2019年6月20日 木曜日
美術品を相続するときの注意点とは?美術品の価値はどう評価する?
みなさんのご自宅にも、絵画や陶器などの美術品がいくつかあるのではないでしょうか。
美術品は、お金に換えることができることから相続財産に含まれます。
相続財産に含まれるということは、相続税の対象になります。
そのため、亡くられた方が美術品のコレクションを趣味にしており、多くの作品がある場合は、その作品一点一点につき価値を正確に把握する必要があるため、時間がかかり手続きも煩雑になる可能性があります。
人が一人いなくなるというタイミングでは、多くのやるべきことが現れてくる中で全ての美術品の鑑定を行うのは大変に思うことでしょう。
今回は、一般的な相続税の計算方法について軽く触れた後、美術品を相続するときの注意点について、その価値評価を誰に依頼にすればいいのか、ということも含めて解説します。
目次
相続税の計算方法
正味の財産の把握と課税価格の算出
相続税の計算をする上で、最初に実施するべきことは、財産の状況を明確にし、課税価格を算出することです。
相続財産とみなし財産は、一定の贈与財産の合計から非課税財産と債務・葬式費用を除くことで算出されます。
みなし財産とは、被相続人の死亡により受け取れるもので、生命保険金、死亡退職金などが対象となります。
なお、生命保険金、死亡退職金については「500万円×法定相続人の数」を控除することができます。
また、一定の贈与財産とは、相続開始前から3年以内の贈与財産、相続時精算課税制度による贈与財産を指し、生前の贈与に対し通常の贈与税を課すのではなく、相続時に清算します。
また、課税価格を算出する際、相続税が発生するかどうかを判断する必要があります。
相続税総額の算出
相続税の総額は、課税価格から基礎控除(3000万円+相続人の数×600万円)を差し引いた課税遺産総額をもとに算出します。
基礎控除額以下であれば、相続税の発生はなく申告も必要ありません。
相続税総額の算出方法は、まず課税遺産総額を法定相続分で分割したと仮定して、速算表に当てはめて計算します。
そして、各相続人の金額を再び合算して、相続税額の総額を出します。
なお、養子や非嫡出子も法定相続人となり、法定相続分も実子と同じ割合で与えられます。
各人の相続税額の算定
先程算出した相続税額の総額を実際に取得した遺産の割合で各相続人が負担します。
ここでは各相続人によって控除や加算がなされる場合があることに注意が必要です。
代表的なものとして、配偶者控除・障害者控除、父母、子、配偶者以外(兄弟など)が遺産を相続する場合の2割加算等があります。
なお、遺産分割は10か月以内に行わなければいけませんが、まとまらない場合はひとまず法定相続分で分けた形で相続税を納めます。
美術品の相続税評価額の決め方
遺産の中に美術品が含まれていた場合、別途相続税が発生します。
ここでは、美術品の相続税の評価額の計算方法について、解説します。
相続対象になるか確認する
まず、そもそも基礎控除(3000万円+相続人の数×600万円)以下の財産には相続税が発生しません。
また、数万円~数十万円程度のものであればテレビや家具などと共に家財として扱われます。
従って、相続財産に美術品が含まれるケースは、相続税納付者全体の5パーセントにも達していないと言われています。
また、遺された美術品に価値がある場合には相続財産として扱います。
従って、不動産と同様、その価値によって税額が決まります。
財産評価基本通達135条
美術品の評価については、財産評価基本通達135条という法令を基に検討する必要があります。
財産評価基本通達135条は以下の通りです。
書画骨とう品の評価は、次に掲げる区分に従い、それぞれ次に掲げるところによる。
1.書画骨とう品で書画骨とう品の販売業者が有するものの価額は、133条「たな卸商品等の評価」の定めによって評価する。
2.1に掲げる書画骨とう品以外の書画骨とう品の価額は、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する。
