2019年2月28日 木曜日
相続税を脱税すると大変!重加算税について解説
相続税には、申告期限と納税期限が決められており、この申告期限や納税期限を過ぎてしまうと、さまざまなペナルティを受けることになってしまいます。
ですから、被相続人の財産を相続し、相続税が課税される場合には、きちんと申告し、納税することが大切です。
では、相続税を脱税すると、どんなペナルティを受けなければならないのでしょうか?
また、重加算税とは一体どのようなものなのでしょうか? 重加算税の仕組みや計算方法について、詳しくご紹介いたします。
目次
相続税はしっかり払いましょう
相続税は被相続人の死亡を知り、相続人が財産を相続することを知った翌日から10ヶ月以内に申告しなければいけない決まりになっています。
ですが、必ずしもすべての財産に相続税が発生するわけではありません。
これは相続税には基礎控除と呼ばれる非課税枠があるためです。
相続税は非課税枠を超えた相続財産にのみ課される税金のことを指します。
また、相続税の申告後、納税しなければなりませんが、この納税期限も相続税の申告と同じ期限内であるため、相続税は被相続人の死亡を知り、相続人が財産を相続することを知った翌日から10ヶ月以内に申告し、納税しなければなりません。
相続税率
相続税率は法定相続分に応じた取得金額によって変動があります。
下記は相続税の速算表です。
≪相続税の速算表≫
法定相続分に応ずる取得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
※国税庁ホームページの「No.4155 相続税の税率」の「相続税の税率」より、データを引用し、速算表を再現しています。
※この速算表は、平成27年1月1日以降の場合であり、平成26年12月31日以前に相続を開始した場合の相続税の税率は異なります。
※この速算表は平成30年4月1日現在のものです。
この相続税の速算表には、法定相続分に応ずる所得金額と税率及び控除額が一覧にまとめられているので、相続財産に関わる相続税の控除額とその税率がわかるようになっています。
また、相続税の速算表を見てもわかるように、相続財産の金額が大きくなるにつれて、税率が5%ずつ上がっていくと同時に控除額も高くなります。
ただし、相続税の速算表で記載されている「法定相続分に応ずる所得金額」というのは、基礎控除を引いた分の相続財産の金額となるので、相続した財産にそのまま税率がかけられるというわけではありません。
基礎控除額は「3000万円+法定相続人の数×600万円」の計算式から求めることができます。
また、課税される遺産の総額は、課税価格の合計額-基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の計算式を用いて求めます。
この計算式から算出された課税される遺産の総額が相続税の速算表の「法定相続分に応ずる所得金額」にあたります。
相続税の申告期限
相続税は、被相続人が亡くなり、相続人が被相続人の財産を相続することを知った日の翌日から10ヶ月以内に申告する必要があります。
そのため、10ヶ月以内に相続税の申告に必要な書類をそろえなければなりません。
相続税の申告に必要な書類は多岐に渡りますが、金融機関で発行依頼をして取得する残高証明書及び既経過利息計算書(定期預金の場合のみ)、被相続人の過去の通帳などのコピー、家族全員の過去の通帳などのコピーなどをそろえなければなりません。
相続税の申告期限を守らない場合は、その状況に合わせてさまざまな加算税のペナルティが課されます。
相続税の納税期限
相続税の納税期限は、相続税の申告と同じく、被相続人が亡くなり、相続人が被相続人の財産を相続することを知った日の翌日から10ヶ月以内です。
相続税の納税は、税務署をはじめ、金融機関及び郵便局の窓口でも可能です。
原則として、相続税だけに限らず、税金を納税するときは、一括で納めなければならないことになっていますが、相続税においては、延納という制度と物納という現金で一括で納税する以外の2つの特別な納税方法が存在しています。
延納は本来、一括で納めなければならない相続税を数年に分けて納めることが可能となる制度です。
また、物納は本来現金で納めなければならない相続税を相続した財産そのもので納めることが可能となる制度のことをいいます。
物納は延納をしても金銭での納税が難しい場合やそのほかの理由で金銭での納税が難しい場合に利用することができます。
ただし、延納の対象となる財産は、不動産や船舶、国債証券や地方債証券、上場株式等や非上場株式等、動産や特定登録美術品などがこれに当たります。
