2019年2月2日 土曜日
孫への生前贈与で相続税対策をする方法
平成27年の税制改革によって、相続税の課税対象者の範囲が今までよりもグッと広がってしまいました。
しかし、贈与税は減少方向へ進んでいます。
そこで、相続税対策のために、お得な方法とその注意点を紹介します。
目次
相続とは
概要
相続とは、亡くなった人の配偶者や子供が、亡くなった人の遺産を引き継ぐことです。
この遺産は、財産や不動産等々のプラス財産だけでなく、負債等のマイナス財産も全て含めた遺産です。
亡くなった人を「被相続人」、遺産を受け継ぐ人を「相続人」といいます。
遺言がない場合は、被相続人が遺した遺産を法定相続人が均等に引き継ぎます。
法定相続人とは、民法で定められている、被相続人が亡くなった時に、相続人となる権利のある人のことをいいます。
第1相続人は被相続人の配偶者と子供です。
配偶者が亡くなっている場合は、第1相続人は子供だけとなりますが、子供がいないまたは死亡している場合は、「配偶者」と「第2相続人の総数(代襲相続無し)」、第2相続人がいない場合は「第3相続人の総数(代襲相続無し)」で財産を3対1の割合で受け取ります。
ちなみに子供がいない、あるいは死亡している場合は、その子供の子供、すなわち被相続人の孫が、第1相続人のひとりとなります。
胎児であったとしても、胎児が生まれた時に代襲相続の権利が発生します。
第2相続人以降の相続人は、下記のようになります。
第2相続人:被相続人の親(既に死亡している場合は祖父母)
第3相続人:兄弟姉妹(既に死亡している場合はその子供、被相続人の甥・姪)
ただ、ご存知かもしれませんが、相続をする際は「相続税」がかかります。
相続税
相続税法の大改正が平成25年に行われ、平成27年から施行されました。
細かい改正点は他にもありますが、一番大きく変わったのは、基礎控除が5,000万円から3,000万円に大きく減額されたことです。
この、相続税の基礎控除額の大幅減額によって、これまで相続税の課税対象にならなかった人も相続税の申告が必要になったのです。
一方、同時に行われた贈与税の改正によって、贈与税は減額されたり、期限付のお得な特例が設けられたりしました。
そこで、将来被相続人となる人は、自分が死んだ後に、相続税の支払いのために配偶者や子供が困らないように、相続税対策として生前贈与を検討する人が増え始めたのです。
生前贈与で節税対策ができる
生前贈与とは
生前贈与とは、その名の通り、相続税の減額のために、生きている間に財産を将来相続人になるであろう子供や配偶者に財産を贈与することをいいます。
ただし、将来被相続者となるべき者(以下「贈与者」という)から生前贈与を受けた場合、その後3年以内に贈与者が亡くなってしまったら、生前贈与分財産も相続財産として課税対象となり、相続税が遡求されます。
これは、「駆け込み贈与」を防止するための罰則のような制度です。
だから、たとえ意図せず不運にも「駆け込み贈与」に該当してしまったケースで、贈与税が相続税より多かったとしても、その差額を還付されることはありません。
生前贈与のメリット
生前贈与をすると、もちろん贈与税が発生しますので、その点が不安ですね。
しかし先述したように、平成27年の税制改正施行後から、贈与税に関する法律も改正され、贈与税は減税の方向に進んでいるので、相続税よりも贈与税の方が安い場合は、相続税の減税対策になります。
また、生きている内に自分の財産を相続させたい相手に明確に譲ることができるので、自分の死後の相続争いを防ぐ有効な対策にもなります。
例えば、双方同意の下で、不動産の名義変更を親から子供へと異動しただけで生前贈与になり、子供に贈与税がかかります。
その他、不動産取得税等の固定資産税等、その他の税金もかかります。
しかし、もしも将来、駅や商店街ができる、高速道路が通るといったふうに、将来その土地の坪単価が今の数倍に跳ね上がるとしたらどうでしょう?
将来その土地単価が跳ね上がった後に、親が亡くなって、その土地を相続したら、その時点の相場で国が算定した莫大な相続税となるのです。
それを思えば、多少の贈与税・その他不動産に関する税金を払ったとしても、今のうちに名義変更をして不動産を生前贈与しておいた方がお得です。
また、将来坪単価が跳ね上がったときに、その土地を売却すれば、所得税がかかりますが、それを勘案しても贈与税なんて簡単に取り戻せます。
ただし、生前贈与は、双方の同意が必要である事を覚えておいてくださいね。
非課税の範囲を知る
生前贈与には、「暦年贈与」と「相続時精算課税」という2種類の生前贈与があります。
それぞれ解説します。
暦年贈与とは?
