2019年8月13日 火曜日
遺言書を無効にしたい!無効にできる条件や方法とは?
約40年ぶりに相続法が改正され、2019年から2020年にかけて随時施行されています。
今まで相続について考えたことがない人や自分とは無縁だと思っている人にも、法の改正により、自分や家族が亡くなった時どうすればよいのか、改めて身近なものとして認識されてきています。
相続の話は資産家の人だけではなく、一般家庭でも起こりうるものです。
法の改正では自筆遺言が書きやすくなる、法務局で遺言書が保管できるなど新たな制度が設けられました。
自分や家族が亡くなった際に相続をめぐるトラブルを起こさないよう、何がどう変わったのか事前に正しい知識を身につけておきましょう。
そして遺言書は、その内容に絶対従わなければならないのか、無効にできるのか悩んでいる人も必見です。
目次
遺言とは?
遺言とは、自身が生きている間に作成し、亡くなった後の財産を有効活用してもらうための意思表示のことです。
遺言書がなかったために遺産トラブルが起きたり、あったものの無効となってしまったというケースも少なくありません。
家族が骨肉の争いをするのは誰も望んでいるわけではありません。
そのようなトラブル防止を避けるためにも遺言書の有無は重要になってきます。
今回は遺言に関する事を中心に重要なポイントをまとめてご紹介します。
遺言の効力
遺言は自分の財産を誰にどれくらい渡すのか自由に決められます。
また被相続人の死後、相続争いが起こるのを防ぎたい場合、また財産分与の際に法定相続人以外にも渡したい場合にも効力を持ちます。
遺言は法定相続より優先されるため、遺産を分割をすることになった際にはその内容が重要となります。
作成時の被相続人の年齢や物事を判断できる状況であったか、遺言書の作成方法など細かく種類がわかれているため、知識を得ておくようにすると良いでしょう。
また、記載された内容全部に効力があるのではなく、有効になるもの、そして無効になるものとがありますので注意する必要があります。
記載されている項目の中でも法律的に効力をもつ法定遺言事項は、以下に挙げられますのでみてみましょう。
推定相続人の排除
相続人になるとされる予定の人を推定相続人と言いますが、被相続人への虐待や侮辱、ひどい非行などがみられる場合は、相続人から排除できる事由として認められ、相続資格を奪うことができます。
相続分の指定
被相続人は法定相続分に関わらず、各相続人に渡す相続分を自由に決めることができ、またその内容を第三者に任せることができます。
遺産の分割の方法と指定及び遺産の分割の禁止
被相続人は遺産の分割する方法を決めることができ、その方法を第三者に委ねることも可能です。
遺言執行者の指定または指定の委託
遺言に関する必要な手続きを、被相続人に代わって実現する執行者を指定したり、第三者に指定を委託することができます。
未成年後見人の指定
被相続人に未成年の子がいた場合、被相続人の死亡で親権者がいなくなった際に遺言で第三者に該当する未成年者の財産管理を委託することが可能です。
非嫡出子の相続に関すること
婚姻関係のない相手との間に子がいる場合、認知の有無で非嫡出子を相続人に加えるか否かを決めることができます。
遺贈に関すること
内縁の妻や息子の嫁、その他相続人ではない方にも財産を与えることができます。
遺言として認められるための条件
遺言は誰でも書けるものではなく、作成時に15歳以上であり意思能力があることが前提となります。ただし認知症などで精神上の障害があり判断する力がないとされた場合には、無効となる可能性もあります。
これは遺言のどの種類にも該当する要件となります。
遺言の種類には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言があり、中でも書きやすく一般的なものが自筆証書遺言です。
ここでは代表的な自筆証書遺書についての作成要件をご紹介します。
自筆証書遺言は自分ひとりで作成することができますが、書き方に条件がありますので注意が必要です。
無効となってしまっては意味がありませんので、条件をしっかり確認しておく必要があります。
遺言の内容の不備が原因で相続争いに発展…といった事態にならないためにも、正しい方式に則って書きましょう。
自筆証書遺言の作成要件には次のものがあります。
・内容、署名、日付など書き記すもの全て自書する
・記載事項は具体的かつ正確に書く
・日付を明記する
・署名、押印をする
・加除や訂正の場合は場所を指示し変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ変更場所に印を押す
遺言には逆らえない?