これらは申告書の提出期限内に税務署に申請書を提出し、許可を受けなければなりません。
重加算税とは
重加算税とは、加算税のうちの1つです。
加算税には、重加算税をはじめ、過少申告加算税、不納付加算税、無申告加算税の4種類があります。
重加算税は相続税の申告を故意に仮装や隠ぺいしたときに課されるペナルティの加算税であり、過少申告加算税や不納付加算税、無申告加算税の3つの加算税の代わりに課される場合、ケースによって税率が変わるといった特徴があります(詳しくは2.1重加算税の税率をご参照ください)。
重加算税の税率
重加算税の税率は、ケースによって加算される税率が変動します。
大きく分けると重加算税の過少申告加算税の代わりにされるもの、または不納付加算税の代わりに徴収されるものと無申告加算税の代わりに課されるものの2つに分けることができます。
重加算税のうち、過少申告加算税の代わりにされるもの、または不納付加算税の代わりに徴収されるものであった場合……
≪期限申告などがあった日の5年以内に同じ税目に対して、無申告課税または重加算税が課されなかった場合の加算税の割合≫は35%です。
≪期限申告などがあった日の5年以内に同じ税目に対して、無申告課税または重加算税が課された場合の加算税の割合≫は45%です。
重加算税のうち、無申告加算税の代わりに課されるものの場合……
≪期限申告などがあった日の5年以内に同じ税目に対して、無申告課税または重加算税が課されなかった場合の加算税の割合≫は40%です。
≪期限申告などがあった日の5年以内に同じ税目に対して、無申告課税または重加算税が課された場合の加算税の割合≫は50%です。この割合は平成28年度の税制改正及び国税通則法の一部が改正された後、平成29年1月1日以後から適用されています。
このように、重加算税の税率は、どの加算税の代わりに課されるかということや期限申告などがあった日の5年以内に同じ税目に対して何かしらの加算税が課されたか課されなかったかによって異なります。
また、重加算税については、平成28年度の税制改正及び国是通則法の一部が改正されたことにより、以前の税率もよりも高くなっています。
重加算税がかかる条件
国税通則法(重加算税)第68条において、「第65条第1項(過少申告加算税)の規定に該当する場合、納税者が課税標準、または税額などの計算の基礎について、全部または一部を隠ぺいや仮装したとき、重加算税が課税される」(国税通則法(重加算税)第68条から引用)と定められています。
国税通則法(重加算税)第68条からもわかるように、重加算税がかかるには、2つの条件があります。
1つ目の条件は「隠ぺい」であり、2つ目の条件は「仮装」です。
国税における隠ぺいとは「本来取得している相続財産を隠すこと(つまり、相続税が課税されないようにまたは少なく課税されるようにすること)」をいい、また仮装とは「課税される相続財産を少なく誤魔化すこと」をいいます。
実際にあった事例としては、相続を開始した直後に請求人が、被相続人名義の証書式定額郵便貯金の解約をした後、新しく開設した請求人たちの名義の通常郵便貯金口座に預入をしたにも関わらず、新しく別に相続財産を管理するための口座を開設し、被相続人名義の通帳式郵便貯金を解約した金額のみを預入しました。
そして、証書式定額郵便貯金を含まずに、相続税の確定申告をしました。
この行為は事実を「隠ぺい」したことになり、重加算税を課されることになりました。
重加算税がかかった例
前述したほかにも、相続税に重加算税が課せられた事例がありますのでご紹介します。
相続人は、被相続人名義の普通預金口座の存在を知っていて、一旦は税理士に相続税申告の計算をさせました。
しかし、税理士に資料の提示を求められた際には残高証明書を持っていたにもかかわらず、ないと答えてこの預金の存在を明示せずに相続税の申告をしました。
この相続人の行為は「隠ぺい」に当たるとされ、重加算税が課されました。
重加算税がかからなかった例
今度は、重加算税と税務署に指摘されながらも重加算税がかからなかった父親と息子の例を紹介します。
父親が亡くなる2カ月前、父親の口座から300万円の出金がありました。
父親が亡くなり、相続税の申告時に息子にその300万円に行方を確認したところ、父親の通帳なので不明のままでした。
税務調査官が息子に、息子の名義で加入している保険の資料を見せてほしいと言ったところ、息子は税務調査官の調査に協力し資料を見せました。
