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【手続きの手順・方法 】
相続時に必要な手続きについて手順や方法を説明しています。必要な手続きをせずにいると、後々相続トラブルに発展する可能性もあります。相続の手続きについて手順や方法を知っておきましょう。

2019年8月19日 月曜日

遺産を管理する人に「遺産の開示」を求める方法とは?

亡くなった人の遺産を把握することは、遺産相続の問題に取り組む第一歩です。

遺産を把握するためには、遺産を管理している人にすべての遺産の開示を求める必要があります。

この記事では遺産の開示を中心として、その方法や相続人間での問題、遺産を隠した場合にどうなるかについてご紹介していきます。

 

遺産の開示とは

「遺産の開示」とは、亡くなった人(被相続人)が残した遺産内容を明らかにして提示することです。

基本的に遺産の開示は遺産を管理している人がするものですが、その人が全ての遺産を把握しているのかどうかはわかりませんし、全ての遺産の開示を行っているかもわかりません。

遺産の開示は法的にも重要なポイントになるので、相続人は慎重に遺産について調べていかなくてはいけません。

 

遺産の管理人が遺産を開示しない場合がある

この記事をご覧になっている方の中には、現在相続問題を抱えていて、遺産が開示されないことについて悩んでいる方もいるのではないでしょうか?

どういった場合に遺産の開示が行われないかというと、相続人となる人たちの間が疎遠であったり、遺産相続についての話し合いがうまく進んでいない場合など、相続人間の問題が主にあります。

 

遺産の開示をしてくれない場合は、金融機関の口座有無を調べて取引内容の開示を求めることが可能です。

その取引履歴の入出金記録から証券取引や生命保険の加入有無が、また、固定資産税の取引履歴から不動産所有の可能性がわかります。

それらの情報をもとにそれぞれの機関に問い合わせて遺産の確認が行えます。

遺産の開示方法の詳細は後述で説明しますが、以前は、情報の開示には相続人全員の承認が必要でした。

しかし現在は相続人1人から情報の開示を求めることができます。

 

遺産の開示が必要な場面とは

それでは遺産の開示はどういった場面で必要になるのでしょうか?

 

1. 相続税の申告の際

遺産を相続する場合には、相続税の支払いが発生します。

相続税とは、被相続人から遺産を引き継ぐときに支払わなくてはならない税金のことです。

きちんと遺産を把握していなければ、どのくらい相続税がかかるのかを計算することができません。

そのため、課税の対象となる遺産の他、非課税になる遺産もきちんと確認しておきましょう。

全ての遺産を把握することが、相続税を算出するためのスタートです。

 

2. 遺産分割協議の際

遺言書がある場合や、相続人が1人以下の場合は遺産分割の協議を行う必要がありません。

しかし相続人が複数人いる場合、遺産の分割は問題になります。

基本的に、法定相続人がそれぞれの法定相続分を相続しますが、相続人が納得すればその法定相続分と異なる割合で相続することができます。

長引く遺産分割協議は、余計な費用や時間を費やすことによって人間関係に影響が出たり、精神を疲労させるでしょう。

そのため、遺産を管理している人は正しく遺産の開示を行い、スムーズに遺産相続問題を解決させたいものです。

 

遺産の開示方法

これまでの説明で遺産の開示の必要性は理解いただけたでしょうか?

つぎに遺産の開示方法について説明していきます。

遺産の開示が全くされない、遺産の内容がわからない場合はプロの専門家に遺産調査を依頼することもひとつの手ですが、自身で確認することもできるので、参考にしてください。

必ず確認していただきたい遺産の開示方法は「不動産」「預金債権」「遺産分割調停」の3つあります。

 

不動産の場合

まずは、不動産についての遺産の開示の流れを確認していきます。

不動産については、土地・建物それぞれの情報が必要になるので注意してください。

 

1. 不動産の「地番」(土地に関して)「家屋番号」(建物に関して)を把握する。

地番や家屋番号を把握するには以下の3つの方法があります。

 ・ 不動産の「権利証」または「登記識別情報」を探す。
 ・ 毎年郵送されてくる固定資産税などの納税通知書を確認する。
   ただし、あくまで課税対象の土地・家屋に対してのみなので、私道や墓地などに関し   ては記載がありません。
   こういった不動産を持っている可能性があれば、権利証で確認をしてください。
 ・ 「名寄帳」を役所で取り寄せる。
   名寄帳は市区町村の管理する課税台帳のことで、納税者の所有する不動産の一覧が記   載されているものです。
   これは不動産のある市区町村の役所で取り寄せることができ、課税対象の不動産だけ   ではなく、非課税の私道や墓地に関しても情報を手に入れることができます。
   ただし非課税の不動産に対しては記載漏れの可能性もあるので注意が必要です。
   その場合、法務局で「公図」を確認する必要があります。
   また、私道は近隣住民との共有名義になっていることもあるので、「共有名義の名寄   帳」と「個人所有の名寄帳」と2種類が必要です。

