2019年2月13日 水曜日
相続放棄にはデメリットもあることを理解しておく
被相続人が亡くなり、相続が開始されたことを知ったときから、相続人には遺産の相続が発生しています。
相続が発生したことを知った場合、3ヶ月以内に、資産も負債もすべて相続する単純承認を選択するか、被相続人の負債が不明瞭であり、財産が残る可能性があるときに財産の限度によって被相続人の負債を限定的に相続する限定承認を選択するか、資産も負債もすべて放棄する相続放棄を選択するか決めなければなりません。
ただし、例外として、遺産が調査をしてもどの程度あるかわからない場合などは、相続の承認又は放棄の期間の伸長をすることで期限を延期することが可能です。
目次
負の財産が多い場合には?
負の財産が多い場合は、そのまま相続してしまうと、借金だけを相続してしまうことになるため、相続人に金銭的な負担がかかってしまうというデメリットがあります。
どうしても相続したい財産がある場合を除いて、すべての相続を放棄する相続放棄を選択するとよいでしょう。
では、相続放棄について詳しくご紹介いたします。
相続放棄について
相続放棄については、民法第915条、第919条、第938条、第939条、第940条においてさまざまなことが定められています。
- 民法(相続の承認又は放棄をすべき期間)第915条
相続放棄を行わなければならない期間と相続放棄の手続きを行う期間を延ばすために必要な手続きについて定められています(詳しくは、4章「相続放棄の期限は?」をご参照ください)。
- 民法(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)第919条
相続放棄の手続きを一度行ったら、相続放棄の期間内であっても撤回が不可能であることが定められています。
- 民法(相続の放棄の方式)第938条
相続放棄をする場合には、その旨を家庭裁判所に申述しなければならないこと
- 民法(相続の放棄の効力)第939条
相続放棄をした相続人は、最初から相続人ではなかったとみなすこと
- 民法(相続の放棄をした者による管理)第940条
相続放棄をした相続人は、相続放棄をしていない相続人が相続財産の管理をすることができるようになるまで、自分の財産と同じように注意して相続財産の管理をしなければならない
このように、相続放棄については、民法でその詳細が定められているので、民法に従って手続きをしなければなりません。
負の財産が多い場合は特に有効
相続放棄は特に負の財産が多い場合に有効な相続方法です。
相続放棄は、その名称の通り、すべての財産の相続を放棄することをいいます。
ですから、負の財産である借金などの相続も放棄できるのです。
また、相続放棄は明らかに負の財産が多い場合に選択するとよい相続方法であるともいえます。
限定承認も活用する
相続方法には、相続放棄以外にも限定承認と単純承認があります。
このうち、限定承認とは、民法(限定承認)第922条において定められているのですが、被相続人の借金を返す義務がどれくらいあるかわからず、なおかつ、財産が残ることも考えられる場合に、相続人が相続によって得た財産の限度によって被相続人の借金を返す義務を相続することをいいます。
限定承認を選択する場合は、相続財産の中でどうしても相続したい財産がある場合などに有効です。
また、相続した財産の中から借金を返済するため、相続人がはじめから持っている財産は保護することができます。
ただし、限定承認で相続したい財産を相続するためには、先買権の制度を利用しなければなりません。
民法(弁済のための相続財産の換価)第932条において、限定承認の先買権について定められています。
限定承認を行うと、相続した被相続人の財産は借金の返済のために競売にかけられます。
ですが、相続人がその財産を相続したい場合は、競売を差し止めます。
そして、相続人が相続したい被相続人の財産を鑑定人が評価し、評価額をつけ、その評価額を相続人が支払うと、相続したい財産を相続することができるといった制度のことを先買権の制度といいます。
このように、限定承認の手続きは、手間がかかるのですが、被相続人の財産の中に相続したい財産があるものの、借金などの負債もあるといった場合には、とても有効な相続方法であるといえるでしょう。
相続放棄のデメリットを理解する
相続放棄にはメリットも多く存在していますが、デメリットも存在しています。
相続放棄のデメリットとは、大きく分けると4つあります。
まず、1つ目のデメリットは「一度、相続放棄が受理されると撤回することができないこと」です。
