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お金や不動産以外を相続する場合について説明しています。墓地や仏壇、ゴルフ会員権、自動車、保険金、株式、会社、宝石、貴金属などを相続する場合の注意点やポイントについてまとめています。

2019年7月19日 金曜日

個人事業を相続する場合のポイント・相続税・注意点

個人事業主が亡くなった場合は、引き継ぐかどうかにかかわらず、納税地を所轄する税務署長に「個人事業者の死亡届」を速やかに提出し、さらに承継、廃業の届け出も、1か月以内に提出しなければなりません。

個人事業を承継する予定の場合、さまざまな手続きを決められた期限内に行う必要があります。

期限が守れなかった場合は、ペナルティを受けることがありますので、しっかりとした事前準備が必要です。

今回は、個人事業を相続する場合のポイントと相続税、注意点について紹介します。

 

個人事業の相続のポイント

法人化している場合、事業用資産は会社の資産となり、相続税は発生せず、新社長が就任することで事業の継続を行うことができます。

しかし、個人事業の相続では、事業用資産の区別がなく個人の財産と判断されるため、相続の手続きをしなければなりません

被相続人が個人事業主であった場合、事業用資産を含めたすべての遺産が遺産分割協議にかけられ相続人に分配されます。

 

様々なものが相続の対象になる

個人事業では、個人の資産と事業用の資産が区別されることなくまとめて相続の手続きを行うことになります。

そのため個人の財産だけでなく、事業を行うための店舗のある不動産や預貯金、負債なども含め遺産として相続されます。

個人事業を継続するためには、事業用資産をできるだけ分割せずに承継者にまとめ、その旨を遺言状に記載しておく必要があります。

この時、他の相続人との相続内容の差が大きい場合は、相続人が納得できずトラブルとなりやすいので配慮が必要です。

 

事業自体は引き継げない

個人事業を承継する場合の手続きは、個人事業主が廃業届を提出し、相続人が新しく開業届けを提出することで、事業の引き継ぎが完了します。

個人事業主が亡くなった場合、手続きの流れとしては、個人事業者の死亡届を提出後、個人事業主の廃業届と相続人の開業届けを提出するという順番になります。

廃業届の廃業事由に事業承継と記載し、引き継ぎ先の住所と後継者の氏名を記入し、開業届けにも同様の記載をします。

屋号に関しては、個人事業の開業届に使用している屋号を記載する以外、特別な手続きはありません。

個人事業用の銀行口座に屋号を使用している場合は、屋号の後ろに個人名が入るため、新しく口座を開設する必要があります。

 

店舗を相続する場合の相続税

個人事業の承継で、節税効果の高いものの1つが土地の相続です。

個人事業主が所有している土地が、小規模宅地等の特例の制度を活用すると相続税が大きく変わってきます。

 

小規模宅地等の特例による節税

被相続人が住んでいた自宅や事業をおこなっていた土地を相続することになった場合、単純に計算をすると相続税は高額になることもあります。

相続税の影響で自宅に住み続けるのが難しくなるといったことは、避けなければなりません。

そこで、ご紹介する「小規模宅地等の特例」ができたのです。

被相続人の自宅や個人事業で使用していた土地が、特例の条件をクリアしていれば、相続税を算出する際、土地の評価額を最大80%まで減額することができます。

条件としては、以下のいずれかの土地に対して認められています。

①住居として使用していた土地(特定住居用宅地等)
②個人事業で使用していた土地(特定事業用宅地等)
③親族経営している会社の土地(特定同族会社事業用宅地等)
④賃貸していた土地(貸付事業用宅地等)

減額率や特例を使える人がそれぞれ違うので、詳しく紹介します。

注意点は、土地だけが対象であり、建物は対象外ということです。

 

居住用・事業用の宅地

居住用の宅地は特定居住用宅地等にあてはまるため、被相続人の自宅のある土地が対象となります。

敷地が330㎡まで、減額は80%です。

適用を受けるためには、以下の条件のうち1つ以上該当しなければなりません。

①被相続人の配偶者が土地を相続
②被相続人と同居していた人が土地を相続
③被相続人に配偶者も同居人もいない場合、3年間借家住まいの相続人が取得(家なき子特例)

