのは、心身ともに非常に難しいことだと思います。
小さな子供を抱えている人の場合は、もっと大変でしょう。
しかし、遺族年金を受け取るための手続きには、遺族である妻あるいは夫本人が直接出向く必要があります。
委任状その他の必要書類がある場合で、必要な書類等、遺族年金の受給権や金額等についての相談のみであれば、配偶者や子供本人ではない第三者が行うことも可能です。
相談に必要な書類は年金機構のHPを参考にしましょう。
ただし、手続き自体はご本人が行く必要があります。
手続きも代行してもらいたい場合は、年金相談業務を行っている社労士事務所の社労士に相談すると、必要な書類の用意から手続きまで全て代行してもらうことができます。
また、遺族年金も一定の金額を超えれば所得税がかかります。
そのようなお金の相談は社労士ではなく、税理士がお勧めです。
大切な人が亡くなったときの手続きはともかく、書類集めやさまざまな相談業務については、委任状を作成して信頼できる第三者にお任せしましょう。
そして、年金事務所職員、税理士、社労士といった専門家に相談すると、手続きがスムーズです。
ちなみに、遺族年金の手続きは、亡くなった日から5年の月日が流れると、時効で遺族年金の受給権が消滅してしまうことも頭の端に置いておきましょう。