相続放棄の撤回ができない旨は、民法(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)第919条において定められています。
相続放棄が撤回できないということは、借金などの負債が多いという認識の元、相続放棄をしたものの、現金や不動産などのプラス財産が後から見つかった場合でも相続することができないということです。
ですから、被相続人の財産の調査はしっかりと行わなければなりませんし、できることなら、被相続人が生前に遺言書で遺産について、詳細に記載しておくことか望ましいといえます。
また、被相続人の財産の調査は多岐に渡るため、財産の調査も行ってくれる相続の専門家である弁護士や司法書士などにあらかじめ相談し、財産を明確することで、あとからプラス財産が見つかるといった事態を防ぐことが可能です。
2つ目のデメリットは「代襲相続ができなくなること」です。
代襲相続とは、民法(子及びその代襲者等の相続権)第887条にも定められているとおり、相続人が被相続人よりも先に亡くなった場合や相続権を失った場合に、相続人の子どもや孫、甥や姪が被相続人の財産を相続することをいいます。
相続人が亡くなった場合や相続権を失った場合に、相続権が移るわけですが、相続人が相続放棄をしてしまうことにより、民法(相続の放棄の効力)第939条によって、最初から相続人ではなかったと見なされるため、相続権が移行しなくなります。
そのため、代襲相続自体がなくなるので、相続放棄をすると、代襲相続ができなくってしまいます。
ですから、代襲相続をさせたいと考える場合には、相続放棄はデメリットとなります。
3つ目のデメリットは「欲しい財産があっても一切相続できないこと」です。
相続放棄とは、被相続人のすべての相続財産を放棄することです。
ですから、相続したい財産があっても相続することはできません。
もし、相続したい財産がある場合は、限定承認という相続方法を選択するとよいでしょう。ただし、限定承認をしても、先買権の制度を利用するだけの金銭的余裕がなければ、欲しい財産の相続が難しくなります。
相続放棄をした方がよいか、限定承認の方がよいか、このデメリットを考えた上で相続方法を選択することが大切です。
4つ目のデメリットは「相続権が移ることにより、相続人が次から次へと変わり、親族間トラブルが起こる可能性があること」です。
相続放棄をすることで、相続権が次の相続人である親族に移ったものの、相続権が移ったことをその親族が知らずに相続放棄の手続きをしなければならない3ヶ月を過ぎてしまい、借金などの負債だけを相続しなければならなくなってしまった場合、親族間のトラブルが発生する可能性があります。
せっかく、相続放棄をして相続トラブルを回避できたとしても、相続権の移行により親族間のトラブルが発生してしまうことがあるといったデメリットが存在しています。
このように、相続放棄にはデメリットもあることをしっかりと理解した上で、相続放棄をするという判断をしなければなりません。
また、相続放棄のデメリットは未然に防げるものもあるため、注意しておくとよいでしょう。
相続放棄の手続きをする
相続放棄をする場合、相続放棄の申述という手続きが必要です。
相続放棄の申述は、相続人または法定代理人(場合によっては、特定代理人)のみが行うことができます。
相続放棄の申述を行う際は、相続放棄申述書を準備しなければなりません。
この相続放棄申述書は、家庭裁判所のホームページからダウンロードすることが可能です。
相続放棄申述書は、申述人が20歳以上の場合と申述人が20歳未満の場合によって、「申述人」の書き方が違ったり、20歳未満の場合のみ「法定代理等」の項目に記入しなければならなかったりといった特徴があります。
相続放棄申述書には、下記の7つの項目があるので、これらの項目に間違いがないように記入していきます。
- 申述人
- 法定代理人
- 被相続人
- 申述書の趣旨
- 申述の理由
- 放棄の理由
- 相続財産の概略
また、相続放棄申述書には、「相続放棄申述書」と記載がある下部に収入印紙を貼付する場所があるので、相続放棄の申述に必要な費用である800円分の収入印紙を貼り忘れないようにしましょう。
すべての記入を終えたら、標準的な申立添付書類をそろえます。
標準的な申立添付書類は、相続放棄の申述をする人の立場によって必要なものが異なります。
下記の表は、相続放棄の申述に必要な標準的な申立添付書類の一覧です。
≪相続放棄の申述に必要な標準的な申立添付書類の一覧≫
相続放棄の申述 | |
被相続人の住民票除票又は戸籍附票 | 〇 |
申述人(相続放棄をする人)の戸籍謄本 | 〇 |