事業用の宅地は特定事業用宅地等に該当し、被相続人名義の土地と建物で個人事業をしていた場合に適用されます。

限度面積は400㎡まで、減額割合80%です。

適用を受けるためには、

①相続開始前からその土地で同じ事業をやっている。
②相続税の申告終了(申告期限の10カ月間)までに事業用の土地として使う

以上の条件を満たさなければなりません。

建物が法人名義で土地が個人名義のように別になっている場合は、特定事業用宅地にはあてはまらず、区分が特定同族会社事業用宅地になります。

この場合も敷地400㎡まで、80%減額されます。

 

貸付事業用の宅地

被相続人が不動産貸付業で使用していた土地は、貸付事業用宅地等に該当します。

アパートや賃貸マンションだけでなく、駐車場や駐輪場も含まれますが、構造物がなくロープや止め石を設置しているだけの場合は適用されません。

限度面積は200㎡まで、限度割合は50%です。

適用を受けるためには

①相続開始前から土地の貸付をしている。
②相続税の申告期限の10か月間の終了まで貸付をしている。

以上の条件を満たす必要があります。

 

<まとめ>

選択特例対象宅地等 限度面積 減額割合
特定居住用宅地等 330㎡ 80%
特定事業用宅地等 400㎡ 80%
特定同族会社事業用宅地 400㎡ 80%
貸付事業用宅地等 200㎡ 50%

 

小規模宅地等の特例の有無で相続税額は大きく変わる

<条件>
・特定事業用宅地等
・土地評価額:1億円
・面積:400㎡
・相続人:1人

上記の条件で、実際に相続税でどのくらい差が出るのか紹介します。

相続税の基礎控除額は「3000万円 + 600万円 × 法定相続人数」となり、この場合は3600万円です。

①小規模宅地等の特例適用なしの場合

1億円 - 3600万円 = 6400万円が課税対象
6400万円 × 30%(相続税率)- 700万円(控除額)=1220万円もの相続税を払わなければなりません。

②小規模宅地等の特例適用ありの場合

1億円 × (100% - 80%) = 2000万円となり基礎控除額以下ですので、相続税は課税されません。

土地の相続において、小規模宅地等の特例の有無で、相続税の金額に大きな差が生じます

 

そのほか、相続税の対象となる遺産

土地以外にも、相続税の対象になる遺産として、現金や預金、貯金、株式、自動車などが当てはまります。

法律上の権利として著作権や損害賠償請求権などや、ゴルフ会員権なども相続税の対象となります。

 

契約関係

個人事業は法人ではなく個人名義での事業となるため、事業に必要な賃貸契約や事業用自動車、パソコンの購入、銀行口座の作成など全て個人名義で契約しています。

当然、個人事業用にローンを組んで購入したものや、事業資金を金融機関などから借り入れしているなど負の財産も、全て相続の対象となります

こういった契約関係についても、個人事業主は相続人に迷惑がかからないように、対策をしておくことが必要です。

金融機関の口座やクレジットカード、借入やローンなどは、事業用資産として事前にまとめておくと、相続人の負担を軽減することができます。

 

知的財産権や許認可権

<知的財産権>

知的財産権とは、人が生み出したアイデアに対して与えられた権利のことを指します。

著作権や特許権などは耳にしたことがあるのではないでしょうか。

知的財産権は、内容によって相続の対象となるものと対象外になるものがあります。

著作権の内容は「著作権」と「著作人格権」の2つに分類されます。

著作権は財産的権利であるため、相続の対象になります。

例えば、被相続人が何らかの著作権を持ち印税を得ていた場合、その印税をもらえる権利を相続することになるので、相続の対象となります。

著作権は創作した時点で自動的に発生するものなので、相続する場合にも特別な手続きをする必要ありません。

遺言書または遺産分割協議で相続人を決定し、終了となります。

取引の安全性を確保する目的で、文化庁に著作物を登録する場合もあり、複数の相続人が分割して相続する場合などは「著作権、著作隣接権の移転等の登録手続き」を申請することが多くあります。

