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お金や不動産以外を相続する場合について説明しています。墓地や仏壇、ゴルフ会員権、自動車、保険金、株式、会社、宝石、貴金属などを相続する場合の注意点やポイントについてまとめています。

2019年2月27日 水曜日

現金は相続税が高くつくケースが多い?

金融機関を中心に「貯蓄から投資」というスローガンが叫ばれて久しいですが、依然として家計の金融商品保有額は現金が過半を占めているのが現状です。

当然、相続のおいて遺産のうち現金が占める割合が高くなるものと考えられます。

たしかに現金は株式や投資信託と異なり元本割れするリスクはなく、不動産と比較して相続発生時の分割も容易ですから、資産を現金のまま保有して後世に相続させるということには合理性があります。

ただし、相続において現金には相続税評価における軽減措置がないなど、デメリットもあります

本コンテンツでは、現金を相続するメリット・デメリットを踏まえ、遺された人が払う相続税を少しでも軽減させる方法について、ご紹介します。

相続税の対象となる財産

相続税は、遺産を相続したすべての相続人に対して課されるわけではありません。

「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除最大1億6,000万円の配偶者の税額軽減など、各種の控除可能額を超えた部分に対して相続税は課税されます。

また、相続税はすべての遺産に対して課されるわけではありません。

以下のように相続税が課される遺産と課されない遺産に分類されます。

課税対象財産

相続財産は相続税が課税される財産の例は、以下のとおりです。

・土地、借地権、地上権、家屋などの不動産
・預貯金、有価証券などの金融資産
・絵画、高級家具、立木などの家庭用財産
・事業用、農業用の財産
・生命保険金や死亡退職金などのみなし相続財産
・相続時精算課税制度の適用により被相続人から贈与を受けた財産
・被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産
・その他、ゴルフ会員権や債権など

非課税対象財産

以下の財産に対する相続税は、非課税となります。

・墓地、墓石、仏具、仏像、仏壇などの祭祀財産(ただし、骨董品や投資対象の品は相続税の課税対象)
・心身障害者救済制度に基づく給付金の受給権
・相続税の申告期限までに、特定公益信託の信託財産とするために支出した金銭
・相続税の申告期限までに、国や地方公共団体、特定の公益法人などへ寄付した財産
・公共事業を行う人が相続し、引き続き公益事業のために使用することが確実と認められる財産

現金の相続税率はどのくらい?

現金については、各種の控除後、以下の税率がそのまま適用されます。

別途算出された相続財産評価額に以下の税率を乗じ、カッコ内の金額を控除して得られた額が相続税となります。

・1,000万円以下:10パーセント(控除額なし)
・3,000万円以下:15パーセント(50万円)
・5,000万円以下:20パーセント(200万円)
・1億円以下:30パーセント(700万円)
・2億円以下:40パーセント(1,700万円)
・3億円以下:45パーセント(2,700万円)
・6億円以下:50パーセント(4,200万円)
・6億円超:55パーセント(7,200万円)

これを踏まえ、現金を相続した場合のシミュレーションをしてみましょう。

被相続人が死亡し、相続が発生しました。

相続人は配偶者・長男・長女で、遺産は預金1億円。

遺産分割協議の結果、長男は相続放棄し、配偶者と長女が半分ずつ相続することになりました。

なお、相続放棄する長男は相続上は「最初から相続人でなかった」として扱われますが、相続税の計算においては相続放棄そのものがなかったとされますので、相続放棄の有無は相続税の総額に関係ないことにご注意ください。