被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 | ※1〇
※2〇 |
申述人が代襲相続人(孫、ひ孫等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 | ※2〇 |
被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合、父母))が要る場合も、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 | ※3〇 |
被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 | ※3〇
※4〇 |
被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 | ※3〇
※4〇 |
申述人が代襲相続人(おい、めい)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 | ※4〇 |
被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 | ※4〇 |
(内容の出典:http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html)
※○は共通の該当書類を示します。
部分該当の場合は、下記それぞれとなります。
※1 申述人が被相続人の配偶者の場合。
※2 申述人が,被相続人の子又はその代襲者(孫,ひ孫等)(第一順位相続人)の場合。
※3 申述人が被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合。
ただし、先順位相続人等から提出済みのものは添付不要。
※4 申述人が被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)の場合。
ただし、先順位相続人等から提出済みのものは添付不要。
(引用:http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html)
相続放棄の申述書の記入を終え、相続放棄の申述に必要な標準的な申立添付書類をそろえたら、被相続人の最後の住所地にある家庭裁判所に提出します。
提出するときには、連絡用の郵便切手も同封しなければなりません。
連絡用の郵便切手は各家庭裁判所によって必要な金額が異なるため、事前に相続放棄の申述を行う家庭裁判所に確認するようにしましょう。
また、相続放棄の申述書と標準的な申立添付書類を提出する際は、直接持参する方法と郵送する方法があります。
郵送する場合は、郵送に対応していない家庭裁判所もあるので連絡用の郵便切手と同様に事前の確認が必要です。
相続放棄の期限は?
相続放棄の期限は、民法(相続の承認又は放棄をすべき期間)第915条で相続人が被相続人の財産の相続を知ってから、3ヶ月以内と決まっています。
ですが、被相続人の財産の調査をしても、どの程度あるのかわからない場合は、相続の承認又は放棄の期間の伸長をすることで相続放棄の手続きの期限を延長することができます。
この相続の承認又は放棄の期間の伸長は、民法(相続の承認又は放棄をすべき期間)第915条において定められており、相続人を含んだ利害関係人または検察官が行うことができるとされています。
また、相続放棄の期限として注意しなければならない点は、相続放棄の手続きは相続放棄の申述書に記入し、必要な費用(800円分の収入印紙及び連絡用の郵便切手)と標準的な申立添付書類をそろえて、被相続人の最後の住所地にある家庭裁判所に提出したら完了するわけではないということです。
すべてを提出したあと、家庭裁判所から送られてくる照会書に必要事項を記入して返送し、その内容に問題がないと判断された場合は、相続放棄が受理され、相続放棄申述受理書が送られてきます。
ここでようやく相続放棄の手続きは完了します。
ここまでを3ヶ月以内に行わなければならないということなので、余裕を持って相続放棄の手続きを行うことが大切です。
まとめ
このように、相続放棄にはメリットだけでなく、デメリットも多く存在しています。
相続放棄をすることで相続人の負担にならないようにすることは可能ですが、相続放棄をしてしまうと、撤回できなかったり、代襲相続ができなくなったりしてしまうので、被相続人の財産をすべて調査し、相続放棄のデメリットにも納得した上で、相続放棄の手続きを行うことが重要であるといえるでしょう。