2019年2月6日 水曜日
今からしておきたい3つの相続対策
いわゆる相続対策と総称されるものは、きわめて多種多様です。
しかし、その基本はきわめてシンプルであり、「遺産分割対策」「相続税の節税対策」「納税資金対策」の3つに集約されると言っても過言ではありません。
本記事では、総論として基本の上記3つ、および各論である具体的な相続対策についてもご紹介します。
目次
相続とは
民法第882条では「相続は、死亡によって開始する」と規定されており、同じく民法第896条では「相続人は、相続開始の時から、被相続人(亡くなった人)の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りではない」とあります。
このことから、相続とは被相続人が亡くなったとき、相続人が被相続人の財産を引き継ぐことと定義されます。
あなたが先代から引き継ぎ大切に守ってきた財産、一代でこれまで築き上げてきた財産はいずれご親族など相続人の方々に引き継がれていくのです。
しかしながら、相続とは単純に財産を相続人に引き継げばよいというものではありません。
被相続人による無作為な相続は、その過程において相続人に各種のトラブルが付き物なのです。
大切な財産を相続人の方々にトラブル無く円滑に引き継ぐためには、ご自身の財産や相続人の状況に応じた適切な相続対策をしっかりと行うことが大切です。
遺産分割対策をする
円満な遺産分割にする方法
遺産分割とは、「どの財産を」「誰に」「どのくらい」相続するのかを決め、その通りに遺産を分け被相続人から名義等を変更することです。
遺産分割の方法は、大きく分けて3通りが考えられます。
- 被相続人が生前に遺言などで相続人や遺産分割割合などを定めておく方法
- 被相続人の死後、相続人の間で話し合って決める方法(遺産分割協議)
- 家庭裁判所による遺産分割調停または遺産分割審判で決める方法
財産を遺す身である被相続人としては、遺された親族間が調停や審判の場で争う上記(3)のような事態は避けたいことでしょう。
どんなに仲の良い親族であっても、上記(2)のような遺産分割協議という互いの利害が相反し合う場になると、これまでの良好な関係が壊れ、修復不可能なほどに争うことになって、結果として上記(3)のような好ましくない事態に陥ってしまうことが往々にしてあるのです。
したがって、上記(1)のように生前に遺言を書き被相続人の意思として相続人や遺産分割割合などを指定しておくことが、相続人間のトラブルを防ぐうえで最も有効な方法と考えられます。
遺言は相続割合や分割方法の指定について、強い法的拘束力を持ちます。
遺言の内容を実現することを託す遺言執行者を指定することも可能です。
また、遺言による被相続人の遺志であればそれに対して意義を唱える相続人は少ないと言われています。
仮に一部の相続人が遺言の内容に反対したとしても、遺言書は先述した法律に裏付けられた効力があることから、基本的に遺言を作成した被相続人の意向通りに遺産分割を行うことが可能なのです。
なお、遺言を書く際は必ず法定相続人の「遺留分」を侵害しないような分割割合とすることに注意してください。
法定相続人とは、民法で定められた被相続人の相続人となることができる相続人のことであり、被相続人の配偶者(内縁関係や愛人関係を除く)・子または孫・親・祖父母・兄弟姉妹が該当します。
法定相続人の原則的な遺産の取り分として「法定相続割合」が定められており、さらに最低限の取り分として定められた相続割合を遺留分といいます(ただし、兄弟姉妹には遺留分は認められていません)。
各相続人の遺産の分割割合について、この遺留分を下回るような指定をした遺言はただちに無効になるわけではありませんが、遺留分を侵害された相続人は侵害した他の相続人に対して「遺留分侵害請求(改正民法の施行後は遺留分侵害額請求)」をすることが認められています。
もし遺留分侵害請求を行っても相手方が応じない場合は、家庭裁判所で遺留分減殺調停、調停が不調の場合は遺留分減殺請求訴訟を提起することになります。
せっかく相続人が遺産の分割割合をめぐってトラブルにならないようにと願って遺言を遺したとしても、指定した分割割合が法的要件を満たしていないことで上記(3)と同じような状態で揉める結果になってしまうことがあるのです。
遺産分割は不動産がポイント
仮に残す財産が預貯金や上場株式、投資信託などの金融商品のみであれば、分割割合さえ決まれば相続発生後の分割は容易です。
預貯金であれば客観的な数字で分割できますし、金融商品も客観的な時価があるうえに直ちに売却して現金化することも可能です。