(1)基礎控除額を差引く

基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。

したがって、本件の場合は3,000万円+600万円×3人により4,800万円が基礎控除額となります。

これを1億円から差し引いた5,200万円が相続税の課税対象額となります。

(2)法定相続割合で相続したと仮定

まず、配偶者が2分の1・長男と長女がそれぞれ4分の1ずつの法定相続割合に応じて長男と長女が外貨預金を共同で相続すると仮定します。

この場合は配偶者が2,600万円、長男と長女がそれぞれ1,300万円ずつ相続することになります。

(3)相続税額の総額を計算

前述した相続税の速算表に基づき、法定相続割合で相続したと仮定したうえで相続税額の総額を計算します。

相続税評価額が3,000万円以下の場合は相続税率15パーセント・控除額50万円ですので配偶者は2,600万円×15パーセント-50万円により340万円、

、長女と長男はそれぞれ1,300万円×15パーセント-50万円により145万円ずつとなります。

これにより相続税の総額は、340万円+145千円+145千円=630万円となります。

(4)各相続人の相続税額を計算

最後に、実際の相続割合に応じて支払う相続税を計算します。

配偶者については、相続する金額5,000万円が「配偶者の税額軽減」の1億6,000万円を下回るため、相続税額はかかりません。

一方で長女は2分の1を相続しますので、相続税の総額630万円の2分の1である315万円を申告・納付することになります。

現金相続のメリット・デメリット

現金相続のメリット

現金は流動性が非常に高く、遺産分割においても客観的に分割しやすいというメリットがあります。

また、銀行など金融機関に預けておけば管理することも容易ですし、保有するコストもかかりません

現金相続のデメリット

現金には不動産や死亡保険金の受取金などと異なり、相続税評価額の軽減が原則ありません

したがって、そのまま相続すると高額の相続税が課される可能性があります

また、低金利の環境が続いている中インフレが進んだ場合、相対的な価値が下がるリスクがあります。

そして、最大のリスクはインフレリスクです。

今後は資産としての現金の価値は相対的に下がっていく可能性が高くなっています。

日本経済はデフレの時期が長く続いてきました。

デフレとは、モノやサービスの価格が継続的に下がり続けていくことであり、これは不動産や株式も例外ではありません。

このような経済状態下では、現金が相対的に有利な資産です。

しかし、日本経済はデフレの状態を脱却しつつあり、今後、長期的にはインフレになると予想されます。

インフレとはデフレの逆で、モノやサービスの価格が継続的に上がり続けていくことです。

この経済状態化では、現預金は他の資産と比べて相対的に価値が下がります。

事実、食品をはじめとして物価の値上がりは皆さんが肌で感じていると思われます。

例えば、これまではあるモノの値段が100円だったので1,000円あれば10個買えました。

しかし、インフレが進みモノの値段が200円に上がってしまったため、5個しか買えなくなってしまいました。

これはモノの値上がりに対して1,000円の購買力、すなわち現金の価値が下がったということです。

このように、インフレが進むと現金の価値は下がってしまうのです。

現金以外での相続で節税対策する

生命保険を活用する

被相続人が契約者し、自分にかけた生命保険で、死亡保険金の受取人が相続人となっていれば、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。

ただし、相続人が受け取る死亡保険金には非課税枠として「法定相続人の数×500万円」の適用が認められています。

このため、現金預金よりも生命保険の死亡保険金のほうが相続税は安くなります

さらに死亡保険金の総額が上記非課税枠の範囲内であれば、相続人が受け取る死亡保険金に対して相続税は課税されないのです。

また、生命保険の死亡保険金は受取人固有の財産とされており、遺産分割協議の対象外です。

このため、先述の代償分割などのために特定の相続人に対して現金を多く残したい場合は、その人を死亡保険金の受取人とした生命保険を契約しておく方法が良いと言えます。

これなら、他の相続人が遺産分割協議の場で不服を訴えたとしても、生前の意向通り、その人に実質的に現金をより多く相続させることができるのです。

収益物件を活用する

収益物件とは、賃料収入を得ることを目的に所有する一棟あるいは区分所有のマンションやアパート、商業ビルのことです。

手元にある現預金で収益物件を購入することで、安定的な賃料収入を得られること建物の減価償却が損金に算入できることから、相続発生時の相続税納税資金の蓄積になります

さらに、一般的に不動産の相続税評価額は、時価(実際の取引価額)に比べて低く算出されることから、相続発生時に評価額減が採用されない現金を保有していた場合よりも、相続税評価額が低くなるため、そのぶん相続税額も安くなるのです。

収益物件の相続税評価額は、以下のように計算されます。

・土地=路線価×補正率×(1-借地権割合×借家割合)