遺産分割の際に遺言の有無は相続の優先順位を決める上でも重要となります。
相続の方法は被相続人が遺言によって相続分を指定できる「指定相続分」があるのに対し、ない場合では民法で定められた「法定相続分」があります。
遺言は亡くなった方の最後の意思を表示したものであるため、その内容は重んじなければなりません。
そのため書いたものが法的に定めた条件を満たしていれば、基本的に法定相続分よりも指定相続分の方が優先となります。
しかし内容によっては、無効にしたいというケースもあります。
遺言に書かれていてもその内容を無効にできる場合がありますので、この後詳しくご説明します。
遺言の内容を変更するには?
被相続人の死亡で遺言が明らかになった際に「自分の相続分が少なすぎる」、「知らない人に遺贈されるのは納得いかない」といったケースもあるかと思います。
基本的には遺言は優先順位が高いので書かれた内容に従うことになりますが、場合によってはその内容の変更が可能となります。
相続人・遺言執行者の合意があれば変更可能
被相続人の死後、遺言書がある場合は本来であれば故人の意思を尊重してその通りに相続されます。
しかし相続人の利益に反するものも含まれていることがあります。
そのような場合で相続人全員から内容に反対する合意を得ていれば、内容と異なる遺産分割協議が可能となります。
遺産分割協議とは、遺産の分け方を相続人全員で決める話し合いのことを言います。
例えば遺言に所有する不動産をすべて長男に贈与すると明記されているが、次男と共有したいと長男が考えた場合、相続人全てから合意が得られれば共有が可能となります。
ただし民法907条の遺産の分割の協議又は審判等によれば、被相続人が遺言と異なる遺産分割協議を禁じた場合を除きいつでも協議は可能としています。
つまり、遺言と異なる遺産分割協議を禁止する旨が遺言に記載されている場合は、遺言に書かれた内容通りの遺産分割を行うこととなります。
また、民法1012条1項(遺言執行者の権利義務)と民法1013条1項(遺言執行者の妨害行為の禁止)では、遺言執行者の執行を妨げないこととその権利義務の規定があります。
そのため遺言執行者がいる場合は、合意を得ることができれば内容と異なる遺産分割協議を行うことが可能です。
遺言をそもそも無効にするには?
先ほど遺言内容の変更が可能となるケースをご紹介しましたが、中には無効にしたいという方もいます。
相続人の中で有効性を主張する人と無効にしたいという方双方がいる場合には、相続トラブルに発展する可能性もあります。
そういった場合の、有効性の判断のポイントや無効にするにはどうすればよいかをご紹介します。
遺言の有効性を確認
先ほど遺言として認められる条件をご紹介しましたが、まず有効性を確認するためにはその条件を満たしているかどうかを確認しましょう。
中には高齢のため代筆で作成するケースもありますが、公証人でない代筆は無効となります。
自筆証書遺言の場合は、全て被相続人が自筆で書くことが条件となります。
日付を明記していないものや曖昧な表現、署名や押印がないものは無効となってしまいます。
また、遺言の日付時に被相続人に遺言能力があったかどうかが判断のポイントとなります。
認知症により被相続人の意思ではない内容が作成されていた場合には、無効となるケースがあります。
ただし必ずしも認知症だからといって無効となるわけではなく、種類によっては証人を立てて作成することも可能であり、法律的に不備がないかどうかが有効か無効かの判断となります。
その他無効であると判断される原因を下記にまとめました。
・証人がいるかどうか
公正証書遺言や秘密証書遺言の作成では、2人以上の承認がされていないと無効となります。
・共同遺言されていないか
民法では訂正や撤回を自由に行うために2人以上の人が同じ遺言をすることが禁止され、原則1人で作成しなければなりません。
・要素の錯誤がないか
被相続人が遺言に関して重要な事実を誤認しており、それがなければその内容の遺言はなかったとされる場合は無効となります。