300万円の出金日とその出金額が一致していたため、息子名義の保険は被相続人である父親が負担しているため、税務調査官に相続財産だと指摘されました。
「隠ぺい」または「仮装」が重加算税を課す条件だと先にお伝えしましたが、判決では重加算税を課していい要件として「過少申告の意図を外部からも、うかがい得る特段の行動をしたと認定されるか否か」が争点になりました。
「外部からも、うかがい得る特段の行動」は、調査への協力拒否や書類の偽造、虚偽の答弁などのことを指します。
この息子は、書類の偽造や虚偽答弁はなく、調査に協力をして資料も提出したので、重加算税は課せられないということになりました。
さらにもう1つ重加算税が課税されなかった事例を紹介します。
被相続人は、生前に自らを共済契約者および被共済者として、農協の建物更生共済契約を締結しました。
被相続人の死後、満期になった共済金を農協の請求人であり相続人でもある人の名義の口座に入金するとともに、継続する共済の共済契約者と被共済者をその相続人に変更する手続きをしました。
しかし相続人は、相続税申告の手続きを頼んだ税理士に共済のことを伝えていなかったため、共済が相続財産に含まれていませんでした。
その後、税務調査が入り、税務調査官が共済の申告漏れを相続人に指摘したところ、相続人が修正申告書を提出しました。
申告漏れは「隠ぺい」行為に当たるとして、重加算税が課されることになりましたが、相続人が重加算税の取り消しを求めました。
判決では税理士が相続人に相続税の申告手続き時に共済について説明をしていなかったことや、満期の共済金を容易に把握できる相続人名義の口座に入金していることなどから、重加算税の課税を免れました。
重加算税の計算例
重加算税を求める場合、下記の計算式を用います。
≪期限申告などがあった日の5年以内に同じ税目に対して、無申告課税または重加算税が課されなかった場合≫
(本来の税額-申告した税額)×35%=重加算税額
≪期限申告などがあった日の5年以内に同じ税目に対して、無申告課税または重加算税が課された場合≫
(本来の税額-申告した税額)×45%=重加算税額
重加算税のうち、無申告加算税の代わりに課されるものの場合……
≪期限申告などがあった日の5年以内に同じ税目に対して、無申告課税または重加算税が課されなかった場合≫
(本来の税額-申告した税額)×40%=重加算税額
≪期限申告などがあった日の5年以内に同じ税目に対して、無申告課税または重加算税が課された場合≫
(本来の税額-申告した税額)×50%=重加算税額
上記の計算式にあてはめて考えると、申告した税額が200,000円で、本来申告するべき税額500,000円だった場合、重加算税額はそれぞれ下記のようになります。
≪期限申告などがあった日の5年以内に同じ税目に対して、無申告課税または重加算税が課されなかった場合≫
(500,000円-200,000円)×35%=875,000円
≪期限申告などがあった日の5年以内に同じ税目に対して、無申告課税または重加算税が課された場合≫
(500,000円-200,000円)×45%=1,125,000円
重加算税のうち、無申告加算税の代わりに課されるものの場合……
≪期限申告などがあった日の5年以内に同じ税目に対して、無申告課税または重加算税が課されなかった場合≫
(500,000円-200,000円)×40%=1,000,000円
≪期限申告などがあった日の5年以内に同じ税目に対して、無申告課税または重加算税が課された場合≫
(500,000円-200,000円)×50%=12,500,000円
このように、重加算税は、本来の税額及び申告した税額、該当する税率がわかれば、計算で求めることができます。
隠ぺいした財産には特例が使えない!
国税庁の通達(19条2-7)に、被相続人の相続税の税務調査に引っ掛かり、配偶者が仮装隠ぺいした財産には、配偶者の税額軽減の特例は受けられないと示されています。
配偶者の税額の軽減は、最大で1億6千万円まで、もしくは法定相続分までは相続財産に相続税を課さないという特例なので、非常にもったいないことになります。
そのため税務調査が入った際には、相続税申告時には相続財産として加えていなかった、新たに見つけられた財産を相続人たちが知らなかったということを証明していく必要があります。
配偶者が受け継ぐ財産でない場合でも、配偶者が仮装・隠ぺいした相続財産があると相続税の「税額軽減」の算出額に影響をおよぼすため注意が必要です。
ちなみに、被相続人が仮装・隠ぺいした財産は、追徴課税のみの対象となります。
重加算税を支払うまで延滞税がかかる!