生前贈与は年間(1月1日~12月31日)110万円までの贈与財産なら、贈与税がかかりません。
この贈与税がかからない範囲で生前贈与を毎年続ければ、10年で1,100万円。20年で2,200万円となります。
かなり長生きする必要がありますが、こういう方法もあります。
ただし、どんなに長生きをしても、亡くなる前3年の暦年贈与は、相続財産として遡求請求の対象になってしまいます。
暦年贈与を超える贈与財産の特例
常識的な生活費の援助は贈与財産とはならない
また、年間110万円を超える援助だとしても、その都度その都度の必要な金額の援助の場合は、贈与税の対象になりません。
例えば、九州の実家から東京の大学に通学する孫のために、その住居費用と生活費の仕送りを将来被相続者になる祖父母がしたとしても、生活費の援助ですから、贈与税の対象とはならないのです。
ただし、生活費の仕送りとして、常識的な範囲内である必要がありますので、世間の相場よりも極端に大きな額の仕送りは認められません。
●配偶者への不動産の贈与は配偶者控除がある
配偶者の場合は、居住用の不動産の贈与(名義変更)があった場合は、非課税対象となるのではなく、2,000万円の配偶者控除が受けられます。
この不動産の生前贈与とみなされる範囲は、居住用の不動産の資金の他に、その購入のための資金(建物購入費用・建築費用・増改築やリフォーム費用を含む)も含まれます。
例えば、分譲老人ホーム入居のために、配偶者名義で老人ホームを購入した場合、その購入費用その他の不動産の贈与税対象金額から、2,000万円の控除が受けられ、2,000万円を超えた価格が、贈与税の課税対象となるというわけです。
●教育資金の特例
子供や孫のための教育資金として贈与は1,500万円まで非課税です。
ただし、この特例は、平成27年4月1日から平成31年3月31日までの限定処置です。
この期間の間に、教育資金として生前贈与し、贈与対象者の子供や孫(以下「受託者」という)が30歳になるまでに、その教育資金として受け取った贈与財産を使い切った場合のみ、非課税となります。
教育資金とその使い道は、以下のようなものが対象となります。
- 入学金や授業料等の学費
- ランドセル購入
- 教科書や学用品購入等、学校に支払う金額
ただし、学習塾や家庭教師等学校以外の指導者に支払う金額は500万円まで非課税となり、教育資金といっても、支払先によって非課税の金額が異なる場合があるので注意しましょう。
一般的に、この贈与財産は、金融機関の口座を使って管理するのですが、受託者が30歳の誕生日を迎えた日の翌日に、当該口座に残高が残っていたら、その残額が、贈与税の課税対象となります。
●教育・子育て資金の一括贈与の特例
平成27年4月1日から平成31年3月31日までの特別措置ですが、20歳以上50歳未満の孫(以下「受託者」という)は、直系尊属から「教育・子育て一括贈与」として財産を贈与された場合、1,000万円まで非課税です。
教育・子育て費用とは、妊娠・出産費用から、産後ケア、出産後の赤ちゃんの医療費、幼稚園・保育園にかかる費用に至るまで、資金の使い道は幅広く認められています。
また、「結婚資金」として贈与された場合は、300万円までの非課税となります。
結婚資金として含まれる範囲は、結婚式の費用のみならず、新居の契約から引っ越し費用まで含まれます。
これらの資金は金融機関の専用口座を設け、費用の使い道について、金融機関に領収証を提出して、出金した金額の使い道を明確にしなければなりません。
そして、受託者が50歳の誕生日の日に、残金が残っていた場合、その残金には贈与税がかかってしまいます。
●住宅取得資金等の贈与に関する特例
子供や孫(以下「受託者」という)が、直系尊属の両親や祖父母から、自分が居住するための新築、または購入するための資金を生前贈与された場合、平成33年12月31日(新しい元号3年となるであろう)まで、期限付特例で、一定金額まで非課税となります。
非課税金額は、来年4月から10%消費税となると政府が発表しているので、平成31年3月31まで8%、それ以降は10%で表にして紹介します。
住宅家屋取得の契約成立日 | 消費税 | 省エネ住宅 | それ以外の住宅 |
---|---|---|---|
