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【不動産の相続 】
不動産の相続について説明しています。マンション、土地、貸家建付地、山林など不動産の種類によって、評価額の計算方法が異なります。また相続税の求め方も異なりますので、不動産を相続する場合は注意しましょう。

2019年8月17日 土曜日

相続不動産は遺産分割協議中に売却可能?勝手な売却の対処法も

遺産分割協議中は、どの遺産を誰が相続するのかまだ決まっておらず、話し合い中の状態です。

しかし遺産分割協議中であっても、相続人のさまざまな事情で不動産を売却したい、と思うことがあるかもしれません。

遺産分割協議中に土地や建物などの不動産を売却することはできるのでしょうか?

また、遺産分割協議中の財産はどんな扱いになるのでしょうか?

そのほか、遺産分割協議中はどのようなことに気をつける必要があるのでしょうか?

本記事では遺産分割協議中の相続財産の売却にまつわる情報を伝えます。

 

遺産分割協議中に、財産は売却できる?

被相続人の遺産をどのように分配するのか、残された相続人と決めていく話し合いを「遺産分割協議」といいます。

この遺産分割協議中は、当然ながら遺産の持ち主であった被相続人は亡くなっている状態です。

遺産分割協議中の被相続人の財産はどのような位置付けにあるのでしょうか?

また、その財産が建物や土地などの不動産であった場合、遺産分割協議中の維持・管理などのメンテナンスは誰が行うのでしょうか?

遺産分割協議中に財産の売却や賃貸契約などはできるのでしょうか?

 

 遺産分割協議中の財産は「共有状態」

遺産分割協議中の財産の状態については、「遺産共有」と呼ばれています。

「遺産共有」とは、動産や不動産の所有者が亡くなった際、法定相続人による遺産分割協議が行われていない、もしくは遺産分割協議中で、遺産が法定相続人の間で共有となっている状態を指します。

このような遺産分割協議中、遺産が共有の状態にあるとどうなるのでしょうか?

 

共有状態にあるとどうなる?

この遺産分割協議中の共有状態でできることは、財産の「保存」行為です

建物の補修や修理、敷地内の樹木の剪定などのメンテナンスを各共有者が行うことができます。

“民法第252条

共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。”

同時に遺産分割協議中には固定資産税も納付する必要があります。

しかし、共有している者全員の同意なしに、財産の建築、大規模な修繕や取り壊しなどの処分は行うことはできません。

 

売却などの行為には合意が必要となる

同様に、遺産分割協議中は財産の売却や賃貸借契約締結などの変更行為に関しても、他の共有者全員の同意がないと行うことができません。

“民法第251条

各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。”

遺産分割協議中の共有状態では、共有者の一部がこのような変更をしようとしている場合、他の共有者がその行為を禁止し、原状回復を求めることもできます。

遺産分割協議中は共有者の一部でも同意せず、遺産の処分方法に意義を唱える者がいる場合は、処分が進められません。

相続する不動産の売却時期を逃してしまうなど相続人にとってのデメリットが発生しかねないため、できるだけ速やかに遺産分割協議中の状態を脱して遺産共有の状態を解消することが望ましいといえます。

 

相続前に売る理由・メリットとは?