・遺言が撤回されていないかどうか
遺言書を撤回することは可能ですが、撤回の方式に従って行う必要があります。
・遺言が複数存在する
民法では遺言が複数存在する場合で最新日付の前後の遺言の抵触する部分では、最新のものが有効となり、それ以前のものは無効とします。ただし、あとのものが前の付け足しであったり、無関係なものであれば、どちらも有効となります。
・詐欺や脅迫で書かれたものでないかどうか
遺言に関係のあるものや第三者による詐欺や脅迫で書かされたものは無効となります。
・偽造・変造されたものでないか
被相続人以外が遺言書を書き換えたり偽造された場合は、もちろん無効です。
遺留分を確認
法定相続よりも遺言相続の方が優先されるため、その内容によっては相続人であっても相続が少ない、または相続できない場合があります。
遺言によって相続されるはずの財産がなくなってしまったら、いくら故人の意思とはいえ理不尽だと感じてしまいます。
このような場合に遺留分の制度を利用して最低限の遺産をもらうことが可能です。
遺留分とはある一定の相続人が最低限の遺産を取得できる権利で、遺言であっても遺留分を侵害することはできません。
この制度は相続人の生活の保障の意味もあることから、被相続人の一方的な利益のものだけでなく相続人に対する保護の目的を有しています。
ただし兄弟や姉妹には遺留分は認められておらず、遺言に書かれている内容に従うことになります。
これは遺産を取得する順位が低いことや、代襲相続の制度があることで書かれた内容に矛盾が生じることが理由とされています。
遺言に不満があり無効にしたいと思っている人は自分に遺留分があるかどうかを確認し、ある場合はなるべく早めに請求を行うようにしましょう。
裁判所に調停を申し立てる
遺言が無効かそうでないかは、相続人だけでは判断が難しいものです。
そこで有効か無効かの判断をする手段として、裁判所に調停を申し立てる方法があります。
この方法は遺言無効確認訴訟といわれ、双方の意見や資料をもとに判断され、無効の原因があるかを探っていきます。
無効であると判決を得られるだけでなく、有効であると主張する側から裁判を申し立てることもできます。
無効と判断されれば法的に遺言はないものとされるので、通常の法定相続を行うこととなります。
調停を申し立てる方法
当事者の話し合いで解決しない場合に裁判所に調停を申し込むことができます。
遺言無効確認訴訟は家庭に関する事件のため家事調停の対象となり、家庭裁判所が担当します。
申し立てる場合は、自分の住所地にある裁判所ではなく、調停の相手となる相続人のうちの1人の住所地を管轄とする家庭裁判所に申し立てをします。
解決までは事前調査や審査期間などもあることから一年以上かかるケースが多いようです。
公序良俗に反する遺言内容も無効にできる
無効とする判断の一つに公序良俗に反していないかどうかがあげられます。
公序良俗に反するとは公の秩序に反することであり、社会的・道徳的に反する内容であった場合です。
例えば被相続人に愛人がいて、遺言内容に遺産をすべて愛人に贈与するという内容が書かれていた場合、不倫自体が社会公序良俗に反する行為なので無効となる可能性が高くなります。
無効となる判断ポイントとしては、配偶者との婚姻関係が破綻していた場合、破綻した時期が遺言を書いた後であることがあげられます。
また、不倫でも一定期間継続して交際しており内縁関係と評価できるか否かなどが無効にできる判断ポイントです。
その他、不倫相手の歓心目的で遺贈されていないか、遺贈によって不倫相手が優遇され相続人の生活が脅かされた内容となっていないかも無効の判断材料となります。
まとめ
遺言は無効にできるのか、無効にするためにはどのような方法があるのかをご紹介してきました。
遺言は遺産相続の際に大きな効力があり、法的に正しく書かれていれば遺産トラブルを防ぎスムーズに相続を行うことができます。
せっかく書いたものが無効とならないよう、書く際は条件を確認し法式に基づいて作成すること、または専門家に依頼することをおすすめします。