2019年2月6日 水曜日
相続をする際に知っておくべき基礎知識を徹底解説
本記事は、相続のことを何も知らない方が相続の基礎知識をストレス無く理解していただけることを目的しています。
相続は多くの人が経験をする出来事ですが、その制度の複雑さと難解な専門用語の多さから、生前に知識を身に着けることは敬遠されがちです。
しかし、相続の基礎知識を事前に知っておくことは、実際の相続手続きを進めるうえで非常に有用です。
本記事では、難しい相続について徹底的に噛み砕いて書いてあります。
ぜひご一読のうえ、相続の「予習」をして頂ければと思います。
目次
相続とは
相続とは、被相続人(亡くなった人のこと)が死亡または失踪宣告・認定死亡を受け、被相続人が所有していた財産や権利義務を、被相続人の配偶者や子どもなどの特定の人が引き継ぐ制度のことです。
遺言によって財産を受け取る「遺贈」や、受贈者に対して財産を残す契約を、生前に贈与者・受贈者間で締結したうえで財産を受け取る「死因贈与」についても、相続の定義に入ります。
相続は、民法や相続税法などの各種法律や制度により規定されています。
この規定に基づいて、被相続人から財産を引き継ぐ相続人は、遺産分割、相続税の申告・納付などの一連の手続きを行わなくてはなりません。
法定相続割合
民法では、被相続人の相続人となる「法定相続人」を定めています。
この被相続人の範囲は、被相続人の配偶者(内縁関係や愛人関係を除く)・子(養子を含む)または孫・親・兄弟姉妹であり、左記の順で優先付けがなされています。
また民法の規定において法定相続人と認められるのは、血の繋がりがある直系の家族である「血族」です。
このため、義理の親や義理の兄弟姉妹などとよばれる人たちは法定相続人に該当しません。
また、法定相続人の遺産の取り分については「法定相続割合」が定められています。
具体例は以下の通りです。
- 相続人が配偶者と子どもが相続人の場合
→配偶者が2分の1、子ども(複数以上の場合は合計で)が2分の1
- 相続人が配偶者と直系尊属(親や祖父母)が相続人の場合
→配偶者が3分の2、直系尊属(複数以上の場合は合計で)が3分の1
- 配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合
→配偶者が4分の3、兄弟姉妹(複数以上の場合は合計で)4分の1
この法定相続割合は、あくまで原則論です。
遺言で法定相続割合と異なる分割割合が指定されていたり、遺産分割協議で相続人間が納得すれば、法定相続割合とは異なる割合で分割することが出来ます。
また、相続人の意向次第では何も相続しない「相続放棄」も可能です。
また、民法では被相続人による遺言やその他の状況によらず、法定相続人が最低限の財産を相続する権利として「遺留分」を定めています。
遺留分の割合は、全相続財産のうち直系尊属のみが法定相続人になる場合には3分の1、それ以外の場合は各相続人の2分の1です。
つまり、上記(1)の例では配偶者に対して少なくとも4分の1の遺留分が認められています。
ただし、被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められていませんのでご注意ください。
他の相続人の不適切な遺産分割や遺言などにより遺留分を侵害された法定相続人は、遺言や死因贈与契約の内容に関係なく遺留分を侵害した人に対して、侵害された遺留分相当の支払いを請求する「遺留分減殺請求(改正民法の施行後は遺留分侵害額請求)」を行うことができます。
遺留分侵害請求を行っても相手方が応じない場合は、次策として家庭裁判所で遺留分減殺調停、調停が不調の場合は遺留分減殺請求訴訟を提起することになります。
調停または訴訟によって和解、もしくは判決が確定したのにも関わらず相手方が遺留分侵害相当額の支払いに応じない場合は、最後の手段として民事執行を行うことになります。
なお、被相続人の相続が発生したことを知ってから1年を経過すると遺留分減殺請求は認められませんので、この点にご注意ください。
相続財産
相続財産とは、相続人が被相続人から引き継ぐ被相続人が残した財産のことです。
相続対象となる財産には、預貯金や不動産のようなプラスの財産だけではなく借金や未払金などのようなマイナスの財産も含まれます。
詳細は後述しますが、財産を相続する以上は相続財産に対して課税される相続税の申告・納付の義務を負います。
ただし、相続財産は相続税が課税される財産と課税されない財産があります。
具体例は以下のとおりです。
▼相続税が課税される財産
- 土地、借地権、地上権、家屋などの不動産
- 預貯金、有価証券などの金融資産
- 絵画、高級家具、立木などの家庭用財産
- 事業用、農業用の財産
- 生命保険金や死亡退職金などのみなし相続財産
- 相続時精算課税制度の適用により被相続人から贈与を受けた財産
- 被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産
- その他、ゴルフ会員権や債権など
▼相続税が課税されない財産
- 墓地、墓石、仏具、仏像、仏壇などの祭祀財産
- 心身障害者救済制度に基づく給付金の受給権
- 相続税の申告期限までに、特定公益信託の信託財産とするために支出した金銭
- 相続税の申告期限までに、国や地方公共団体、特定の公益法人などへ寄付した財産
- 公共事業を行う人が相続し、引き続き公益事業のために使用することが確実と認められる財産
借金や未払金がある場合は?
