2019年2月21日 木曜日
相続人がもらう事ができる財産、遺留分とは
本コンテンツでは、遺留分についてご説明します。
遺留分は、遺産の相続について被相続人(亡くなった人)の兄弟姉妹以外の全ての法定相続人に対して保証された権利です。
これを知らないまま相続に臨むことは相続人としての権利を逸することにもなりかねません。
逆にあなたが被相続人のときも、遺言で指定する内容が遺留分を侵害したものになっていたら、遺された遺族の間でトラブルに発展する可能性もありえます。
遺留分については、ぜひ基本的な知識を備えた上で、遺産分割協議への参加や、ご自身の相続に際して遺産分割割合を策定して頂きたいと思います。
目次
遺留分とは
人が死亡すると、相続が発生します。
そして相続の場で問題となりやすいのが、「誰が相続人になるのか」「遺産はどのような割合で分割するのか」という点です。
民法の欠格事項や廃除要件に該当しない限り、被相続人の相続人は基本的に誰でもなることが可能ですが、それでは相続人の地位や相続割合をめぐり収拾がつかない事態も想定されます。
そこで、民法では相続人と相続割合の目安のひとつとして、配偶者(第890条)、子(第887条)、直系尊属(第889条)および兄弟姉妹(889条)を法定相続人と定めており、民法第900条では各法定相続人の遺産の取り分として「法定相続割合」を定めています。
しかし、これはあくまで目安です。
民法はさらに各法定相続人の最低限の取り分を定めており、これを「遺留分」といいます。
被相続人が生前に遺言で指定した相続人および相続割合は、その実現について強い法的拘束力を持ちます。
しかし民法第902条には、「(前略)被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない」にあるとおり、たとえ遺言であろうと遺留分の規定に反する遺産分割割合を指定することはできないのです。
例えば被相続人が、遺産の分割割合について、配偶者や小さい子どもがいるにも拘らず、全く関係の無い第三者などに譲るように遺言で指定していたとします。
これでは、遺された配偶者や子どもは、生活がままならなくなってしまうこともありえます。
そのため、民法は配偶者や子ども、父母や兄弟姉妹など被相続人の収入や財産を頼りに生活している可能性がある人には、遺留分として最低限相続することができる遺産の取り分を保証しているのです。
これが、遺留分の制度が設けられている背景です。
遺留分が認められる人
遺留分が認められる法定相続人を、「遺留分権利者」といいます。
遺留分権利者について、民法第1028条では「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける」と定めています。
つまり、遺留分減殺請求権は「兄弟姉妹以外の(法定)相続人」に対して認められている権利です。
具体的には
・法定相続人の配偶者(内縁関係および愛人を除く)
・子ども(養子を含む)
・孫(代襲相続が発生した場合)
・両親・祖父母(両親からの代襲相続が発生した場合)
が遺留分が認められた相続人です。
ちなみに、遺留分が兄弟姉妹には認められていないということは、その兄弟姉妹の代襲相続人となりうる甥や姪も、遺留分減殺請求権が認められないということになります。
遺留分の計算方法
遺留分の総額と対象となる財産
まず、遺留分の総額の計算方法と、遺留分の対象となる財産の定義を確認しましょう。
民法第1029条第1項には、「遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する」とあります。
これについて詳しくみていきましょう。
遺留分の総額は、
「被相続人の財産(時価)+被相続人から相続開始前1年前に受けた贈与(時価)−被相続人の債務(時価)」
の計算式にて算出されます。
ここでの注意点は、遺留分に含まれる財産の範囲です。
例えば、被相続人が被保険者であり、相続人が保険金を受け取るように設定された生命保険の死亡保険金については、保険金受取人の固有財産とされ、遺留分には原則として含まれません。
また、祖父母が孫のために、1,500万円までの教育資金を信託銀行に預ける「教育資金贈与信託」についても、孫の親・つまり祖父母の子が生きている限り、孫は祖父母の相続人ではないので、これについても遺留分には原則として含まれません。
また、遺留分の算定に際しては、特別受益を考慮する必要があります。
特別受益とは、被相続人の生前に受けた生活資金の援助や住宅などの贈与というような特別な利益の供与のことです。
被相続人から特定の相続人に特別受益がなされている場合、そうではない相続人との間に不公平が生じます。
そのため、他の共同相続人との公平を期すために、遺産の前受け分として特別受益が考慮されます。
民法第903条には、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする」とあります。
この特別受益は、相続財産ひいては遺留分の算定に加算されるものとされています。
仮に被相続人が生前に、「特別受益分は相続財産に考慮する必要は無い(持ち戻し免除)」という意向を示していたとしても、その意向は考慮されません。
※ただし、民法改正で相続開始前10年以内の贈与については持ち戻しが認められる可能性が出ています。
なお、先述した生命保険金の死亡保険金については、当該死亡保険金の相続財産に占める割合次第で特別受益とみなされることがあります。
おなじく教育資金贈与信託についても、孫の親つまり祖父母の子が死亡しており孫が祖父母の代襲相続人となる場合、あるいは孫への教育資金贈与としていても実体的には子への贈与と認定された場合などは、特別受益とみなされる可能性があります。
遺留分割合と計算方法
続いて、遺留分割合の基礎である法定相続割合(兄弟姉妹)と、各相続人の遺留分割合について確認していきましょう。
法定相続割合は以下のとおりです。
(1) 配偶者
・相続人が配偶者のみの場合:全部
・子どもと相続する場合:2分の1
・被相続人の直系尊属と相続する場合:3分の2
・被相続人の兄弟姉妹と相続する場合:4分の3
(2) 子ども(嫡出子を仮定)
・相続人が子どものみの場合:子どもの人数で均分
・被相続人の配偶者と相続する場合:(2×子どもの人数)分の1
(3) 直系尊属
・相続人が直系尊属のみの場合:直系尊属の人数で均分
・被相続人の配偶者と相続する場合:(3×直系尊属の人数)分の1
このときの遺留分割合については、民法第1028条の記載をもとにすると、
・『相続人が配偶者と子ども』『相続人が子どものみ』『相続人が配偶者と直系尊属のいずれか』の場合…被相続人の財産の2分の1
・『相続人が直系尊属のみ』の場合…被相続人の財産の3分の1について、各相続人の法定相続割合に乗じたもの
となります。
この遺留分割合に、前述したの遺留分総額を乗じ、各相続人の遺留分額が算定されます。
遺留分減殺請求を行なう
遺留分減殺請求とは?
