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【相続税 】
相続税について説明しています。相続税は相続する人物、相続の対象、評価額などによって納税の有無や納税額が異なります。また相続税を抑えるための対策もあります。相続税についての知識を得て、しっかり相続税対策を行いましょう。

2019年7月15日 月曜日

【相続税の計算】相続人や被相続人が海外在住の場合は

グローバル化が進む現代において、身近な人が仕事や結婚などによって海外在住となることは珍しくなくなってきました。

そんななか、海外在住の近親者が亡くなる、または自身の海外在住時に日本で親が亡くなるなどして相続が発生することは十分に考えられます。

相続人または被相続人が海外在住であった場合、全ての相続関係者が日本在住である場合と比較してどのような違いが出てくるのでしょうか。

 

相続人が海外在住の場合

相続人が海外在住の場合、相続の流れや相続税の算出において日本在住者とどのような違いが発生するのでしょうか。

相続人が国内の遠方にいる場合と同様、海外在住であっても財産の相続を受ける権利がなくなるわけではありません。

また、相続人が海外在住だからという理由で、その相続人を除いた日本在住者だけで協議を行い相続を行うことは民法上認められておらず、もしそのような財産分与が合意されても受理されることはありません。

反対に、海外に在住しているというだけで手続きもなく相続を放棄することはできませんし、相続税が免除されるということもありません。

相続人である以上、どこに住んでいたとしても相続に関する協議に参加して必要な手続きを行う義務があり、相続税の納税義務も必ず発生します。

 

相続において、どの国の法律が適応される?

日本国籍の被相続人が亡くなって相続が発生した場合、相続や相続税の算出は日本の民法に則って行われることになります。

そのため、相続人が海外在住の場合も、相続における基本的な条件や相続税の計算ルールは相続人の全員が日本在住である場合と変わることはありません。

ただ、海外在住の相続人がいる場合には通常と異なる手続きが発生したり、相続税の対象となる財産の範囲が異なってくるなど、相続をすすめる上でいくつかイレギュラーな対応が必要となってきます。

 

遺産分割協議の対策

遺産分割協議とは、海外在住者を含む相続人全員で集まり、誰がどの財産をどのような割合で受け取るかを決める話し合いのことです。

遺言が残されており、且つ、その遺言に従って分割する場合は遺産分割協議は不要です。しかし、遺産の一部についての遺言しかない、あるいは遺言内容と異なる配分を行いたい場合には、相続人全員の合意を得るために遺産分割協議が行われます。

遺産分割協議が実施された際には、最終的に合意に至った内容を書面に残す必要があります。これを基準として相続が執行され、相続税の算出が行われます。

それが遺産分割協議書と呼ばれるもので、協議内容を細部まで正確に残すためだけでなく、将来、相続人の一部の人が「合意していない」などと主張しトラブルになることを未然に防ぎ、滞りなく相続を進めていくために必要となるものです。

遺産分割協議書には、相続人同士において契約書のような役割があり、また対外的には協議された相続内容を証明する証明書のような役割を持つことになります。

それでは、相続人が海外在住であった場合は、日本在住の場合と比較してどのような対応が必要になってくるのでしょうか。

 

海外在住の相続人はいくつかの書類の準備が必要

法的に有効となる遺産分割協議書を作成するためには、海外在住者を含む相続人全員分の必要な書類を揃える必要があります。

遺産分割協議そのものについては、海外在住の相続人が一時帰国するなどして全員で集合し、実施することは可能でしょう。

注意すべき点は、遺産分割協議書を作成する際に必要な書類をすべて不足なく揃える必要があるという点です。日本在住であれば問題なく取得できるような書類でも、海外在住の場合は取得できないものもあるからです。

そういった場合は、その書類に代わるものを用意することになります。

 

遺産分割協議書の必要書類

まず、遺産分割協議書には相続人全員の署名と実印による押印を行った上で、それぞれの印鑑証明書を添付する必要があります。

さらに、遺産のなかに不動産がある場合は登記申請のための住民票の添付が求められます。

 