もし被相続人の相続財産もプラスとマイナス両方の財産があった場合、プラスの財産だけ相続して、マイナスの財産は相続したくないと考えるかもしれません。
しかしながら、現行の相続税法では預貯金や不動産などプラスの財産を相続する人は、借金や未払金などマイナスの財産についても相続することが原則となっており、プラスの財産だけを相続することは認めていません。
どうしてもマイナスの財産を引き継ぎたくない人は、「限定承認」または「相続放棄」の手続きをとる必要があります。
限定承認とは、相続するプラスの財産の範囲内で被相続人のマイナスの財産についても相続することです。
これに対して相続放棄とは、相続人が相続財産に対して有する権利や義務の一切を放棄し「何も相続しない」とすることです。
相続放棄により、プラスの財産よりマイナスの財産が多くても相続することを放棄したわけですから、被相続人に代わって債権者に支払う義務は負わなくなるのです。
もし相続放棄を選択する場合は、被相続人が亡くなったことを知ってから必ず3ヶ月以内に、被相続人が最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所へ、相続放棄をする旨を申し出てください。
注意して頂きたいのは、例えば被相続人に配偶者がおらず、被相続人の子ども全員が相続放棄した場合、その後順位者とされる兄弟姉妹や被相続人の両親などが相続人となってしまうことです。
つまり、負債も相続してしまうことにもなりますので、該当する人は順次相続放棄する必要があります。
関係性を崩さない為にも、事前に伝えておくことをおすすめします。
この他に、プラスの財産もマイナスの財産も相続する「単純承認」というものがあります。
もし相続発生後3ヶ月以内に後述する限定承認や相続放棄の手続きを行わなかった場合、相続人は単純承認したものとみなされます。
相続税について
相続税とは、相続によって財産を取得した人に課される税金(国税)です。
相続税は、各種法律や制度により財産評価額の算定など計算のルールが細かく定められており、非常に複雑です。
以下では相続税の計算に関するアウトラインをご紹介しますが、実際の計算においては税理士などの専門家と相談しながら進めることをお勧めします。
相続税率
相続税率は以下のとおりです。
別途算出された相続財産評価額に以下の税率を掛けて、右列の金額を控除して得られた額が相続財産となります。
相続総額 |
相続税率 |
控除額 |
1,000万円以下 |
10% |
控除額なし |
3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
1億円以下 |
30% |
700万円 |
2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
6億円以下 |
50% |
4,200万円 |
6億円超 |
55% |
7,200万円 |
計算方法
以下の算式およびステップにより各相続人の課税価格を計算します。
特に(1)で各項目の評価額を誤ると、適正な相続税額そのものが算出されなくなりますので、相続税評価額は慎重に行う必要があります。
(1)相続人それぞれの課税価格
=相続または遺贈により取得した財産の価額
+みなし相続財産の価額
-非課税財産の価額
-被相続人の債務および葬式費用の額
+被相続人から3年以内に贈与を受けた財産の価額
(2)課税価格の合計額
=相続人それぞれの課税価格をすべて足し上げ
(3)課税財産総額
=課税価格の合計額
-基礎控除額(3,000万円+法定相続人の人数×600万円)
(4)各相続人の法定相続割合に応じたそれぞれの取得金額
=課税財産総額
×各相続人の法定相続割合
(5)上記(4)をもとにした税額
=各相続人の法定相続割合に応じたそれぞれの取得金額
×税率
(6)相続税総額
上記(5)で算出された各相続人の法定相続割合に応じた相続税額の合計
(7)各相続人の相続税額
相続税総額×相続人それぞれの課税価格
÷課税価格の合計額
相続手続きの手順
相続人は、相続の発生後10ヶ月以内に相続税の申告、および納付を行わなければならないと民法で決められています。
言い換えると、被相続人が亡くなってから10ヶ月以内にすべての相続手続きを済ませなくてはならないのです。
10ヶ月あっという間であり、想定していた以上に早く相続税申告期限が来てしまうと感じる人は多いものです。
相続手続きの中には、期限が決まっているものもあります。