しかし、遺産のうち多くの割合を占めることも多い不動産については、そうではありません。
不動産は預貯金と異なり所在地や土地の形状、収益性などの個別性が強いという特徴を持ちます。
例えば、一つの土地を同じ面積で平等に分けようとしても、角地とそうでない土地では同じ面積でも前者のほうが資産価値は高くなりますし、さらに隣地の状況や接面する道路の状況などについても不動産の価値に影響を及ぼします。
また、もともと狭い土地や接面する道路の状況次第では、分割することによって建物の建築すらできず分割後は売却することすら不可能となり、資産価値が事実上無くなってしまうことも想定されます。
このように、不動産は分割することが非常に難しい資産なのです。
だからといって、不動産を相続人間で「共有」する形で相続させることは最も避けるべきです。
相続人が他の相続人と不動産を共有する形で相続することは、相続人とって以下のデメリットがあります。
- 売却・建物の建て替え・担保提供・相続税の物納など、何を行う場合でも共有者の合意が必要となり、共有者は単独では何もできなくなること
- 相続人が死亡して代替わりが進むとネズミ算のように共有者が増える可能性があり、年数を経るに従って権利関係が一層複雑になること
親族間と言えど、不動産を共有で引き継いだために後々に相続人同士のトラブルの要因となり、悩むことになる方は多いのです。
したがって、保有する不動産を相続人間で公平な価値に分割することが難しいと判断できる場合、相続をめぐる親族間のトラブルを避けるための対策には以下が考えられます。
- 特定の親族のみ相続することが現実的な場合は、他の相続人の遺留分を侵害しないように代償分割(不動産を相続しない他の相続人の不平等分を金銭の支払いで解決すること)を行うための資金を確保しておくこと。
- 上記(1)が難しい場合は、生前に売却して現金化しておくこと。もし相続税対策を考慮するならば、売却した資金で相続人と同数分かつ個々の価額が同等の区分所有マンションなどに買い換えておくこと。
このように不動産については、ご所有の不動産の規模、相続人の人数や状況などに応じて、多種多様な対策が考えられるのです。
相続税の節税対策
相続税は、財産を相続したら誰でも払わなければならないというものではありません。
相続財産総額が、「3,000万円+法定相続人の人数×600万円」の基礎控除額、これに加えて被相続人の配偶者であれば1億6,000万円の配偶者控除額の範囲に収まる場合は、相続税は課税されないのです。
基礎控除や配偶者控除の範囲に収まらなかった相続財産に対しては、相続税が課税されます。
時代を問わず、相続税の支払いは相続人にとって頭の痛い問題です。
しかし、被相続人が生前に適正な相続税対策を行っておくことで、相続税の負担をある程度軽減させることが可能です。
以下で、相続税対策の代表的な例をご紹介します。
収益物件の活用
収益物件とは、賃料収入を得ることを目的に所有する一棟あるいは区分所有のマンションやアパート、商業ビルのことです。
手元にある現預金で収益物件を購入することで安定的な賃料収入を得られることと建物の減価償却が損金に算入できることから、相続発生時の相続税納税資金の蓄積になります。
さらに、一般的に不動産の相続税評価額は時価(実際の取引価額)に比べて低く算出されることから、相続発生時に評価額減が採用されない預貯金や株式などの金融商品を保有していた場合よりも相続税評価額が低くなるため、そのぶん相続税額も安くなるのです。
さらに他人に賃貸している収益物件であれば、自宅など自己使用の不動産や貸駐車場と比べてさらに相続税評価額が低くなります。
土地の形状や所在地、建物の構造や築年数など不動産の個別性にもよりますが、三大都市圏の土地は概ね時価の3割程度、建物は概ね時価の6割程度低くなるものと考えられます。
ただし、収益物件を保有することは思うように賃料収入を得られないリスク、経済環境や周辺環境の変化により収益物件の価値そのものが減価してしまうリスクがあることを忘れないようにしてください。
生命保険の活用
被保険者つまり被相続人を契約者かつ被保険者、相続人を受取人とする生命保険の死亡保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。
ただし、相続人が受け取る死亡保険金には非課税枠として「法定相続人の数×500万円」の適用が認められています。
このため、現預金よりも生命保険の死亡保険金のほうが相続税は安くなります。