・建物=固定資産税評価額×(1-借家割合)

この結果、土地の形状や所在地、建物の構造や築年数など不動産の個別性にもよりますが、三大都市圏の土地は概ね時価の30パーセントから40パーセント程度、建物は概ね時価の60パーセント程度低くなるものと考えられます。

ただし、収益物件を保有することは思うように賃料収入を得られないリスク、経済環境や周辺環境の変化により収益物件の価値そのものが減価してしまうリスクがあることを忘れないようにしてください。

生前に自分の墓などを用意する

先述のとおり、墓地・墓石・仏具・仏像・仏壇などの祭祀財産は相続税の非課税対象資産です

生前に祭祀財産を用意しておけば相続税の課税対象にはなりませんが、相続発生後に購入した場合は相続財産から差し引くことができません。

したがって、生前に祭祀財産を用意しておくことは相続対策の一環になります

縁起が悪いとお考えになるかもしれませんが、相続税対策と併せて相続発生後に相続人が祭祀財産を用意する手間と費用を考慮すれば、ご検討に値すると考えられます。

生前贈与を活用する

生前に財産を次の世代に贈与、つまり無償で譲っておくことも有効な相続税対策のひとつであり、これを生前贈与といいます

相続税は亡くなった時点における財産の額に比例して高くなることから、亡くなる前に自身の財産を相続人に贈与して死亡時点での財産額から切り離すことにより、そのぶん相続税を安くすることができるのです。

ただし、贈与を受けると、その人には贈与税が課税されます。

このことから、生前に支払うのが贈与税で、相続発生後に支払うのが相続税、これらは税の種類が違うだけで、どちらにしても税金は支払わなければならないのか…とお考えになると思います。

確かにそのとおりですが、生前贈与には先述した相続税の基礎控除や配偶者控除とは異なる各種の控除制度が設けられています

なお、贈与税は相続税と比較すると低い財産額から課税されます。

したがって、生前贈与を検討する際は、相続が発生して単純に相続した場合に納付すべき相続税の税率と贈与税の税率を慎重に比較してください

そして、生前贈与による受贈者の贈与税負担が相続発生時における相続税負担よりも少なくなるような配慮が必要です。

続いて、生前贈与の具体例を一部ご紹介いたします。

・暦年贈与

その年の1月1日から年末に受けた贈与の合計額が110万円に満たない場合は、贈与税は課税されず申告も不要です。

ただし、この特例を用いてコンスタントに毎年110万円ずつ贈与を続け、仮にそれが10年間続いたとしたら、税務署は「連年贈与」として最初から合計1,100万円贈与する意図があったとみなし、1,100万円に対して贈与税が課税されてしまうことがありますので、注意してください。

・住宅取得等資金の贈与税の非課税特例

親や祖父母など直系尊属が子や孫に対して、居住用家屋の建築または購入の資金を贈与すると、契約日や住宅の種類などの条件に応じて一定の贈与額に対し贈与税の非課税が認められています。

この制度は、年間110万円以下の基礎控除が併用可能です。

・配偶者贈与の特例

婚姻期間が20年以上など一定の条件を満たす配偶者から、居住用不動産または居住用不動産を購入するために資金の贈与を受けると、贈与税の課税価格から最大2,000万円までの控除が適用される制度です。

この特例についても、年間110万円の基礎控除と併用することが可能です。

なお、居住用不動産取得にかかる登録免許税や不動産取得税は課税されますので、この点にご注意ください。

まとめ

相続人が払う相続税のことを考慮すると、あなたが相続人に残す相続財産は選択肢は現金だけではなく収益物件や生命保険もあり、さらには生前贈与も有効であることは、ご理解いただけましたでしょうか。

どのような資産が相続に有効か、生前贈与はどうするか、現金との比率はどのくらいにすべきかなどについて色々と検討すべき課題は多いと思います。

しかし、あなた一人で悩む必要はありません。

費用はかかるかもしれませんが、ファイナンシャルプランナーや税理士などの専門家に相談してみることも一案です。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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