2019年2月18日 月曜日
相続放棄の手続き時に注意すべきこと
相続放棄は、ただ単純に相続を放棄する意思を表明すればいいといったものではありません。
相続放棄を行うためには、相続放棄の手続きをしっかり行う必要があります。
相続放棄の手続きをするには、さまざまな書類を準備しなければならないため、時間との勝負になる部分も否めません。
これは相続放棄には手続きを完了させなければならない期限があるためです。
それでは、相続放棄の手続き時に注意しなければならないことを中心にご紹介いたします。
目次
相続の負債を逃れる手段
相続放棄は、相続の負債を逃れる手段として、しばしば選択される相続方法です。
相続放棄の手続きを的確に行うことで、本来相続するはずだった相続財産をすべて放棄することができます。
それでは、相続放棄について、その概要と相続放棄を活用できるケースについて詳しく見ていきましょう。
相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人の最後の住所地にある家庭裁判所において、相続放棄の申述という手続きをすることにより行うことができる相続方法の1つです。
相続放棄は、被相続人のプラス財産もマイナス財産もすべて放棄するといった特徴を持ちます。
相続放棄については、民法 第3節 相続の放棄において、(相続の放棄の方式)第938条に「相続放棄をする際には家庭裁判所で手続きが必要であること」、民法(相続の放棄の効力)第939条に「相続放棄の手続きをし、受理されると、相続放棄の手続きを行った申述人は、最初から相続人ではなかったと見なされること」、民法(相続の放棄をした者による管理)第940条に「相続を放棄しても次の相続人が財産相続を開始するまでは、財産の管理を自分の財産と同じように注意を持って管理しなければならないこと」とが定められています。
また、民法(相続の承認又は放棄をすべき期間)第915条には、相続放棄の手続きは、「相続する財産があることを知ってから3ヶ月以内に行わなければならないこと」、また「相続放棄をする期間を伸長したい場合は家庭裁判所で手続きをすれば伸長できること」が定められています。
このほか、民法(相続の承認又は放棄をすべき期間)第915条の2には、「相続放棄をする前に被相続人の財産を調査することができること」も定められています。
一見、相続放棄はただ被相続人の財産の相続を放棄するだけに見えますが、その手続きなどについては民法で細かく定められているため、手順を踏んで的確に行うことが必要となります。
相続放棄を活用できるケース
相続放棄を活用できるケースは大きく分けると5つあります。
(1)被相続人の残した借金などの負債を相続したくないケース
被相続人の財産をすべて相続する単純承認という相続方法の場合、現金などのプラス財産だけでなく、借金などのマイナス財産も相続することになります。
単純承認はプラス財産がマイナス財産を上回っている場合は、特に問題はありませんが、プラス財産よりもマイナス財産が上回る場合は相続人に経済的負担がのしかかってしまいます。
ですが、相続放棄の手続きを行い、相続放棄することで、被相続人の借金の相続をしなくて済むようになります。
ただし、相続放棄はすべての財産の相続放棄をしてしまう相続方法なので、事業などを行っていたり、被相続人の財産である不動産に住んでいて出て行くことができなかったりする場合は、相続した財産を上限としてマイナス財産も相続する限定承認という相続方法があるのでそちらを検討するとよいでしょう。
(2)遺産相続のトラブルを回避したいケース
遺産相続のトラブルは、1,000万円以下の財産の場合によく起こるとされています。
なぜ1,000万円以下の場合にトラブルが起きやすいかというと、それ以上の財産がある場合は節税などを含め、被相続人が生前に税理士に相談していることが多く、その際にあらかじめ遺産相続のトラブルにならないようにアドバイスを受け、対策をしているからだといわれています。
そのため、遺産相続のトラブルに発展することが1,000万円以下の財産の場合に比べ、少ない傾向にあるとされています。
しかしながら、1,000万円以下の財産の場合、金額的に揉めるようなことはないだろうという被相続人の生前の考えから、遺産相続に関して何も対策をしていない場合が多く、トラブルになってしまうのです。
ですが、相続放棄の手続きを行い、相続放棄が受理されれば、民法(相続の放棄の効力)第939条により、相続放棄をした人は最初から相続人ではなかったと見なされるため、遺産相続のトラブルが起こった場合でも、相続自体に関係がなくなり、遺産相続のトラブルに巻き込まれる心配がありません。
ですから、遺産問題のトラブルを回避したい場合には相続放棄は有効であるといえるでしょう。
(3)相続財産を分散させたくないケース
相続人が複数いて、相続財産を相続人のうち特定の1人にだけ相続させたいなど、相続財産を分散させたくない場合は、ほかの相続人が相続放棄をすることで可能となります。
相続財産を分散させたくないといった理由で相続放棄をする場合は、被相続人の事業を引き継いだり、相続財産が不動産しかなく、すでにその不動産に住んでいる相続人がいて、その相続人に不動産を相続させたりするケースが考えられます。
(4)被相続人が借金の保証人になっているケース
被相続人が借金の保証人になっている場合、被相続人の財産を相続してしまうことで、保証人としての責任も相続してしまうことになります。
ですが、相続放棄の手続きを行い、相続放棄が認められると、被相続人の保証人の責任を負う必要がなくなります。
(5)被相続人が訴えられているケース
被相続人が生前、なんらかの理由により訴えられて被告となっている状況で、被相続人が亡くなってしまった場合、相続人が相続放棄をせずに財産を相続してしまうと、被相続人の地位も一緒に相続することとなってしまうため、訴訟に巻き込まれてしまいます。
ですから、被相続人がなんらかの理由で被告となっている場合は、速やかに相続放棄の手続きを行い、相続放棄をした方がよいといえるでしょう。
