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【相続放棄について 】
相続放棄について説明しています。相続放棄のメリットやデメリット、相続放棄が有効なケース、注意点や期限などについてまとめています。

2019年2月15日 金曜日

相続放棄をすることで得られるメリット5つ

相続放棄は被相続人の財産を放棄するといった意思表示をすればよいというものではありません。

単純承認(被相続人の財産である資産も負債もどちらもすべて相続する方法)とは異なり、家庭裁判所に提出する書類も多く、手間も時間もかかるのが現実です。

しかしながら、被相続人の財産の状況や相続人の都合によっては、相続放棄をすることで得られるメリットは多く、相続放棄を選択した方がよい場合があります。

ここでは、相続放棄をすることで得られるメリット5つを中心にご紹介いたします。

相続放棄とは何か

相続放棄とは、被相続人の財産の相続をすべて放棄することをいいます

相続放棄をするためには、まず、被相続人の財産の調査をすることが必要です。

被相続人の財産というのは、現金や不動産、農地などの資産だけでなく、借金などの負債も含みます。

これは、相続放棄をした方がよいかどうかの判断をするだけでなく、相続放棄の手続きをする際に資産や負債を記入しなければならないからです。

また、相続放棄の手続きは、相続放棄をする意思を表示し、必要な書類を提出したら簡単にできてしまうものではなく、実際は細かい手続きの連続であり、時間との戦いでもあります。

これは、相続放棄の手続きに必要となる書類が立場によって異なり、多くの書類を用意する必要があるためです。

それだけでなく、相続放棄の手続きを完了させるための期限は、被相続人の財産を相続することを知ってから3ヶ月以内と民法(相続の承認又は放棄をすべき期間)第915条によって定められています。

これらのことからもわかるように、相続放棄の手続きは決して簡単なものではありません。

また、一度相続放棄を却下されてしまうと、基本的に再度相続放棄の手続きを行うことはできません(ただし、相続放棄の却下をされ、不服がある場合は、即時抗告を2週間以内に行い、高等裁判所で審理してもらうことが可能です)。

それ以外にも、相続放棄が受理されると撤回することができないということが、民法(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)第919条において定められています。

相続放棄の撤回は、相続放棄の手続きを完了しなければならない期間である3ヶ月以内であったとしてもできないこととされています。

ですから、相続放棄を行う際は、慎重にならなければなりません。

そのため、相続放棄の手続きが自分の手に負えないと思ったときは、専門家である司法書士や弁護士に相談し、被相続人の財産の調査から相続放棄が本当に必要であるかを判断し、相続放棄をすると判断した場合には相続放棄の手続きを依頼することも1つの選択肢であるといえるでしょう。

相続放棄と限定承認の違い

相続放棄と限定承認には、いくつもの違いがあります。

まず、相続放棄は1章の「相続放棄とは何か」でも記載しているように、被相続人の財産をすべて放棄することです。

しかし、限定承認は被相続人の残した負債がどのくらいあるかわからないものの、財産が残る可能性がある場合や、被相続人の財産に負債が多いとわかっていてもどうしても相続したい財産がある場合などに、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人債務を相続することをいいます。

相続放棄がすべての財産を放棄したい相続人が行うのに対して、限定承認は一部の財産を相続したい相続人が行います

このように、相続放棄と限定承認は、根本的な部分が異なっているのです。

また、申述の手続きを行う場合にも異なる点が多々あります。

たとえば、申述人ですが、相続放棄の場合は、相続人または法定代理人(場合によっては特別代理人)しか行うことができませんが、このとき、相続人は個人で手続きを行うことができます。

ですが、限定承認の場合は、相続人が各個人で手続きを行うのではなく、共同で行わなければなりません。

また、相続放棄も限定承認も必要な書類は、申述書と標準的な申立添付書類と名称は同じものの、その内容は相続放棄と限定承認では異なります(ただし、標準的な申立添付書類は一部共通しているものもあります)。

このように、相続放棄と限定承認にはさまざまな違いがあります。

相続放棄をすることのメリット5つ

相続放棄は被相続人の財産の相続をすべて放棄しなければならないため、マイナスなイメージがあるかもしれません。

ですが、相続放棄には被相続人の財産の状況や相続人の立場によって、多くのメリットが存在しています

ここでは、相続放棄をすることのメリット5つをご紹介いたします。

被相続人のマイナス財産を相続しなくてすむというメリット

被相続人の財産を相続するということは、預貯金や不動産などのプラス財産も借金などのマイナス財産も相続するということです。

もし、被相続人の財産がプラス財産よりもマイナス財産が多い場合、相続人が財産を相続すると、結果的に借金だけを相続しなければならなくなるため、相続人が金銭的な負担をしいられる形になります。

ですが、相続放棄をしてしまえば、すべての財産の相続を放棄することになるため、マイナス財産も相続しなくてすむので、相続人が被相続人のマイナス財産により金銭的負担をしいられる心配がなくなります。

被相続人の地位を相続しなくてすむというメリット

被相続人の財産を相続するということは、被相続人の地位も相続するということです。

そのため、被相続人が生前に訴えられており、被告という立場にいた場合、相続人はその地位をも相続しなければならないことになります。

ですから、仮に被相続人の財産を相続してしまうと、訴訟トラブルに巻き込まれてしまう可能性があるといえます。

このような場合は、相続放棄をすることでトラブルを回避することができます。

相続トラブルに巻き込まれる心配がなくなるというメリット

相続放棄をすると、民法(相続の放棄の効力)第939条により、最初から相続人ではなかったとみなされるようになります。

そのため、相続トラブルが起きたとしても、相続放棄をした人には、被相続人の財産の相続との関係が最初からなかったこととなるため、相続トラブルに巻き込まれる可能性がほぼなくなるといったメリットがあります

