2019年6月19日 水曜日
相続で部分放棄したい。すべてを相続したくないときは
遺産を相続することになったけれど、マイナスの財産は相続したくないという方もいらっしゃることでしょう。
果たして、マイナスの財産を部分放棄し、欲しい財産だけを相続することは可能なのでしょうか。
この記事では、遺産の相続放棄や部分放棄に関するポイントを詳しく解説していきます。
目次
相続を放棄することはできる?
親族が亡くなり、遺産を相続することになったものの、諸事情で相続を放棄したいという方もいらっしゃると思います。
果たして、相続を放棄することはできるのでしょうか?結論から言うと、可能です。
では、どのような方法で相続を放棄することができるのでしょうか。
まずは、相続のしくみから解説します。
相続が発生すると、相続人は亡くなった人の「全ての財産」を受け継ぐことになります。
そして、この財産は、プラスの財産だけではなく、借金のようなマイナスの財産も含む、全てを受け継いでしまうことになります。
つまり、現行の法律では、故人の借金までも相続することになるのです。
では、プラスの財産だけを相続すれば良いのではないかと思う方も、当然いらっしゃることだと思います。
しかし、それは認められていません。
プラスの財産だけを受け継ぐことはできないことから、借金のような債務を受け継ぎたくない方は、相続放棄という手続きをする必要があります。
この相続放棄は、単に相続を放棄する旨の意志を表明するだけでは足りず、家庭裁判所に申請しなければ、正式に効力のある相続放棄として認められません。
相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人である故人の遺した資産や負債の全てを相続しない手続きを言います。
相続人本人が、その遺産を相続できることを認知してから3ヶ月以内に、家庭裁判所において相続放棄の手続きを行う必要があります。
相続放棄を行うと、被相続人の資産の全てを相続することができなくなります。
しかし、相続する財産が負債の方が多い場合、相続放棄をすることは有効な手段と言えます。
また、親類間の遺産相続の問題に巻き込まれたくない場合にも、同じく有効な手段となります。
なお、相続放棄をした場合、相続の権利義務の全てが次の同順位か次順位の相続人へと移っていきます。
ただし、代襲相続は行われないので注意が必要です。
たとえば、被相続人の子供が相続放棄した場合、その子供である孫が代襲相続をすることはできません。
相続放棄は原則全部の財産が対象
相続放棄は、「故人の遺した全ての財産を相続しない」ことを意味します。
一般的に、相続財産には、銀行の預貯金や不動産などのプラスの財産と、借金や債務といったマイナスの財産があります。
相続放棄を行うということは、受け継ぐ財産の全てを相続しないことになるので、マイナスの財産だけではなく、プラスの財産も全て相続しないことを意味します。
そのため、相続放棄する場合は、慎重に考えた上で手続きをする必要があります。
ちなみに、相続する遺産が、プラスの財産の方が多いと推測するものの、もしかするとマイナスの財産も存在するかもしれないといった場合で、相続放棄を迷うこともあるでしょう。
そんな時は、限定承認という方法があります。
限定承認の詳細は後述しますが、限定承認は手続きが非常に煩雑なので、専門家に依頼をする必要があり、相続放棄と比べるとお金もかかります。
このように、相続放棄をするか、あるいは限定承認をするかは、被相続人それぞれの事情によって変わるので、必ず専門家に相談してから判断を下した方が良いでしょう。
相続の部分放棄をするなら限定承認という方法がある
上述したように、相続する遺産が、プラスの方が多いのか、マイナスの方が多いのかで迷うことがあります。
そんな時は、相続の部分放棄をするという条件で限定承認という方法があります。
限定承認とは、相続するプラスの財産をマイナスの負債の返済に充てて、残った分を相続する手段です。
また、負債が財産を上回った場合は、相続人の保有する財産から返済を行う責任を負いません。
したがって、遺産に財産が多いか、負債が多いか分からない際は、合理的な相続手続き手段と言えます。
