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【相続税 】
相続税について説明しています。相続税は相続する人物、相続の対象、評価額などによって納税の有無や納税額が異なります。また相続税を抑えるための対策もあります。相続税についての知識を得て、しっかり相続税対策を行いましょう。

2019年5月31日 金曜日

負債を相続する際の相続税はどうなる?

相続税の際には、相続した財産に一定の税率をかけて相続税額を計算します。一方、相続した財産には現金、不動産、有価証券などのプラスとなる財産だけでなく、借金、未払金といったマイナスの財産も含まれます。

債務控除といい、マイナスの財産を相続した場合は、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いて、相続した財産の総額を計算します。

この債務控除は、金額が大きくない場合や被相続人の債務を忘れていた場合などで、引き忘れることが多くあります。しっかりと資産を調べて、申告資料を作れば、大きな節税効果も期待できるものです。

また、被相続人が遺産を上回る大きな債務を持っている場合もあるでしょう。日本の相続税の法律には、相続人が理不尽な債務を受けない為に、相続放棄という制度があります。相続を知った日から3カ月という期限の中で、必要な手続きを行えば、不要な債務を避けることができます。

本稿では負債を相続した際の相続税の取扱い、必要な手続きについて解説します。

 

負債を相続する場合の債務控除とは

相続したプラスの財産からマイナスの財産を差し引くことを債務控除と呼びます。債務控除の対象となるものには下記のようなものが挙げられます。

・金融機関からの借入金

・個人からの借入金

・亡くなった後に支払う所得税、住民税、固定資産税

・未払医療費

・未払の水光熱費、電話代などの公共料金等

・テナントから預かっている敷金

・一方で以下の負債は債務控除の対象になりません。

・団体信用生命保険で補填される住宅ローン

・墓地や仏壇などの非課税財産に係る未払金

・保証債務

 

債務控除の金額が増えれば、その分相続税は安くなります。実際には債務控除ができるのに、控除し忘れている負債があると、その分、損をしてしまいます。

被相続人の債務は漏れなく確認し、忘れずに税務署に申告しましょう。

 

借入金は、相続開始時点で現実に存在するものしか債務控除できません。相続開始日は、原則、故人が亡くなった日です。

また、税務署は、確実な債務のみを控除として認めます。被相続人が借りた一般的な債務であれば、被相続人が払う必要があるので、確実な債務です。

一方で、借入金には他に「保証債務」、「連帯債務」という種類があります。債務控除の対象は「連帯債務」で、「保証債務」は原則として控除できません。保証債務とは、他の人の借金の保証人となった際にかかる債務です。

ただし、この保証債務は必ずしも保証人が負担するものではありません。確実な債務ではないのです。

連帯債務とは、借入を複数名で行う場合です。例えば、事前に夫婦で返済の割合を決めておき、夫婦共同名義の返済用口座を作って、夫婦で住宅ローンを返済するなどのケースがあります。

この「連帯債務」は返済が全額ではないものの、確実に発生しているので、相続税の対象になります。

 

負債に対しては相続放棄という方法もある

被相続人の負債は、相続人が相続することが基本です。プラスの財産だけを相続して、マイナスの財産は相続しない、という都合のいい相続はできません

一方、被相続人が多額の借金を残して亡くなった場合、相続人には大きな負担がかかってしまいます。そんな方のために負債を相続しない方法もあります。「相続放棄」を行うと、被相続人の財産の全てを一切相続しないという選択をとることができます。その際、プラスの財産だけを相続してマイナスの財産は相続しないという選択はできません。相続放棄をとった場合は全ての財産を放棄する必要があります。

相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に手続きをしなくてはなりません。「相続開始」からではなく、「自己のために相続の開始があったことを知った時」としているのは、相続人が被相続人の死亡をしらない場合があるからです。

相続放棄をしたい場合は、まず、相続放棄申述書を作成し、家庭裁判所に相続放棄申述書を提出します。

手続きを行う家庭裁判所は、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所です。どこでも手続きができるわけではないので、注意しましょう。相続放棄申述書の書式は、20歳以上用、20歳未満用に分かれています。また、相続放棄申述書を提出する際には、戸籍謄本、住民票等の書類を一緒に提出します。