それを踏まえた相続発生後の一般的な流れとスケジュールは、以下の通りです。
期限が3ヶ月以内の手続き
▼やるべきこと
- 関係先への連絡
- 死亡届の提出
- 遺言書の有無の確認
- 相続人の調査と確認
- 遺産や債務の調査と確定
- 相続の放棄または限定承認を家庭裁判所に提出
▼主な手続きの概要
- 関係先への連絡
相続手続きは、被相続人の親族や友人、取引先などに被相続人の死亡を伝えることから始まります。
その際、被相続人が取引していた銀行など金融機関にも連絡する必要があります。
なお、銀行などの金融機関が口座名義人の死亡の事実を知ると、預金口座は一旦凍結され、相続手続きが完了するまでは、原則すべての取引ができなくなります。
ただし、預貯金の払い戻し請求は、「相続時の預貯金額×3分の1×法定相続分」の範囲で認められることもあります。
- 遺言書の有無の確認
もし遺言書が見つかった場合、それが被相続人の遺言が公正証書によるもの以外、すわなち自筆証書遺言である場合は、開封前に必ず家庭裁判所で「検認」を受けなければなりません。
検認とは、遺言書に「偽造・変造・改ざん」などが無いか家庭裁判所が確認する手続きです。
具体的には、家庭裁判所で相続人等の立会いのうえ、遺言書を開封し、筆跡等の確認をします。
この検認には、家庭裁判所への申立から終了まで約1ヵ月程度要します。
- 相続人の調査と確認
相続人は、配偶者は子供など法定相続人のほかに遺言で定められている人が該当します。
そして、相続人を確定させるためには、被相続人の戸籍謄本と相続人全員の現在の戸籍を証明する戸籍謄本や戸籍全部事項証明書を用意しなければなりません。
戸籍謄本は役所に行って申請すれば全て揃うだろうと簡単に考えてしまうかもしれませんが、実際経験すると、そう簡単にはいかないものです。
なぜなら、相続手続きには故人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍と何種類もの戸籍が必要であり、さらに戸籍は本籍地の役所でしか取得できません。
例えば、戸籍に記載のある本籍地の役所が市町村合併などによって他の役所に合併されている場合、そもそも本籍地の役所はどこかということから調べなくてはならず、申請も現地宛てに行う必要があるのです。
期限が4ヶ月以内の手続き
▼やるべきこと
- 準確定申告
▼主な手続きの概要
準確定申告とは、亡くなった年の被相続人の所得について課税される所得税の申告のことです。
特に、被相続人が複数から所得を得ていた場合、それに比例して源泉徴収票などの書類を徴求する手間がかかります。
期限が10ヶ月以内の手続き
▼やるべきこと
- 遺産分割協議の実施
- 遺産分割協議書の作成
- 遺産の名義変更手続き(分割手続き)
- 相続税の延納または物納の申請
- 相続税の申告・納付
▼主な手続きの概要
- 遺産分割協議
遺産分割協議とは、被相続人の財産を誰が・何を・どの割合で相続するか相続人で話し合って決めることです。
もし、相続人が全員揃っていない状態で遺産分割協議を成立させたとしても、無効となります。
遺産分割協議は各相続人の遺産の取り分を決める話し合いですから、各相続人はそれぞれ利害関係におかれているといっても過言ではありません。
遺産分割協議では、特にトラブルが発生しやすいため、専門家に間に入ってもらうことをおすすめします。
- 相続税の申告・納付
相続人・相続財産・分割割合が確定し、戸籍謄本や残高証明書などの必要書類が揃ったところで、ようやく相続税の申告手続きに入ります。
相続税の申告書は第1表から第15表まであり、第1表以外は計算根拠や明細などを記載するものです。
この申告書を見てみると、「小規模宅地の特例」「相続時精算課税適用財産」「暦年課税分の贈与税額控除額」など、相続を経験したことがない人は初めて聞くような言葉がたくさん出てきます。
これらを理解できていないまま記載を進めてしまうと、後から書類を訂正し、期限内に提出し直さなければならなくなります。
相続財産や自分の財産を守るためにも、相続の基礎知識を身に着けておきましょう。
まとめ
以上、相続の基本についてご説明しました。
これまでご覧頂いたとおり、相続手続きは非常に手間と時間、そして専門知識が必要です。
そして、最善の策はすべて自分で完結しようとすることではなく、税理士や弁護士の専門家の力を借りることです。
多少の費用は発生しますが、これにより実際に相続が発生してもスムーズに諸手続きを進めることが可能になるでしょう。