延滞税は、期限までに支払われるべき相続税を納付していない場合に課されます。
また、期限後に申告内容の修正や更正、決定の処分を受けた際に納めなくてはならない税額が不足していた場合にも、延滞税が発生します。
延滞税の計算は、法で定められた納付期限の翌日から、納付の日までの日割で計算されます。
最初の2カ月間は年利4.3%、それ以降は年利14.6%で、住宅ローンなどを比較すると非常に高い利率です。
どのように延滞税が課されるのか、例を挙げて説明します。
【例:期限内申告・納付をしていたものの、3年後の税務調査で追徴税額が発生した場合】
最初の2カ月間は年利4.3%、それ以降の2年10カ月は年利14.6%と高額な延滞税が発生します。
延滞税は長期間課されると大変高額になる税金ですので、延滞税には特例が設けられています。
延滞税は当初の1年分だけを支払えばいいことになっていて、利率は1年間を通して年利4.3%です。
しかし、この特例は重加算税が課された場合は設けられていませんので、高い比率のままずっと課され続けます。
重加算税はとても重い税金ですが、それを払わないでいると、延滞税まで取られてしまうので、ますます負担は重くなります。
相続開始までにやるべきこと
相続開始までにやっておくべきことは、被相続人と相続人の立場によって異なります。
被相続人は相続人が遺産分割で揉めることがないように遺言書を作成することです。
遺言書を作成するときには2つのことに注意する必要があります。
まず、1つ目は法的効力のある遺言書を作成することです。
遺言書は正しく作成しないと法的効力を発揮することができず、被相続人の希望通りに相続人に財産を分割することが難しくなります。
2つ目は、亡くなってから相続人が相続税に関して困らないように税理士などの専門家に相談して、税金対策を行った上で遺言書を作成することです。
相続税のことまで考慮した遺言書が作成されていれば、相続人は財産を相続することになっても困ることがありません。
また、相続人は被相続人が生きている間に、被相続人と財産に関する話をきちんとしておくことが重要です。
財産を相続することがわかったら、すぐに被相続人の財産をすべて把握する必要があります。
財産をすべて把握することは、財産をどのような方法で相続するかを選択することにつながるだけでなく、相続税が発生した場合も素早く的確に相続税の申告と納税ができるからです。
そのため、被相続人が生きている間である相続開始までに財産を正確に把握できていれば、実際に相続するときになって相続財産の把握に奔走する必要がなくなります。
被相続人が亡くなると、行わなければならない手続きは数多くあります。
もし、相続人の立場で相続開始被相続人を亡くしたことで精神的な疲労などもある中、順序よく手続きを行わなければならないので、自分の手に負えなくなってしまうことが考えらます。
ですから、被相続人が生きている間にできることはしておくとよいでしょう。
相続税で困ったら専門家に相談を
仮装・隠ぺいして相続税を脱税すると、重加算税が課され大変重い負担を強いられます。
相続税を相続人だけで申告しようと考えた時、心のどこかで「誰も見ていないし、分からない」と悪魔がささやくのでしょうか。
仮装・隠ぺいをすると、配偶者の税額軽減の特例制度が使えないのも非常にもったいないことです。
仮装・隠ぺいの先には重加算税が待っていることを考えれば、正しく申告したほうがいいことは明白です。
本記事を読んでくださった方なら、重加算税がどれだけ重い税なのかをお分かりいただけたと思います。
相続人だけで相続税申告を行った場合、仮装・隠ぺい重加算税が課されることはなくても、生半可な知識で申告に取り組むと、税務調査などで、過少申告加算税を課されることはあるかもしれません。
相続税申告は難しそうだと取り組まないで期限を過ぎてしまうと、無申告加算税が課されます。
やはりプロに任せたほうが安心です。
税金のプロといえば、税理士ですので、相続人として相続税の申告に取り組んでいて迷いが生じた際には相談をするといいです。
今後、被相続人となっていく方には生前からできる相続税の節税方法についても彼らは熟知しているので、アドバイスをもらうといいでしょう。
まとめ
相続税の申告や納税には、期限が設けられています。
また、相続税に関する手続きは複雑です。
ですが、相続税の申告や納税を正確に行わなかったり、故意に仮装や隠ぺいをしたりするなど、的確に手続きがされない場合には、重加算税などのさまざまなペナルティが課せられます。
どの加算税も本来支払わなければならなかった税額よりも高額な税額の支払いをすることになります。
その中でも、特に重加算税はその税率が高いので、納税者の負担が大きくなってしまいます。
重加算税を課されないようにするためには、相続税の申告及び納税を正しく行うことが何よりも重要です。