サイン証明書

日本以外の国の多くにはそもそも「印鑑」の文化がないことがほとんどです。

海外在住の場合、日本であれば印鑑が求められる場面ではサインが用いられることになります。

したがって、海外在住者は、印鑑に代わって遺産分割協議書にサインをした上で、それが本人のものであると証明する「サイン証明書」を現地の日本領事館などの在外公館に出向いて発行してもらい、これを印鑑証明書の代わりに添付することになります。

 

在留証明書

日本における住民票の役割を持つ書類、つまり海外在住者の海外における住所地を証明するものが在留証明書です。

海外在住の相続人が受け取る相続財産に不動産が含まれる場合に必要になるものですが、仮に不動産が含まれなかったとしても、サイン証明書だけでは海外における住所地を証明できないため、サイン証明書提出の際には一緒に提出することが求められます。

なお、サイン証明書と在留証明書はいずれも在外公館で発行してもらうものになりますので、海外在住の方が相続手続きをする際は同時に取得しておくとよいでしょう。

 

全体的にイレギュラーな手続きが多いので要注意

このように、相続人が海外在住であったとしても日本の民法に則って手続きを進めることで、日本在住の場合と同様に遺産を受けとることが可能です。

ただし、海外在住であるために必要書類が変わるなどイレギュラーな手続きが発生する場合がありますので、手続きを進めるにあたって注意が必要です。

上記で挙げたもの以外にも、例えば相続税に関連する手続きで、相続財産に関する相続税申告手続きや、相続税の納税手続きなどがあります。これらは日本在住の「納税管理人」を定めるなどして対応していくことになります。

その他にも相続を放棄する場合など、状況に応じて都度必要な手続きが変りますので、必ず確認しながら進めるようにしましょう。

 

被相続人が海外在住の場合

次に、被相続人が海外在住だった場合を考えてみましょう。

この場合、相続する財産の内訳として日本に置かれているものと海外に置かれているものが混在していることが多いでしょう。

全ての財産は相続税の計算上把握されている必要がありますので、まず、相続財産が「国内財産」「国外財産」のいずれに該当するのかを確認しておく必要があります。

主な分類は以下の通りです。

・不動産、動産(現金、自動車、絵画など):所在地
・預貯金:受け入れをした営業所や事業所の所在地
・特許権や商標権:登録を行った機関の所在地
・生命保険などの保険金:契約保険会社の本店または主たる事務所の所在地
・日本国債、地方債:日本国内
・外国債:その外国内

どちらに該当するかによって相続税支払いの対象になるかどうか、また相続税の納税先がどちらの国になるかなどが変わってきます。

 

どの国の法律が適用されるかを確認

被相続人が海外在住だった場合に最初に確認すべきことは、居住していた外国の法律と日本の法律のどちらが適用されるかという点です。

日本の法律では「相続は被相続人の本国法による(法の適用に関する通則法36条)」と規定されています。

そのため、基本的には被相続人の国籍のある国の法律に従って相続が行われ、相続税についてもこれに従って支払っていくことになります。なお、日本には相続税という制度がありますが、国によって相続税に相当する制度が無い国もあります。

今回は、海外在住であった被相続人が日本国籍であり、日本の法律に従って相続と相続税の計算が行われる場合について見ていきましょう。

 

相続人の居住地や、居住年数も重要

被相続人だけでなく、相続人も海外在住であるという場合もあります。

相続税の納税義務者となる相続人はそれぞれ、日本と海外のどちらにどれほどの期間居住しているかによって分類されます。

仮に同等の財産を相続したとしても、納税義務者の区分によって相続税の課税対象となる財産の範囲が異なってくるのです。

 

無制限納税義務者

無制限納税義務者とは、日本在住であるために、日本の法律に則って相続税の納税義務を果たさなければならない人を指します。

日本に住所があり、生活拠点が日本であれば外国籍の方もこれに該当し、相続税の納税義務を負うことになります。

 

