財産目録が無い状態での遺産分割協議は、残念ながら順調に完了する場合がほとんどありません。
身内の方がお亡くなりになられ、最初にやらなければならないのは「相続人の確定」と「相続財産分配の確定」です。
しかし、葬儀や諸々の手続き、関係各所への連絡などと同時進行で進めるのは難しく、また手間もかかる作業のため、相続税申告期限のぎりぎりになってしまうケースは珍しくありません。
大切な人を失くした中、時間が少ない状況でトラブルを起こさずに自身の冷静さを保つことは、多くの人にとって困難であると言えます。
そこで、相続人同士の協議や相続税申告に関するトラブルを減らすための知恵としておすすめしたいのが、財産目録の作成です。
財産目録という文書で表記することで、全ての財産の現状が明確になり、全員がどこから手をつけて行けばいいのかが理解できるようになります。
財産目録という単語は耳にするけれど、何から始めればよいか、その作成方法が分からないとなどお悩みの方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
そうした方のために財産目録の基礎知識を解説したいと思います。
財産目録とは

財産目録とは、亡くなった人(被相続人)の名義になっていた財産を一覧表の形式にまとめたものです。
財産目録には現預金や不動産などのプラスの財産の他に、借金や負債などのマイナスの財産も全て記載します。
財産目録を作成する人の都合によって、これは載せてこれは載せないといった選択肢はなく、全ての相続財産を全て記載します。
財産目録に抜けているものがあると、相続税のシミュレーションに誤差が生じるだけでなく、相続人に明かしていない財産が存在すると相続人同士の協議で揉め事が生じる恐れもあるため、必ず全ての相続財産を記載する様にしましょう。
財産目録を作成するメリット

財産目録は法律上で作成が義務付けられているものではありません。
ではなぜ手間のかかる財産目録をわざわざ作成する必要があるのか、そのメリットについてご説明します。
相続トラブルを防ぐ
財産目録は、相続人同士の話し合いをスムーズかつ円満に進めるために必要なものです。
遺産の分割を進めるための協議では、故人の財産を全て把握している相続人と、全く把握していない相続人との間で情報に格差が生じてしまうことがあります。
それにより、情報量の少ない相続人側が隠し財産があるのではないか、相続財産を管理している人が私的に使い込んでいるのではないか、などの猜疑心を持ってしまうこともあります。
また、知らされていない情報を後から知らされると、人は動揺を避けることができず、冷静な話し合いは不可能となるでしょう。
相続人同士の揉め事に発展してしまい、最悪の場合は家庭裁判所での調停や審判でないと解決ができない程、話がこじれてしまう可能性もあります。
遺産を管理している相続人は、相続人間の情報量の差、その他の相続人の心理状態を理解した上で、あらかじめ相続財産目録を作成し、遺産分割協議の冒頭で相続人全員に提示することが、円満に協議をまとめる上で重要な意味を持つことを認識しておく必要があります。
相続税の支払いがスムーズになる
相続税は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告と納付をしなければなりませんが、財産の総額が明確になっていないと、相続税の申告が必要なのかどうか、相続税はどのくらい発生しそうなのかを調べることができません。
また、相続人は葬儀や様々な手続きが発生する中で10ヶ月以内に相続財産の調査から始まり、各種必要書類の手配、相続人同士が納得した状態で協議をまとめるというのは至難の業です。
もし10ヶ月の申告期限を過ぎてしまうと、延滞税や無申告加算税などのペナルティが課される可能性もあるため、期限内にスムーズに申告手続きを終えるためにも財産目録は必須のものと言えるでしょう。
財産目録の記載内容
財産目録としての機能を果たすためにはプラスの財産とマイナスの財産を記載する必要がありますが、それぞれ何を記載すれば良いのでしょうか。
ここでは代表的な財産の種類を紹介していきます。
財産の種類
預貯金、不動産、有価証券、その他自動車などの資産(プラスの財産)と、借金などの負債(マイナスの財産)を記載します。
大切なことは、資産と負債の全ての財産を抜け落ちの無いよう記載することです。
種類別の記載内容
どのような情報を財産目録に書いておくと良いか、財産の種類別にご紹介します。
・預貯金、現金
一般的に預貯金については、預金通帳でチェックするのが基本となります。
通帳が未記帳になっている可能性もあるため必ず記帳しましょう。
銀行名、支店名、預金種目及び口座番号を記載し、相続開始時点の残高を記載しておきます。
また、ネットバンクの普及により預金通帳が発行されていない場合もありますので、金融機関からのハガキや郵便物、メール等が来ていないかを確認し、被相続人の口座がないか調べましょう。…