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【不動産の相続 】
不動産の相続について説明しています。マンション、土地、貸家建付地、山林など不動産の種類によって、評価額の計算方法が異なります。また相続税の求め方も異なりますので、不動産を相続する場合は注意しましょう。

2019年7月16日 火曜日

【相続税の計算】海外にある不動産を相続する場合

家族が亡くなったら、とても悲しく辛いですが、悲しんでばかりもいられません。遺族は、さまざまな手続を行う必要があります。

その中でも、特に遺産相続に関する手続きは、兄弟姉妹にトラブルが起こりやすく、事前に準備しておいた方がスムーズに進行できます。

特に、相続税の申告・納税は期限を過ぎてしまうと追加徴税を課されたり、借金の相続が必要となったりするので注意しましょう。

昨今では、日本でも海外に不動産を所有する資産家の方も増えており、海外の別荘やリゾートマンションなどを円高の機会に購入する投資家も多くなっているため、海外の不動産の資産価値は上がっています。

国内の不動産を購入していた場合は、その時価と相続税評価額が異なるため、不動産を購入することが相続税の節税対策となり得るのですが、海外の不動産を相続する場合はどうなるのでしょうか。

日常生活を送る上で何度も経験することではないからこそ、事前に知っておいた方がいざという時に困りません。

今回は「【相続税の計算】海外にある不動産を相続する場合」をご紹介します。

 

海外の不動産を相続

亡くなった方が海外に不動産を持っていると、その遺族は相続するか放棄するかの選択肢を突きつけられます。

海外の不動産の中には、固定資産税評価額が存在しない国もあるため、税務上、相続税評価額の計算はたやすくはありません。

日本の国税庁では、税法の法令解釈通達の第1章総則で「評価方法の定めのない財産の評価」のうち、「国外財産の評価」を下記の通り定めています。

「5条の2 国外にある財産の価額についても、この通達に定める評価方法により評価することに留意する。 なお、この通達の定めによって評価することができない財産については、この通達に定める評価方法に準じて、又は売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するものとする。」

わかりやすく言うと、海外の不動産は、この通達の定めでは評価できない財産であり、時価などを参考に算出するか、算出できない場合には専門家に評価額を出してもらいましょう。

 

海外の不動産も相続税がかかる

国内の税法では、海外の不動産も国内の不動産と同様に相続税がかかり、日本と同様に評価額を算出する必要があります。

そして、遺産に課される相続税を納める納付期限は被相続人が死亡した日の翌日から10ヶ月以内と定められており、期限までに納付できない場合には延滞税が課されるので注意しましょう。

 

納税義務

海外の資産を相続しようとする全ての人に、日本で相続税を納める義務はあるのでしょうか。

具体的に、納税義務は、下記の3つのパターンに分けられます。

1)相続が発生する時点で、相続を受け取る相続人または財産を残して亡くなった被相続人のいずれかが日本に住んでいる場合は、相続人に相続税を納める義務があります。

2)日本に住んでいなくても、過去10年以内に先の相続人もしくは被相続人が、日本に居住していた場合は相続人には相続税を納める義務があります。

3)相続人と被相続人が海外に移住してから10年以上を経ている時には、日本国内にある相続財産に課された相続税のみを納める義務があります。

 

海外の不動産|相続税評価額の算出方法

海外の不動産を相続する時には国税庁の規定に従って適切な相続税の評価額を算出する必要があります。

まず、日本の不動産を評価するのと同じように、いくらであれば換金できるのかを調べなければなりません。

日本の国税庁は、誰でも財産評価額を計算できるように「路線価(ろせんか)」を作成しており、土地の評価は、この「路線価」を基に各土地に付されている数値と面積をかけ算すれば計算できます。

しかし、「路線価」がない海外の不動産だった場合には日本と同じように計算することはできません。

 

海外不動産がある現地の評価額を調べる

そこで、海外の不動産の場合には、取引されている現地の市場での評価額を調べる必要があります。

国内の不動産への相続税は、土地と建物に分けて評価がされ、それぞれの評価額によって算出されていきますが、海外の不動産は実際にいくらで売れるのかという時価を算出され評価額が決定されます。

一般的には日本国内に在住する仲介業者か、現地に在住する仲介業者のいずれかに不動産の時価を算出してもらい、日本でその評価額を元に相続税が課税されます。

現地の不動産の相続税評価額は、仲介業者1社のみに依頼してしまうと査定額に違いを生ずる場合があり、いくつかの仲介業者に依頼しておけば、適切な相続税評価額を示すことができるでしょう。

 

時価がそのまま評価額となる場合もある

不動産が海外にある場合には、日本の仲介業者または海外の仲介業者に算出してもらった時価がそのまま評価額となってしまうこともあり得ます。

こうした場合には、実際にいくらで売れるのかという時価が評価額となり、日本の不動産に掛かる相続税よりも高額になる可能性もあると覚えておきましょう。

 

業者に査定を依頼する場合の注意点

期限内に相続人が相続税を納めるためには、まず、海外の不動産を取り扱う仲介業者を選ぶ必要がありますが、その際には下記に注意しておくといいでしょう。

1)海外の不動産に精通している比較的大きな業者を選ぶ。
2)日本と海外の両方に支店を持つなど、同じようなケースの実績を持つ不動産業者を選ぶ。

海外の不動産を取り扱うには、その国の言語に精通し、日本との法律の違いなどに精通した業者を選ぶことがトラブル回避につながります。

なお、海外の不動産を取り扱う業者であっても、地域によっては支店を持たない場合もあるので、注意が必要です。

 

小規模宅地等の特例は海外の不動産にも適応可能

ところで、海外の不動産を受け継ぐ時には、国内と同様に「小規模住宅地等の特例」を適用できるということを覚えておくとよいでしょう。

ヨーロッパに所有している土地であっても、アメリカに所有している土地であっても、この特例を適用できます。

 

小規模宅地等の特例とは?

