民法には、人が死亡した場合の財産の継承について基本的なルールが定められています。
それらの相続に関する決まりが、相続法です。
人が亡くなった後、残された家族はこの相続法に基づいて故人の資産を分配します。
分配によって取得する財産に課せられるのが相続税です。
この記事では、2019年度から施行される相続税改正について主に配偶者居住権に重点を置きながら、実際にどのような影響があるのかを見ていきたいと思います。
相続税改正の背景
相続税は、1980年に改正されて以降、大きな改正は行われず手つかずのままでした。
が、昨今の急速な少子高齢等の社会経済情勢の変化に対応するため、2018年7月におよそ40年ぶりに大きな見直しが行われました。
今回の相続税改正の主なポイントは以下の通りです。
|配偶者居住権が創設される
|自筆証書遺言に添付する財産目録の作成がパソコンでも可能になる
|法務局で自筆証書による遺言書を保管することが可能になる
|被相続人の介護や看病に貢献した人は、法定相続人でなくても金銭要求が可能になるとい う特別寄与分制度の制定
|遺留分については、遺言状の中身がどうであれ、法律に基づいて保障されるようになる (遺留分とは、どの相続人にも認められた最低限の取り分)
|故人の金融資産の引き出しについて、一定限度額であれば金融機関から個人の預金を引き 出す事ができる仮払い制度が創設される
この改正案は2018年の通常国会に提出されて成立し、2019年から順次施行されます。
配偶者居住権を新設
2018年7月に成立した相続に関する民法の一部改正の中に、配偶者居住権の新設があります。
これは、残された配偶者の生活の安定を図る事を目的としています。
配偶者居住権とは、相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利の事を言います。
居住権は、不動産所有権よりも評価額が低くなるため、故人の配偶者は住居以外の財産の取り分を増やせます。
これまでは、相続で配偶者が住居の所有権を取得したため、その他の財産取り分が少なくなり、生活が困窮するケースがあったため、これに対処するものとして新設されました。
新たに制定される配偶者居住権は配偶者の終身制度で、一生涯その権利が保障され、配偶者の死亡時に無効となるものです。
従って、二次相続(他記事参照)の対象額は減り、住居の売却や他の人への譲渡は原則できません。
配偶者の相続分は、居住権と敷地利用権を評価し、相続税申告の対象になります。
一方で、その価格は、建物・土地の相続人の取得財産額から控除できます。
増改築や第三者が使用をするには建物所有者の承諾が必須要件となります。
配偶者居住権の新設は、2020年4月1日から施行されます。
配偶者居住権が成立する場面
住居はあるけれども、他には大きな相続財産がないというケースでは、他の相続人に対する代償金を支払うための現金がないために、故人の配偶者が自宅を相続できず手放さなければならなくなり、結果、配偶者は転居をせざるを得ないという状況が発生することがありました。
また、故人の遺言により、自宅を配偶者以外の者に相続させるとの遺志がある場合、自宅を相続した相続人が配偶者に対し立ち退きを要求するといった場合もありました。
しかし、高齢者が長年住み慣れた自宅を離れ、新しい住居へ移ることは、精神的にも肉体的にも負担が大きく、こうした事態は極力生じないようにする必要があります。
配偶者居住権は、相続開始の時に居住していた配偶者に認められる権利です。
遺産分割、遺贈や死因贈与、家庭裁判所の決定のうちいずれかによって認められます。
しかし、配偶者が相続時に、居住建物に配偶者以外の者、例えば子供や兄弟等と共有していた場合には無効となります。
原則的に、配偶者居住権は、配偶者が生存している間が対象期間となります。
配偶者居住権の適用例
…