ただし、注意が必要なのは、相続放棄をすることで、相続権が移行してしまい、新たなトラブルが発生してしまう可能性があるということです。

相続放棄により、相続権が移行した相続人(親族など)に相続放棄をしたことや相続権が移行したことなどを何も知らせておらず、借金などの負債を新たな相続人が背負わなければならなくなってしまった場合にトラブルとなることが考えられます。

親族との関係にもよりますが、相続放棄をしたことを知らせた方がトラブルに発展しづらい場合もあるので、場合によっては、相続権が移行したことを親族に事前に連絡をする方が良い場合もあります。

これは親族との関係にもよるため、ケースバイケースであるといえるでしょう。

相続放棄により、新たなトラブルを引き起こさないためにも相続放棄をした際にはさまざまなことに注意が必要です。

特定の相続人に相続をさせることが可能になるというメリット

被相続人が事業などを行っている場合、相続人の誰かが事業の継承をする場合があるでしょう。

もし、相続人のうちの1人が事業を継承するとなった場合、財産も債務も相続することによって、事業をスムーズに行うことができる可能性が高くなる場合があります。

このようなときは、事業を継承する相続人にだけ、財産を相続させるためにほかの相続人が相続放棄をするという方法を選択することで特定の相続人に相続をさせられるといったメリットがあります。

限定承認などに比べ、手続きが簡単であるというメリット

限定承認は、2章の「相続放棄と限定承認の違い」でも記載した通り、申述を行う際に、相続人が共同で行う必要があります。ですが、相続放棄の場合は相続放棄をしたいと考えている相続人または法定代理人(場合によって特定代理人)が各個人で行うことができるため、限定承認と比較した場合、ある部分においては手続きが簡単であるといったメリットが挙げられます。

相続放棄はメリットだけではない

相続放棄のメリットを5つご紹介いたしましたが、メリットがあるということは、デメリットもあります。

相続放棄のデメリットについてご紹介いたします。

まず、1つめのデメリットは、一度相続放棄をしてしまうと、相続放棄を撤回できないということです

あとになって、相続をしたい財産が見つかった場合でも、一度相続放棄をしてしまっていると相続することはできません。

これは、民法(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)第919条によって定められています。

次に2つめのデメリットは、代襲相続ができなくなってしまうことです。

これは、民法(相続の放棄の効力)第939条によって、相続放棄が認められると、最初から相続人ではなかったとみなされることが関係しています。

代襲相続とは、被相続人よりも先に相続人が亡くなるなどして相続人の子どもやその子どもなどに相続権が移行し、財産を相続することをいいます。

たとえば、被相続人から見て、子どもが亡くなり、孫やひ孫、甥や姪などが財産を相続することが代襲相続にあたります。

ですが、相続人が相続放棄をしている場合は、自然と相続権が移行しないため、代襲相続はできません。

3つめのデメリットは、一部だけ相続したい財産があっても、相続することはできないことです

資産よりも負債の方が多く、相続人に金銭的な負担がかかる場合であっても、相続したい財産があるときは、相続放棄は相続方法として適していません。

このような場合は、限定承認という相続方法を選択することで解決する可能性があります。

限定承認を選択し、先買権の制度によって、自分が相続したい財産を相続することができます。

このような場合は、相続放棄ではなく、限定承認を選択するとよいでしょう。

相続放棄申述の仕方

相続放棄をする場合は、「相続放棄申述書」を被相続人の最後の住所地にある家庭裁判所に提出しなければなりません。

相続放棄申述書は、裁判所のホームページからダウンロードすることができるので、ダウンロードしたら必要事項を記入します。

相続放棄申述書には、収入印紙を貼る場所が指定されていますので、相続放棄の申述に必要な800円の収入印紙を貼付します。

また、相続放棄の申述には、相続放棄の申述書以外にも必要な提出書類があります。

それが標準的な申立添付書類です。

必要な標準的な申立添付書類は、申述人の立場によって異なります。

下記の表は、立場によって異なる必要な相続放棄の申述の標準的な申立添付書類の一覧です。

≪相続放棄の申述に必要な標準的な申立添付書類の一覧≫

相続放棄の申述

被相続人の住民票除票又は戸籍附票

申述人(相続放棄をする人)の戸籍謄本

被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

※1〇

※2〇

申述人が代襲相続人(孫、ひ孫等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

※2〇

被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合、父母))が要る場合も、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

※3〇

被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

※3〇

※4〇

被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

※3〇

※4〇

申述人が代襲相続人(おい、めい)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

※4〇

被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

※4〇

※○は共通の該当書類を示します。

部分該当の場合は、下記それぞれとなります。

※1 申述人が被相続人の配偶者の場合。

※2 申述人が,被相続人の子又はその代襲者(孫,ひ孫等)(第一順位相続人)の場合。

※3 申述人が被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合。

ただし、先順位相続人等から提出済みのものは添付不要。

※4 申述人が被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)の場合。

ただし、先順位相続人等から提出済みのものは添付不要。

(引用:http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html)

これらの書類をすべてそろえて、被相続人の最後の住所地にある家庭裁判所に提出します。

提出する際に郵送用の切手も用意する必要があります。

また、提出方法は家庭裁判所に直接持参する方法と郵送する方法がありますが、郵送に関しては、対応していない家庭裁判所もあるため、事前の確認が必要です。

まとめ

このように、相続放棄をすることで得られるメリットは数多くあります。

被相続人の財産の相続を開始することがわかった場合には、被相続人の財産がどれだけあるかをしっかりと調査し、相続放棄をすることを決めたら、期間内に速やかに相続放棄の手続きを行いましょう

相続放棄は正しい判断と的確な手続きにより、相続人に多くのメリットをもたらす相続方法なのです。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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