 

2. 登記簿謄本(登記事項証明書)を取得する。

登記簿謄本は法務局へ行き取得します。

窓口でも郵送でも、日本国内であればどこでも取得が可能です。

しかし郵送の場合は、申請書の記入や収入印紙の購入など事前準備が必要で時間もかかります。

不明な点や間違いの修正も相談しながらすぐに対応できる、窓口での取得をおすすめします。

 

預金債権の場合

「預金債権」とは簡単にいうと、通常私たちが銀行などに預けているお金(預金)のことです。

これは法律用語で銀行に預託されたお金のことを指しています。

普通預金や定期預金など金融機関への預け方はさまざまですが、私たちがお金を預けて金融機関がそのお金を運用(私たちのお金を使って貸出し金利を得る)しているので、「債権」という言葉が使われています。

前置きが長くなりましたが、この預金債権の遺産の開示について見てみましょう。

 

確認の方法は簡単で、2つの手順です。

1. 遺品の中から金融機関の通帳やキャッシュカードを探す。
2. その金融機関に問い合わせ、「残高証明書」相続開始時点(死亡した日)のものを発行を依頼する。
  ※このとき、被相続人との関係を明らかにするため、本人確認書類や戸籍が必要となるケースがあります。また、相続人1人から手続きをすることが可能です。

スムーズにすべての通帳などが見つかればよいのですが、見つからなかった場合は金融機関からの郵便物を探したり、カレンダーや記念品などから利用していた金融機関の口座を探してください。

また、見つかった預金残高が思ったよりも少ないことがあるかもしれません。

「同居していた他の相続人が被相続人の預金を使っていたのでは?」などと疑われる場合は、被相続人の口座がある金融機関に取引の開示請求ができます。

この開示請求も相続人1人から手続きをすることが可能です。

 

そして近年気を付けたいのが、インターネットバンキングなどのネットでの取引です。

パソコンに取引の記録が残っていることがありますので、忘れずに確認してください。

 

遺産分割調停に伴う開示

被相続人が遺言を残していなかった場合、その家族は遺産の分割について話し合わなくてはいけません。

遺産を分割する話し合いは、時にはトラブルを招くこともあります。

話し合いで解決できない場合、「遺産分割調停」を家庭裁判所で行うことになります。

 

ここで勘違いしないでいただきたいポイントがあります。

遺産の開示を求めるために遺産分割調停を申し立てるのではありません

 

あくまで遺産分割調停は、全ての相続人が遺産内容を把握していて確定している遺産を分けるための話し合いです。

遺産相続問題でもめているから調停をひらくのではないため、遺産が確定していなければ裁判所側で受け付けてはくれません。

間違えやすいため気を付けてください。

 

遺産分割調停に必要な書類はたくさんあり、調停を行うために遺産の開示をしておく必要があります。

申し立てを行う裁判所によって必要書類の内容が異なるので、事前に管轄の裁判所に問い合わせてみてください。

参考までに、裁判所のホームページ内には遺産の開示に必要な書類として以下のような記載があります。

  • 遺産に属する物または権利に関する資料の写し(コピー)
    相続税申告書,預貯金の通帳・証書・残高証明書,有価証券・投資信託に関する取引口座の 残高報告書,不動産評価額の査定書など,遺産の内容や評価額が分かるもの
    <遺産分割調停を申し立てる方へ>http://www.courts.go.jp/sapporo/vcms_lf/isan_bunkatsu_fuzoku.pdf 

 

ここで説明した遺産分割調停は、裁判所の調停員を交えて話し合いで解決を図る方法ですが、それでもまとまらない場合は「遺産分割審判」へと自動的に移行し、裁判官が相続人それぞれの相続分を決定します。

 

その他に遺産を把握する方法

相続税申告の内容を確認

相続税の申告は正確に行わなくてはいけません。

虚偽や申告漏れがあった場合にはペナルティーが加算されます。

相続税の申告を行うために、遺産の把握は必ず必要となるので、不動産だけではなく預金や現金、貴金属や車などの動産についても遺産の開示は行わなくてはいけません。

相続税の申告書を確認することで遺産の内容が明確になることもあります。

また、相続税の申告と納税には相続が発生してから10カ月という期限が設けられています。

 

しかし、遺産分割に関する協議でもめていて、期限内に分割後の相続税の申告ができないといった場合もあります。

その場合は分割が確定されていない遺産について、民法の規定による相続分の割合(法定相続分:民法第900条)に従い遺産を取得したものとして、相続税を算出して申告と納税を行うこととされています。

 

遺産を隠すとどうなる?