一方、著作人格権は著作権と似た名称ですが、著作物を作った人物を保護する権利ですので、相続の対象とはなりません。

知的財産権は永久の権利ではないので、著作権は著作者の死後50年、特許権は出願後20年と、一定の期間過ぎると権利がなくなります

 

<許認可権>

被相続人が許認可を受けて個人事業していた場合、相続人が事業を承継する時は、新規に許認可の手続きをしなければなりません。

例えば、個人事業で建設業許可を受けて建設事業を請け負っている場合、相続人は建設業許可を引き継ぐことができないため、新しく申請しなければなりません。

この時、建設業許可の要件である「経営業務の管理責任者」は、個人事業主や会社役員としての経験が5年以上必要です

個人事業の従業員として働いているだけでは満たされないため、個人事業の相続においては、かなり厳しい条件です。

 

負債

個人事業の相続では、負債も相続しなければなりません。

金融機関からお金を借りている場合は、どのくらいの金額かすぐにわかると思いますが、未払いの材料費やローンで購入した機材など、正確に判断することが難しいものもあります。

負債の金額によっては返済できなくなる場合もありますし、業務用機材の買い替え予定があるなど、今後必要と考えられる予算なども把握しておくと安心ですので、承継者が困らないように業務管理簿を作りましょう。

また未払いの所得税や住民税なども相続対象となりますので、相続人に迷惑が掛からないように配慮する必要があります。

 

個人事業の相続は複雑

個人事業を相続人に承継する場合、すべてのものを事業用と個人用で分類し、承継者にどれが事業用であるのか明らかにしておく必要があります。

①ノートパソコンは個人用、デスクトップは事業用。
②携帯電話が個人用と事業用の2台ある。
③飲食店などでテレビや冷蔵庫が2台以上ある。

上記を1つずつ分けていかなければならないので、個人事業の相続予定がある場合は、業務管理簿をできるだけ早く作成し、情報共有をしておきましょう。

また事業用の銀行口座やクレジットカードなど、金融系の相続についてもわかりやすく一覧にしておくと、スムーズに相続できます。

事業用の銀行口座については、個人名の口座はもちろん、屋号が入った口座でも個人名が含まれているため、そのまま利用することができません。

承継者は事業用の銀行口座を新規で作ることを忘れないようにしましょう。

 

法人化するというの対策もある

会社の財産は相続できないため、個人事業を法人化するとかなりの節税になる可能性があります。

個人事業から法人化するだけで相続税がなくなることは不思議に思うかもしれませんが、それには理由があります。

相続とは人が亡くなったときに行うことですのですが、会社自体はなくなることはありません。会社は相続する事にならないのです。

したがって、法人が持っている事業用財産や預貯金は相続税なしで引き継ぐことができ、面倒な手続きも必要ありません。

 

相続税に困ったら税理士に相談

被相続人が亡くなった時に届け出の期限がある書類を以下に紹介します。
・死亡届:7日以内
・相続放棄、限定承認:3か月以内
・準確定申告:4カ月以内
・相続税申告:10カ月以内
期限に遅れてしまうと、相続放棄ができなかったり、税金の未払いで延滞金を払わないといけなかったりすることにもあります。

個人事業の相続の場合、相続されるものが個人財産と事業用資産の2種類あり、それぞれを細かく分類しなければなりません。

その上、相続人同士でトラブルになると更に煩雑になり、書類の提出期限に間に合わないという事態が起きる可能性もあります。

遺産相続では、限られた時間の中で各種手続きを進めながら、遺産分割協議を行うので、法的手続きは税理士に任せることで、さまざまなリスクの回避や時間を確保しましょう。

 

まとめ

個人事業を相続する場合のポイント・相続税・注意点を紹介しました。

個人事業の事業用資産は、全て個人資産と考えられるため、複雑になりがちです。

事業自体を承継する場合は、承継者だけではなく他の相続人にも細かな配慮が必要ですので、事前準備がカギとなります。

相続税の対策を考えている場合は、税理士に一度相談すると効率よく準備できると思いますので、残された親族に迷惑が掛からないよう、しっかりと備えましょう。

2019年7月19日
相続におけるクレジットカードの取り扱い解説|解約・支払いなど
監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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