自らの遺留分を侵害された相続人は、民法第1031条の規定に基づき、侵害した他の相続人に対して、侵害された財産の返還や金銭など他の財産による補償を請求する権利を持っています。
これを遺留分減殺請求権といいます。
参考:民法第1031条
「遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条(相続開始1年前の贈与の規定)に規定する贈与の減殺を請求することができる」
遺留分減殺請求権は、遺言による遺産相続と被相続人による生前贈与の両方について適用されます。
仮に生前贈与が被相続人によって複数人に行われており、それらが遺留分侵害に該当する場合は、民法第1035条「贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対してする」の規定に従い、被相続人が死亡した日に近い日時に行われた贈与分から、順次減殺していくことになります。
また、仮に遺留分減殺請求を行った時点で侵害した相手が既に減殺の対象となる資産を第三者に譲渡していた場合でも、その権利を行使できます。
参考:民法第1040条第1項
「減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる」
つまり、すでに減殺請求の対象財産が遺留分を侵害した相手によって売却などの形で処分されていた場合でも、遺留分権利者は目的物の処分価額の範囲内で弁償を受ける権利を有するのです。
特に相続財産のうち多くの割合を占める傾向のある不動産を目的物とする場合、侵害した相手は相続税納税資金確保のために早々に相続登記などを行い売却に動くことがあります。
当該不動産について仮に売買契約を締結・決済が終わっていたとしても、本条文を根拠に遺留分を侵害した相手に侵害分相当額を請求することが可能なのです。
なお、本条文は遺留分侵害の原因を「贈与」に限定しているように読めますが、遺贈についても類推適用されることは複数の判例で確認できます(最高裁判昭57.3.4、最高裁判平10.3.10)
遺留分減殺請求のステップ
当事者間で話し合い
一般的に遺留分減殺請求は、裁判所での調停や審判に先立ち、遺留分権利者と侵害者の当事者間で行います。
請求の意思表示の方法については特段の規定がなく、基本的に口頭だけでも効力が生じます。
しかし、後日裁判所での調停や訴訟に至った場合を考慮し、その際の証拠のため内容証明郵便を用いることが望ましいです。
また、話し合いで折り合いがつかない場合、家庭裁判所に遺留分侵害請求を申し立てることが検討の選択肢になります。
調停での申立(遺留分減殺による物件返還調停)
家庭裁判所における遺留分侵害請求の調停を、「遺留分減殺による物件返還調停」といいます。
遺留分減殺請求による物件返還調停は民事事件として扱われ、家事審判と同様に調停前置主義を採用しており、審判の前に必ず調停を行います。
遺留分減殺による物件返還調停は、必要書類を添えたうえで原則として相手方の居住地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
そして調停委員を交えた話し合いを行い、これが整い調停が成立すると強制執行力を持つ調停証書が作成され、当該証書にもとづき相手方から申立人すなわち遺留分権利者に現物返還あるいは価額弁償の履行が為されます。
裁判・訴訟での申立
調停が不調の場合は、続いて遺留分減殺請求の訴訟を提起することになります。
この訴訟は、調停時の家庭裁判所ではなく被相続人が亡くなった際の住所地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所(請求額が140万円以下の場合)に提起します。
審理の結果、和解に至り被告(相手型)の遺留分侵害を認める形で和解調書が作成された場合、または原告(遺留分権利者)の訴えを認める確定判決が下された場合、被告(相手方)には現物返還あるいは価額弁償履行の義務が発生します。
強制執行
相手方の遺留分侵害を認め現物返還あるいは価額弁償を行う旨の調停が成立、あるいは裁判で和解もしくは判決が確定したのにも拘らず、相手方がその義務を履行しない場合は強制執行の申し立てという手段があります。
遺留分減殺請求の期限はあるのか?
遺留分減殺請求権は相続および遺留分の侵害があったことを知ったときから1年、または相続発生後10年を過ぎると時効となり、請求の権利を行使することが認められなくなります。
参考:民法第1042条
「減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする」
まとめ
以上、遺留分の基礎についての説明でした。
遺留分については、
・法定相続人は兄弟姉妹を除き遺留分が認められていること。
・遺留分割合は、法定相続割合で直系尊属は3分の1、兄弟姉妹を除く他の法定相続人は2分の1であること。
・遺留分を侵害された相続人には、遺留分減殺請求を行う権利があること。
・遺留分減殺請求権には期限があること。
上記の4点を押さえた上で、各論についても深く掘り下げていただければと思います。