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【遺言について 】
遺言、遺言書について説明しています。法的効力をもつ遺言を残すには、遺言書の書き方、注意点を知っておくべきです。遺言書の種類や遺言書の書き方などについてまとめています。

2019年6月13日 木曜日

遺言信託のデメリット3つ。注意点やポイントなど

終活を意識して、遺影の写真を撮っておいたり、パソコンのパスワードや加入している保険についてメモしておいたりと、残された家族のことを考えていろいろ準備している方もいるでしょう。

遺産相続についてはどうでしょうか?遺産相続のことを「遺産争族」などと呼ぶ人もおり、着手すること自体がタブーのように感じてしまうかもしれません。

しかし、実は遺産相続の手続きの中には、期限付きのものがあります。期限を過ぎてしまうと、手続き自体ができなくなるものもあります。

また、期限に遅れたために余計な税金を払わなくてはならなくなったり、相続を後回しにするデメリットは多く存在します。

果たして、残されるご家族がそのようなことをご存じでしょうか。エンディングを考えている方も、どう進めていくか考えているでしょうか。

そのような中、遺言書作成から遺言書の保管、亡くなった時に遺言の執行まで引き受けてくれる「遺言信託」というサービスを信託銀行が提供し、利用者が増え続けています。

銀行に頼めるという点で信頼度が高そうなイメージを抱くと思いますが、実際にはどうでしょうか。

遺言信託のメリットとデメリットについて学んでいきましょう。

 

 遺言信託とは何か?何ができるか?

「遺言信託」とは、信託銀行などが取り扱う商品です。

遺言書作成時から相談に乗ってもらうことができ、遺言書の保管、亡くなった時には遺言の執行まで行ってもらえます。

このように相続に関する一連の手続きを引き受けてもらえるのが「遺言信託」です。

簡単にまとめると、遺言信託で主にできることは次の3つです。

  1. 遺言書作成と相談業務
    事前相談では生涯設計や生前贈与等を含めた遺産承継対策の全般にわたってアドバイスしてくれる。場合によっては弁護士や税理士とも協力して対応してくれる。事前相談に基づき公証役場で公正証書による遺言書を作成する。
  2. 遺言書の保管
    信託銀行が遺言書を保管し、異動・変更なども受け付ける。
  3. 遺言の執行
    遺言執行者として通知人から逝去の通知を受け取り遺言の執行を始める。
    具体的には遺言書の開示/遺言執行者の就職通知/財産目録の作成・交付/遺言の執行・実現/遺言執行完了の報告

遺言について何も分からない人にとって、「遺言信託」は頼りになりそうなサービスですね。

さて、信託銀行とはどのような銀行か、ご存じでしょうか。

給与の振り込みや保険料の引き落としなど、多くの人が利用している銀行は「銀行業務」を行っている銀行です。それに加えて「信託業務」と「併営業務」を行っている銀行のこと信託銀行といいます。

業務の範囲は、銀行によって異なりますが、それぞれの業務についておおまかに説明します。

【銀行業務:「お金」を取扱う業務】

  • 個人や法人からお金を預かる「預金業務」
  • 企業などに融資する「貸付業務」
  • 振込による送金など口座間のお金の移動を行う「為替業務」など

【信託業務】

  • 個人や企業などの財産に信託を設定し受託者に移転させて、その財産を管理・運用すること※お金以外にも株式などの有価証券、不動産、金銭債権など、財産として価値があるものは何でも信託することができます

【併営業務】

  • 遺言の保管や遺言執行業務などの相続関連業務
  • 企業の株主の名簿を管理する業務などの証券代行業務
  • 不動産の売買の仲介業務

 

普通の銀行業務に、さらにほかの業務まで取り扱えるということは、お金に関する知識はもちろん、信用度の高そうなサービスですね。

ところで、法的にいうと「遺言信託」は、信託銀行の商品名ではなく、信託行為を遺言によって行うという意味です。

例えば、Aさんが遺言で自分が所有するマンションの名義を、信頼しているBさんに移転させます。Bさんに、そのマンションを賃貸に出して家賃を得てもらい、その家賃収益をAさんの妻であるCさんに渡してもらう、というような仕組みのことをいいます。

 