平成30年1月1日~31年3月31日 | 8% | 1,200万円 | 700万円 |
平成30年4月1日~4月31日
新元号元年5月1日~新元号2年3月31日 |
10% | 3,000万円 | 2,500万円 |
新元号2年4月1日~新元号3年3月31日 | 10% | 1,500万円 | 1,000万円 |
新元号3年4月1日~3年12月31日 | 10% | 1,200万円 | 700万円 |
相続時精算課税
将来被相続人となる贈与者が60歳以上の場合、そして生前贈を与受ける授与者となる子供や孫が20歳以上の場合、2,500万円まで贈与税がかかりません。
もし、その贈与金額が2,500万円を超えた場合、その金額に20%の贈与税がかかります。
なお、この相続時精算課税の場合は、相続財産の先払い制度のようなものですから、相続税の計算の時に、贈与財産も含め相続税が計算され、贈与税のために支払った金額があれば、その差額の支払いだけですみます。
あるいは、相続税を全額支払って、贈与税の時に支払った金額の還付を受けることもできます。
相続税対策にはなりませんが、生前に多額の財産を贈与できます。
しかし、いったん相続時精算課税を選択したら暦年課税に変更することはできません。
教育資金贈与が効果的
教育資金一括贈与の特例は、駆け込み贈与であったとしても、相続財産として、他の生前贈与のように、相続財産として遡求請求されることはありません。
つまり、孫への教育資金としての生前贈与は非常にお得な相続税対策となるのです。
しかし、孫への教育資金としての生前贈与には注意が必要です。
- 孫への生前贈与契約書を作成する
- 孫が幼くても、子供に通帳と印鑑を管理させ、自由に使える権利を与えないといけない
契約書は、孫に生前贈与した証拠を残しておくためです。
幼い孫に通帳と印鑑を管理させることは、不安があるかもしれませんが、そこは親がしっかりと躾をして言い聞かせておく必要があります。
通帳や印鑑を親が管理していると、いざ相続問題が発覚したときに、子供の名前を借りて親が贈与された財産とみなされていますこともあるからです。
しかし、お金の価値を理解しない年齢の子供に大金を持たせるのは教育上良くないので、子供に親がしっかりと祖父母から教育資金贈与がなされたことを言い聞かせ、その上で、子供の許可を得て親が管理しておくことは可能です。
生前贈与の際に注意するべき点
生前贈与に関しては注意する点がありますので紹介します。
課税対象に注意する
財産を与えても生前贈与非課税対象に該当せずに、贈与税がかかってしまう場合がありますので、注意点を紹介します。
●教育資金贈与の特例と教育資金非課税の違い
教育資金贈与の特例(1500万円まで非課税)についての注意点の例をあげてみましょう。
例えば、祖父が2人いる場合を例に解説します。
祖父が各々ひとりの孫に教育資金として生前贈与をしたとします。
2人の祖父からでも、ひとりの孫が受ける生前贈与は合計1,500万円まで非課税です。
均等に生前贈与するなら、各々の祖父は750万円までの教育資金の生前贈与が可能となります。
しかし、孫が兄と弟の2人いて、父方の祖父がお兄ちゃんに、母方の祖父が弟に、それぞれ1,500万円の教育資金として生前贈与をするのは可能です。
もしも、1,500万円を超える生前贈与をしたいなら、私学の中学や高校の入学金や授業料、寄付金をその都度祖父の名義で、学校に振り込む場合は、特例に教育資金生前贈与には該当せず、昔からある教育資金の非課税に該当します。
例えば、生まれて間もない赤ちゃんに、将来海外のロースクールに行かせて、国際弁護士にさせるからと、その教育資金として、まとまった金額を贈与すると、それは教育資金の特例が該当する生前贈与です。
その場合、非課税枠は1,500万円までです。
しかし、孫が成長して、中学、高校、大学、海外留学、とその都度都度に入学金や授業料を支払うのは、孫の教育費の援助として、全額非課税なのです。
ただし、手続きをするのは、孫の親であるので、孫の親である子供の口座に振り込んだのでは、そのお金が何に使われたのかが、相続問題が生じたときに、税務署に証明できなくなってしまいます。
そのため、祖父が孫の学校に祖父の名前で直接振込をすれば、振込先が明確ですから、それは間違いなく明確な教育費の出費となり、非課税です。