なお、限定承認をうけるためには、相続人本人が、その遺産を相続できることを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で限定承認の手続きを申請する必要があります。
以下、限定承認のメリットやデメリット、そして手続き方法等をご紹介します。
限定承認のメリット
限定承認のメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。
ここで4点のメリットをご紹介します。
借金まで相続しなくてすむ
限定承認は、プラスの財産の範囲に絞って、マイナスの財産を相続します。
そのため、相続する財産が全体としてマイナスだとしても、相続人が引き継いだ財産以上の負債を背負うことはありません。
ですから、相続人が相続によって予期せぬ不利益を被ることがなくなります。
不動産を確保できる
限定承認を行った場合、裁判所の手続きを経て、プラスの財産をマイナスの財産に充てて清算することになります。
この場合、債務を任意で弁済できなかった場合は相続した財産は換価処分されますが、不動産と等価の金銭を支出できる場合、不動産の換価処分を免れて、これを手元に残すことができます。
これは、あくまで不動産の買い取りができる財産を所有していることが前提となりますが、不動産を完全に手放すことになる相続放棄と比べると、メリットがあると言えます。
先買権が利用できる
先買権とは、相続した不動産が、仮に競売にかけられたときに、その不動産を優先的に購入することができる権利のことです。
これは限定承認をした相続人に認められています。
先買権を行使するためには、家庭裁判所に鑑定人を選定してもらい、相続した不動産の評価額を鑑定してもらう手続きを行います。
ちなみに、相続放棄をしている場合は、先買権を行使できませんので、注意が必要です。
債務などマイナスの財産を相続する心配がない
単純承認の場合は、一度財産を相続してしまうと、後からマイナスの財産が発見されたとしても、原則として相続放棄をすることは認められません。
一方で、限定承認はプラスの財産が発見されたときにその部分を引き継ぐという相続が可能な様式です。
そのため、単純承認と比べて、マイナスの財産が隠れているのではないかと、心配をする必要はありません。
限定承認のデメリット
反対に限定承認のデメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。
ここでは3点のデメリットをご紹介します。
2.2.1.限定承認は相続人全員で共同して行う必要がある
限定承認を申請するうえで、まず注意すべきこととして、限定承認は、相続人全員が共同して行わなければならないことが挙げられます。
相続放棄は相続人1人1人が個人の判断で行えるのですが、この限定承認は、全ての相続人が共同して行う必要があるのです。
もし相続人の一部と連絡がとれない場合には、「不在者の財産管理人」という役割の人物を家庭裁判所に選んでもらった上で、その人を加えて限定承認の手続きを行います。
債務清算手続きに手間が多い上に、時間やお金がかかる
もう1点、限定承認を利用する前に注意すべきこととして、その手続きの煩雑さを理解しておかなければなりません。
上述したように、限定承認は、相続放棄とは異なり、全ての相続人が協力し合わなければ、手続き自体を行えません。
また、家庭裁判所の手続きが非常に複雑で面倒であり、時間やお金がかかる点もデメリットと言えます。
譲渡所得税が発生する
さらに、税務上の問題から、所得税が課税された場合はデメリットが大きくなることもあり得ます。
もしも、故人の財産を普通に相続で引き継いだ場合、相続税が課税されることはあるものの、所得税が課税されることはありません。
これは、被相続人の「全財産と全負債」を相続人が引き継ぐことを理由とするものです。
しかし、限定承認の場合は、被相続人の財産と負債を全て引き継ぐわけではないので、「相続開始の日に被相続人から相続人に相続財産が時価で売られたものとみなす」とされ、それにより「みなし譲渡所得税(譲渡によって利益がでたものとみなされ、それによってかけられる所得税)」がかかってしまうのです。
具体的な状況として、被相続人が相続人に対して、売ったとされる時価から財産の所得費などを差し引いて利益がでている、つまり所得があるとみられる場合にかかることになります。