終活仲間と「遺言信託に興味がある」などと話題にしても、かみ合わないことがあるかもしれません。

ただ遺言信託は、財産が自宅とわずかの貯金、保険金だけ、という一般人にとって大仰なサービスのような気もします。

信託銀行の遺言信託の複数の商品について調べてみると、以下のような人に遺言信託をおすすめしていました。

  • 特定の財産を自分で相続人を定めて相続させたい。
  • 相続人以外の人に相続させたい。
  • 子どもがいないため妻に全財産を相続させたい。
  • 事業や財産を守るために後継者に相続させたい。
  • 妻の老後の生活安定のために、多くの財産を相続させたい。
  • 世話になった家族や孫に相続させたい。
  • 教育・福祉・芸術・文化など、社会に財産を役立てたい。

法律で定められている相続分とは違った形で相続をさせたい、などという少し難しいケースなどで役に立つもののようです。

利用するメリットはありそうでしょうか。

それとも、デメリットがあると感じたでしょうか。

 

 遺言信託を利用する前に知っておくべきデメリット

一般社団法人信託協会のデータによると、遺言の保管件数は1997年に21,775件であったものから、件数は右肩上がりで伸び続け、2015年には10万件を突破し108,623件、2018年には9月の段階で前年を上回る132,741件に上りました。

遺言信託の認知度が高まり、利用する人が増え続けているということですね。

遺言信託の利用者が急増しているということを見ても、相続を考える人にとってメリットがあるということになるでしょう。

しかし、手放しで喜んで誰にでも遺言信託の利用を促せるかというと、そうでもなさそうです。遺言信託を利用することにもやはりデメリットが存在します。

メリットだけでなくデメリットも理解した上で遺言信託の利用の可否を考えましょう。

 

 費用がかかるのでその分の残せる財産が減る

遺言信託のデメリットを分かりやすいものからお伝えします。

まずは、手数料が高額というデメリットです

遺言信託は、信託銀行の商品の1つですから、手数料が掛かることは誰でも理解できると思います。契約手数料、遺言の執行時の報酬が必要なことがデメリットとして挙げられます。

特に遺言を執行する際の報酬は、財産額に応じているため、不動産などの高額な資産ある場合、費用の総額はかなり高額になるというデメリットがあります。

多くの遺言信託商品で、高額な最低執行費用が定められています。これもデメリットといえます。

三菱UFJ銀行の遺言信託「遺心伝心」には遺言信託の初期費用(遺言書作成時)を抑える「30万円型プラン」と、遺言信託の総費用を抑える「100万円プラン」があります(三菱UFJ信託銀行の遺言信託のホームページ、2019年6月現在)。

初期費用が低額なことがメリットの30万円型プランの手数料を確認すると、以下のようになりました。

(※価格は全て消費税込み)

基本手数料:324,000円
遺言書の書き換え時:54,000円
遺言書年間保管料:5,400円(年払い)
遺言執行報酬:相続税評価額による執行対象財産額に下記の遺言執行報酬率を乗じた額の合計額(千円未満切捨て)に1.08を乗じた額

MUFGグループ預かり財産の部分 0.3%
1億円以下の部分 1.8%
1億円超3億円以下の部分 0.9%
3億円超10億円以下の部分 0.5%
10億円超の部分 0.3%
※このプランでは遺言疾呼方法集の最低報酬額は1,620,000円と定められています。

ざっと見ていっただけで、手数料や報酬だけで最低200万円は掛かりそうですね。

相続する財産が2000万円であれば、1割にも上り、非常にデメリットといえます。

この金額に加えて、財産が不動産であれば名義の変更に費用が掛かりますし、株式を持っていれば株式の売却費用など、さまざまな費用が掛かります。

この費用を確認すると、遺言信託のデメリットを確認するより前に、遺言信託が保有財産に見合う商品なのかどうかを判断することも必要だと考えられます。

ちなみに、費用面でのデメリットは、途中で解約した場合、UFJ信託銀行の30万円型プランは中途解約金216,000円(消費税込み)が請求されることです。

契約後に「デメリットが多いようだからやっぱりやめた」と簡単に解約することはできないでしょう。

 