さらに死亡保険金の総額が上記非課税枠の範囲内であれば、相続人が受け取る死亡保険金に対して相続税は課税されないのです。
また、生命保険の死亡保険金は受取人固有の財産とされており、遺産分割協議の対象外です。
このため、先述の代償分割などのために特定の相続人に対して現金を多く残したい場合は、その人を死亡保険金の受取人とした生命保険を契約しておくことをおすすめします。
他の相続人が遺産分割協議の場で不服を唱えようと、生前の意向通り、その人に実質的に現金を相続させることができるのです。
生前贈与の活用
生前に財産を次の世代に贈与、つまり無償で譲っておくことも有効な相続税対策のひとつであり、これを「生前贈与」といいます。
相続税は亡くなった時点における財産の額に比例して高くなるため、亡くなる前に自身の財産を相続人に贈与して死亡時点での財産額から切り離すことにより、そのぶん相続税を安くすることができるのです。
ただし、贈与を受けると、その人には贈与税が課税されます。
そうなると、被相続人の生前に支払う贈与税、相続発生後に支払う相続税の違いだけであり、贈与を受けたり財産を相続すれば、いずれにしても税金は支払わなければならないというようにお考えになると思います。
確かにそのとおりですが、生前贈与には先述した相続税の基礎控除や配偶者控除とは異なる各種の控除制度が設けられています。
なお、贈与税は相続税と比較すると低い財産額から課税されます。
したがって、生前贈与を検討する際は、相続が発生して単純に相続した場合に納付すべき相続税の税率と贈与税の税率を慎重に比較してください。
そして、生前贈与による受贈者の贈与税負担が、相続発生時における相続税負担よりも少なくなるような配慮が必要です。
それでは、以下で生前贈与の具体例を一部ご紹介しましょう。
- 暦年贈与
その年の1月1日から年末に受けた贈与の合計額が110万円に満たない場合は、贈与税は課税されず申告も不要です。
ただし、この特例を用いてコンスタントに毎年110万円ずつ贈与を続け、仮にそれが10年間続いたとしたら、税務署は「連年贈与」として最初から合計1,100万円贈与する意図があったとみなされ、10年分を合計した1,100万円に対して贈与税が課税されてしまうことがありますので、注意してください。
- 住宅取得等資金の贈与税の非課税特例
親や祖父母など直系尊属が子や孫に対して、居住用家屋の建築または購入の資金を贈与すると、契約日や住宅の種類などの条件に応じて一定の贈与額に対し贈与税の非課税が認められています。
この制度は、年間110万円以下の基礎控除が併用可能です。
- 配偶者贈与の特例
婚姻期間が20年以上など、一定の条件を満たす配偶者から居住用不動産または居住用不動産を購入するために資金の贈与を受けると、贈与税の課税価格から最大2,000万円までの控除が適用される制度です。
この特例についても、年間110万円の基礎控除と併用することが可能です。
なお、居住用不動産取得にかかる登録免許税や不動産取得税は課税されますので、この点にご注意ください。
納税資金準備をする
相続税が課されても相続人の手元資金で支払うことができればよいのですが、必ずしもそうなるとは限りません。
相続対策を検討する際は、相続税の納税資金についても視野に入れる必要があります。
まずは現時点で保有している財産の種類や金額を詳細に把握するとともに、税理士などの専門家に相談しながら相続が発生した際の相続税の概算額を計算してみましょう。
その際は、ご本人の相続である1次相続だけではなく配偶者が亡くなった際の相続である2次相続についても考慮に入れてください。
そして、算出された相続税概算額について納税資金が保有する金融資産から捻出できるか、慎重に確認します。
もし納税資金が捻出できないと見込まれる場合は、不動産などの有形資産を生前に売却して生命保険などに切り替え、納税資金を確保しておくことを検討する必要があります。
特に不動産は流動性が低く、上場株式や投資信託などの金融商品と異なり流動性が低く売りたいときにすぐ売れるわけではない資産です。
不動産市況などを考慮しながら、相続発生後は遺族にとって不要と考えられる不動産は、思い切って生前に売却しておくことを視野に入れておきましょう。
まとめ
相続対策で最も重要なのは、あなたが亡くなった後に相続人となるご遺族が何も争いごともなく円満に遺産を分けることにしておくことであり、これがご遺族に対する最大の思いやりでもあります。
ご遺族の穏やかな相続のために、あなたが適切な相続対策を取っていただくことを願ってやみません。