この場合、祖父名義の専用口座(孫の教育資金として使用する金額)を作って、この口座から全て孫の学校へ支払うと、教育資金として明確となります。
●結婚資金・子育て資金贈与の特例
結婚した子供の結婚資金・子育て資金の一括贈与の特例の場合、結婚する前と結婚後に別れています。
結婚資金の場合は、結婚式に関する費用と新居に関する費用・引っ越しまでの費用として300万円まで非課税です。
結婚後の妊娠・出産の費用、生まれた乳幼児の医療費と保育所・幼稚園にかかる費用としてなら1000万円まで非課税です。
贈与の用途によって、課税対象金額の非課税の枠が異なりますので気をつけましょう。
●不動産の生前贈与
不動産には、贈与税以外にもさまざまな税金がかかります。
例えば、不動産の取得には、登記の異動が必要です。
そのためには、登録免許税・不動産取得税、その他司法書士や土地家屋調査士の手数料がかかります。
ちなみに、登録免許税は土地・不動産の評価額の2%、不動産取得税は評価額の3%です。
この登録免許税は相続時には0.4%、不動産取得税はゼロです。
ですから、司法書士や土地家屋調査士の手数料は同じようにかかるとしても、総合的にどちらがお得かを十分に吟味する必要があります。
贈与契約書の作成をする
また、将来被相続人になる親が、将来相続人になる子供に土地を贈与したつもりになっていたとしても、子供にその認識がなく、登記の書き換えがなされなかったら、不動産の生前贈与は成立していないのです。
その不動産の管理を全て子供に任せたとしても、子供に生前贈与された認識が無く、手伝っていただけだったとしたら、それは生前贈与が成立したとはいえないのです。
不動産の場合は、登記の異動が必要となります。
しかし、登記の名義変更が行われて、登記の異動があったとしても、子供が知らないうちに親が手続きをして、登録税等固定資産税等も全て支払い、子供に一切の認識がなければ、贈与の実態が無く、親が死亡したときに子供に相続税が発生します。
贈与は、契約なのです。
そのため、相続の時に問題にならないように、はっきりと生前贈与契約書を結び、お互いの意思確認をしておくのがお勧めです。
生前贈与の場合は、相続問題にならないよう、生前贈与をした証拠として契約書を遺しておくことをお勧めします。
贈与する期間に注意する
教育資金の贈与は30歳まで、教育・子育て資金の一括贈与は50歳までで使い切ってしまわないと、貯金として残った金額には贈与税がかかってしまいます。
贈与者が生前贈与をして、3年以内に死亡すると、生前贈与された財産は、相続財産に遡求されてしまいます。
銀行口座を利用する
これらの生前贈与の非課税分の財産は、受託者名義の金融機関の口座で管理することをお勧めします。
出金したお金の使い道のわかる領収証を記入機関に提出して、使用目的を明確にすることで、明確な税金対策になります。
ここで、定期預金にしないように注意しましょう。
例えば、受託者の名義の口座に、1,100万円を10口の10年定期にして毎年110万ずつ崩して支給している場合、一括贈与とみなされ、非課税の暦年贈与とみなされない場合があります。
そのため、面倒でも、贈与者の口座から授与者の口座に、毎年振り込む形にしておく必要があります。
贈与者が贈与者の名義で専用口座を解説し、それを記入期間に信託して、1,100万円を10口定期にして、110万円ずつ受託者に振り込むことは、明確な生前贈与の暦年贈与となります。
まとめ
いかがでしたか。
生前贈与は、遺言を遺さなくても、贈与税の非課税枠の中でなら、好きな人に好きなだけ財産が残せる制度です。
仲の良い家族が、親の死亡をきっかけに相続トラブルで、泥沼の戦いをする事になってしまうこともあるのです。
遺言書を残しても遺留分がありますので、思い通りに財産を相続させられるとは限りません。
自分が亡き後、遺言内容によっては、相続トラブルの元凶となるかもしれないのです。
そんな悲しいことにならないよう、しかも、相続税で子供達を苦しめることの無いよう、生前贈与の知識を正しく持って、愛する子供や孫達に上手に生前贈与制度を活用しましょう。
どちらが得か迷ったときは、税理士や税務署に相談に行くことをお勧めします。