銀行等に遺言信託を引き受けてもらえないケースがある

三井住友信託銀行の湯言信託には「遺言でできること」の紹介があります(三井住友信託銀行の遺言信託のホームページ、2019年6月現在)。

  • 相続に関すること
     民法の法定相続分と異なる相続分の指定
     具体的な遺産の分割方法の指定
  • 財産処分に関すること
     第三者への遺贈
     公的機関や菩提寺への寄付
     信託の設定
  • 身分に関すること
     推定相続人の廃除とその取り消し
     子の認知
     未成年後見人、未成年後見監督人の指定など
  • 遺言執行者の指定、指定の委託
    信託銀行がお引き受けできる遺言執行の範囲は、法律により財産の処分・相続に関するものに限られており、身分に関する執行はお引き受けできません。

上記にある通り、遺言信託のデメリットは、遺言内容のうち、子の認知、未成年後見人の指定など、身分に関する事項が執行できないことです。

遺言信託は別途で、身分に関する事柄に対応できる専門家に依頼する必要など、デメリットがあります。

また、相続人の間で遺産相続について争いが起きていたり、訴訟が起こる可能性が高いと、遺言信託を引き受けてもらえない可能性があります。

2つ目のデメリットから遺言信託を利用したくても、引き受けてもらえないこともあるということがわかりました。

 

相続時に対応できる範囲に限界がある

3つ目のデメリットは、相続時に信託銀行が対応できることには限界があるということです。

先ほど、遺言信託を引き受けてもらえない内容についてお伝えしましたが、相続争いが発生した場合は、弁護士などの法律の専門家の力が必要になります。

遺言信託に掛かる費用以外にも、専門家の力を借りるには別の費用が掛かります。。

また、遺言書の保管は、公正証書遺言を作成した場合に公証役場で保管してもらうことができ、しかも保管料は遺言に記載した財産3,000万円までで23,000円と安価です。

遺言信託の遺言保管料が高いこともデメリットでしょう。

 

遺言信託を利用する際に知っておくべきポイント

遺言信託を利用する前に、まずはしっかり情報収集をしましょう。そして、そもそも遺言信託を利用する必要のある状況なのかを検討しましょう。

また、多数の信託銀行が遺言信託の商品を用意していますので、メリットとデメリットを比較し、検討しましょう。

デメリットを洗い出せば、派手にPRされているメリットに隠された商品の本質が見えてくるかもしれません。デメリットの多さを再認識して遺言信託の利用を再考することもあるかもしれません。

 

費用や評判をしっかり調べてから依頼先を決める

遺言信託は、さまざまな商品が存在し、費用も商品によってかなり違いがあります。

費用が非常に高いというデメリットがありますので、財産の状況を念頭に置きながら、どの商品なら費用を抑えることができるのか検討することをおすすめします。

また、遺言信託を利用するということは、銀行が遺言の内容を把握するということで、財産状況も筒抜けになるというデメリットがあります。

信頼できる銀行の商品ですので、情報が漏れるようなことはないでしょうが、ほかの金融商品を案内されたり、投資や融資の勧誘を受けたりする可能性があり、これもそのような情報を欲していない方にはデメリットに感じるでしょう。

 

大きな相続トラブルが予想される場合は弁護士や税理士にも依頼を

「遺産争族」という言葉があるように、遺産相続には相続財産の大小にかかわらず、相続人間のトラブルがつきものです。

莫大な財産を相続するのであれば、相続税も重くのしかかってくるでしょう。

大きなトラブルになる前に、弁護士や税理士などの専門家に相談して対処しておくことをおすすめします

 

まとめ

終活ブームの中、遺産相続についての準備を銀行に託すことができる遺言信託商品は利用者が増加しています。

終活のことを考えるにしても、金融や法律の知識が必要だったり、人間関係を考える必要があったりと、難解になりがちな相続のことは後回しにしたくなりますので、利用者が増加することは理解できます。

しかし、安易に利用すると、相続財産を大幅に削ってしまうほどの費用が掛かってくる可能性があることが分かりました。

また、遺言信託を利用したら来たるべき相続は安心というものではなく、弁護士や税理士などの専門家に別途費用を掛けて相談や依頼をすることもありうるということが認識できました。

相続のことを後回しに考えるデメリットは残された家族にとっては大きいものとなります。

本稿ではデメリットを中心にお伝えしましたが、そのデメリットを確認してもなお利用を検討される方は、たくさんの遺言信託商品の中から、ご自分の財産や相続人状況などを考慮しながら、ぴったりの遺言信託を選んでください。

2019年6月13日
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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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