2019年3月12日 火曜日
相続財産に特許権がある場合にするべき移転手続き
相続の対象となる資産は、実に多種多様です。
もしかしたら、被相続人(亡くなった人)から「特許権」のような知的財産権を相続することもあるでしょう。
特許権に限らず、知的財産権の評価は、金融資産や不動産などと異なりやや特殊であり、相続手続きの方法も異なります。
本コンテンツでは、特許権のような知的財産権を相続することになった方が知っておくべきことについて、まとめてあります。
目次
相続時には相続税が課税される
相続税とは
相続税とは、被相続人から相続または遺贈(遺言の指定により遺産を取得すること)によって遺産を取得した個人に対して、その取得した遺産の額に応じて課される国税です。
相続税の納税義務者は、被相続人が死亡し、相続が発生した日あるいは相続が発生したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に税務署へ相続税を申告・納付する義務を負います。
相続税評価
一連の相続手続きは、遺産分割協議で相続人を決めて、被相続人から名義人を変更し、相続税を申告・納付することで終わります。
相続税に関する一連の相続手続きで大きなポイントとなるのが、相続税評価額の算出です。
一部の資産を除いて、相続税は相続財産の時価や取得価額に、そのまま相続税率を乗じて計算するのではありません。
決められたルールに基づいて、相続財産を評価して得られた相続税評価額に対して相続税率を乗じて求められるのです。
相続税を計算するために相続財産の価額を評価するに際しては、国税庁による「財産評価基本通達」による方法で行います。
そして、その評価方法は相続財産の種類によって異なります。
平成31年2月現在における、相続税を計算するための主な相続財産評価方法は以下のとおりです。
宅地
- 自用地(自分で使っている土地)…市街地およびその周辺の土地であれば路線価方式、それ以外は倍率方式で評価
- 貸宅地(貸している土地)…自用地の評価額×(1-借地権割合)
- 貸家建付地(貸家が建っている土地)…自用地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
借地権
- 借地権(借りている土地の使用権)…自用地の評価額×借地権割合
- 貸家建付借地権(貸家が建っている借地)…自用地の評価額×借地権割合×(1-借家権割合×賃貸割合)
家屋
- 自用…固定資産税評価額×1.0
- 貸付用…固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
農地・山林
- 純農地と中間農地、純山林と中間山林…倍率方式
- 市街地農地、市街地山林…宅地比準方式または倍率方式
- 市街地周辺農地…市街地用地としての価額の80パーセント相当額
上場株式
以下4つのうち、最も低い価額
- 相続開始日の終値
- その月の終値の平均額
- 前月の終値の平均額
- 前々月の終値の平均額
投資信託
- ETFやリートなど、上場している投資信託は上場株式の評価に準じる
- 上記以外の投資信託は、相続が発生した日に解約請求した場合に証券会社や銀行など指定金融機関から受け取ることができる金額
預貯金
- 普通預貯金は、預け入れ残高
- 定期預貯金は、預け入れ残高に既経過利子の額を加え、それから既経過利子の額から源泉徴収される所得税額を控除した金額
ゴルフ会員権・リゾート会員権
- 取引相場があるものについては、取引相場の70パーセント(預託金などがある場合はそれを加算)
- 取引相場がないものについては、未上場株式の評価に準じ類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式を用いて算出(預託金がある場合はそれを加算)
- 預託金については、それがすぐに返還を受けることができる預託金等である場合は当該金額、相続が発生しても一定の期間を経過しなければ返還を受けることができない預託金等については、その預託金に返還されるまでの期間(1年未満は1年に切り上げ)に応じた基準年利率による複利現価率を乗じて得られた金額
- 不動産所有権がある場合は、その評価額を加算
書画・骨董品など