遺産分割協議中に遺産が共有されている状態をできるだけ短くするために何かできることはあるのでしょうか。

その答えは、遺産分割協議中になる以前に、被相続人の生前に不動産を売却することです。

こうすることで遺産そのものが残されていない状態になるので、被相続人が亡くなった後に相続人らが遺産分割協議中に争うことを避けることができます。

しかし、相続後にも売却するメリットがあります

その理由としては、不動産を売却した現金を相続する場合と、不動産を相続する場合とでは、相続税の課税対象額が異なるからです。

不動産を売却した現金を相続する場合、相続税の課税対象となるのは、現金自体の金額です。

対して、不動産の場合は、売却する時の値段「時価」による評価ではなく、土地は「路線価」、建物は「固定資産税評価額」によって課税額が決まってきます。

そのため、課税評価額は時価より非常に低く、不動産のまま相続を行った方が相続税が少なく割安で済むのです。

さらに、相続によって取得した不動産を、相続税の申告期限である、相続開始から10カ月後の翌日から3年以内に売却した場合は、「相続税の取得費加算」が可能です。

譲渡所得の計算で支払った相続税のうち、その不動産にかかる部分の相続税を「取得費」として加算できるという特例制度があります。

相続した不動産をこの期間内に売却すれば、それによって発生する譲渡所得税を節税することができます。

“相続税が取得費に加算される特例(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)

(1) 特例の概要

 この特例は、相続により取得した土地、建物、株式などを、一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができるというものです。

(注) この特例は譲渡所得のみに適用がある特例ですので、株式等の譲渡による事業所得及び雑所得については、適用できません。

(2) 特例を受けるための要件

イ 相続や遺贈により財産を取得した者であること。

ロ その財産を取得した人に相続税が課税されていること。

ハ その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること。

(3) 取得費に加算する相続税額

取得費に加算する相続税額は、相続又は遺贈の開始した日により、次のイ又はロの算式で計算した金額となります。ただし、その金額がこの特例を適用しないで計算した譲渡益(土地、建物、株式などを売った金額から取得費、譲渡費用を差し引いて計算します。)の金額を超える場合は、その譲渡益相当額となります。”

以上のように、相続の前後に不動産の売却を検討する場合、後々支払わなければならない相続税の面を考えると、売却のタイミングが重要となってきます

財産の所有者は相続前に不動産の売却をよく考慮して処理する必要があります。

 

遺産分割協議中に不動産が勝手に売却された場合は?

次に、相続前に不動産が売却されず遺産分割協議が必要になった場合、遺産分割協議中に共有者の一部が他の共有者の同意を得ず、勝手に不動産を売却してしまっていたらどうなるでしょうか?

遺産分割協議中に売却されてしまった遺産や相続するはずの持分は元に戻すことができるのか、売却後すでに相続登記までされてしまった場合はどうなるのか、以下で詳しく見ていきましょう。

 

持ち分を取り戻すことは可能

遺産分割協議中に、共有者が勝手に不動産を売却してしまっていた場合、「相続分の取戻権」つまり相続するはずであった持分を受け取る権利を行使することができます

“民法第905条

1.共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。

2.前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。”

ただし、この「相続分の取戻権」を行使するには、売却先に対して内容証明郵便により相続分の取戻権の通知書を送る必要があります

またこれには期限があり、共有者が相続分の売却が行われたことを知った時から1カ月以内となっています

この期限を過ぎてしまうと取戻権の行使はできなくなります。

相続分の売却が行われたことを知ったら、直ちに相続分取戻権の通知書を送ることが望ましいといえます。

遺産分割協議中に売却されたら、相続人は顔を合わせて話し合うことになるため、売却に気付きやすいといえるかもしれませんが、1カ月間はあっという間なので注意が必要です。

なお、売却してしまった財産の取戻し権を請求する者は、相続分の財産の「時価」および「譲渡に際して要した費用」を支払う必要があります

売却先が相続人に支払った金額と異なり、必ずこの二つの費用の支払いを行わなければなりません。

無償で相続分の譲渡が行われた場合であっても同様となるので注意が必要です。

 

すでに相続登記されていた場合は

まず「相続登記」とはどのようなことなのでしょうか?

