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【相続の基礎知識 】
相続について基礎知識を説明しています。相続とは、相続の手続き、生前にできる相続対策など、相続について知っておくべき情報をまとめています。

2019年2月6日 水曜日

生前贈与に必要な贈与契約書とは?

贈与契約書は、生前贈与において欠かすことのできない重要な書類です

養子縁組や不動産の有効利用と並んで活用されている相続税対策が、亡くなる前に財産を子や孫などの次世代に移転する「生前贈与」です。

生前贈与は相続税対策として非常に有効ですが、誤った理解による要件不備などにより贈与を行ったため、相続が発生してから税務署に課税されてしまう等、好ましくない事態の発生は後を絶ちません。

そこで、本記事では生前贈与の概要と具体例、さらには相続発生時のトラブルを防ぐための贈与契約書の必要性について、ご紹介していきます。

生前贈与とは

亡くなった人から財産を相続すると、各種控除はあるものの、初めての人にとっては額の相続税が課税されます。

相続税は大きな負担であるため、なかには相続税を支払うために、先祖代々受け継いできた土地を、泣く泣く売却せざるを得ない人もいるのです。

自身が亡くなったあと、相続した人の負担を考えて相続税を安くするために様々な対策を講じることは一般的で、その中でも最もポピュラーな相続税対策のひとつとして広く知られているものが生前贈与です。

生前贈与とは、「自身が亡くなる前に、財産を無償で相続人に贈る」ことであり、「生前相続」と呼ばれることもあります。

相続税は亡くなった時点での財産の額に比例して高くなることから、亡くなる前に自身の財産を相続人に贈与して死亡時点での財産額から切り離すことで、その分相続税も低くするということです。

ただ、詳細は後述しますが、財産を贈与すると贈与を受けた人(受贈者)に対して贈与税が課税されます

そのため、財産を受け取る人にとっては、被相続人(亡くなった人)の死亡後に受け取れば相続税、生前に受け取れば贈与税が課税されるので、どちらにしても税金は支払わなければなりません。

しかし、経済活性化のために「高齢者に偏在している富を将来世代に分配したい」と考える国の方針のもと、生前贈与については各種の優遇制度が設けられています。

その具体例をご紹介しましょう。

  • 配偶者贈与の特例

婚姻期間が20年以上など一定の条件を満たす配偶者から、居住用不動産または居住用不動産を購入するために資金の贈与を受けた場合、贈与税の課税価格から最大2,000万円までの控除を受けることができる制度です。

別の言い方をすると、贈与を受けた額が2,000万円までなら贈与税は課税されないのです。

この特例は後述する贈与税の基礎控除である年間110万円と併用することも可能です。

なお、居住用不動産取得にかかる登録免許税や不動産取得税は課税されますので、この点にご注意ください。

  • 住宅取得等資金の贈与税の非課税特例

贈与を受ける人が居住用家屋建築ないし購入の契約を締結し、それに対する資金を直系尊属が贈与すると、契約日や住宅の種類などの条件に応じて一定額の贈与に対し贈与税非課税が認められている制度です。

この制度についても年間110万円以下の基礎控除が併用可能です。

2019年から消費税率10パーセントへの引き上げが予定されていますが、これが適用されたあとの非課税限度額は以下の通りです。

住宅の種類

契約締結日

省エネルギー対応等住宅

左記以外の住宅

2019年4月から2020年3月

3,000万円

2,500万円

2020年4月から2021年3月

1,500万円

1,000万円

2021年4月から2021年12月

1,200万円

700万円

ここでいう省エネルギー対応等の基準とは、以下のとおりです。

  • 断熱等性能等級4もしくは一次エネルギー消費量等級4以上
  • 構造躯体の倒壊防止2以上もしくは免震建築物であること、または専用部分が高齢者等配慮対策等級3以上