- 売買実例価額、あるいは価値鑑定に精通する人の意見による価格などを考慮した価額
相続税率
相続税とは、被相続人から相続または遺贈(遺言の指定により遺産を取得すること)によって遺産を取得した人に対し、その取得した遺産の額に応じて課される税金です。
平成31年2月時点の相続税率は、以下のとおりです。
後述する相続税の基礎控除額や、配偶者控除額の範囲に収まらなかった相続税対象財産に対して税率を乗じ、カッコ内の金額を控除して得られた額が相続税となります。
- 1,000万円以下:10パーセント(控除額なし)
- 3,000万円以下:15パーセント(50万円)
- 5,000万円以下:20パーセント(200万円)
- 1億円以下:30パーセント(700万円)
- 2億円以下:40パーセント(1,700万円)
- 3億円以下:45パーセント(2,700万円)
- 6億円以下:50パーセント(4,200万円)
- 6億円超:55パーセント(7,200万円)
インターネットでは、家族構成のパターンに応じた速算表を見かけます。
しかし、その多くが法定相続割合のみを考慮しただけのものです。
各相続人の相続税額は、遺産分割協議の結果による実際の分割割合や、特別受益の有無、相続時精算課税制度の活用の有無などに応じて変わります。
そのため、速算表だけで計算することは、無理があるという点をご認識ください。
また、相続税の計算方法は諸制度や法律、さらには個別事情を複合したものですので、非常に煩雑で分かりにくいものです。
このため、相続税や各種制度、法律について何も知らない人が、自らの知識だけで計算・申告をすると、過大申告あるいは過少申告となる可能性があります。
特に、過少申告となってしまい、かつ税務署に悪質と判断された場合は、追徴課税などが課されてしまうリスクがあります。
したがって、相続税の計算・申告や税務署との折衝については、多少のコストが生じたとしても、税理士などの専門家に依頼することが確実になります。
課税対象となる相続財産
課税対象
相続財産は相続税が課税される財産の例は、以下のとおりです。
- 土地、借地権、地上権、家屋などの不動産
- 預貯金、有価証券などの金融資産
- 絵画、高級家具、立木などの家庭用財産
- 事業用、農業用の財産
- 生命保険金や死亡退職金などのみなし相続財産
- 相続時精算課税制度の適用により被相続人から贈与を受けた財産
- 被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産
- その他、ゴルフ会員権や債権など
非課税対象
以下の財産に対する相続税は、非課税となります。
- 墓地、墓石、仏具、仏像、仏壇などの祭祀財産(ただし、骨董品や投資対象の品は相続税の課税対象)
- 心身障害者救済制度に基づく給付金の受給権
- 相続税の申告期限までに、特定公益信託の信託財産とするために支出した金銭
- 相続税の申告期限までに、国や地方公共団体、特定の公益法人などへ寄付した財産
- 公共事業を行う人が相続し、引き続き公益事業のために使用することが確実と認められる財産
相続財産となる権利の相続税評価
特許権
特許権とは、知的財産権のひとつです。
新たに有用な技術を開発した発明者が特許庁に出願申請をし、特許査定を経て設定の登録がされたものについて、特許法所定の特許権が発生します。
特許権は、特許出願から20年経過した場合や、一定の期間内に相続人が現れない場合には消滅すると定められており、さらに特許料(毎年納付)を納付しない場合は消滅してしまいます。
したがって、速やかに被相続人の特許権について特許料の納付状況等の調査を実施し、特許庁長官に相続の届出を行う必要があります。
特許権者は、その発明を独占する実施権、他人に対して専用実施権、通常実施権を許諾する権利等を有します。
これらの権利は、財産権の一種であり、相続税の課税対象となります。
しかし、遅滞なく特許庁長官に届出る必要があり、届出によって初めて効力が生じます。
特許権の相続税評価方法は、その特許権を自ら行使しているか、あるいは他人に行使させているかで異なります。
特許権を自ら行使している場合の計算式は、以下のとおりです。
これは営業権の相続税評価額の計算方法と同じです。
なお、営業権持続年数は原則10年とされています。