多くの美術品の場合2項に該当し、さらに一点ものであることを考えれば「売買実例価額」のようなものを出すことも難しいでしょう。
最も知りたいのは買った時の値段ではなく、時価、つまり今現在いくらで売れるかです。
したがって、実務的には「精通者意見価格等を斟酌して評価する」ことになります。
具体的には、美術に詳しい知人に見てもらう、リサイクルショップで査定してもらうなどが考えられます。
専門家による鑑定
しかし、そのような「精通者」を見つけることは難しいのが現実です。
そこで、専門家による鑑定の必要性が出てきます。
専門家に鑑定を依頼する場合、鑑定士の専門分野に注意しましょう。
美術品といっても、西洋絵画と近代絵画では評価するポイントが異なり、骨董品の茶碗や壺でも同様です。
相続するものが同じ種類のものであればそこまで問題ではありませんが、異なるジャンルのコレクションがある場合は鑑定士の専門分野を外れるため、対応できないことがあります。
そのため、なるべく幅広いジャンルを取り扱っている鑑定士さんに依頼するのがおすすめです。
また、鑑定費用にも注意が必要です。
相続のための鑑定は必要経費とみなされず、控除の対象にはならずに全額自費負担になります。
ほとんどの場合、購入時よりも評価額が下がることを考えると、鑑定費用がかさみ相続した財産を超えてしまうケースもあります。
参考までに、絵画や美術品1点あたり、おおよそ30,000円~60,000円ほどで請け負う会社が多いです。
高価な美術品の場合は相続税の対象になる可能性があるので注意
高価な美術品の場合は相続税の対象になる可能性があります。
では、具体的にどのようなことに気をつければよいでしょうか。
申告しないとどうなるか
相続税を申告する場合、相続する美術品の作品名や写真、評価額などの必要書類を用意します。
しかし、実際に税務署の職員が自宅まで来て調査する可能性は極めて低く、相続税申告の対象としなくても税務署にバレないと考え、書類に記載する必要はないと思われる方は多いとでしょう。
しかし、それはやめておいたほうがよいです。
美術品を販売しているデパートや画廊から、誰が購入したのか、所持しているのかを税務署に申告している場合があるからです。
税務署には適切な税金を計算する目的のためにこうした情報を調査する権限があり、とくに高額な取引については税務署がきちんと情報収集しています。
無申告・脱税の疑いを向けられて調査や余計の追及をされることを避けるためにも、申告の手順はきちんと踏んでおきましょう。
税務調査官も評価できるとは限らない
もし申告を忘れて税務署から適切な申告を行うように求められた場合、どうしたらよいでしょうか。
大抵の場合、具体的にいくら申告をすれば良いのかといった指示はありません。
なぜなら、税務署の職員も美術品の価値を把握する能力をもっていないので、鑑定することができないからです。
そのため、専門家に依頼して、調べるように税務署の職員から言われます。
具体的には、鑑定を依頼して適切な評価額を記載した書類の提出を税務署に求められます。
ここで今述べた税務署の評価能力の程度について、一つのケースをご紹介します。
具体例
亡くなられたある資産家の方には、相当な数の絵画コレクションがあったのですが、相続税の申告の時点では絵画の存在は明らかではなく、また相続人たちも知らなかったため絵画については全く申告をしていませんでした。
ここで税務署の登場です。
十数点の作品タイトルと、購入金額と思われる数字が書かれた某デパートの「絵画購入メモ」。
総額にして、1億数千万円にもなる作品を申告漏れしていたことが発覚し、税務署は相続人を追及し始めました。
一方、相続人のほうに悪意はなく「そういえば、いくつかありましたね」という感じだったそうです。
この場合、何を根拠に評価額を出すかはかなり難しいです。
税務署の主張は、とりあえず美術年鑑を参考にしたうえで美術鑑定書か、権威ある専門家の意見書などを添えなさいというものでした。
美術年鑑で購入時の1億数千万円を超える金額がついていたので、鑑定によりさらに上回る金額を見込めると考えたからでしょうか。
ところが、肝心の鑑定価格は購入価格の1/20程度に過ぎませんでした。