そもそも、「小規模住宅地等の特例」とはどのようなものでしょうか。

国税庁では、被相続人等が事業用に所有していた宅地には下記の特例を認めています。

「個人が、相続又は遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等又は被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分(以下「小規模宅地等」といいます。)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額します。この特例を小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例といいます。」

 

具体的には、下記の要件をクリアすれば、面積に限度はありますが、相続税減額のメリットを得られます。

まず、被相続人等が、事業用に使っていた宅地を見てみましょう。

1)貸付事業ではない事業用に使用している場合
特定事業用宅地等 限度面積:400平米 減額割合:80パーセント

2)貸し付けを一定の法人に行っていて、法人が貸し付け事業以外の事業に使用している場合

・特定同族会社事業用宅地等 限度面積:400平米 減額割合:80パーセント
・貸付事業用宅地等 限度面積:200平米 減額割合:50パーセント

3)貸し付けを一定の法人に行っていて、法人が貸し付ける事業などで使用している場合
貸付事業用宅地等 限度面積:200平米 減額割合 50パーセント

4)被相続人等が貸付事業などに使用している場合
貸付事業用宅地等 限度面積:200平米 減額割合:50パーセント

 

次に、被相続人が居住として使っている宅地です。

5)特定居住用宅地限度面積:330平米 減額割合:80パーセント

 

ここでの「貸付事業」とは、不動産や駐車場、自転車駐車場などを貸す場合や継続的に相当の対価を得るような不動産の貸付、およびそれに類する準事業のことをいいます。

「一定の法人」とは相続税の申告期限に清算中である法人を除き、相続を開始する直前に被相続人や被相続人の親族などが法人の発行した株式や出資総額の50パーセント以上を保有する法人のことです。

特例の適用を受けようとする宅地などが上記のいずれに該当するかによって、限度面積が判定されます。

なお、相続を開始する前3年以内に贈与によって取得した宅地等や、相続時に精算課税に掛かる贈与により受け継いだ宅地等は、この特例を適用することはできませんので、注意が必要です。

 

その他の注意事項

これまで、海外の不動産の相続は「日本と同様に相続税を支払う義務がある」「納税前には相続税評価額を算出しなくてはいけない」「小規模宅地等の特例を適用できる」と分かりました。

このほか、海外の不動産を受け継ぐ時、相続人は何に注意していけばいいでしょうか。

 

課税時期の為替レートを適応

まず、海外の不動産の相続は、外貨預金とは違い、金融機関を特定できないため、相続人が取引している金融機関が公表する外貨を円にする場合に用いられる為替レート「TTB(Telegraphic Transfer Buying rate)」を用います。

海外に所有する不動産に掛かる相続税は、税金を納める時期に最も近い日の相場レートが適用されると覚えておくといいでしょう。

 

外国税額控除

このほか、日本と海外で二重に課税されることを防ぐ「外国税額控除」という制度をご紹介します。

オーストラリアなどの相続税がない国や、アメリカなど莫大な財産がないと相続税がほとんどかからない国の不動産の場合は、二重課税などの問題は起きません。

こうした国を除いて、1)海外の不動産を相続した場合や、2)その不動産に対し現地で相続税に相当する税金が課税された場合には外国税額控除が適用されます。

外国税額控除制度を利用すると、海外で支払い済みの相続税を日本の相続税から差し引くことができます。

しかし、外国税額控除を受けても、現地で納税した相続税から控除できる金額は日本の税率で計算した相続税相当額以上は控除できないという上限が設けられています。

具体的には、現地で納めた相続税よりも下記の計算式で算出された金額が少ない場合には、その金額が上限となります。

1)各種の税額で控除された後の相続税額×(相続人が海外で所有する財産の価額÷相続人が相続した全ての財産価額)
2)日本で納める相続税額×海外に所有する財産額÷財産の総額

なお、相続人が複数いる場合には、相続税は各相続人が実際に相続した財産額によって案分されます。

日本の財産のみを相続して海外の財産を相続しない場合には外国税額控除は適用外となり、財産のある海外で高い相続税を課せられている場合には、控除の適用を受けても控除満額に届かない場合があるので注意しましょう。

 

海外不動産の名義変更は複雑

海外の不動産を相続する場合の相続税以外に注意すべきことは、名義変更の手続が複雑だということです。

所有する不動産が海外にあったとしても日本での相続税の申告・納付期限は被相続人が死亡した日から10ヶ月以内となっており、その不動産を相続したら日本と同じように名義を相続人に移転する必要があります。

この期限内に申告手続をした後も、海外に不動産を持つ場合には、海外の納税分については修正申告する必要が出てくることなどもあり、相続手続や処分に数年かかることもあり得ます。

特に、アメリカでは不動産の名義人が単独の場合、裁判所が介入する「プロベート」という検認手続があります。

「プロベート」の手続に入ってしまうと言葉の問題や法律の利害などから専門家に依頼しなくてはならず、その分、時間と費用がかかるため、注意が必要です。

 

まとめ

いかがでしたか。海外にある不動産を相続した場合には、日本以上に費用と時間が掛かることもありそうです。

提出する必要書類なども現地語の書類となりますし、法律が日本とは大きく異なる場合もあります。

昨今では、海外の不動産に投資する投資家も増えているため、海外不動産の所有者に税務調査が行われる可能性も高くなっているようです。

海外の不動産を相続した時には、その相続税の計算に申告漏れや間違いなどがないかを注意しましょう。

また、国によっては日本の法律にはない制度や不動産の評価額の算方法などが違う可能性もあるので、計算する前に注意するポイントをしっかりおさえておきましょう。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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