このように、相続放棄を活用できるケースには、特徴の異なった5つのパターンが挙げられます。相続放棄とは、被相続人の財産を相続することで精神的・金銭的などの負担を強いられないために活用できる相続方法であるため、自衛の手段として理解しておくことが重要です。
相続放棄の期限
相続放棄の期限は、民法(相続の承認又は放棄をすべき期間)第915条において、被相続人の財産を相続人が相続することを知ってから3ヶ月以内に行わなければなりません。
ですが、相続放棄をするべきか被相続人の財産の調査をしても判断ができない場合は、同じく民法(相続の承認又は放棄をすべき期間)第915条にも記載されている通り、家庭裁判所で手続きをし、伸長することができます。
この手続きは、「相続の承認又は放棄の期間の伸長」といい、相続人を含む利害関係人と検察官しか手続きを行うことができません。
利害関係人とは、被相続人の債権者などを指します。
相続放棄の期限を守らない場合は、相続放棄の手続きをしたとしても受理されません。
相続放棄の手続きには細かい点が多いので、手続き漏れがないように気を付け、相続放棄の期限を守ることが大切です。
相続放棄の手続き方法
相続放棄申述書の作成
相続放棄の申述書は、裁判所のホームページの「相続の放棄の申述」のページからダウンロードすることができます。
相続放棄の申述書は2枚に渡っており、相続人が20歳以上か20歳以下かで、記入すべき欄が異なるといった特徴があります。
相続放棄の申述書の用紙自体は同じなのですが、20歳以下の場合は、申述人の欄に法定代理人の署名と押印が必要となります。また、「法定代理人等」の欄に記入する必要があります。
法定相続人等の欄には、相続人との関係に丸をつけます(たとえば、1.親権者、2.後見人など)。
また、住所、氏名(フリガナ)を記入します。
相続放棄の申述書には、相続人と被相続人の情報や申述の趣旨、申述の理由を記入します。相続放棄の申述書の申述の理由については、なぜ相続放棄をするのかについて答えます。
その際、相続財産の概略(現金預貯金がどのくらいあるか、負債がどのくらいあるかなど)も記入しなければならないため、被相続人の財産についてしっかりと調査をしておく必要があります。
家庭裁判所へ届出をする
相続放棄の申述書の作成が終わり、相続放棄に必要な書類(相続放棄の申述書及び標準的な申立添付書類)と必要な費用(申述人1人につき収入印紙800円分及び連絡用の郵便切手)をすべて用意したら、家庭裁判所に届出をすることになります。
このとき、届出をする家庭裁判所は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です。
また、届出の方法には、家庭裁判所に直接持参する方法と郵送する方法がありますが、郵送に対応していない家庭裁判所もあるため、事前に確認しておくことが重要です。
相続放棄の注意点
相続放棄をする場合、注意しなければならない点がいくつかあります。ここでは、その中でも特に注意すべき点をご紹介いたします。
生命保険は相続放棄後でも受け取れる
生命保険は相続放棄後でも受け取ることができます。
これは生命保険の死亡保険金が被相続人の財産ではなく、相続人の固有財産になるとされているからです。
ですが、注意しなければならないのが、死亡保険金はみなし相続財産となり、相続税の課税対象になる点です。
そのため、相続放棄をしていても、死亡保険金を受け取った場合は、相続税を支払う必要があります。
代襲相続ができなくなる
代襲相続とは、被相続人が亡くなる前よりも先に相続人が亡くなってしまい(相続人が亡くなる以外にも相続欠格などが理由になることもあります)、被相続人から見て、孫やひ孫、甥や姪が被相続人の財産を相続することをいいます。
代襲相続については、民法(子及びその代襲者等の相続権)第887条において、被相続人の財産の相続が始まる前に被相続人の子どもが死亡した場合、その子ども(相続人)が代襲相続することが記載されています。
しかし相続放棄が受理されると、民法(相続の放棄の効力)第939条において、相続放棄をした相続人は最初から相続人ではなかったとみなされてしまうため、被相続人の子どもの子ども(被相続人から見た孫やひ孫、甥や姪)は代襲相続ができなくなってしまいます。
全員が相続放棄をした場合
相続放棄をするということは、相続放棄をした相続人が「最初から相続人ではなかったとみなされること」です。
ですから、たとえば、兄弟だけが相続人だとした場合、兄が相続放棄をし、弟が相続放棄をしない場合は、弟だけが被相続人の財産を相続することになります。
この場合、被相続人の財産に負債が多い場合は、弟は負債を負担することになります。
ですが、兄弟2人ともが相続放棄をした場合は、兄弟2人とも負債を負担する必要がありません。
しかし、兄弟2人が相続放棄をしたとしても、場合によっては、ほかの親族に相続権が移ることがあります。
ほかの親族に相続権が移った場合、その親族が相続権が自分たちに移ったことを知ってから3ヶ月以内にどの相続方法を選択するか決める必要があります。
また、相続権を持つすべての相続人が相続放棄をした場合、被相続人の財産は相続財産法人として、相続財産の法人化が行われます。
この相続財産法人は、家庭裁判所から選任された相続財産管理人によって管理されることになり、換価されます。
このとき、債権者にも連絡し、換価した分を債権者に対して弁済します。もし、そのあとに財産が残っている場合は、国庫に帰属させます。
これらをすべて終えると、相続財産管理人の業務が完了することになります。
まとめ
このように、被相続人の財産がプラス財産よりもマイナス財産の方が多く、相続により相続人に金銭的な負担がかかる場合は、相続放棄をする方が良い傾向があります。
ですが、代襲相続ができなくなってしまったり、被相続人の財産において相続したいものがあってもすべての相続を放棄するため、相続したい財産が相続できなかったりすることはあまり知られていません。
相続放棄をすることによって、できなくなってしまうことがあるということも知っておく必要があるといえるでしょう。