この他に、本特例は以下のような細かい適用要件があります。

  • 住宅については国内にあって登記簿謄本上の床面積に対する居住専用部分は2分の1以上であること、総面積は50平方メートル以上240平方メートル以下であること。
  • 贈与を受けた年の翌年3月15日までに当該家屋に居住すること。または同年12月31日までに居住することが確実と見込まれること。
  • 受贈者は贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上であること。
  • 贈与を受けた年の受贈者の合計所得金額が2,000万円以下であること。
  • 孫への贈与

相続財産が孫世代に渡るまでは、まず親から子への相続が発生し、そのあと子の相続が発生してからとなります。

つまり、相続税の課税は2回発生することから現時点で孫に贈与を行っておけば、相続税課税は1回で済ませることができます。

また、後述する年間110万円の贈与税非課税は相続開始3年以内の贈与については適用されず相続税が課税されてしまいますが、孫が相続人では無い場合は適用されません。

このように、孫への生前贈与は相続対策としても有効なのです。

そして、孫への生前贈与を後押しするように、「教育資金贈与非課税制度」というものがあります。

この制度は2019年3月末までに30歳未満の孫(または子)に対して教育資金を贈与すると、1人につき1,500万円までの贈与に対する贈与税が非課税となる制度です。

つまり、子や孫の数が多ければ多いほど本制度の恩恵が受けられます。

ただし、学習塾や習い事など学校等以外へ支払う分については非課税枠は500万円までなど、贈与を受けた資金の用途について細かい規定がありますので、ご注意ください。

生前贈与の注意点

現時点の諸制度・法律において、贈与税は相続税と比較すると低い財産額から課税されます。

このため、子や孫への生前贈与を検討する際は相続が発生して単純に相続した場合に納付すべき相続税の税率と贈与税の税率を慎重に比較しておくことが重要です。

なぜなら、贈与税よりも相続税のほうが税率が低い場合は、結果として税金を払いすぎてしまったということも有り得るからです。

生前贈与による受贈者の贈与税負担が、相続発生時における相続税負担よりも少なくなるような配慮が必要です。

贈与の方法として、「連年贈与」に注意してください。

連年贈与とは、年間110万円までの贈与税非課税枠を活用して、毎年110万円ずつ贈与するものです。

例えばこれが10年間続いた場合、税務署は最初から合計1,100万円贈与する意図があったとみなし、1,100万円に対して贈与税が課税されてしまうことがあるのです。

また、子や孫の名義で預金する「名義預金」は控えたほうがよいでしょう。

相続発生時の税務調査でもっとも指摘されやすいのが、この名義預金です

贈与契約書について

贈与契約書が必要な理由

贈与とは、財産を渡す人・もらう人の間で取り交わされる契約のもとに成り立っています。

たとえ親族間で行うものであっても、契約である以上その内容を書面にて残しておくことは重要です。

この贈与契約書を残しておくことにより、他の相続人から財産を不当に取得したなどの疑いを防ぐことになります。

贈与契約書を作成しておくことの重要性は、親族間のトラブルを防ぐためだけのものではありません。

生前贈与は、相続税対策として有効である反面、相続発生時に思いもよらないトラブルを受贈者や相続人にもたらすことがあります。

その原因のひとつが、相続が発生してから税務署により行われる税務調査です。

たとえ制度・法律にしたがって贈与を受けていたと思っていても、それが証明できなければ贈与ではなく悪質な課税逃れと認定され、追加の贈与税や延滞税などが課されてしまうこともありえるのです。

このような事態を防ぐためには贈与を受けた際に客観的な記録を残しておくことであり、そのために最も有効な手段のひとつが「贈与契約書」なのです。

贈与契約書の作成は、先述した連年贈与の疑いをかけられることを防ぐ手段としても有効です。

贈与を受ける都度、贈与契約書を作成しておくことで「当該贈与は単体で行っているものであり、決して連年贈与ではない」ということの疎明資料にもなります。

贈与契約書の書き方

贈与契約書には特に定められた書式は無く、公証人の認証なども不要です。

ただし、実際の当事者により作成されたものということが後日でもわかるように、日付や署名は自筆、印鑑は実印を用いておくとよいでしょう

作成時の注意点

作成時は、事情を知らない第三者が後日見ても内容が分かるように、「誰に」「いつ」「何を」「どのような条件で」「どうような方法で贈与するのか」をしっかりと明記しておきましょう。