これは相続人ではなく、「被相続人に」かかる所得税なので、「純確定申告(被相続人が本来、生前に申告するべきだった所得税の申告)」を相続人が行うという形になります。
限定承認の結果として、プラスの財産が多かったとしても、この所得税分を差し引くことで、大きなメリットが無くなってしまうこともあるため、そのことが限定承認の利用を妨げる要因の1つとなっています。
一般的に、限定承認をこのようにお金と時間をかけてまで行う家庭は、もともと相続できる財産と負債の両方が膨大であり、プラスになった場合は大きなメリットを期待できる状況にあるということが多いでしょう。
限定承認の手続き方法
それでは、限定承認の実際の流れを見ていきましょう。
まず、上述したように、家庭裁判所に「限定承認の申述」を行います。
そして家庭裁判所が必要な要件を満たしていると判断を下せば「限定承認申述受理」の審判が下されます。
次に、「相続債権者等に対する公告・催告」が行われます。
公告は、限定承認後から5日以内に、すべての相続人や受遺者に対し、「このたび、故人の〇〇さんの相続につき限定承認をしました。
権利があるならば申し出てください」という内容で行われます。
この申し出の期間は2カ月以上に設定しなければなりません。
また、債権者に対しては、個別に催告(通知をだすこと)を行います。
ここで設けた期間の間に、権利を主張した者や、債権者に対しては、「配当弁済」といって限定承認した人が売却した被相続人の財産によって弁済が行われます。
原則として、財産は競売に出されますが、裁判所を通じない私的な売買であっても良いとされています。
配当はそれぞれの債権者の債権額の割合によって公平になるように行われますが、その上で財産が余った場合は、受遺者に対しても同じように弁済されます。
このような一通りの弁済が終了し、それでもなお財産に余りがでた場合は、限定承認した相続人にたいして配当されることになります。
マイナスの財産ではなく、ただ単に相続したくない場合は相続人同士で協議を
相続する財産が多くても、親族間の相続問題や相続争いに巻き込まれたくない方も多いでしょう。
こうした方は、相続人同士で協議をした上で、「相続放棄」をすることをすすめます。
相続人の人数や、相続人同士の関係によっても異なりますが、遺産相続の協議で紛糾しトラブルになるケースも少なくありません。
この協議がもつれると、調停や審判といった法的手続きが必要になります。
その結果として、相続人同士で仲たがいをした上に、身体的・精神的に疲弊してしまいます。
相続人同士の関係が悪くて、遺産相続をめぐり、トラブルに発展することが分かっていれば、あらかじめ「相続放棄」を選択することも1つの手段になります。
以下の話は、相続放棄によって問題を回避した事例です。
ある問題に困った依頼者が、弁護士に次のような相談をしました。
相談者の奥さんの弟さんが実家を継いでいたのですが、その弟さんがこのたび亡くなりました。
ご両親も既に亡くなっており、配偶者も子もいません。
そのため奥さんが相続人となったのですが、そこである問題が起きました。
奥さんは不動産の管理等ができないので、相続放棄を検討していたところ、弟さんは畑を人に貸していたことが分かったのです。
そして、その畑の借主に確認したところ、「資材投資をしてきたので、その投資分を補償してほしい」と言われました。
困り果てた相談者は、弁護士に相談をしました。
すると、相続放棄を行えば、初めから相続人ではないので、借主に対して責任は生じないという助言を受けました。
その助言に従って、奥さんは相続放棄をすることで、問題を回避することができたのです。
ちなみに、相続人が全てを相続放棄すると、最後には国庫に帰属します。
このように、相続放棄は、トラブルを回避するために有効な手段と言えるのです。
まとめ
いかがでしたか。
相続放棄や限定承認による部分放棄について解説をしました。
遺産を相続放棄、もしくは部分放棄する場合、その旨を意思表示するだけでは不十分で、いずれも家庭裁判所に届け出なければならないので注意が必要です。
それぞれのメリットだけではなく、デメリットも存在するので、実際に行う際は慎重に検討しましょう。
また、書類の手続きが非常に複雑でミスが起きやすいケースが多くありますので、確実に相続放棄や限定承認により問題が解決できるように、専門家へのご相談をオススメします。