相続登記」とは、被相続人が亡くなった後、所有していた不動産の登記名義を被相続人から相続人へ変更をすることをいいます。

相続登記自体は法的な期限はありませんが、相続登記を行わず、相続によって発生した権利を記録しておかないことで、将来的に相続人間の争いに発展してしまう可能性があります。このような事態を避けるために相続登記が行われています。

遺産分割協議を行った上で、法定相続分とは異なった相続分の不動産を相続した場合は、相続登記を行い、第三者に対しても「この不動産は自分の名義である」ということを明確にしておく必要があります。

この相続登記は、勝手に売却された不動産に対しても行われている場合が多いです。

なぜなら不動産の売却に当たっては、自分がその売却する不動産の所有者であることを主張できなければならず、亡くなった被相続人から売主の名義へ直接変更することはできないため、売却前に必ず登記上の名義を変更しておく必要があるからです。

 

“民法第177条

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。”

 

その他、遺産分割協議中に気をつける行為

遺産分割協議中に注意することは、「相続人全員の合意が必要であること」および「意思決定が法律で有効とされるものでなくてはならない」ことです。

遺産の「相続人全員の合意が必要であること」とは、相続人のうち一人が欠けてはならず、多数決などの決議で全員の合意が得られなければならないということです。

たとえ長い時間を掛けて遺産分割協議を行ったとしても、全員の合意が得られていない場合は、有効性がなくなってしまいます。

また「意思決定が法律で有効とされるものでなくてはならない」とは、例えば相続人に知的障害や認知症などで法律上有効な意思表示ができないとされている人がいる場合に当てはまります。

この場合は特別代理人等を立てる必要がありますが、これを行わずに遺産分割協議を進めてしまった場合、その決議が無効になってしまう場合があります。

 

預金を勝手に引き出すことは可能?

生前に被相続人が所有していた遺産には、不動産以外にも預貯金があります。

この預貯金については、遺産分割協議中はどうなっているのでしょうか?

2018年7月6日に相続法の改正法案が可決・成立し、遺産分割協議中には「預貯金の仮払い制度」が新たに設けられました。

それまでは被相続人が亡くなった後、すべての預貯金口座は遺産分割協議の対象になるため、凍結されていました。

そうした理由から、相続人全員の同意なしに勝手に引き出すことはできませんでした。

しかし、2019年7月からスタートしたこの制度により、現在は遺産分割協議中であっても、急ぎで必要な当面の生活費や葬儀費用の支払い等のためであれば預貯金が引き出せるようになりました。

ただし、遺産分割協議中に引き出せる預金は全体の3分の1であり、相続人はそれぞれ一行あたり最大150万円まで引き出せるという上限が定められています。

残りの3分の2はこれまで同様、遺産分割協議の対象になるので相続人全員の合意なしに引き出せません。

 

物(動産)を処分することは可能?

不動産や預金以外にも、生前に被相続人が所有をしていた「物品」もあります。

これらに関しては、遺産分割協議中はどうなっているのでしょうか?

相続人の同意を得ずに、売却など処分してしまっても良いのでしょうか?

生前に被相続人が所有していた物品を分けることを「形見分け」と言います。

家族や相続人、縁のあった人が集まって、被相続人が生前に着ていた衣類や身の回り品などを分け合うような程度であれば、実は法律上で定義されていません。

ただ形見分けであっても、高額なジュエリーなどの貴金属、骨董品や自動車などは遺産分割協議の対象となり、勝手に売却はできません。

遺産分割協議中の処分には相続人全員の同意が必要となります。

なお、著作権、特許権などの権利は動産でも不動産でもありませんが、相続の対象となる財産とされています。

 

まとめ

いかがだったでしょうか?

遺産分割協議中の財産の位置付けや、相続人全員の意思決定がないと不動産は売却できないこと、勝手に不動産が売却されてしまっても持ち分を取り戻すことはできること、その他相続人の個人の意思でできることがお分りいただけたのではないでしょうか?

遺産分割協議にはさまざまな決まりや手続きがあります。

被相続人は、日頃から自分の死後、どのような相続を希望するか考えておくことが大切です。

残された相続人の事情も考慮した上で、必要があれば所有する財産を売却する等を行い、遺産分割協議がスムーズに行えるよう十分準備をしておくことが望ましいですね。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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