大事なことは、贈与契約書に「客観性」を持たせることです。

また、不動産を贈与する際は必ず登記簿謄本を取得し、贈与契約書にはその記載通りに明記しましょう。

不動産は現預金と異なり、個別性が強く所在地が確定しているので、贈与する資産を客観的な資料である登記簿謄本の記載に紐付けておくことは、非常に有効な手段なのです。

贈与税について

贈与税とは、個人が財産の贈与を受けた場合に受け取った人に対して課される税金(国税)です。

親族からお金や不動産の贈与を受けた場合のほかに、債務免除など経済的利益を受けた場合でも贈与税が課税されます。

暦年課税

贈与税は基本的に、「暦年課税」という方式で課税されます

これは「1年間に受けた贈与の合計額が110万円に満たない場合は、贈与税は課税されず申告も不要」というものです。

暦年課税の場合は課税対象が親や祖父母など直系尊属から受けた贈与財産を「特例贈与財産」、それ以外の贈与財産を「一般財産」に分類し、それぞれから基礎控除額110万円および贈与財産額に応じた控除額を差引いて得た額に、贈与財産に応じた税率を乗じて計算します。

具体的なマトリックスは、以下のとおりです。

  • 特例贈与財産用

基礎控除後の課税価格

控除額

税率

200万円以下

無し

10パーセント

400万円以下

10万円

15パーセント

600万円以下

30万円

20パーセント

1000万円以下

90万円

30パーセント

1500万円以下

190万円

40パーセント

3000万円以下

265万円

45パーセント

4500万円以下

415万円

50パーセント

4500万円超

640万円

55パーセント

  • 一般贈与財産用

基礎控除後の課税価格

控除額

税率

200万円以下

無し

10パーセント

300万円以下

10万円

15パーセント

400万円以下

25万円

20パーセント

600万円以下

65万円

30パーセント

1000万円以下

125万円

40パーセント

1500万円以下

175万円

45パーセント

3000万円以下

250万円

50パーセント

3000万円超

400万円

55パーセント

なお、相続発生3年前に被相続人から受けた贈与については、その年の贈与を受けた額が110万円以下であっても全額が相続税の課税対象となりますので、この点にご注意ください。

相続時精算課税制度

贈与税の課税は暦年課税方式のほかに「相続時精算課税」という方式もあり、贈与を受ける際はどちらか一つの方式を選択することになります。

これは、その年の1月1日時点において65歳以上の親から20歳以上の子どもに財産を贈与する場合、最大2,500万円の贈与について贈与税を非課税とするものです。

2,500万円を超えた部分については一律20パーセントの贈与税が課税されます。

相続時精算課税は一見お得な制度に見えますが、下記のようなデメリットがあります。

  • 相続が発生した場合は当該贈与資産に対する相続税を支払わなければならない
  • 相続発生時に贈与を受けた資産の価額が下落していた場合は、結果的に高い税金を支払わなければならない
  • 一度相続時精算課税を選択すると暦年課税に戻すことはできない

したがって、贈与を受ける際は暦年課税とするか、相続時精算課税とするか、慎重な判断が求められます。

まとめ

以上、生前贈与の有効性と注意点、そして贈与契約書についてまとめました。

生前贈与は贈与時に税務署などの目が行き届きにくいこともあり、もし不備があった場合は相続発生時の税務調査で指摘され、追加の課税など思いもよらない結果になることがあります。

このような事態を防ぐためには、贈与を行う際に贈与契約書を作成して後日に必要となる客観性を確保しておくことはもちろん、税理士などの専門家と相談しながら適切に進めることが重要なのです。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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