「被相続人の遺産が想定していたよりもずいぶん少ないようだ・・・。」

「疑いたくはないけれど、被相続人の遺産を管理している他の相続人が遺産を隠しているのではないか?」

遺産の開示がきちんと行われていなかったり遺産分割の話し合いがうまく進んでいない場合に、こういった考えが浮上しがちです。

また、被相続人と同居していた相続人が遺産の管理をしていると、被相続人の介護や生活援助をしていたという自負から、他の相続人に対して遺産を隠してしまうこともあるようです。

 

もし遺産を隠していた場合、法的に処分されたり罰則を科されることはあるのでしょうか。

詳しくご説明します。

 

相続人に対する遺産隠し

他の相続人が遺産を隠している場合、単に隠しているだけなら違法とはいえません

残念ながら、遺産の開示を求めるために遺産隠しを理由にした開示請求はできないということです。

また、他の相続人が隠している遺産を勝手に使い込んでしまっても、原則として刑事罰に問うことは難しいようです。

刑法には「親族相盗例」という、親族間であれば窃盗による刑罰が免除される特例が設けられています。

この特例があるため、遺産を勝手に使っていても、警察が取り締まることは難しいのです。

ただし、どうしても法的に解決したいのであれば「不当利得返還請求」や「損害賠償請求」といった民事上での請求方法で解決するしかありません。

以上のことから、相続人に対しての”遺産隠しには明確な罰則規定はないということです。

 

民事上で解決を図ろうとする場合には、遺産隠しの証拠や遺産を勝手に使い込んだ証拠が必要ですが、自身で証拠を用意することはなかなか難しいでしょう。

遺産隠しが疑われる場合、話し合いや他の遺産の開示方法によって情報を集めることで解決に近づきます。

しかし、それでも相続人間で解決することが難しいのであれば、専門家に相談してみましょう。

 

税務署に対して遺産を隠してはならない

相続人による遺産隠しは明確な罰則が科されないことがわかりました。

それでは、相続税の申告をする際に税務署に対して遺産を隠したらどうなるのでしょうか?

 

答えは、税務署に対して遺産は隠せない!です。

まず納税者の義務として相続税は納めなくてはならないものですし、申告内容に偽りがあってはならないのです。

税務署は金融機関に取引履歴や預金の残高を提出させたり、証券会社から保有する株式情報を手に入れる権限を持っています。

また、被相続人だけではなくその親族に対しても調査を行いますので遺産を隠すことはまず無理です。

相続税の支払いが発生するような高額な財産を持っているケースについては、被相続人の生前から調査が入っていると考えてください。

もし税務署に対して遺産を隠してそれが見つかった場合は、支払うべき税金に加算された税金を納めなくてはいけません

これは「過少申告加算税」といい、通常支払うべき相続税に無条件で5~10%の追徴課税が課されます。

また、意図的に財産を隠していた場合は「重加算税」といってその税額は30~35%と非常に高額が課されます。

そしてさらに遺産隠しが悪質と判断された場合は、刑事罰が適用され5年以下の懲役または500万円以下の罰金という厳罰が下ります。

おわかりのとおり、遺産を隠しても必ずわかってしまい、さらに多くの税金を納めることになります。

遺産隠しは税務署に見つかると、他の相続人や親族にも伝わってしまうので何の得にもならない無駄なことですね。

 

まとめ

この記事では遺産の開示を中心に説明してきました。

遺産の管理をする人が遺産の開示を行ってくれない場合、金融機関や役所で被相続人の財産を確認できます。

また遺産分割について相続人間での話し合いがうまくいかない時は、法的機関で遺産分割調停を行うことになるかもしれません。

あなたが遺産管理を任せている側でも、任されている側でも遺産隠しは明らかになってしまいペナルティが課されるものだとおわかりいただけたのではないでしょうか。

お悩みの皆さんの相続問題のなかで、遺産の開示がスムーズに行われることを期待しています。

相続問題の個別のケースはさまざまです。

トラブルの回避や早期解決のために専門家への相談をおすすめします。

2019年8月19日
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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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