日本の財産および海外にある財産も相続税の対象

無制限納税義務者に該当する場合、財産の所在地に関わらず相続を受けたすべての財産が相続税の課税対象となります。

ここで、海外にある遺産は申告しなければ相続税の支払いを免れることができるのでは?と安易に考えてはいけません。

日本と諸外国は租税条約を締結しています。相続税の申告に疑わしいことがあれば、その条約に含まれる情報交換規定によって、国税庁が海外の遺産と相続税の計算内容などについて調査に入ることも可能とされているのです。

制限納税義務者

一方、相続税法で規定される「制限納税義務者」に該当するケースがあります。

相続によって財産を相続した人で、相続発生時において日本国内に住所がない期間、つまり海外在住歴が10年以上の人が該当します。

なお、10年以内の場合は「非居住無制限納税義務者」という異なる分類になります。

 

日本国内にある財産のみ相続税対象

制限納税義務者に該当する場合、相続財産のうち海外に置かれている財産については相続税の課税対象になりません。

ただし、国によっては日本の相続税のような制度が存在する場合もあります。その場合、その国の法律に従って海外に置かれている財産にかかる相続税を支払う必要が出てきます。

 

遺言の有効性も要チェック

ところで、海外在住だった被相続人が遺言を残していた場合、または遺言を残したいと考えた場合にどのような点に注意する必要があるのでしょうか。

被相続人が日本国籍の場合は、日本の法律に則って相続が行われることは先に説明した通りです。

そのため、遺言についても日本において有効となる形式で作成されていることが望ましいのですが、海外在住であったためにその居住国の形式で作成されている場合もあるでしょう。

被相続人の遺志を尊重するために、どちらの形式であった場合もその遺言をなるべく有効とするための「遺言の方式の準拠法に関する法律」という日本の法律があります。

これによって、海外の法律に則って作成された遺言書でも効力を持つことができます

ただ、この遺言書の内容などについて争われるような状況になった場合、国内財産については日本の法律によって判断されますので注意が必要です。

日本と海外にそれぞれ相続財産がある場合については、相続の執行時に確実に遺言内容に沿って、かつ手続きをなるべく簡易にするために「日本にある財産については日本の形式の遺言書で」「海外にある財産についてはその国の形式の遺言書で」作成しておく、といった対策も有効です。

 

複雑な手続きとなるので、専門家のサポートが必須

前述の相続人が海外在住の場合と同様、被相続人が海外在住であれば、日本の法律に従って相続や相続税の申告、納税を行うとしても、手続きや書類関係は複雑になります。

相続人が日本在住であれば、被相続人が居住していた国での手続きなどをサポートしてくれる人が必要となってくるでしょう。

また、被相続人の海外在住歴が長いほど国外財産の割合が高くなる傾向にありますが、その場合、日本在住の相続人がすべての遺産を正確に把握することは難しくなってきます。

意図していないにも関わらず、遺産隠し、相続税の脱税などといった違法行為を犯してしまいトラブルになるのは避けたいところです。

生前に被相続人ときちんと連絡を取り、相続財産の内容や相続税対策などについて共有、相談できていればよいのですが、そうでない場合は被相続人と同居していた親族などに確認を取ったり、それも難しければ現地の法律事務所などを頼るしかありません。

ただでさえ複雑な相続手続きや相続税申告を、国をまたいで行うとなると、国内外の専門家のサポートは必須であると認識しておきましょう。

 

まとめ

相続人または被相続人が海外在住だった場合、相続と相続税の計算にどのような違いがあり、またどのような点に注意すべきかお分かりいただけたでしょうか。

相続関係者が全て日本在住の場合と比べて、状況確認や手続きに手間と時間、場合によっては費用もかかってくることを想定しておかなければなりません。

海外在住者を含む相続が想定される場合は、少しでもスムーズに相続が進められるよう、まずどの国の法律が適用されるのかを踏まえた上で早めに対策を取っておくことが大変重要です。予め専門家に相談し、どのような手続きが必要になるのか把握しておきましょう。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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