特許権の相続税評価額=超過利益額(平均利益額×0.5-標準企業者報酬額-総資産額×0.05)×基準年利率による複利年金現価率
特許権を他人に行使させている場合は、「補償金値額×基準年利率による複利原価」でその年の分の評価を行い、これを目標とする年の数の分だけ計算し、それらを合計して計算します。
商標権
商標権も、知的財産権のひとつです。
商標には商品やサービスのブランド名やロゴマークなど、様々なものがあります。
自分が作ったこれらの商標を他人に勝手に使われることなく自分で独占的に用いるために、特許庁に出願し登録することで商標法所定の商標権が発生します。
商標権の存続期間は10年とされていますが、更新することで延長も認められています。
商標権は知的財産権の一種ですから、相続税の課税対象となります。
商標権は、将来受け取ることができるであろう補償金(収益)額の基準年利率による複利現価の合計額で評価します。
具体的には、「補償金値額×基準年利率による複利原価」でその年の分の評価を行い、これを目標とする年の数の分だけ計算し、それらを合計したものが商標権の相続税評価額となるのです。
ソフトウェア特許権
ソフトウェア特許権も、知的財産権のひとつです。
パソコンなどのハードウェアを作動させるためにはソフトウェアが必要であり、ソフトウェアを作動させるためにはプログラムが必要です。
このプログラムを開発したことに関する排他的な権利は、著作権により保護されることになります。
しかし、著作権はあくまでプログラムの内容とソフトウェアを完全に模倣する行為についてのみ効力を有し、著作権法においても「プログラム言語、規約及び解法(ハードウェアに対する指令の組み合わせの方法)に及ばない」とされています。
つまり、インプットとアウトプットは同じでもプログラム言語の内容を少し変えさえすれば異なるアイデアにより開発されたプログラムとされ、著作権を侵害したことにはなりません。
このように、著作権ではソフトウェアの要であるプログラムの模倣を完全に防ぐことはできないのです。
これに対してソフトウェア特許権は、プログラムのアイデアそのものについても排他的な保護の対象となります。
つまり、プログラム言語が多少異なっていたとしても既にソフトウェア特許権を取得したプログラムと同じ原理のものであれば、ソフトウェア特許権の侵害となるのです。
ソフトウェア特許権についても相続税の課税対象となりますが、ソフトウェア特許権の評価方法はこれにより保護されたソフトウェアがどのような形で収益を獲得しているかという点で異なります。
不特定多数の利用者に広範に販売しているソフトウェアについてのソフトウェア特許権は、著作権の評価となります。
これに対して、利用者とのライセンス契約により使用を許可している場合は、特許権と同じの評価方法を用います。
特許権の移転手続き方法
相続のための特許権の移転手続きは、特許庁長官に対して行います。
まず、特許庁のホームページから「相続による移転登録申請書」をダウンロードし、特許権の番号・登録の目的・被承継人(被相続人)の氏名住所・承継人(申請人)の氏名住所など必要事項を記載し収入印紙3,000円分を添付します。
この他、必要書類として戸籍謄本や除籍謄本など被承継人(被相続人)が死亡したことを証明する書面や、戸籍謄本や遺産分割協議書など承継人(申請人)が相続人であることを証明する書類があります。
特許庁に移転登録申請書および必要書類を提出し、不備がないと確認され受理されると、特許庁より書面を受け付けた日から原則10日で申請内容が登録原簿に記載されます。
さらに約2週間後、登録済通知書が普通郵便で承継人(申請人)へ送付されます。
これで特許権の移転登録申請手続きは終了です。
まとめ
以上、特許権をはじめとした、特殊な財産の相続税評価方法についてご説明しました。
相続税の申告において、知的財産権の相続税評価額を恣意的に見積もることはできません。
一方で、知的財産権の相続税評価額を計算することは難しく、場合によっては弁理士など著作権や特許権の専門家の意見を取り入れなければならないこともあります。
したがって、もし知的財産権を相続することになった場合は、その評価方法や相談先のコーディネーター、さらには移転手続きのアドバイスを受ける先として税理士に相談することをお勧めします。