書類の提出後に家庭裁判所における調査が入ります。場合によって、裁判所から質問書(照会書)が届く場合があります。裁判所の許可がおりれば、相続放棄申述受理通知書が自宅へ郵送されます。相続放棄申述書を提出してから、相続放棄申述受理通知書の受理までは、通常1から2か月くらいがかかります。

自前で手続きを行った場合であれば、大きな費用はかかりません。主な費用としては、戸籍謄本の交付に450から750円程度、被相続人の住民票の交付に300円程度、家庭裁判所で納める収入印紙、郵便切手がそれぞれ800円と500円程度です。合計でも数千円の費用で済みます。

正直、相続放棄の手続きは、必要書類さえをきちんと集めることができれば難しいものではありません。相続放棄申述書も書式に沿って、必要事項を埋めていけば作成できます。

ただし、必要書類を集める手間などを考えると専門家に依頼した方が効率的かもしれません

 

司法書士に依頼をした場合は3~5万円、弁護士に依頼をした場合3~10万円程度の費用がかかります。司法書士は必要書類の取得代行、書類作成の代行が業務の中心ですが、弁護士は他の相続人との間の交渉等、相続に纏わる様々な問題について相談できます。

プラス分の財産で払える範囲のみ、マイナスの財産を返済する限定承認という手法もあります。思い出の家を手放したくないといったケースもあるでしょう。2,000万円の家と借金5,000万円を相続したとします。全てを引き継いでしまっては相続人が3,000万円の借金を背負ってしまいます。この際、限定承認を活用すれば、相続人の返済義務のある債務が2,000万円になります。返済用の2,000万円の工面できれば、家を売却せずに、相続を終えることができます。しかし、限定承認は手続きが非常に煩雑です。債権者、相続人全員の合意が必要で、あまり一般的な手法ではありません。

 

ただし相続放棄には注意点も

相続放棄は相続人を理不尽な債務から守ってくれる制度です。一方でいくつかの注意点もあります。

 

相続放棄には期限がある

前述の通り、相続放棄は、「相続が開始したことを知ったときから3か月以内」とされています。この熟慮期間を過ぎてしまえば、相続放棄はできなくなってしまいます。遺産の確認も含め、相続放棄の判断と手続きは余裕を持って行うようにしましょう。

 

相続放棄の期限は延長できる

相続放棄の熟慮期間を過ぎてしまっても、土地が分散されている、借金の総額が明確にならないなど、相続放棄の判断ができないケースもあります。この様な病む得ない場合は、家庭裁判所に向けて、熟慮期間伸長の申し立てを行うことができます。期限があるからといって無理に判断をしなくても、考える時間を伸ばすこともできます。

 

相続放棄は単独で実施できる

相続放棄は相続人全員の同意が必要と考えられる方もいるでしょう。でも実際には、相続放棄は個人の意思で単独で行うことができます。家庭裁判所での手続きも、相続人がそれぞれ行います。相続人の同意が得られないために相続放棄を諦めている人もいるかもしれませんが、勘違いで間違った判断をしないようにしましょう。

 

相続を放棄すると相続権が他の相続人に移る

相続放棄すると、相続の権利義務が他の相続人に移行します。借金の相続に関して、個人の勝手な判断で相続放棄した場合、他の相続人とのトラブルが発生する場合があります。

 

一度放棄したら撤回できない

相続放棄は一度家庭裁判所での手続きが完了すると撤回できません。相続放棄後に、別のプラスの資産が見つかって、放棄する必要はなかったと後悔しないようにしましょう。相続放棄の熟慮期間は3カ月あります。その期間に被相続人の財産はしっかりしらべましょう。

 

相続放棄をしても生命保険金は、受け取ることができる

前述の通り、相続放棄をすると、相続人でないことになるので、亡くなった方の財産は全て受け取ることができません。一方、生命保険の保険金は、亡くなった方の財産ではありません。受取人の財産とされるので、相続放棄をしても受け取ることができます。