美術年鑑の価格とはあくまで保存状態が完璧で、デパートや画廊が顧客に売る場合の参考価格であり、所有しているだけでその価格が保証されるといった数字ではありません。
相続品の保存状態に些細な問題があったことも影響したのでしょう。
いずれにせよ、実際の価格が購入価格と乖離がある場合が多いことに留意しておいたほうがいいです。
税務署の当初の想定評価は大きく外れました。
相続税が現金で支払えない場合は美術品の売却か寄贈も検討を
今まで述べてきた通り、基礎控除額以上の遺産を相続したら相続税が発生します。
その際、遺産が現金ならば別段問題はありませんが、美術品などは物であるためすぐには支払えないケースも出てきます。
そこで、その美術品を売却して得た費用を相続税に充当する手段があります。
その場合の注意事項を解説します。
寄贈との利益衡量を
まず初めに、売却する前に検討して欲しいのは、寄贈という手段もあるということです。
我が国には国や地方公共団体が運営する美術館に寄贈した美術品に関しては、相続税を払わなくてもよい制度があります。
お金は一銭も入ってきませんが、相続税の支払いを避けたい場合は検討の余地があるでしょう。
一方、売却する場合お金は入ってきますが、業者を通すため鑑定手数料が発生します。
また、売却して利益を得ると所得税の課税対象となり、相続税と二重に課税されます。
売却、寄贈のどちらがメリットが大きいか、ぜひ比べてみてください。
売却する業者選びは慎重に
売却すると決めたら業者を選びます。
その際、遺品整理業者に依頼しないようにしましょう。
遺品全般を扱う業者は、美術品に対する鑑定眼を持ち合わせていないため、安く買い叩かれてしまいがちです。
さらに、引き取った遺品も結局は専門業者に転売されることになるので、であれば最初から自分で専門業者に頼んだほうがお得です。
専門業者に頼む場合は、インターネットで調べて、良心的な業者をいくつかピックアップしてみましょう。
美術品をお店まで運ぶのは労力が必要ですし、途中で傷つけてしまう恐れもあります。
出張買取サービスのあるところなら安心です。
いくつか候補が上がったら、実際にお店とコンタクトを取って査定を依頼します。
そして、一番高い査定額がついた業者で売却しましょう。
また、相続のための鑑定は必要経費とみなされず、控除の対象となりません。
全額自費負担になります。
美術品の売却で課税される譲渡所得について
美術品には高い値段がつくことが多々あります。
そして、業者での査定額が1点につき30万円を超える場合には、譲渡所得として所得税の課税対象になります。
譲渡所得については、保有期間の長期・短期の違いにより計算式が変わってきます。
保有年数が5年以下の場合が短期譲渡所得、5年以上の場合が長期譲渡所得となります。
長期譲渡所得の金額は、他の所得と総合する場合にその2分の1が課税対象になります。
つまり、所得が低く算出されることになるということです。
先祖代々受け継いできたものなどは保有年数が数十年になるなど長期の可能性が高いですが、最近譲ってもらった場合などは短期となります。
5年経たずに美術品を売却する短期譲渡所得の場合は、長期の場合に比べてメリットが少なくなります。
節税という観点からは、いつ売るかということも大事なポイントとなって来ます。
また、取得費や譲渡費用を差し引けること、50万円の特別控除があることについても忘れないようにしましょう。
まとめ
今回は、美術品を相続するときにどのような点について気をつければ良いのか解説しました。
相続した美術品が税法上どう扱われ、いくらに換算されるのか、また、申告についての注意点・税務署とのかかわりなど、一般の方が経験したことのない実務があります。
故人の大切な遺品を受け継ぐという厳粛な行為の裏側には、お金が絡んだ現実的な世界が立ちはだかっていることを今一度思い返し、できれば故人の生前にきちんとした準備をしておきましょう。
そして、美術品のようなイレギュラーな相続財産がある場合は、他の相続財産も含めて間違いなく相続を完了するために税理士へ相談されることを心からお勧めします。