 

生前に相続放棄はできない

他の親族ともめないように予め相続を放棄しておきたいという人もいるかと思います。しかし、相続放棄は亡くなった後でないと、手続きはできません。相続放棄は被相続人が亡くなった後に、個人の死を証明する必要書類を揃えて、初めて家庭裁判所に手続きをすることができます。

 

相続放棄の場合は、代襲相続は起こらない

代襲相続といって、故人の子供が亡くなっている場合、その子供の子供、故人からすると孫がいれば、孫に相続する権利が移ります。相続放棄の場合はこの代襲相続は起こりません。子が相続放棄をした場合でも、自動的に孫が代襲相続するわけではありません。

 

被相続人の財産の使ってしまうと、相続放棄が認められなくなる

相続放棄の手続きは比較的簡単です。必要書類がしっかり揃っていれば、相続放棄が認められないケースも少ないです。ただし、相続放棄をする前に、亡くなった方の財産の一部を使ってしまうと、相続放棄が認められなくなる可能性があります。同様に、亡くなった方の財産から借金を返済しても、相続放棄の認可がおりない可能性があります。

 

被相続人は生前に負債を一覧化しておくべき。相続人は必ず負債がないか調査を行いましょう

前述の通り、相続の開始を知ってから3カ月以上が経過すると、相続放棄も限定承認もできなくなります。特別な事情があれば、熟慮期間を延長することもできますが、基本的にはその3カ月が過ぎてから被相続人の大きな債務が見つかっても、相続放棄ができなくなります。後から発覚して慌てないように、被相続人の財産については負債も含めて一覧化しておくことをおすすめします。特に負債については、必要に応じて調査を行いましょう。

被相続人が家族に内緒で行っていた借金を把握するのは難しいと感じることでしょう。被相続人の死亡後、借入金の返済が滞っていた場合に、債権者からの督促の郵便、電話があります。相続人はその連絡によって、被相続人の負債に気付くことが出来ます。

被相続の口座を確認すれば、毎月の口座からの引き落とし先で借入先と借入金額がわかる場合もあるでしょう。一方、調べ方に見当がつかない場合は、被相続人の借金をどの様に調べればいいのでしょうか。

その他の方法として、信用情報機関に情報開示を求めることが挙げられます。大抵は銀行、クレジット会社、消費者金融等の金融機関から借り入れを行います。これらの金融機関は信用情報機関を作り、そこで借り入れの情報を管理しています。

相続人であれば、借入の情報開示を請求ができます。その開示請求により被相続人の借金を少佐します。銀行の借金の場合は「全国銀行個人信用情報センター」、消費者金融、クレジットカードの借金の場合は「CIC」「JICC」に問い合わせてみましょう。情報開示手続きには、戸籍謄本等の相続人であることを証明する書類、被相続人が亡くなっていることを証明する書類の提出が求められます。申請から情報開示までは時間がかかるので、早めの手続きをおすすめします。

また、自宅等の登記事項証明書を確認すれば、抵当権、根抵当権、質権の設定の有無がわかります。これにより、借金がわかる可能性があります。自動車の車検証も同様に、ローンで購入しているか否かがわかる場合があります。

 

まとめ

債務控除は、しっかりと資産を調べて、申告資料を作れば、大きな節税効果が期待できるものです。面倒がらずに債務を確認し、債務控除をしっかりと行うことをおすすめします。

確認を行った結果、大きな債務が明らかになる場合もあるでしょう。日本の相続税の法律には、相続人が理不尽な債務を受けない為の配慮があります。しかし、それらの制度も相続人が活用できなければ意味がありません。被相続人の債務については、早めに全体を把握しておくようにしましょう。特に相続放棄には3カ月という期限があるため、早めに準備を進めておくことをおすすめします。

相続の債務に纏わる疑問や不安なことがあれば、税理士、弁護士などの専門家に相談してみましょう。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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